【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅳ 対バクス戦争の終結 89話 【帰還篇③】 収容

Ⅳ 対バクス戦争の終結 89話 【帰還篇③】 収容

 

「サテライト級駆逐艦〈パイオーン〉の超光速(FTL)通信を経由して、アデル政府からの指示が来ました。」

 

バグス相手に勝利して艦内が喜びに沸いたのも束の間、艦橋に引き上げた俺とセリーナにイーリスがそう声をかける。嫌な予感を覚えながらも、俺は喉から声を絞り出した。

 

「そうか。なんと言ってきた?」

 

「大丈夫です。艦長が不在時の艦橋の責任者として、私が予め内容を確認しています。」

 

シャロンが俺にそう声を掛けてくれる。アデル政府からの指示は、何か致命的な拘束を俺に及ぼしかねない。命令に逆らうつもりはないが、意図して尉官の地位に留めたセリーナとシャロンが予め指示内容を確認する手順にしていた。

 

未だ佐官でない彼女達は、上級士官に対する洗脳を施されていない。俺に何かあれば艦長職をどちらかが引き継ぐ事になるが、それまでは自己の判断で制約なく動ける。クローンである彼女達には、自身の身に危険が及ぶ可能性もある。クローンに対する迫害のような危険を察知する為にも、これは必要な措置だと確信していた。

 

「『アラン・コリント准将の〈イーリス・コンラート〉に対する指揮権を認める。定められた軍事法廷については、コリント艦長のアサポート星系到着時に開廷する物とする。なお出廷よりバグスに対し必要と思われる対処が優先される。』との事です。」

 

俺は息を吐いた。この内容なら問題ない、むしろ上出来と言える。軍事法廷の開催は回避できないが、こればかりは仕方がないだろう。バグスに対応し続ければ、かなりの延期も認められるように読める。

 

「艦長の地位追認に加え、本星系内の人類銀河帝国の艦艇への指揮権を認めるとの事です。」

 

イーリスがそう付け加えた。

 

「きっとアランの力が無いと、バグスに対して不利だと考えているんだわ。」

 

シャロンの漏らしたその言葉に、セリーナとイーリスも頷いていた。人類側が劣勢なら、使える戦力を使ってまずは戦線を立て直そうというのは順当な所なのだろう。それならこちらにも考えがある。

 

「それでは、どうしますか?」

 

イーリスのその問いかけに、俺は自信を持って答えた。

 

「戦術画面を通じて、この星系のサテライト級の艦長達と話してみよう。彼らが同意すれば、サテライト級を本艦に収容しアサポート星系に転移する。」

 

「いきなり、アサポート星系に行くのですか?」

 

セリーナが驚いた声を挙げた。シャロンも同意見のようだ。

 

「シャロンの見立て通りなら、アデル政府は我々の協力が必要なはずだ。バグスが優勢でこちらの詳細も不明な今なら、アデル政府から有利な条件を引き出せるんじゃないか。」

 

そう言いながら俺は、惑星アレスの統一や結婚を経てすっかり自分が変わってしまった事に気がつく。以前の航宙軍中尉だった頃の俺なら、雲の上の存在であるアデル政府の決定に疑念を抱く事は決してしなかった筈だ。

 

しかし今の俺には妻達に対する責任がある。少なくとも惑星アレスの運命はこの決断にかかっているし、バグスに対する人類の戦況にまで影響を及ぼすらしい。それなら保身に専念するよりは、良い条件を引き出す為に努力するのが妥当だろう。この文面を見る限り、送り主には配慮があるように見える。アデル政府から別の担当が出てくる前に、話を進めてしまう方が良いように思えた。

 

「そういう事なら、了解しました。もしスムーズに解決がつくのなら、バグスとの戦いに専念出来るわ。」

 

「しかし、軍事法廷への出廷は俎板の上の鯉となりかねません。」

 

「その時は、私達がなんとかするわ。」

 

「そう、夫の窮地を救うのは妻の権利よ。」

 

セリーナとシャロンが熱意を見せる。いざとなれば力づくでなんとか出来ると、そう考えているのだろう。

 

「まずは穏やかに話し合いで解決がつくと考えよう。バグスの攻勢を前に、人類同士がそうそう歪み合う事にはならないだろう。」

 

