【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅳ 対バクス戦争の終結 81話 【侵略篇②】 帰還問題

Ⅳ 対バクス戦争の終結 81話 【侵略篇②】 帰還問題

 

「そう、それでアラン達は一度帰国したいというのね。」

 

恐れていた話を切り出された割には、クレリアは比較的冷静に事態を受け止めていた。アランやイーリス、セリーナやシャロンの故郷は遠い星の海を渡った先と元々聞かされていたのだ。

 

「帰還は、祖国への義務を果たす為の一時的な事だと思う。俺には祖国の総督としての立場もある、その地位が追認されればこちらに戻れるはずだ。それにこの機会に祖国でのセリーナやシャロン、イーリスの地位についても確認しておきたい。」

 

アランとクレリア二人だけの協議の場である。他の者は会議の場から省かれていた。

 

「でも、祖国にはアランの上司というか、指示を出す存在がいるのでしょう?」

 

「そうだ。でもその為の保険として、リアと俺が共同統治している体制が活きる筈なんだ。」

 

アランの瞳が真っ直ぐリアを射抜いていた。

 

「人類スターヴェイク帝国においては意識してリアを女王とし、俺は護国卿としてきた。俺が全権を握ってしまうと、俺は祖国から見て自由に交代可能な存在として扱われるだろう。リアと相談しないと決定権がない事が、俺の地位の存続を保証する筈だ。」

 

「総督、なるほどそうなのね。でもアランはこの大陸を統一したわ。その力を使えば、祖国と幾らでも交渉できるのではないかしら?」

 

今のアランとクレリアには大陸全土を統べる力がある。そうそう簡単に敗れることは無いのではないだろうか。だが、アランはゆっくりと首を振った。

 

「俺が航宙軍にいる限り、上官の指示は絶対だ。その点は揺るがないだろう。」

 

その素振りから、クレリアはアランにも抗えない力があるのだと察する。ルミナスに対して四駿四狗がそうであるように、祖国への強力な忠誠心がアランにも植え付けられているのかもしれない。

 

「ただ、このプロジェクトを完遂し祖国に遺跡の技術をもたらせば、軍からの退役は問題なく認められる筈だ。そうしたら俺にはリアの共同統治者という立場だけとなる。」

 

「そうね。私達は皆いつかアランが帝位につくものだと、そう考えていたけれど。まだ帝位についていないのはアランの故郷に戻っても困らないようにする為なのね?」

 

「そうだ。女王と護国卿という形で、リアが俺に命令権を持っているようにしたからだね。」

 

これから聞く内容がクレリアにとっての核心部分である。

 

「つまり、アランは必ずこの星に戻れるのね?」

 

「ああ。この星の統一という軍事作戦において、クレリア女王への報告義務は俺にとって優先事項に該当する。祖国からの指示実行を留保する事も可能になるはずなんだ。」

 

「私がアランに命じるだなんて、アランなら平気で断りそうなのにそんな形式的な事で防げるの?」

 

「法はまず形式だからね。」

 

アランは肩をすくめてみせた。

 

「アラン、私からも報告があるの。イーリスには口止めしておいたのだけれど、実は私は妊娠したわ。」

 

アランは文字通り口を大きく開けて驚いていた。

 

「俺が父親か、驚いたな。」

 

「夫婦としてする事をしてきたのだもの、当たり前だわ。」

 

そう言ってクレリアは少し恥ずかしがりながら付け加えた。

 

「私は『我が直系でルドヴィーク家を再興する』と誓った。アランには産まれてくる子の為にこの星に戻る責務があるわ。そしてその子に兄弟を授ける義務もあるの。必ず無事に戻ってね、アラン。」

 

 

 

 

 

 

セシリオにおいても、ウルズラ女王に対して同様の説明が行われた。それも夫婦の睦言としてである。

 

「・・・それでは、今後はなるべく夫婦としての生活は均等になると。」

 

「リアも妊娠したし、他の妻達との約束もある。毎日とはいかないが、落ち着いたら子を授かるまでは毎週は顔を出すようにしよう。」

 

大陸統一という戦争状態において、アランの不在は仕方がないだろう。だが平和になった際、ウルズラがクレリアの主宰するアレスの宮廷に出向くのかという問題があった。セシリオの政情は安定しているが、長期的に離れればどうなるか油断はできない。

 

「そうなのか。それは朗報だ。私にもクレリアに劣らず世継ぎが必要なのだから。」

 

そう言って裸のウルズラはアランにまとわりついて甘える。ルージ王子の子供にはアランとの間に生まれる娘を嫁がせる約束をしている。ウルズラ自身の後継男子も必要だと、そう考えていたのだ。

