【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる) 作:高坂 源五郎
ベルタ王国統一記 7 請願
ドラゴンで王宮の庭に乗り付け、ガンツ伯の死体を持参したにしては、俺は丁重な扱いを受けていた。
宰相のバールケが不在で、王宮で対応してくれたのが旧知のバール士爵なのが大きかったのだろう。彼は王都守備軍の軍団長なので、ドラゴンに乗って乗り込むこの場面で必ず出てくるはずと計算はしていた。
「護国卿閣下、ご無沙汰しております。」
バール士爵の口調は丁寧だが、配下の兵を大勢引き連れて辺りを囲ませている。それはそうだろう。彼の相手はドラゴンを手懐けた男なのだ。
「ヘルマン、樹海を開拓して都市を築いた頃に敵に襲われてね。指揮官を討ち果たした所、相手はガンツ伯だった。敵軍を追跡した結果、ガンツを俺が保護することになった。伯の遺体と共に、証人として2名同行させている。ガンツ伯の護衛のベンジャミンと家宰のデニスだ。事情の説明の為に陛下に御目通りを願いたいのだが。」
そう言って俺は要件を記した書状を差し出す。ライスター卿に用意してもらった物だ。恐らく書式は完璧だろう。ただ、我ながら『ドラゴンで乗り付けて御目通りを願いたい』はないだろうとも思う。しかしここは圧をかけているのはお互い承知の上で、この芝居に乗ってもらう必要がある。
「•••では、書状はお預かりしましょう。」
「ドラゴンの事は心配しないでくれ、私が手懐けている。ただあまり気の長い性格ではないので、出来れば早く御目通り可能だと嬉しい。事情をご説明したらすぐに退散するつもりだからそこは安心して欲しい。」
バール士爵は流石に困惑している。普通ならば一喝される所だろう。しかしながら、彼も『護国卿でありドラゴンを手懐けた男」にどう対処して良いか思いあぐねているようだった。
またガンツにおける騒乱を収めたと報告に来たというなら、陛下直々に諮問するのも妥当と考える筈だ。ガンツの騒乱は商業ギルドからも報告された事実なのだから。ドラゴンの飛行に青い顔をしてガタガタ震えている2名の証人までいる。ガンツはベルタ王国屈指の大都市だけに、騒乱を早く鎮める事こそ喫緊の課題の筈だ。
「役目上お聞きします。あくまでも事情のご説明という事でよろしいでしょうか。」
「ああ、それで相違ない」
「それでは陛下に取り次ぐ前に、貴族として『陛下と臣民およびその財産に害意なき事』を名誉にかけて誓って頂けますか。」
バール士爵も俺が誓いを重んじる事を知っている。ここは俺から言質を取るのが良いと判断したようだ。
「今回は陛下への報告と請願のみ行い、陛下は無論のことその忠実なる臣民や財産には危害を加える事はないと貴族として名誉に賭けて誓う」
俺の誓いの言葉を聞くと、バール士爵は緊張を解いてやや態度を軟化させた。
「よろしいでしょう。陛下のご意向を伺って参ります。ガンツ伯のご遺体や証人はこちらにお引き渡しください。」
侍従が進み出て遺体を受け取る。輿のようなものに乗せて運ぶようだ。
「では証人は連れて行きます。このまましばしお待ちください」
2人の証人は連れていかれる。俺が控え室ではなく中庭でドラゴン共に待たされるのは仕方がないだろう。ドラゴンが暴れないように見張る役を与えられているに違いない。
小一時間ほど待たされる。流石に色々と難航しているようだ。こちらとしてはあまり時間をかけたくないな。俺はふと悪戯心を刺激される。通信回線を使ってこっそりおしゃべりに耽っていたシャロンとグローリアに声をかける。
(シャロン、グローリア、ちょっといいかな)
(はい)
(なんでしょう)
(彼らにとってドラゴンのグローリアは恐るべき存在だ。ただ、そうすると俺とエルナが王宮内に入る時にドラゴンを押さえて置けるか彼らも不安になるだろう。それでシャロンとグローリアにちょっとしたお芝居を頼みたいんだ)
(わかりました)
2人と簡単に段取りを打ち合わせする。さあ、いよいよ実演だ。
「手を出しなさい」
俺の指示に従い、付き人姿のシャロンが手を出す。俺はその手を取ると身振りでグローリアを地面に伏せさせる。ドラゴンが寝そべると、その口の上にシャロンを立たせた。シャロンを鼻の上に乗せてドラゴンが伏せた体勢から立ち上がり顔を上げると。見張の兵士達がどよめく。
(グローリア、シャロンを落とさないように注意してくれ。後、演技して欲しい。シャロンを食べたい感じで、我慢している感じで頼む)
(分かりました)
グローリアが鼻先の餌、シャロンに涎をダラダラと垂らして見せる。食べたくて仕方がない、そんな様子の演技。
(どうですか?)