 

 

 

 

彼らは驚きの目で〈イーリス・コンラート〉の戦闘を見守っていた。

 

それは艦長同士が連携する為のリアルタイム通話可能な近傍宙域用の回線の中である。

 

「どうやったら、あんな芸当が出来るのです。」

 

〈アイトーロス〉のクリシュナ艦長がため息を漏らす。彼らの見ている目の前で、〈イーリス・コンラート〉を名乗る巨大な天体は瞬時にワープポイント近傍まで瞬時に移動して見せたのだ。

 

「BG-X型戦列艦を一撃で屠る攻撃も、どこから発射されているかまるで見当がつかない。」

 

「戦い方がまるで違うな。とても修復艦とは思えん。」

 

クリシュナ艦長の独白に、シェアリング艦長はそう応じた。各艦の艦載AIはそれぞれ戦況を超光速(FTL)通信でアデル政府へと伝達している。〈イーリス・コンラート〉の能力を正しく観測する事は、彼らの報告者としての責務だった。

 

「新生〈イーリス・コンラート〉にも、必ず弱点はあるはずです。コリント艦長は単独の生存者と聞きました。接収した惑星で多少は乗組員(クルー)を増やせたにしても、人員に限界がある筈。」

 

それまでじっと戦闘を観察していた〈エペイオス〉のサリダ艦長がそう口を挟んだ。

 

「とすると、乗組員(クルー)代わりの艦載AIが弱みかもしれませんね。」

 

「その点はどうだろうか。正直、艦載AIの機能に問題があるように見えないな。」

 

艦載AIの助けは前提としても、だ。〈イーリス・コンラート〉に人が不足していると感じさせる要素はない。

 

「最新のギャラクシー級の演算性能が凄いのでしょう。しかし宙兵隊までは用意出来ないのでは。」

 

シェアリング艦長もクリシュナ艦長の指摘は正しいと感じる。巨体故に騙されそうになるが、中にあるのは大破したギャラクシー級なのだ。中枢まで入られれば、人員の不足しているであろう〈イーリス・コンラート〉は圧倒的な数のバグスの前に無力になってしまうのではないか。

 

「それだ。アデル政府への送信を託された要約版の報告では、パルスライフルを片手に国々を従えたと読める。パルスライフルで制圧できる騎士達が、バグス相手に役に立つのかな。」

 

「バグスの装甲虫兵にパルスライフルが効かないのは有名な事実です。効果的な火器があるにせよ、コリント艦長単独での対処には限界があるでしょう。」

 

そう指摘するサリダ艦長に、クリシュナ艦長が応えた。

 

「我々は〈イーリス・コンラート〉がこのままバグスに勝利すると信じましょう。しかし、それが不可能だった最悪の事態に備えしょう。」

 

彼女の目には、〈イーリス・コンラート〉が撃破したバグス艦から飛び出し、開口部から内部へと潜入していくバグスの群れが映し出されていた。

 

 

 

 

 

しかし彼らの悪い予想を裏切るように、アラン・コリント艦長はバグスに対して完全勝利をしてみせた。ラーダ星系内のバグス艦艇は全て完全に破壊された。惑星アンネットへも軌道爆撃が敢行される。現在、星系内の99%のバグスは駆除されていた。

 

〈パイオーン〉にコリント艦長からの通信が入る。それは超光速(FTL)通信で届いたアデル政府の指示を届けた事に対してのリアクションだった。

 

『アデル政府には『指示を受領した』と受領確認を送って下さい。』

 

「承知いたしました。しかしバクスが内部に突入したようですが、そちらは大丈夫だったのですか?」

 

シェアリング艦長は連絡してきたコリント艦長に慎重な口ぶりで尋ねた。彼ら小艦隊の命が、いや人類全体がバグスに勝てるかどうかもラーダ星系のバグス艦隊を殲滅して見せたこの男にかかっているのだ。

 

アラン・コリント艦長はシェアリング艦長の問いかけに穏やかな声色で応えた。

 

『ええ。港湾部で全て迎撃しました。内部には侵入させていませんよ。』

 

その口調には疑念を感じさせる余地がまるでなかった。本当に彼の言葉通り、バグスの侵入を阻止してみせたのだろう。

 

