【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅲ 統一戦記 79話 【統一達成】 戦後処理

Ⅲ 統一戦記 79話 【統一達成】 戦後処理

 

人類スターヴェイク帝国は、イリリカ王都とザイリンク帝都を占領した。アレスの宰相府から宰相イーリスの名で勝利宣言が発せられると同時に、残存勢力へ降伏が勧告された。セリース大陸の戦争熱は急速に沈静化されつつあった。だが、人類スターヴェイク帝国に抵抗する勢力はまだ存在している。

 

ザイリンク帝国側であれば、帝国の支配打破を目的にロージャ将軍に与して蜂起した被征服諸国である。これについては人類スターヴェイク帝国の主たる将軍に担当を振り分け、制圧作戦が実施されていた。

 

抵抗が特に激しいのは、バーリント皇太子へ安堵した五カ国である。これらの国々はザイリンク帝国に直接確保してもらう手筈となっている。

 

人類スターヴェイク帝国の戦争勝利という最終的な結果はもはや揺るぎない。そうであっても、いやそれだからこそ、他の地域からもザイリンク帝国支配に抵抗する勢力がこの地に流れ込んでいる。頑強な抵抗を排除する必要性がある為、バーリント皇太子からは時間がかかるとアレスに報告が寄せられていた。

 

イリリカ王国側も衛星国家を展開している。その最大の勢力はザイツ王国だが、ここには隣国セシリオからモレル大将軍が侵攻していた。王都を挟んでの攻防まで持ち込んだところで、アトラス教会の教皇を介しての停戦依頼が来た。

 

「降伏願いの間違いではないのか?」

 

とモレル大将軍は交渉を一蹴した。だが、状況が外交の俎上に上がった為、事実上停戦が実現されていた。

 

 

 

 

 

諸将に後を託し、俺はアレスへと帰還した。俺自身が優先して対処すべき事態はもう終えたと判断していた。全ての大遺跡を確保して、勝敗は決した。凱旋したと示す為にも、総大将が首都アレスへ引き上げる頃合いなのだ。残る敵の掃討は部下に任せ、手柄を立てさせる機会を与える意味合いもある。

 

今回、セリーナとシャロンの下で殊勲を上げたのはアロイス諸侯である。釣り合いを考えると、他の将軍達にも功績を立てる機会が必要だった。

 

アレスでは政務が山積みになっていた。政務の怠慢ではなく、戦争に勝利したが故に差配する要件が増えていたのだ。多方面からの連絡の問い合わせ先はアレスであったし、なんと言っても降伏した者達の処遇についてリアと相談する必要があった。

 

関心が寄せられているのは、イリリカ王国への処分である。戦争当事国であると共に、スターヴェイク王国に寄せられた陰謀の首魁である。本来なら首謀者達への死罪は免れない。

 

追い詰められた末とはいえ、彼らは戦争の末に降伏してもいる。降伏を受け入れた以上、死罪は適用しづらいという事情はあった。そしてイザークという、肉体を乗っ取る存在を消滅させた事で話がややこしくなっていた。責任の所在というものが、実に曖昧になっているのだ。

 

「・・・という訳でルミナスの仇として、イリリカ王国を牛耳っていたイザークは滅ぼした。こちらに呼応して降伏した者については、なんとか軽い処罰で済ませられないだろうか。」

 

俺の言葉にリアは首を横に振った。

 

「・・・アランの言い分は分かった。けれど、罪人に処分なしという訳にはいかないわ。」

 

イリリカ王国の処分を話し合っているのは、クレリア、ルミナス、イーリス、俺という内輪の席である。共同統治者であるクレリアと宰相のイーリスの参加は当然として、ルミナスが参加しているのはイリリカ王国の臣民の助命嘆願の為だった。

 

「スターヴェイク王国転覆に対してのけじめ、それについてはロイスとロートリゲンから既に取っているのでしょう?」

 

ルミナスがリアに問いかける。ルミナスが暇に空かせて新聞から得た知識を披露する。

 

「ええ、そうはそう。けれど、祖国への陰謀をめぐらせた者を無罪で解き放つ訳にはいかない。イリリカ王国は人類スターヴェイク帝国を敵にまわした。これは明白な事実なのだから。」

 

「大陸全土がイリリカ王国に与えられる罰に注視しています。どのような処分が下されるかで、彼らの抵抗の度合いも変化するでしょう。」

 

昂りつつあるリアの感情を落ち着かせるかのように、イーリスがそう口を挟む。

 

「今回の処分が下されたイリリカの首脳陣が、抵抗する者に降伏を呼びかけられるかどうか。それも今後の統治の安定性に影響するはずです。」

 