(いい感じだ、そんな感じで頼む。シャロンがいる限りは大人しくしているんだぞ。後、間違ってもシャロンに傷はつけるな)
(そんな事しません)
(グローリアはちゃんと分かっています、ね、グローリア)
(はい)
「閣下、あのような事をして大丈夫なのですか?」
エルナが驚いている。エルナは俺達の会話を聞いていないので、そこまで俺がドラゴンを手懐けた事に驚愕しているようだ。
「大丈夫だ。彼女をあそこに乗せておけば、俺がいなくてもドラゴンは大人しくしている。俺を信じてくれ。」
俺は周囲を取り囲む衛兵達に声をかけた。
「もし彼女が食べられてしまったら、誰か彼女の代わりを頼む。振り落とされない限り危険はない」
衛兵は皆ジリジリと後退りする。ドラゴンに食べられる為に鼻先に乗っかるなど、尋常な神経では出来ないだろう。俺だって自分ではやりたくない。タネのある奇術だから成立する話だ。エルナの強い非難の籠った視線を感じるが、これはシャロンとグローリアの安全の為と懸命に目でエルナに訴えた。ふう、どうやら通じたらしい。
(グローリア、後はシャロンの指示に従え。シャロン、後は任せる。イーリス、モニターを許可する。王宮内の出来事はシャロンにも伝達してくれ。)
(((了解しました)))
シャロンとグローリアの曲芸を何処かで見ていたのだろう。バール士爵が慌てて姿を現した。
「お待たせしました、ところで彼女は何をしているのですか?」
バール士爵はグローリアの口の上でバランスを取って立つシャロンを見上げて尋ねた。
「ドラゴンを大人しくさせておくには鼻先に人を乗せておくと良いのだ。落ちれば食べられてしまうが、あそこにいる限りは手出ししないように俺が命じている。彼女が落ちてしまったら、その時は誰かに代わりを頼みたいのだが。」
と言って、俺は思わせぶりに周囲の衛兵に目をやる。側近のエルナがハラハラして見守る様子がこの芝居に信憑性を与える。兵に不安が伝播しているようだ。
「閣下、お戯れを。」
流石にバール士爵に嗜められた。
「まぁ、俺が謁見を終えて戻るまではこれで大丈夫だろう。」
これで俺が不在の間に、シャロンは手出しされず無駄なトラブルも発生することはないだろう。
バール士爵に先導されて王宮内を進む。今回も拝謁の間に進むようだった。一応意識して前回と同じ服装にしている。今回は王宮内へ同行させたエルナは護国卿の盾を持ってついてきている。彼女の存在も特に何も言われていない。紋章の盾持ちの女性の1人などドラゴンに比べればさしたる問題ではないからだろう。
大きな扉の前に立つ。バール士爵が振り向いて片手を出して告げる。
「念の為、剣をお預かりできますか」
流石に警戒されているようだ。まぁ、押しかけて来た立場だ無理は言えないだろう。
エルナは剣を佩いていないので、俺の魔法剣だけをバール士爵に預ける。今回、エルナにはナイフも持たせていない。エルナも武器がないことを確認されている。
「ほう、魔法剣ですな」
「流石だ、士爵は目利きだな。」
「閣下は流石に逸品をお持ちですな。」
武人だと魔法剣の良さはすぐに伝わるな。なんといっても切れ味が違う。そういえばエルナは難なく使いこなしていたが、バール士爵も魔法剣を使うことが出来るのだろうか。サテライトのメンバーは入手した魔法剣を使いこなしているので、やはりこの惑星の住人は生まれた時から魔法が当たり前で問題なく使えるのかもしれない。今度確認しておこう。
考え事をしている内に、国王の前に誘導される。片膝をついて頭を垂れてかしこまった。
「面をあげよ」
ベルタ国王アマド陛下は愉快そうな顔をして玉座に座っていた。傍のエルナがベルタ国王の顔を見て、息を呑む気配が伝わる。
「コリント卿、こんなに早く再会が叶うとは思わなかったぞ」