「それは凄い・・・。」

 

バグスはこのところより狡猾で頑強になっている。内部構造が知られているサテライト級やスター級は、侵入は即敗北を意味するほどなのだ。

 

『以後のことは、艦長を集めて会議を開催します。すぐにでも開始したい。シェアリング艦長には、他の艦長の参加の取りまとめをお願いします。』

 

アデル政府がコリント艦長に彼ら小艦隊を委ねる決定をしたのは既に連絡を受けていた。となるとシェアリング艦長は部下としてコリント艦長に注意しておかなくてはならないだろう。

 

「承知しました。ところでコリント艦長、我らは既に貴官の指揮下に入るよう指示を受けています。以後は遠慮はご無用に願います。我らは部下となったのです。呼び捨てで構いません。」

 

『了解した、口調を改めよう。それでは会議の取りまとめをよろしく頼む、シェアリング艦長。』

 

コリント艦長が通信を終了する。その外見はギャラクシー級の艦長としてさえ不釣り合いな程の青二才にしか見えない。しかしその自信を秘めた口調は、惑星を征服した実力を証明するかのようにごく自然な口調だった。

 

(人類は、彼が本物の英雄であることを祈るしかないか)

 

そう小さく呟くと、シェアリング艦長は僚艦の艦長に〈イーリス・コンラート〉参加を促す連絡を行った。

 

 

 

 

 

『こちらは全員揃いました。』

 

仮想上の会議室には、合流したラーダ星系駐留のサテライト級駆逐艦三隻の艦長が揃っていた。率先して挨拶をしたのは、先任指揮官で〈パイオーン〉シェアリング艦長だ。

 

〈エペイオス〉のサリダ艦長、〈アイトーロス〉のクリシュナ艦長も同席している。こちらからは艦長である俺と艦載AIであるイーリスが参加している。

 

「まず、諸君の合流を歓迎したい。アデル政府からの指示にある通り、私の指揮官としての地位はアデル政府に追認された。本星系に駐留の艦隊は我々に合流する事となった。諸君は私の指揮下に入ることになる。準備が整い次第、我々はアサポート星系に向かう予定だ。」

 

俺の言葉に、意外にも三名の艦長達は顔を曇らせた。

 

「・・・どうした、何か問題があるかな?」

 

『お言葉を返すようで恐縮ですが、我々はお供できそうにありません。兵装、食料、燃料、それら全てが著しく不足しています。』

 

代表してシェアリング艦長がそう答える。俺はイーリスが仮想表示する資料にざっと目を走らせた。こちらの指揮下に入った以上、各艦の艦載AIはイーリスの欲求するままに艦内の情報を提供してくれる。

 

こうして確認して見ると、この艦隊の消耗具合は危機的だった。戦闘と逃亡を繰り返しながらロクな補給も無しでいるのだ。万全でないとわかってはいたが、これはひどい。フルに加速して速度を維持して星系内を逃げ回っていた。食料も・・・再生食か。被害の復旧もまともに行えていない。高速を維持すると、船外活動が危険すぎるのだ。そうやって彼らは補給無しに情報を政府に送り続けるのに尽力してきた訳で、今まで艦隊として運行していたのは奇跡に近い。

 

「状況は了解した。諸君は本艦に収容し、適切な補給と治療を行う。艦の修復箇所があれば、補修用の資材は提供しよう。何か質問は?」

 

『食糧補給、その内容はどうなるのでしょうか?』

 

勢い込んでサリダ艦長が尋ねる。彼女の顔色は良くないし、その顔には実年齢以上の皺が深く刻まれていた。疲労や心労が蓄積しているのだろうが、そもそも栄養が足りているように見えない。青白い顔を見るに、まともに日光浴なども出来ていないだろう。

 

「食料に関しては本艦には充分な余裕がある。惑星アレスの産物だが、人類銀河帝国にも輸出可能な水準と自負している。新鮮な水も酒も期待してくれていい。」

 

食事の提供と聞いて全員が目を輝かせた。今改めて振り返ると惑星アレスは食料が豊富だった。食に関しては、あまり苦労した記憶がないな。だからこそ、苦労したであろう彼らには報いたい。彼らも今は正式にこの俺の部下となったのだから。食事などごく当たり前の事柄については我慢をさせる気はなかった。