 

「いつかセシリオはルージの物になる。そうなった時に我が子に伝える領地として、天空城が欲しい。あれを我が子に継がせれば、我が家は安泰だ。」

 

ウルズラはアランにそうねだった。これは祖父のモレル大将軍の入れ知恵でもある。いずれセシリオを取られる以上、何らかの補填は必要である。女王としての地位までは失わないだろうが、領地に隔たりがありすぎるのも格好がつかない。その点、天空城はアランの物である。いずれウルズラの子に継がせたとて構わないではないか。この星において、天空城の持つ優位性はもちろん計算済みである。

 

「天空城が良いのか。俺はてっきり、別の国をあてがえと言われるのかと思っていたが。」

 

そう言ってアランは笑う。別の国、そんな事は可能なのだろうか?

 

「大陸東部だがザイリンク帝国が支配していた領域がある。ザイリンク帝国に渡すのは五カ国だ。残りの国々は、こちらが支配する。正式な妻達には、それぞれ国を与えて女王としようかと考えていたんだが。」

 

国が得られる、それは望外の幸せである。しかもウルズラは当面はセシリオの女王である。クレリアに及ばないとはいえ、女王としては次席の格式になるだろう。

 

「国が貰えるのなら、城よりも国の方が良い。」

 

簡単にその結論が出た。

 

「少し祖国に戻ることになる。国わけの実行はその後になるだろう。」

 

ウルズラはもう話を聞いていなかった。この大陸にもう敵はいない。アランの約束は必ず守られるだろう。この約束はセシリオと交換なのだ。ウルズラはアランとの間に子を為す幸福に耽溺した。

 

 

 

 

 

「ワープアウトしたバグスのBG-X型戦列艦は六隻、三個艦隊と思われます」

 

エーテルリンクの艦橋に艦載AIの声が響く。

 

『予行演習は繰り返して来た。カース艦長、プラン通りいきましょう。』

 

艦載AIに続いて艦橋に伝わる提督の声にキャプテンシートのカース艦長が頷く。

 

「承知しました。」

 

提督の籠る司令室は艦橋とは別にの場所に設計されていた。これは艦にバグスの侵入を許した際の対策である。最重要な区画を艦橋から司令室に切り替えていた。

 

艦載AIと隣接する司令室のみが最重要区画となる。これまでのようにバグスが艦橋を目指し、これを占拠しても艦のコントロールは艦載AIを通じて司令室に引き継がれる筈だった。

 

「コリンズ副長、パイロット達の準備を急がせろ。準備が出来る次第、順次発艦させるんだ。」

 

カース艦長の指示に副長もコリンズ頷く。

 

「了解しました。」

 

このようなやり取りは慣れていない間だけだ。いずれ定型の形が定まり、皆が次の動きを先回りで準備して素早く実行できるようになる。

 

カース艦長は戦場に意識を集中した。この程度の戦力のバグス、スター級の艦隊管制能力では被害を出したかもしれない。しかし〈エーテルリンク〉が稼働したとなれば話は別だ。

 

『ふん、これも楽勝だわ』

 

アイローラ中将の声が艦橋に響く。そして彼らはバグス艦隊を叩きのめした、それもほぼ無傷で。

 

 

 

 

 

光子魚雷(フォトンビート)が射出される。それは〈エーテルリンク〉から放たれるだけではない。スター級の重巡洋艦、プラネット級の軽巡洋艦、サテライト級の駆逐艦、アステロイド級の改造艦、艦隊に所属する全ての軍艦が〈エーテルリンク〉の操作する砲台となる。

 

着弾タイミングをミリ秒単位で同期させた攻撃は、バグスのBG-X型戦列艦に対する飽和攻撃として機能する。敵の防御の限界を超える数の光子魚雷(フォトンビート)が、着弾したBG-X型戦列艦の質量を削り取る。

 

それは優れた艦載AIの能力こそが可能にする光子魚雷(フォトンビート)の射撃統制だった。スター級重巡洋艦以上の艦種なら似た事が可能だ。だが、艦載AIの処理性能が低いアステロイド級の処理を一部代行までは不可能だろう。そしてこの規模の艦隊の射撃を統制するのは、ギャラクシー級を超えるエーテルリンク級の艦載AIでなければ成し遂げられない。数的有利による圧倒的破壊力を人類は再び手にしていた。

 

「バグスのBG-X型戦列艦は、全て完全に沈黙しました。」

 

艦載AIの声に艦橋にどっと歓声が沸く。飽和攻撃に巻き込まれまいとバグスの巡洋艦は逃げ惑っていた。久方ぶりの完全な勝利の予感に艦隊のほぼ全員が浮かれていた。

 