「陛下にお会いしたい一心で、空を飛んで参りました。」
修辞の常套句だが、今回に限っては一字一句違わず事実とお互いに知っていた。
「あいにくと事情に通じた宰相が領地に戻っていて不在でな、今回の件は私が自分で決裁する事とした。」
バールケの不在は承知している。こちらはその隙を狙って王都に来たのだから。
「証人からも聞き取りをしたが、こちらの内容は正しいようだ。」
アマド国王は提出した書状を持ち上げて見せる。
「ガンツ伯ユルゲンは私戦を起こし死んだ。護国卿であるコリント卿の処置はガンツの占領を含めて王国法に適うと認める。コリント卿は開拓に雇った王都の民を守っていたのだからな。」
よし、バールケのいない隙を突いたのは正解だった。ベルタ王国総出で袋叩きになる展開は避けられた。領地に人を増やす為に、今は平和を維持したい。エルヴィンは良い仕事をしてくれた。バールケを領地に帰らせただけでらエルヴィン達の命を助けた価値があったな。
「ガンツは余がガンツ伯の後継を定めるまで、コリント卿に預けおく。そうだな、期限は3年と区切ろう。3年目に余が定めた後継者にガンツを引き渡してもらう。その間の税収は慰謝料としてそちが受け取る事を認める。但し街の運営にかかる費用はその税より捻出するように。それで良いな?」
「はい陛下、ご高配に感謝致します。」
「心得ていると思うが、樹海でこれ以上の騒乱は起こすな。ドラゴンを従えたコリント卿の武勇は鳴り響いた。そうそう手出しする者はおらぬだろうが、隣国の侵略も警戒せねばならぬ。請願のあった募兵の件も認める。だが私の信頼を盾に無法なことはするなよ」
「はい、心得ております。我が剣は王国の敵を倒す為にございます。」
アマド国王はその場で祐筆の書かせた命令書に次々とサインをしていった。ガンツを3年間は護国卿のアラン•コリントの支配下に置く命令書。ガンツ近隣の貴族は3年の間は国防において護国卿アラン•コリントの指示に従うようにという命令書。王国内での護国卿の公的な募兵を許可するという許可状。そして、
「ガンツを3年とはいえ支配する者が男爵というわけにはいかないだろう。アラン•コリント卿、そちを王国の辺境伯と認める。本日より辺境伯と、そう名乗るが良い。」
「陛下、よろしいのですか?」
近臣が制止しようとするのを、アマド国王は手を振って黙らせた。
「良い、余に二言はない。もとよりコリント卿とは約束していた事だしな。樹海に都市を築いたというのだ、ドラゴンを手懐けた男を信じようではないか。」
「しかし男爵が辺境伯とはあまりにも法外な」
「そうです、秩序を乱しますぞ」
「ガンツ伯亡き後、辺境に要石が必要なのだ。無論、開発の成功が詐称であれば罰を与えよう。そうだ。」
そう言って陛下は何か用意した書類を取り出した。
「コリント卿には、樹海で開拓した証拠としてこれらの品を用意してもらおう。無論、こちらからも相当の品は出す。王都からの使者がそちらに到着して、都市を見学し、用意された品を受け取ったら開拓の成功と見做して良いだろう。どうかな、これは。」
俺は許可を得て書類の中身をざっと確認した。莫大な量だがドラゴンの牙のような入手困難な品は含まれていない。数が多いだけなのでなんとかなりそうだ。
(イーリス、どうかな)
(在庫で概ね満たせます、問題ありません艦長。)
「かしこまりました。陛下のために必ず揃えさせて頂きます。」
「そうだな。一年後でどうか。」
一年後か。俺としてはすんなり運ばせてくれた国王へのお礼もある。ここは予定を前倒ししてもいいのではないだろうか。俺達の一年後の予定は流動的なのだ。宰相と開戦しているかもしれない。渡せる物は早く渡してしまいたい。