リアもルミナスも押し黙った。降伏したイリリカの首脳陣、例えばカレイド卿は庁舎で謹慎させている。かつての配下への積極的な働きかけまではまだ出来ていない。

 

それはカレイド卿自身の処分が不明確な為だ。彼女の処遇が明確になれば、『人類スターヴェイクは温情的だ』とイーリスの指摘通り抵抗勢力への帰順を呼びかけられる筈だった。そうなれば大陸の統一は進む事になる。全てを武力で排除するのは現実的ではない。

 

「パロリオン卿は、親スターヴェイク派として幽閉されていた立場だ。そんなパロリオン卿を処刑から独自に庇護していたカレイド卿も、こちらにつく意思は本物だろう。」

 

俺の言葉にリアは渋々といった様子で頷いてみせた。

 

「パロリオン卿のような、親スターヴェイクの立場の者は軽い処分を認めましょう。首謀者のイザークが死んだというのなら、問題はカレイド卿やジノヴァッツ、そしてバルスペロウね。」

 

「重過ぎず、軽すぎずという処罰を考えよう。アロイス王国の諸侯についてはそれでうまくいったんじゃないか。」

 

かつてはスターヴェイク王国に対して叛乱を起こしたのはアロイス諸侯だ。彼らは二手に分けてセリーナとシャロンの下に配置した。二人に鍛え上げられたアロイス諸侯達は、今では人類スターヴェイク帝国の精鋭部隊に仕上がっている。

 

「彼らの事も頭が痛いわ。罪滅ぼしに課した軍役とはいえ、今回の殊勲に只働きという訳にもいかない。今以上に領地を分け与えれば、私を推戴するスターヴェイクやベルタの貴族との力関係も揺らぐわ。」

 

「ふむ」

 

俺は考え込んだ。

 

「バーリント皇太子に分け与える五カ国を除き、かつてザイリンク帝国だった東方の国々が人類スターヴェイク帝国の直轄領となる。今回、人類スターヴェイク帝国で功績のあった者はそちらに領地を振り替えてはどうだろう。」

 

「領地替えね、それはいいわ。」

 

リアが俺の案に飛びつく。

 

「加増する以上、それは報奨だということは明らかだわ。ザイリンク帝国に対する備えとして新領地に配置する形なら、栄誉でもあり合意を得やすい。何より物理的な距離を隔てれば、諸侯がスターヴェイクとアロイスの二つに分かれて諍う状況がなくなるわ。これは名案だわ、アラン。」

 

リアはイーリスと頷き合っている。なるほど。イーリスとリアは、アロイス諸侯が遠国に移動するそれ自体をメリットと見ているのか。

 

確かにアロイス諸侯がスターヴェイクに居残るより、新天地に移動する方がお互いに接する機会が減る。軋轢は生じにくいだろう。新領地への支配力強化に彼らを用いるなら、一石二鳥となり得る。

 

「彼らが去った後のアロイスはどうするんだい、リア?」

 

「旧スターヴェイクの貴族を中心に領地を調整しましょう。愛着を持って土地に居残りを希望するアロイスの貴族もいるでしょうし。」

 

ふむ、アロイス諸侯の今後についてはリアの中では上手くまとまったようだ。

 

「それで話を戻そうか。イリリカ王国の捕虜の処遇はどうしようか。」

 

「女王として、私は彼らを罰しない訳にはいかない。死罪でなくても構わないけれど、罰金だけでは軽すぎる。処罰の対象が大勢いるようだから、閉じ込めるにしても牢屋が足りないのではないかしら。」

 

「・・・それでは、こういうのはいかがでしょうか?」

 

イーリスが手を挙げた。そして自らの意見を開陳する。

 

「アロイス諸侯の扱いに準じるのです。住む土地を移動させ、軍役を科すのはいかがでしょうか?」

 

俺にはイーリスの考えが分かった。イーリスはバグスが襲来した時に備えて、その迎撃の尖兵をイリリカの兵に担わせようというのだろう。

 

「・・・でも、大陸を統一してこれ以上の敵がいると思えない。義務を負わせても、果たす可能性が低いなら認められないわ。アロイス諸侯と比べでもそれは不釣り合いすぎるもの。」

 

リアはまたも首を横に振った。バグスがいつか来ると知っている、なんならこちらから退治に行こうと考える者には過酷な任務と解る。だがバグスの存在さえ知らない人々には、軽い口約束のような処分に思われるのではないだろうか。

 

「樹海より危険な場所の開拓、それも加えるのならどうでしょうか?」

 

「樹海の奥地の開拓をさせるの?それならばこちらの役にも立つし、禁固刑に相当すると看做せるかもしれない。」

 