『残りはBG-I型巡洋艦ばかりね。戦術プランに沿って各自攻撃を開始しなさい。』

 

ここからはより威力を抑えた攻撃となる。光子魚雷(フォトンビート)とて無尽蔵ではない。バグスのBG-X型戦列艦を相手取るのに飽和攻撃が必要だからこそ、濫用は出来ない。

 

それに各艦の乗員の錬成も必要である。既に戦術の骨子はアイローラ中将と艦載AIのエーテルリンク少佐で作成済みである。着実に実行するだけなら、まず不安はなかった。

 

「それでは開始なさい!」

 

復讐に燃える人類の艦艇は、隊形を崩すと一斉にバグスの艦隊に襲いかかった。

 

 

 

 

 

一時間足らずで人類はワープアウトした全てのバグス艦を撃破した。

 

「・・・喪失した戦力は連絡艇(シャトル)が一機です。また軽微な被弾が本艦に見られます。」

 

〈エーテルリンク〉は一発だけバグスの攻撃を喰らっていた。それは迎撃に出た連絡艇(シャトル)のパイロットが指示に従わなかった為である。

 

「何をやっているんだ。指示に従わないパイロットは帰投次第に即時拘束しろ。」

 

コリンズ副長の指示が飛ぶ。艦隊が機能する為には、エーテルリンクの指示を受けた個々人が完璧に実行する必要がある。逸脱は許されなかった。一発の命中弾とは言え、それが人類の運命を変える可能性もあるのだ。

 

「申し訳ありません、艦長」

 

項垂れるコリンズ副長にカース艦長は敢えて明るい声をかけた。

 

「これは指示に従わないパイロットの問題だろう?それに副長は寄り合い所帯のこの艦をよくまとめてくれている。君の力無くしては今回の勝利には結びつかないさ。」

 

言いながらカース艦長はパイロットの経歴にざっと目を通した。

 

(おっと、このパイロットは以前は〈テオ〉に乗り組んでいたのか。)

 

「当該パイロットの処遇は、いかがいたしましょうか。」

 

コリンズ副長に促され、今回の問題行動を読み返す。このパイロットは〈エーテルリンク〉への命中弾を自機を盾にする事で防ぐように指示されていた。損失したもう一機の連絡艇(シャトル)と同じ指示内容である。命令に従って死ねるか死ねないか、その違いが英雄と拘束者の違いである。

 

「・・・任務に耐えると判断されるまで問題のパイロットは拘禁して再教育としよう。任せたぞ、副長。」

 

「了解しました、艦長。」

 

カース艦長は再びパイロットの資料に目を落とした。結局のところ、このパイロットは盾として死ねという指示に従わなかっただけだ。

 

空母〈エーテルリンク〉を残す為には、他のどの艦を犠牲にしても良いとされている。連絡艇(シャトル)で済むのなら安い買い物だとカース艦長でさえ思う。

 

しかし当人にとっては、それは自身のかけがえの無い命に相違ない。多くの人命を危険に晒した規律違反と言っても、敵の命中弾への対処に自らの命を投げ出す行為に逡巡した上での不服従である。世が世なら罪に問われるのはどちらだろうか。少なくとも『命を投げ出せ』と要求した側が、指示に従わないからと過酷な罰を与えるのはカース艦長には馴染まなかった。

 

(問題のパイロットの名前は、ホーク中尉か)

 

圧倒的な勝利に湧いている艦内で、キャプテンシートに座ったままのカース艦長はこの問題を一人考え込んでいた。

 

コリンズ副長に一任した以上、カース艦長は再教育に関わるつもりはない。しかしパイロットのリストに目を通す時、誰が当事者かは把握する必要があった。

 

(ホーク中尉は、ただ自身の生存本能に従っただけではあるのだがな。)

 

カース艦長は将兵に特攻を強いる現政権のあり方に、内心では危惧を覚えずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

〈イーリス・コンラート〉の再建計画は順調に進行していた。リアをはじめとした人類スターヴェイク帝国の主要人物には情報を公開している。

 

流石に宇宙という単語は出していないが、この大陸の人類にとって未到の場所に戻るための船を準備するという意図は伝えていた。

 

「アラン様、お忙しい所を失礼します。」

 

そんな中、宰相府での会議に呼び出されていたのはカトルを筆頭に帰還兵問題を話し合うためだった。

 

大陸を統一した以上、余剰兵力が生じる。それは人類スターヴェイク帝国よりも、会盟(アライアンス)入りした他国の方が顕著である。

 