 

ただ費用としては実際は艦隊本部に請求できるのだろうが、こちらの持ち出しになる気がする。兵站の問題一つとっても、今は人類銀河帝国との交渉が山積みだ。この辺りの折衝は今後は誰かに任せたい所だ。

 

『それでは補修資材はどのような内容になりますか?』

 

クリシュナ艦長が尋ねる。彼女は色黒なので顔色は判別し難いが、彼女もまた尋常ではなく痩せていた。骨と皮ばかりにさえ見える。栄養状態はかなり良くないのだろう。宙兵の栄養状態も同程度に悪いなら、バグスを相手に勝利など覚束ないだろうな。

 

「補修部品に関しては精製した金属としては必要なだけ提供できる。ただ、先端部品はこちらでも全く持ち合わせはない。本艦が超光速(FTL) 通信装置を欠いており、君たちの通信装置に頼っているのは知っての通りだ。作業自体は各艦の人員と作業ボッド次第だが、本艦の艦載AIであるイーリスが支援すれば作業の進捗に問題ない筈だ。簡単な部品は製造も可能だろう。」

 

『しかし修復作業を終えてからとなると、やはり移動開始まで時間がかかるでしょう。』

 

シェアリング艦長が意見を述べる。彼の艦は特に修復すべき被害がないようだが、他の艦も代表しての意見なのだろう。

 

「その点は安心して欲しい。サテライト級は全て本艦に収容しよう。空間はいくらでもある。修復を担当しない乗組員(クルー)には休暇を与えてもいい。日程的にも数日間の完全休息は可能だろう。」

 

『待って下さい。サテライト級三隻を収容、ですか。』

 

艦長達は目を丸くしていた。新しくエーテル級という空母が新造されたと聞いていたが、流石にサテライト級を収容するようなサイズではないのか。

 

「本艦はちょっとした惑星並みの環境を整えてある。実際に見てもらう方が理解が早いだろう。イーリス大尉。」

 

「了解しました。」

 

俺の言葉と共にイーリスが艦内の概要を仮想表示させる。艦長達が息を呑む音が画面越しにも伝わってきた。

 

『そちらの内部がこれほど広大とは・・・。』

 

「陸も海も天然だ。惑星から切り出す形で徴用した。もちろん無人地帯に位置していた物なので人類社会に与える影響は最小限になるように配慮したし、鉱物資源の小惑星から同体積を切り出して代わりの物質を補填してある。」

 

俺の説明にサリダ艦長がポカンと口を開けて驚いている。人類銀河帝国の常識において、こんな発言は狂人の戯言に聞こえるのだろう。しかしバグスを殲滅した事実を目の当たりにしただけに、荒唐無稽と断じる事もできないのだろう。

 

「だから惑星に与えた影響は最小限のはずだ。人工太陽の照射だが、日光も普通の惑星表面とそう変わらない筈だ。敵対的だったり毒のある生物もいる。ナノム注入者が武装してあれば特に対処には困らないだろうが、適当なサイズの島を用意させよう。その方が危機に対処し易く、バカンスを兼ねて落ち着けるだろう。」

 

『バガンス、ですか。いやはや参ったな。』

 

シェアリング艦長が呆然としていた。俺は敢えて厳しい口調で伝える。

 

「君達は無条件で休みを与えられ、回復に専念して然るべきだ。海が嫌いなら山でもいいが。仕事をせずに疲労を回復させる時間を君たち自身や乗組員(クルー)に与えたまえ。」

 

『あ、いえ。まさか再びバカンスを提案してくれる上司に巡り会えるとは考えなかったものですから。』

 

『バカンスも良いのですが、この星系の住民はどうなるのでしょうか。』

 

クリシュナ艦長が心中懐いていたであろう懸念をそう言って切り出した。

 

「少し時間はかかる。が、全て収容しよう。」

 

『全て、ですが?生存者が何万人いるか分かりませんよ?連絡艇(シャトル)上陸艇(エアシップ)を何万何千回往復させなければならないか。』

 

俺はイーリスの示す概算計画を確認した。

 

「大丈夫だ。イーリスが組んだ計画を遵守すれば、三日後には移動を開始できるだろう。」

 