イーリスの言葉にリアが考え込む素振りを見せた。

 

「樹海の奥地に限らずとも、帝国内には魔物が跳梁跋扈する土地がまだ多く残されています。いずれ我々の故郷に戻る日も来るでしょう。そのような危険な場所の開拓を、罪状に応じた年数割り当ててはどうでしょうか。」

 

俺やイーリスの故郷の話が出て、リアの目が光る。リアには「船が沈んだから故郷にはもう戻れない」としか伝えていない。だが、故郷に戻る可能性に言及した事に素早く気がついたようだった。

 

「その地は、送り込んだ者が簡単に逃げられない場所と考えて良いのね?」

 

「ええ。樹海の奥地なども道を辿れば国に帰りつけるような場所ではありません。海を隔てればまず不可能でしょう。それに我々の統治がうまくいけば、彼らの母国は逃亡者を受け入れません。逃げたとしても、逃げる先も存在しなくなる筈です。」

 

「分かったわ。少しルミナスとも相談したい。個別で救うよう頼まれた彼女の臣下について、確認する必要があるから。」

 

ルミナスとリアは、しばしひそひそと語り合っていた。澄まし顔をしているが、イーリスは間違いなくその会話の内容を盗み聞いているのだろう。

 

俺の強化された耳でも聞き取る事はできるだろう。でも俺は意図して耳を塞いだ。何でもかんでも聞いていては、こちらが疲れてしまうだけなのだから。大体,ルミナスが誰を指名するかは分かっているのだ。

 

ルミナスへの確認を終え、合意に達した様子でリアが宣言する。

 

「いいでしょう。私はスターヴェイク王国に進軍したイリリカ兵の全てを有罪と考えます。しかし、全員を死刑にも牢獄にも入れられない以上、罪に応じた年数の開拓作業の従事で罪を償う事を認めましょう。」

 

「ありがとう,リア。」

 

「カレイド卿についても、ルミナスからの請願を受け入れます。カレイド卿がルミナスに臣従すると誓いを立てるなら、引き続き大都督の役職に残るのも認めましょう。」

 

「感謝します。」

 

ルミナスが短く礼を述べる。カレイド卿は、ルミナスの直臣たる資格を持つ。開拓地に送り込むより、イリリカ王国で影響力のある役職にとどめておきたかったのだろう。

 

またルミナスとしてはこの件はサイヤン帝国の臣民の保護というよりも、イザークとルミナスの諍いの影響の現状回復と考えているようだった。

 

「バルスペロウとジノヴァッツについても死罪でなくて構わない。ただ、最長の開拓従事を希望するわ。それも一番危険な場所で。」

 

リアはそういうと、笑いながら付け加えた。

 

「それでも、アレスを短期間で作り上げたアランとイーリスの手腕ならまずまず快適な開拓地生活になってしまいそうだけれど。」

 

俺はリアに約束した。

 

「大丈夫だ、間違いなくこの地の人々が予想しないほどの危険がある開拓地に連れて行くさ。」

 

「そう、期待しているわね。」

 

リアがあまり本気にしていない口調で返す。

 

「確認だが、開拓地での作業で得た田畑などは本人の財産とする事でいいだろうか。年季を終えて帰る際、適正な市場価格で買い取ればいい。経済的に労苦が報われる形にする方が、彼らも励みになるはずだ。不満を感じにくいだろう。」

 

「それで構わないわ。犯した罪を償わせたいのであって、不必要な迫害は望みません。彼らもまた、人類スターヴェイクの民となったのだから。」

 

そう宣言したリアの顔は晴れ晴れとしている。彼女は死罪を与えない事で、敵に赦しを与えたのだろう。

 

「それではイリリカ王国の政治は、パロリオン卿を軸にカレイド卿を補佐させる形としよう。名ばかりとはいえ王家があったようだが、その扱いはどうしようか。」

 

「それについては私に考えがあるの。イリリカ国王の王女は、我が親族のベルタ公爵のアマド・ベルティーに嫁がせましょう。この夫婦の子孫にイリリカ王国を継がせればいい。」

 

「アマドの結婚相手か。てっきりスターヴェイクの良き姫を彼に嫁がせるのかと、そう考えていたんだが。」

 

「王家の血筋は、国家を求めてしまう。スターヴェイクの中で彼の派閥を作らせるより、新たな王国を与える方がマシだわ。それに色々と皆の頼みを聞いたのだもの。この件は私の意見に従ってもらうわ。」

 

俺もルミナスそしてイーリスでさえ、このリアの発案には同意させられる事となった。

 

 

 

 

 

「私に王国付きの花嫁を紹介してくださると。」

 