各国の兵力は段階的に削減し、その人員は民間に戻して国力を回復させなければならない。開拓地の多い人類スターヴェイク帝国であれば、開拓民にすれば事足りるのだが他国の帰還兵には当て嵌めずらい。

 

無策のまま各国に委ねれば、社会情勢の不安を招きかねない。実行可能な策を立案して、モデルケースを幾つか用意する必要があった。

 

「開拓、鉄道や橋や道路の建設。一般の兵士であればこれらの公共政策のいずれかに従事させておけば宜しいかと思います。問題は、古参兵です。特に伍長や軍曹といった階級の優秀な人材に優遇措置を考えられないかと。」

 

大陸統一の戦争はほぼ終わっている。そして流石にこの数年以内にバグスがこの惑星を訪れる可能性はそこまで高くはない。つまり会盟(アライアンス)の軍勢を再招集する可能性は高くないのだ。ただ、制度上での備えは必要である。単純に開拓地や未開地での工事は首都から遠くなる。民間に戻しつつも、首都に異変があれば招集に応じられる距離感が好ましい。

 

まとまった数の帰還兵を各国の首都に留めることは、都市化を推進すると共に緊急時の募兵を容易にする筈だった。

 

「帰還兵には、各国の首都で馬車の御者をやらせてはどうだろうか。御者を務めるのは許可制にすれば良い。」

 

俺の提案は早速反対を受けた。

 

「流石に馬車となると未だに民間の輸送の主力です。都市の周辺からも流れこむので、全ての御者を管理しきれないかと。」

 

候補生から昇進したイサオム少尉がそう懸念する。

 

「今の馬車は全て四輪馬車の筈だ。二輪馬車は見た事がない。新たに二輪馬車を大量に用意して、そちらを帰還兵に占有させよう。」

 

「二輪馬車でありますか?」

 

怪訝そうなイサオム少尉の反応を見るに、イメージは出来ても意図を図りかねているのだろう。

 

「一頭立ての二輪の馬車を用意するんだ。アレス市内でも急いで移動したい人は多いだろう。そういう人間に馬車を時間貸しする。二頭立て六人乗りの馬車に比べて省スペースになるからすり抜けやすくなるはずだ。」

 

紙と鉛筆を取り上げると、サラサラとイラストを描き上げる。二輪馬車は古代の戦車のような構造だ。御者は客席の後部に立ち乗りさせる。客席は大柄な男性なら二名並んで悠々座れるサイズ、小柄な少年や女性なら三名並べるサイズを基準とする。

 

「鉄道の駅から目的地迄馬車を使って移動するんだ。馬に乗るのは技術が必要だが、馬車なら誰もが乗れる。」

 

「アラン様、これは凄いですね!」

 

俺が描きあげたイラストを眺めてカトルが感嘆の声を上げる。移動が多い彼は二輪馬車の優位性に気がついたようだ。この大陸における出張族の走りのようなカトルには、トランク一つで飛び乗って軽快に動き回れる二輪馬車は使い易い足になると理解されたようだ。

 

「しかし、どうやって時間貸しをするのでしょう?」

 

「魔道具で管理すればいい、タクシーのメーターなら俺が作れるだろう。」

 

「タクシー?」

 

「タクシーは時間貸しの馬車って意味さ。」

 

タクシーメーターのイラストも描き上げる。今の俺ならば組み立て上げる自信はある。タクシーのメーターは、わかり易い料金表示の例になるだろう。

 

「馬の数が半分て事は、人件費以外の経費も半分みたいな話だ。四輪馬車より多く用意出来て安く運用できる話になる。当然、料金も安くなるから庶民でも乗りやすい。」

 

「そのタクシーのメーターはオプションにして、会盟(アライアンス)加盟国は市内なら一律料金でも良さそうですね。」

 

早速カトルが乗ってきたようだ。

 

「退役した古参兵を御者にする政策をとれば、首都に頼りになる人員を配置する事になる。兵士なら馬の世話に慣れた者も多いだろうしな。馬車や馬を調達する資金を各国政府が用意すれば帰還兵への優遇策になるだろう。」

 

「良さそうですね。」

 

皆で満足そうにタクシー計画を眺めた。

 

 

 

 

 

「アランはタクシーというものを考案したそうね、エルナとの賭けに負けてしまったわ。」

 

アレスに滞在する妻達を交えた夕食の席である。特にエルナはコリントス滞在が任務なのだが、転送門を自由に使えるという事でこちらに戻る機会が増えていた。

 

「私もアランが考えるのは食事関係だと思っていたんですよ。でもリア様がそちらを選ばれたので、それ以外の策をアランが思いつく方に賭けたのです。」

 