 

 

 

 

惑星アンネットの住民の保護について星系政府は全面的に同意した。この星系はバグスの集結宙域とされていた。そんな場所に航宙軍の守りも無しに放り出されるのは、死を意味するも同義なのだ。

 

サテライト級を全て収容した後、〈イーリス・コンラート〉の慣性を惑星アンネットの地表と完全に同期させる。自転する巨大な天体の各地に転送門を開き、別の天体に瞬時に移動させるのだ。最大限上手くやれば、疾走する列車から並走する別の列車に飛び移るように上手く出来る。しかしそれは空気の抵抗を排除し、障害物が無いことを確認しておくのならできるという話だ。それらの難題をきっちり制御してみせた艦載AIイーリスの能力は並ではなかった。これも人類銀河帝国の普通の艦載AIでは不可能な仕事だろう。

 

転送門を潜る際は、流石に多少の衝撃がある。健康な大人でもよろめき、子供だと倒れかねない衝撃。ただ、外部に放り出される事にはならない。側にいる宙兵隊員がうまく支えて補助すれば十分だろう。慣れて仕舞えば、連絡艇(シャトル)に乗り込んでの避難と変わらない。違いがあるとすれば、戸口を潜ればすぐに目的地に到着する点だろうか。

 

「流石に、予定した時間からの短縮は不可能でした。」

 

イーリスが少し申し訳なさそうに報告をしてくれる。

 

「惑星内の500箇所に転送門の開設か。公共輸送機関が生きているなら、惑星住民の移動先としてはそこまで不可能な数字じゃない。焦るような話ではないさ。」

 

惑星アンネットの住民は35万人も残っていた。本来の人口は100万人を超えていた筈だが、バグスの標的とされた惑星でこれほどの人口が生存しているのも珍しい。

 

「やはりバグスからは一種の食糧庫、として認識されていたようです。それもあって都市単位での移転は断念しました。」

 

列島を移動させる技術を用いれば、既存の都市の一つや二つを移転できたかもしれない。しかし惑星アレスの生物相に与える影響が読めなかったし、魔素の安定供給が優先される。準備時間も不足していた。汚染の程度も読めなかった。それに惑星に都市が残される方が、いずれバグスを駆逐して惑星に戻る励みにもなるだろう。

 

「バグス艦隊の集結予定宙域か。同様の惑星がまだあるのかもしれないな。」

 

〈イーリス・コンラート〉にはまだ超光速(FTL) 通信装置はない。この為、他の人類銀河帝国の情勢は限定的にしか伝わらない。全てはアサポート星系でアデル政府と対話してみてとなる筈だが、人類全体の戦況について嫌な予感はしていた。

 

それに艦隊や難民の食料の供給が必要である。今は積み込みの食料でなんとかなるが、アデル政府に支援して貰えないなら惑星アレスに引き返す必要があるだろう。

 

「避難民用の食料に関しては問題ないな?」

 

食料については長期航行を想定して多めに積んである。〈イーリス・コンラート〉に実装した機能の全てが順調な今、避難民に与えても1ヶ月程度は問題がない筈だった。

 

「ええ、検疫をすませた者から食事の提供を開始しています。その支度には開拓民と宙兵が総出となりましたが。」

 

「そうか。本艦の開拓民も、まさかこんな展開が来るとは予想外だったろうな。」

 

 

 

 

 

 

「皆さんにお話があります。」

 

惑星アンネットの住民を艦内に受け入れると決定したその日、開拓民の代表を集めたカーヤ中尉は満面の笑みでこう告げた。

 

「開拓民の皆様には、とある土地の難民を引き受けて頂くことになりました。あ、これは一時的な事です。」

 

開拓民一同は露骨に嫌な顔をした。田畑の開墾が終わり、魔物の対処も確立して開拓地ではようやく生活が軌道に乗った。ささやかな日々の糧を得る幸福な暮らしを実現した所なのだ。最近は豊富な魚介類を確保すべく海への進出を図っている。製塩も開始していた。人が増えれば、快適な暮らしが少なからず混乱するだろう。

 

「こちらに受け入れるメリットはあるのか?」

 

代表して取りまとめ役のハブがズバリ問うた。彼は管理する側であるが、開拓民の監視役でもある。余計な仕事を増やされるのは嫌だった。

 