善は急げとばかりに、リアはアレスにアマドを呼び出していた。

 

「そうだ。イリリカ王国は豊かだが、難しい国だ。評議会が全てを牛耳っている。」

 

俺がアマドに語りかける。彼にはこの結婚を受けてもらう必要があった。

 

「その評議会を私に仕切れと仰せでしょうか?」

 

「いや、どちらかというと政治的に均衡させたいと考えている。」

 

俺の言葉にアマドは首を傾げていた。

 

「評議会を仕切るのはパロリオン卿に任せ、軍を掌握するのはルミナスに忠誠を誓う大都督のカレイド卿に任せる。イリリカ王国の主要人物が二人しかいないのであれば、そのままでは対立軸になる。もしくは評議会と軍の都合が良い方に暴走するだろう。それでいずれ混乱が生じるかもしれない。だが、そこに王権勢力を加えたい。それが君だ。」

 

「ふむ」

 

アマドは考えこむ素振りを見せた。

 

「二つ足の椅子は成立しないが、三つ足の椅子は安定するだろう。イリリカ王室を継ぐ者として、摂政と次期国王の地位を約束する。ベルタ王族であり、王女の婿にしてリアの血縁なのだから資格は十分にある。評議会と軍の決定は最終的に国王の承認を受ける必要がある。君にはそれを任せる。疑義があれば承認せずそれを差し戻していい。」

 

リアが口を挟んだ。

 

「人類スターヴェイク帝国の威を背負い、新たな王として振る舞われるが良い。勝敗の結果とはいえ、ベルタ王国をベルティー王家から奪った事は気に掛かっていた。我らが帝国の創業の地であるベルタを返すことは叶わないが、貴卿には新たな王国を進呈しよう。」

 

アマドは平伏した。

 

「寛大なお言葉、感謝致します。」

 

「ベルタ公爵領は、イリリカ国王位継がれてもそのまま保持させると良い。」

 

リアが言葉を重ねる。いずれアマドに複数の男子が、あるいは女子でも構わないが、子を成した時にそれぞれの国や領地を継がせるのだろう。

 

「問題がなければ、今回のイリリカ王国に対する処分として、我が宰相のイーリスより以上を発表させよう。」

 

「ありがとうございます。」

 

リアの宣言をアマドが受け入れて、人類スターヴェイク帝国内での話は決着した。後はこの決定を、イリリカ王国を代表するパロリオン卿とカレイド卿に伝えれば良いだろう。

 

 

 

 

イリリカ王都に、俺は転送門を通じて乗り込んだ。ルミナスは同席させるが、リアは同行しない。女王の存在は、占領地に気軽に出掛けるほど安くはないだろう。

 

呼び出されたパロリオン卿とカレイド卿は神妙な面持ちだった。俺の傍でルミナスが『大丈夫ですよ』という素振りで微笑んでいる。

 

「良くお越しくださいました、閣下。」

 

パロリオン卿が代表して挨拶する。彼らに勧められるまま、俺はテーブルの上座に腰を下ろした。俺の横にはルミナスが座る。今の彼女は俺の婚約者という立場だが、実態はイリリカ王国の中に流れるサイヤン帝国の民の庇護者でもある。

 

「本日は、イリリカ王国の処遇を伝えに来た。まず、パロリオン卿。貴方には親人類スターヴェイク帝国の立場で、議長としてイリリカ王国の評議会を仕切って頂きたい。」

 

パロリオン卿の目が見開かれる。

 

「承知致しました。」

 

「次にカレイド卿、貴方にはこのルミナスに絶対の忠誠を誓って頂く。これはクレリア女王に相談の上で決定した事です。ルミナスに背かない限り、貴方が軍を率いて大都督の地位に留まるものとする。その軍勢で、人類スターヴェイク帝国に敵対する者は全てその抵抗を排除してほしい。方法は任せるが、なるべく大勢の命を救う方法だと助かる。」

 

「承知しました。我が忠誠はルミナス様に捧げます。」

 

カレイド卿もしおらしい様子で頷く。ルミナスを目にして、カレイド卿は自身が仕えるべき相手がルミナスと分かった様子だった。

 

「次にイリリカ王室の処遇を話したい。イリリカ国王には適齢期の王女がいると聞く。彼女をクレリア女王の身内であるベルタ公爵アマド・ベルティーと婚姻させ、次期イリリカ王位を継がせる事とする。」

 

「なんと、てっきりエメローラ姫はコリント卿に嫁がれるものだと。」

 

俺には嫁が多すぎる問題がある。それに新たに妻に迎える予定のルミナスの立場もある。

 