「私の築いた都市アレスは既に稼働しております。半年、いえ三月で準備してご覧に入れます。」
「ほう。これだけの量を三月で用意するというのか。二月後には王都を出る計算だが問題ないのだな?」
「は、必ずやご用意して使者をお出迎え致します。ガンツから先の樹海では責任を持って使者の安全を守りますのでご安心ください。」
「よく言った。それでは三月後に到着するよう使者を遣わす。コリント卿はもう辺境伯と名乗って良いが、正式な印綬は使者に渡すとしよう。それをもって正式に辺境伯に陞爵とする。それで良いな。」
「仰せかしこまりました。ご高配に感謝申し上げます。」
俺は深々と頭を下げた。
「では、下がって良い」
今日は流石に宴会はないようだ。
「いや、しばし待て。やはり私も近くでドラゴンを見たい。」
「なりません陛下、御身に何かあれば宰相閣下に申し訳が立ちません。」
「トリスタン、ドラゴンは人を乗せる程に慣れているのだ、私が近くで見るくらいは可能だろう。」
流石に近臣に制止されているが、アマド国王の意思は固いようだ。
「コリント卿、その方からもドラゴンの危険性を陛下に説いてくれ。」
トリスタン卿に声をかけられる。どうするべきか。正直、今回はアマド国王の采配に助けられている。ここは円満な解決を目指すべきだろう。
「陛下のお望みとあらば、私が陛下が安全にドラゴンを見学頂けるように取り計らいます。」
「おお、そうか」
アマド国王は満面の笑みを浮かべていたが、近臣のトリスタン卿は天を仰いで嘆いていた。彼は国王の忠臣なのだろう。ここは国王の身の安全を守るのが家臣として正しい。
国王を先頭に連れ立って中庭に向かう。先触れの者が駆けていく。見る間に扉が開かれて行くのは壮観だった。小走りの兵が周囲を取り囲み、バール士爵が陛下のすぐ後を大股に歩く。俺とエルナはそのさらに後ろを監視されながら歩いた。俺の剣は未だにバール士爵の手に握られたままだ。
俺も大量の書簡を持たされていたのが、書類鞄のようなものを賜る。流石に国王の署名入りの書類を剥き出しで渡すことはないようだ。
「(シャロン、グローリア、国王がドラゴンを見たいそうだ。今から向かう。)」
「(ええー。)」
「おお、あれか」
国王が見上げた先にはドラゴンがいて、そのドラゴンの鼻先にはシャロンが立っている。今更降りる事もできず、シャロンは突っ立ったままでいた。
「コリント卿、あれは一体何をしているのだ?」
「配下があのような姿勢をしており申し訳ございません。あのドラゴンは私の命令で人を鼻の上に乗せているのです、あそこに人を乗せておけば他の人間を襲いませんので。」
「うむ、実に興味深い」
衛兵を牽制するための法螺話に尾鰭がついてしまう。シャロンは国王の前でもドラゴンの鼻先に乗ったままなので跪く事もできず、仕方なく深々と頭を下げる事にした様だ。
ブーツでつま先立ちしたままドラゴンの鼻先で頭を下げるのはかなり絶妙なバランス感覚を要求されるがシャロンはやり切った。バランスを取る関係で足先がふらふら揺れているので、もはや大道芸の範疇だったが。
「コリント卿の配下は美人が多いな、趣味なのか?」
「いえ、能力で選んでおります。彼女達は私の護衛なのですよ。」
「なんとドラゴンキラーに護衛が必要なのか。これは奇体な。」
しまった、不用意な発言で国王の興味を引いてしまった。
「謁見の間でも美しい女性だと思っていたのだ、どうだ、コリント卿の女でないのなら余の側室とならぬか?」
アマド国王がエルナに近づき抱き寄せる。
「お戯れを」
近臣が声で制止するが、アマド国王は止まらない。エルナは離れようとするが、国王が腕を掴んで離さない。
「近くでその顔を見ると、ますます綺麗な顔をしておるのだな。そなたの名はなんと申すのか。直答を許す。」