「コリント卿の祖国、という訳ではないですが・・・庇護すべき地域の人々です。コリント卿に恩を売るこれは大きなチャンスですよ。」

 

ハブは押し黙った。『頼りないな、コイツ』とジノヴァッツは考える。もう少し質問の仕方や話しの持っていき方というものがあるだろう。

 

「罰が確定している我らには、さしたる利益がないようだが。」

 

ジノヴァッツと似た感想を抱いたのだろう。それまで控えていたバルスペロウが口を出す。

 

「難民を受け入れる決定をすれば、難民受け入れた期間に関わりなく刑期を半減させます。」

 

「ふむ。それは検討の余地はあるな。」

 

バルスペロウがあっさりと前言を翻し、チラチラとジノヴァッツを見る。彼ら主犯格の戦犯の刑期は長い。実質的な流刑に等しい。しかし半減させるという事は、以後の譲歩も見込める。話の持っていき方次第だが、早期の帰国も夢でないと見た。

 

特にバルスペロウのような男は、文明と切り離されて生きるのは苦痛なのだろう。ジノヴァッツとて、連れて来た美女達と乳繰り合うだけで終わるつもりもない。

 

「早期の帰国が叶うなら、迷う必要もないでしょう!」

 

カレイド卿の副官だったミューレル士爵が熱を帯びて発言している。カレイド卿の元に帰れるのなら、この男はなんだってするだろう。反対すれば面倒になるのは明らかだったし、そもそも反対する理由もなかった。そう判断し、ついにジノヴァッツも口を挟んだ。

 

「良かろう。難民を受け入れてやる。だがトラブルはそちらにも責任を負ってもらうし、難民に分け与える食料はないぞ。必要な品は、そちらで用意はしてもらおう。」

 

カーヤ中尉は笑顔のままジノヴァッツを向き直り、頷く。

 

「それで大丈夫です。この件は私が責任者ですので、今後ともよろしくお願いしますね。」

 

 

 

 

 

〈エーテルリンク〉では、アイローラ提督の脱走が判明していた。女性士官がアイローラ提督の食事を拘束室に運び、提督の姿がどこにも無いことに気がついたのだ。脱走の報告を受けた〈エーテルリンク〉の首脳陣は驚き慌てた。すぐさま艦内に緘口令が敷かれる。アサポート星系の艦隊内に情報を拡散されでもしたら、艦隊に対する彼らの指導力を疑われかねない事態だった。

 

乗組員(クルー)には一切の事情を伏せて捜索が始まった。この時、情報を公開していれば『カース艦長が拘束室付近にいた』と、そう証言する者が出たかもしれなかった。

 

しかし初手で情報の隠匿を決めた事で、カース艦長が女性士官を連れ歩いていたのは日時の定まらぬ曖昧な記憶と化していった。こうなれば、アイローラ提督の失踪とカース艦長を結びつけて考える者もいないだろう。

 

「艦載AIには何の記録も残されていません。通常では考えられない事態です。政府直属のエージェントでもなければ、こんな事はできません。」

 

コリンズ副長の生え抜きの部下のシスコ大尉が断言する。『艦載AIの操作にかけては右に出る者がいない』という触れ込み男だった。カース艦長は、ただ黙って彼らのやり取りをを見守っていた。彼が艦載AIであるエーテルリンク少佐に指示しない限り、証拠は出てこない仕組みだとかつての部下のサーラ艦長から聞いていた。どうやらサーラ艦長の方が、この情報部の専門家よりは腕が良さそうだった。

 

「拘束室のセンサーが、アイローラ提督が床に脱ぎ捨てた制服の落下を記録していました。」

 

「制服を脱ぎ捨てた時刻に、何かあったと見るべきか。」

 

その時刻は共通時間で午前8時とカース艦長が訪れる3時間ほど前である。アイローラ提督のお色気作戦により、期せずして自身のアリバイの成立したカース艦長は密かに胸を撫で下ろした。今のところ、脱走に手を貸した事実は露見しそうにない。

 

「アイローラ提督は普段は床に脱ぎ捨てる事はしないでしょう。敢えてそれをしたという事は、何者かに着替える事を強要されたのでは?」

 