「次期国王として即位するまで、ベルタ公爵は宰相として政治に参加させる。評議会議長のパロリオン卿、大都督のカレイド卿、宰相のベルタ公爵アマド・ベルティーの三者がイリリカ王国の統治の要となる。実務を評議会と軍が行う事に変わりないが、宰相が王権を代表して承認を与える。もし必要があれば、案件を差し戻して再考を促す筈だ。」

 

「なるほど、宰相殿の権限は承認に限られるのですな。」

 

慎重な口ぶりでパロリオン卿が確認してくる。

 

「ああ、あくまで宰相はイリリカ国王の権限の執行の代理人として考えている。」

 

今後、イリリカは人類スターヴェイク帝国側の意図を汲む必要があるのは彼らも理解しているだろう。そこに次期国王兼宰相という形でアマドが入る。

 

結婚という体裁を取れば波風は立ちにくいし、考えようによってはリアの親族を人質に取る事にもなる。彼らも今更不必要なリスクは冒さないだろうし、こちらが派遣したアマドに確認を取れば終わりというのは行政をシンプルにする筈だった。

 

「寛大な措置をありがとうございます。それで、戦犯とされた者の処遇についてはいかがでしょうか?」

 

正念場だな。俺は彼らに正確な内容を告げた。

 

「戦犯とされた者でも、こちらに降伏した者であれば死罪には問わない。危険な開拓地送りとするが、それぞれに定めた年季が明けたら故郷に戻そう。」

 

カレイド卿もパロリオン卿もホッとした様子で息を吐く。張り詰めていた空気が緩んだ。

 

「感謝致します。自分だけ助かるのも、それはそれで辛いものです。」

 

カレイド卿がそう口にした。

 

「刑罰である以上、魔物も蔓延るような危険な開拓地だという事は覚悟してもらう。軍役も背負ってもらう。開拓地に予期せぬ敵が襲来した場合には、共に撃退してもらう事になる。その条件で武装も認めよう。」

 

「それは、刑罰だから当然とはいえやはり過酷な地なのでしょうか。」

 

パロリオン卿は心配そうな様子を見せる。

 

「命を取る意思はない。こちらで必要な庇護は与える。ただ開拓地という性質上、魔物の襲撃などは起こり得る危険として織り込んで欲しい。防衛と治療にはこちらも手を尽くすが、危険な場所という事だ。もちろん、生活が立ちゆくよう支援はする。開拓地の整備もアレス建設と同等の支援は約束しよう。」

 

「アレスと同等の支援が受けられるならば、死罪よりも遥かに良い待遇かと。」

 

「これが対象者の名簿だ。今後、降伏した者も同じ扱いとする。最も罪が重い者を除き、大半は最長で五年程度と考えている。」

 

イーリスの宰相府がまとめ上げた名簿を手渡す。一枚に百名の名前が記載されている。それがびっしりと七十五枚ある。七千五百人。だが貴族家の当主の場合はその家族も連座させる。開拓民の実数は更に膨らむだろう。予定としてはその四倍を見ていた。

 

「処罰される者が貴族家の当主であれば、その家族も可能な限り同行させるように。離縁した者は含まなくてよい。家臣や領民などの同行希望者は受け入れるし、一般の開拓民には支度金を出そう。領主が不在の間の領地は国の管理としたまえ。」

 

「承知しました。予想しておりましたが、やはり多いですな。」

 

開拓民は五万人から十万人を予定していた。どうしてもある程度の数は必要なのだ。支度金込みの田畑付きで応募をかければ、一定の成果は出る筈だった。イリリカ王国の戦犯も、開拓民の数のベースという意味合いが強い。

 

開拓地がどれほど発展しても、彼らは領地のある故郷に戻りたがるだろう。その時は、第二弾の開拓民と入れ替えてゆく。生活の安定しない貧困層は多い。イリリカ王国の上流階級が暮らした開拓地を引き継げるなら、更に移住希望者は出るだろう。

 

「あちらに学校や教会など必要な設備は作るし、手紙のやり取りも認める。住む場所が変わるだけで、田舎暮らしが嫌いでなければそう悪い待遇ではない筈だ。無論、魔物の問題はあるだろうが。」

 

「承知しました。」

 

全体的にホッとした空気が流れている。俺には樹海に都市を築いた実績がある。それを知る者からすると、開拓地と言っても無謀な計画ではなく成功が約束されていると映る。最長五年という期間も短いだろう。

 

流石にジノヴァッツやバルスペロウを五年で解放することはない。それは彼らも織り込み済みのようだった。首謀者達は開拓地とはいえ平穏に暮らせるだけ温情的な処置と言える。

 