「エルナと申します、陛下」
「なんと名前も美しいではないか。」
国王はエルナの耳元で何やら囁き始めた。
(シャロン、グローリア、エルナがこのまま拘束されると面倒だ。そろそろ退散しよう。グローリアが、少し大きな音を出してシャロンを振り落としてくれ。シャロンはグローリアの頭を振るタイミングに合わせてジャンプして一回転して中庭に降りろ。派手な音がする筈だ)
2人が素早く段取りを打ち合わせる。かなり無茶な指示だったが、2人はやってのけてくれた。
突如、咆哮と共にグローリアがシャロンを振り落とす。弾き飛ばされたシャロンはクルクルと回転しながらエルナの近くに降り立った。それも着地に失敗して尻餅をついた格好だ。意図した物でなく事故だという演出、流石だ。
驚いた国王がエルナから離れ、国王の前に素早く兵士が壁を作る。俺も国王とグローリアの間に割って入った。
「陛下、ご覧の通り物々しい雰囲気にドラゴンが苛立ったようです。そろそろドラゴンを連れて王都を去る方が良いと考えますが。」
「そうか。人を乗せて飛ぶというのなら乗ってみたかった。せめてコリント卿が乗る所を見せよ。」
「かしこまりました。」
兵士に囲まれながらシャロンとエルナを助け起こすと、ドラゴンの背に押し上げた。証人については何も言われていない。彼らはおいて帰って良いと判断しよう。
「それでは失礼致します」
国王に向かって一礼する。
「閣下、これを」
国王の横に控えたバール士爵が、俺の魔法剣を投げてよこした。ドラゴンの側にいるので近寄れなかったのだろう。
(グローリア、さっきは良くやってくれた。合図したら飛行開始だ)
(わかりました。)
「それではこのドラゴンは樹海に連れ帰ります。」
そう宣言すると俺もドラゴンの背に跨る。座席のベルトを閉めると、書類と入った鞄に落下防止の紐を通す。エルナも紋章盾を同じように固定した袋に仕舞い込んだ様だ。剣も固定する。問題がない事を確認すると、俺はグローリアの背中を叩いた。
(グローリア、飛んでくれ)
グローリアが2回3回と力を入れて羽ばたくと、俺たちはもう空に浮かんでいた。振り飛ばされない様にグローリアの背中にしがみついていると、グングンと王城の中庭が遠ざかった。
国王や兵士の姿などもうシミの様に小さな影にしか見えない。
「コリント卿は、実に当代の英雄ではないか」
国王アマド•ベルティーは飛翔するドラゴンを見上げながら配下にそう同意を求めた。
「はい、あの男と敵対したくないものです。しかしいずれ至尊の座を狙うかもしれません」
王都守備軍軍団長のヘルマン•バール士爵が囁き返す。
「ヘルマン、余は常々思うのだ。英雄と呼ばれる人物を味方につけるにはどうすれば良いのだろうかと。」
「と言いますと? 陛下の深謀は私の知恵の及ぶところではありません。」
「仮にだが、英雄の妻の親兄弟ならば報われるであろうな。」
「陛下に姉妹が居られれば、そのような可能性もあったやもしれませんが」
残念ながらアマド国王の主だった親族は死に絶えている。
「何、従姉妹でも養女でも構わないのだ。多少縁が遠かろうと、な。天からそのような縁組が降って湧いたりしないだろうかと私はそう考えているのだよ。」
妙に自信ありげに話す国王の姿に、その詳細まで窺い知る事は出来ないながら、秘策の存在をバール士爵は感じとった。
「そのような縁、ありますでしょうか。」
「縁は作るのだ。傍目にはそうと分からぬように支援する。そうすれば我らの心は天に通じる。天からコリント卿の花嫁が降ってくるやもしれん。」
「陛下の御心、かしこまりました」
「悪意こそ人は敏感に感じ取る。宰相にも辺境伯にも悪意はけして見せるな。時がくれば、道は開けると余は信じている」
「は、心得てございます」