ナイフとフォークを皿の上で走らせながらエルナが言う。

 

「食事関係というと、屋台のような?でもそんなものはありふれているだろう。」

 

屋台飯にはこの惑星ならではの美味い食事が多い。特にブルーフロッグの串焼きなどは絶品だった。

 

「アランの料理は特別だわ。レシピを教えるだけでも、流行る飲食店を幾つも作れるでしょう。」

 

リアがうっとりと言う。今夜の献立も地球料理である。血の滴るようなステーキは妊婦には良くないだろうと、クリームシチューをパイ包みにしたのだ。これがえらく好評で、リアは早くもおかわりを頼んでいた。

 

「しかし、あまり手間がかかるようなものを教えるのもな。」

 

「アランなら手間をかけずに美味しい料理を考えつくでしょう。」

 

さらりとエルナが言う。要は、アレスの屋台で食べたい物を俺が考えれば良いらしい。二輪馬車は四輪馬車よりも低コストとはいえ、馬の調達が大変である。代案があっても良いかもしれない。

 

「考えてみよう。」

 

「やった」

 

リアとエルナは手を取り合って喜んでいる。きっと、彼女達は何か新メニューを食べたいとそう考えていたのだろう。

 

「リア様に夜の回数をお譲りいただきましたが、こうしてみると我々二人の勝利ですね。」

 

この二人はそんな物を賭けの題材にしていたのか。

 

 

 

 

 

翌朝の朝食、妻達の食事は俺が早起きした直々に用意した。

 

「アラン、おはよう!これは何?」

 

朝食の席で、皿の上で紙に包まれた食品にリアの目が釘付けになる。

 

「これはハンバーガーだ。ひき肉で固めたハンバーグを専用のパンで挟んだものだ。サンドイッチに似ているが、別な料理とされている。」

 

「良い匂いがするわね。」

 

「基本は肉なんだが、魚の切り身を揚げた物を挟んだフィッシュバーガーもう用意した。こちらはマヨネーズを使っているから、サンドイッチが好きならこちらの方が良いかもしれない。」

 

「魚とマヨネーズですか。」

 

エルナの目が光った。

 

「では私はフィッシュバーガーにします。」

 

「私は最近あまり食べていないから、アランと同じハンバーガーにするわ。」

 

リアとエルナの好みのバーガーを皿に取り分ける。本当は妊娠中のリアが魚の方が良いだろうとフィッシュバーガーを用意したのだが、最近食べられなかっただけにリアは肉に惹かれてしまったようだ。

 

「ナイフとフォークを使って食べることも出来るが、俺は紙を向いて齧り付く方が好きだな。」

 

包み紙を開いて、ハンバーガーに齧り付く。溢れ出る肉汁が口の中に広がってくる。美味い。全ての具材が混然となりながら肉が主役と強調してくる。これは一個じゃ足りないな。

 

リアとエルナは作法通りナイフとフォークで食べるようだ。野営中ならまだしも、王宮ではテーブルマナーを逸脱しないのが育ちの良さと言うものなのだろう。

 

「美味しいわね。」

 

一口食べてリアが目を丸くする。

 

「こらちのフィッシュバーガーも絶品です。アランは実に良い仕事をしました。」

 

エルナももうフィッシュバーガーに夢中だ。口の端に微かについたマヨネーズを上品にナプキンで拭き取っている。

 

「付け合わせに、ポトを細長く刻んで油で揚げた物を用意してある。塩だけでもいいが、ハンバーグに使ったソースで食べても美味い筈だ。」

 

山盛りに用意したフライドポテトもすぐに消化された。

 

「アラン、これは屋台で出すには贅沢すぎるわ。」

 

「そうです、この料理は宮殿の秘蔵メニューにしましょう。」

 

リアもエルナもハンバーガーを絶賛していた。しかし、屋台向きではないという指摘には参ったな。歩きながら食べられると思ったのだが、確かに肉を焼いたり魚を揚げるのに手間がかかる。数をこなす屋台飯には向かないかもしれない。

 

「そうだな、秘蔵メニューにするかはともかく屋台用には別の料理を考えよう。」

 

「やったわ、明日の朝もアランの手料理ね。」

 

リアが素直に喜ぶ。

 

「あっさりしたものに出来ないかもしれないが、その、リアは妊娠中でも大丈夫なのかい?」

 

「気にしないで。アランの食べ物はどれも美味しいもの。」

 

リアは今のところ食欲に変化はないらしい。ならば地球の屋台の定番といった料理でも、食べてもらえるのかもしれないな。

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