開拓地の大半は失敗に終わる事が多い。それだけなら死刑前提の流刑になりかねないが、支援による成功が約束されているのは気が楽なのだろう。家族を連れて行ける分、単なる虜囚よりは遥かに恵まれた境遇と感じているらしい。

 

「イリリカ王国にはまず治安維持の名目でベルタ公爵アマドを送り込む。結婚が上手く行くよう、適度に導いて良くしてやって欲しい。彼は善良な男なのだから。」

 

「承知しました。こちらにできる限りのお力添えは致しましょう。」

 

パロリオン卿とカレイド卿が揃って頭を下げる。よし。イリリカ王国の事はこれでなんとかなったな。

 

 

 

 

 

「艦長、これが最新の艦の再建計画です。」

 

イーリスにより仮想表示された〈イーリス・コンラート〉の再建計画。再建される艦のフォルムは球形だった。

 

「俺の知るギャラクシー級戦艦は、筒形なんだけどな。」

 

「種々の技術的な制約を考慮すると、これが最適なのです。」

 

イーリスが球形として再設計したのは幾つか理由がある。最大の理由は人工重力だった。中空の球の内壁を地面に見立てれば、そこは巨大な人工惑星になる。

 

「なるほど。この地に住ませる住人として、イリリカ王国の戦犯を開拓民としたんだな。」

 

「ええ。戦争の贖罪としては重すぎず軽すぎず、丁度良いところでしょう。」

 

〈イーリス・コンラート〉を再建する上で最大の課題はジェネレータである。最新科学の結晶である反応炉は今のアレスの技術力でも簡単には生み出せない。

 

だが大遺跡の力を用いる事で幾つか可能になった事がある。

 

まず無尽蔵とも言える資材の供給である。惑星内外から文字通り抽出される材料は、転送門を通じてどこにでも運べる。今は重力操作ですら可能なのだ。軌道上の〈イーリス・コンラート〉近くに転送門を開通させれば一瞬で運べた。

 

しかし課題は無数にある。まず地表と宇宙の転送門は制約が大きい。これは慣性の法則を無視できないからだ。重力の異なる場所は転送門を開通する事さえ難しい。惑星上はどこであろうと同じ重力が適用されるだけだいぶ前提が異なるのである。

 

イーリスのように高性能なAIを駆使すれば物体の移動に支障はない。艦の周囲に転送して、後はトラクタービームで対処すれば良いのだ。

 

問題があるのは人員の移動で、これは未だに解決出来ないでいた。宇宙服を装着して惑星表面から艦の周囲の真空に飛び出させる。それをトラクタービームで牽引する方法は可能性があるとされていた。しかし今のところは宇宙服の在庫数もあって実証出来ていない。人類が宇宙に再進出するとなると問題が山積みなのだ。

 

まともな宇宙服もない、ジェネレーターもない、軌道エレベーターも喪失した環境でどのように艦を再建するか。大遺跡の力を使うしかない。しかしそこにも問題があった。魔素である。

 

「城を宙に浮かし、上陸艇(エアシップ)は大気圏外に到達し、ギャラクシー級戦艦〈イーリス・コンラート〉は造物主のエネルギー兵器さえ防ぐ程の装甲を手に入れた。それなのにジェネレーターの再現は出来ないか。」

 

そんな筈はないだろう、そう思わず声を荒げた俺にイーリスは諭すように答えた。

 

「それらを実現しているのは魔素です。造物主の技術体系が魔素を前提にしている以上、魔素がなければ全ては絵に描いた餅で終わります。」

 

「宇宙空間には、魔素がない。それこそが問題か。」

 

魔素という造物主による遺産は、遺跡で算出される魔物を通じて惑星アレス内に補填されている。この魔素がなければ、大遺跡の技術は使用不可能になるのだ。宇宙空間にそれを持ち出す方法が必要だった。

 

魔石に魔素はパッケージされている。空気内にも含まれるので、軌道エレベーターの往復でも補填は出来る。しかし、軍艦として魔素を活用するとなるとそのような方法での補填は限界がある。惑星からの補給に頼らず、文字通り濃密な魔素を艦内に充満させる必要がある。でなければ艦の通行可能な転送門の開通など覚束ない。

 

 

「艦内に魔物を解き放ちましょう。」

 

「やはり、それしかないか。」

 

イーリスの解決策は荒唐無稽に見える。しかし、魔素を循環させるには他に方法がなかった。

 

艦を巨大化させ、内部に人工の太陽と重力を与える。海と大地は惑星背面の無人地帯からそのまま移築する。人がいなければ、転移させる際の多少の衝撃は無視してしまう。惑星アレスの容積は削れるが、鉱物資源を含んだ小惑星と段階的に交換していけば大きな影響は出ないとのことだった。

 

人工太陽の周りは金属殻で覆う。漏れ出す光で昼と夜が調節される。フィルターをかけて光量は調節する他、遠くが見通せないようにしていく。遠くを見ても霞が軽くかかるのは惑星上でも奇怪な事ではない。生物はすぐに順応するだろう。

 

「理論上のダイソン球の一種といえますね。規模は遥かに小規模ですが。」

 

テラフォーミングされた惑星の大気は三百キロメートルが基準である。しかし人間の生活に関係するのは三十キロメートルに満たない。標高の高い山でも十キロメートル。その上にはオゾン層が展開されるが、そのあたりは誤魔化してしまえばいい。

 

新たな艦は内径が百三十キロメートルの球形となった。空にあたるのが百キロメートル、地表や最大水深にあたるのが三十キロメートルの割合である。中空なので、質量はサイズから予想されるよりは小さめだ。

 

「当初は半径六十キロメートルだった筈だろう?」

 

半径で考えると倍を超えるな。

 

「酸素供給を陸や海に頼るのです。自立する惑星環境を構築するにはこれくらいは必要です。」

 

容積が大きければ、それだけ魔素を充満させられるのかもしれない。用途を考えると、魔素は多ければ多いほど良いだろう。

 

これでどうにか中規模の島国とそれを取り囲む海が構成できる。海の割合が大きいのは、住民への説明に万事都合が良いからだ。また、海は惑星から盗んでも目立ちにくい。

 

もちろん水分や栄養素という形で母星に還元はするのだが、周辺海域から環境を丸ごと移築しやすかった。

 

「上手くやってくれよ、イーリス。」

 

「火山の多い地帯から島を移築しましょう。周辺には火山からの再生に適合した動植物が多いのです。小惑星を移築して、表面に砂漠の砂を撒いておけば誤魔化せますよ。」

 

随分と乱暴な方法に聞こえたが、イーリスはうふふと笑って見せた。

 

「小惑星を落下させるより遥かに安全です。周辺の生物相がこの新天地に進出しますから、数十年で元通りになりますよ。飼料も栄養素もばら撒きますし。」

 

いずれにせよセリース大陸の反対側だ。大陸への影響はまず考えられないという。

 

「問題はむしろ、十分な魔素を産生出来るかです。全てはそこにかかっています。」

 

このような大掛かりな作業が可能になったのは、惑星アレス内に溢れる魔素の効果だ。操作するために大遺跡の技術が必要だったとはいえ、造物主の時代から営々と蓄積された魔素こそが鍵である。

 

「ある程度の魔素は補充出来ます。しかし、この小惑星サイズの艦を飛ばすとなると魔素の大量補填が必須です。それには自己生成させるしかありません。」

 

俺はため息をついた。

 

「陸地の造成がひと段落したら移築した島に魔物を放て。当面は島の開拓作業に並行して、魔物の討伐を推進しよう。それで魔素で艦内を満たしていこうじゃないか。」

 

 

 

 

 

 

アリスタはクレリア女王からの私的な呼び出しを受けていた。前回の呼び出しの際は、侍女からの昇格と父サイラスの準男爵位授爵である。それからの年月の経過がまだ一年に満たない。アランが大陸を統一した今、今回も悪い話ではないのだろうと見当はついていたものの、語られる内容は全く予想できなかった。

 

「お呼びでしょうか、クレリア様」

 

居室をノックすると側近にのみ許された敬称で、クレリア女王に呼びかける。扉を開放してくれたのは、新人侍女のタラである。アレスの商業ギルド長タルスを父に持つ彼女は、ガンツの商業ギルド長を父に持つアリスタの対となるような存在だった。

 

実際は年長のアリスタが先輩であり、年若いタラは後輩のような間柄だ。年齢ゆえにタラはアラン様のお手つきとはなっておらず、侍女として研修中の身だが、いずれ時が来れば側室の地位が内定されていた。

 

「お入りください、アリスタ様。クレリア様がお待ちです。」

 

アリスタはタラに笑顔を向けると、クレリアの居室に入る。クレリア付きの侍女はかつて自分と重なる。後輩達に職務が受け継がれているのを見て、アリスタとて悪い気はしない。

 

「アリスタ、よく来てくれた。」

 

姫様口調のクレリアに促されて着席する。予め用意されていたのだろう、タラが茶器を載せたトレーを運んでくる。

 

タラが慣れない手つきでお茶を淹れようとするのを、アリスタはハラハラとしながら見守った。

 

「さて、そちに今日来てもらったのは戦後の在り方についてだ。」

 

クレリアはタラの淹れたお茶を一口含むと、一瞬眉を顰める。そっと手にした茶器を下ろした。アリスタが危惧した通り、タラの無造作な手つきで入れられた茶葉は多すぎた。きっと濃すぎたのだろう。

 

アリスタも確認の為に、音を立てずに自分の茶を啜る。やはり茶のエグ味が出てしまっていた。

 

「タラ、少しカップの中身を捨ててからそれぞれ良い色合いになるまで白湯を足して。」

 

アリスタがそう促す。タラの覚束ない手つきを見守りながらも、どうにか茶の濃度が改善する。まずまず飲める味に落ち着いた。

 

「話が中断してしまった。それで今後の事だが,アランは故郷に戻ることを考えているようなのだ。」

 

クレリアの切り出した話は意外なものだった。確かは海洋大国も会盟(アライアンス)に加入させる形で従え、空を飛ぶ城まである。この大陸の外から来たアランやイーリス、それにセリーナやシャロンも故郷に戻れるのかもしれない。

 

「アラン様は、このまま帝位につかれるのかと。」

 

「私もそう思っていた。だが、アランの祖国における立場はいまだによく分からない。祖国に帰ればどうなるのか想像もつかぬ。」

 

アランは高位の軍の司令官であるとは聞いている。大陸の統一もアラン達が祖国に戻れない前提で進められてきたものだ。戻れる可能性が出ると、祖国での身分との調整が必要なのも理解できた。

 

「この大陸全て、いえ、この星を統べる地位にアランがつく事ももはや不可能ではない筈だ。だからこそ、アランがより慎重になるのは分かる。」

 

クレリアは寝物語にアランから伝授された最新の科学知識を披露した。彼らの住む星の名もアレス、都市アレスはその名を取って命名されたのだと。そして人が住む地は、この星に止まらないと。

 

「我々は、アランをこの地に繋ぎ止める必要がある。」

 

そう言ってクレリアはアリスタを見つめた。

 

「人類スターヴェイク帝国はザイリンク帝国から広大な領土を得た。支配域はこれまでの何倍にも広がる。そこでだ、セリーナやシャロン、エルナそしてそなたをいずれは新たな支配地の女王に任命しようと考えている。」

 

アリスタは呆気に取られた。

 

「皆様だけでなく私も、でございますか。」

 

「そうだ。正式な妻は領地の大小はあれど女王の呼称に揃えようではないか。多少手狭な王国になるかもしれないが、そこは堪忍せよ。」

 

「勿体無いお言葉です。しかしどうして私が。」

 

「そなたはいずれアランの子を産む。産んでもらわなくてはならない。」

 

アリスタはエルナ妃から注意を受けていた。臣下は、序列を乱すことをしてはならないと。正室であるクレリアに先立ちアリスタが妊娠することは、後継を巡って家の乱れに繋がりかねない。

 

アリスタの身体はそう器用ではない。する事をすればいずれ妊娠するだろう。自然、自分がアランに添い寝する夜にアランの求めを拒否する事も増えていた。

 

「それぞれの母に国を持たせ、産まれる子にはそこを継がせる。それならば争いは起きないだろう。」

 

そう言ってからクレリアは微笑んだ。

 

「それに、どうやら私も身籠ったようなのだ。イーリスの見立てでは男児ではないかという事だった。」

 

「クレリア様、御懐妊おめでとうございます。」

 

アリスタが涙ぐむ。それはクレリアの懐妊を祝う気持ち、アランの求めを断る必要がない安堵、自身といずれ授かる子の未来が明示された喜びが無いまぜになった涙だった。

 

「うん、こういうのは照れるものだな。だから、もう何も気に病む必要はないのだぞ。アリスタもアランの為に立派な子を産んでほしい。この地に残すものが大きくなれば、アランは必ずここに帰ってくる筈なのだから。」

 

「はい、私も必ずアラン様の子を産みます。」

 

「そうだな。我ら皆でアランを繋ぎ止める。タラも、いずれは頼んだぞ。」

 

頬を赤く染める少女を見て、妻達は笑い合った。大陸を統一してもなおアランの歩みが止まらないのは予想外であったが、アランならばこれまで通り切り抜けるだろうと彼女達は信じ切っていた。

 

次章「Ⅳバグス戦争の終結」に続く

 




Ⅲ章の最後をどうするか事前に考えていなかったのですが、書いていたら自然にクレリアとアリスタ(とエルナ)が登場していました。

次章はいよいよ最終章となるバグス戦争編です。間話で雰囲気はお伝えしましたが、アランもバグスとの戦争に参戦する事になります。次章もよろしくお願いします。
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