コリンズ副長がその聡明さを駆使して、やや的外れな予測を立てる。彼に限らず普段AIに頼り切りなだけに、艦載AIを当てに出来ない今回のような状況には慣れていないのだ。

 

「まさか元首が政府のエージェントを送り込んだというのか。彼らの光学迷彩なら監視カメラに記録されない。それなら、アイローラ提督が制服を脱いで放置したのも説明がつくな。」

 

チートス特使もコリンズ副長に乗っかった。航宙軍の多数を影響下においても、手を出せない領域がある。元首が率いるエージェントはその類だった。元首の凄腕エージェントの話も光学迷彩の話も、これまで噂ですら全く聞いたことの無いカース艦長が彼らに提案する。

 

「いずれにせよ、艦載AIは艦内のアイローラ提督を発見出来ていません。となれば〈エーテルリンク〉に予期せぬ訪問者が乗り降りしたタイミングがどこかであった筈です。まずは該当しそうな時刻の連絡艇(シャトル)の発着を調べてはいかがですかな。」

 

この指摘は即座に採用された。そして3時間誤った推定時間帯に沿って犯人探しが始まる。アイローラ提督が実際に拘束室を離れた時間は艦載AIにも記録されていないのだ。

 

これは本来は艦内の夫婦プログラム対象者を同僚から隠匿する機能なのだが、階級が最上位であるアイローラ提督を罪人としてAIが登録できなかった事情も影響していた。それは盲点であり、クーデター側の人々は盲点の存在に全く気がついていなかった。

 

「疑わしい連絡艇(シャトル)を特定しました。到着時に比べて約50Kg増えて離脱しています。」

 

「それだな! 連絡艇(シャトル)の行き先は?」

 

指を鳴らしてチートス特使が問いただす。

 

「エーテル級空母〈エーテルゼルダ〉に到着しています。」

 

「やはり、最後はあの艦に逃げ込んだか。」

 

チートス特使が誤った結論に飛びつく。忌々しい元首は、いつも彼らの前に立ちはだかり邪魔をしていた。となれば元首の息のかかった艦こそ怪しいと見るべきだろう。

 

「こうなれば宙兵隊を送り込み、〈エーテルゼルダ〉を占拠しよう。」

 

チートス特使とコリンズ副長は頷きあった。即座に宙兵隊のニコラス少佐が召喚される。少佐が率いるサイボーグ化された宙兵は、並の宙兵をものともさずに艦の占拠を遂行出来る。ろくに宙兵のいない〈エーテルゼルダ〉の占拠など、それこそ朝飯前に済ませてしまう事も可能だろう。

 

「待て。元首のエージェントは、この艦にまだ潜んでいるのではないか。いずれにせよ、宙兵を全て派遣してしまうのは際どい。それこそ、相手の思う壺かもしれん。」

 

そもそもが彼らは武力でこの艦を制圧したに過ぎない。宙兵が不在になれば、思わぬ形で乗組員(クルー)が抵抗する可能性もあった。

 

「それでは自分と選りすぐりの部下数名で対処しましょう。戻るまで、他の部下の世話は副長にお願いします。十人委員会の皆様も、宙兵の大半が残っていれば安心されるでしょう。」

 

「了解した。」

 

段取り上手なコリンズ副長と宙兵隊のニコラス少佐の間で手早く話がまとまる。

 

上陸艇(エアシップ)の準備が整い次第、出ます。吉報をお待ちください。」

 

自信を込めてニコラス少佐がそう宣言し、チートス特使とコリンズ副長はそんなニコラス少佐を頼もしげに見守った。

 

 

 

 

 

漆黒の宇宙空間を選抜された宙兵隊を乗せた上陸艇(エアシップ)が進んでいた。電波や光を吸収する塗装を施された機体は、何者にも感知できないとそう考えられていた。

 

「〈エーテルゼルダ〉は、低速でワープポイントに向けて回送中のようです。」

 

〈エーテルゼルダ〉を追跡する上陸艇(エアシップ)のパイロットがそう報告する。

 

「それは恐らく、我々の注意を引かない為の偽装工作だな。」

 

ニコラス少佐はそう断じた。〈エーテルゼルダ〉が艦隊を離れて自力航行を開始すれば、その動きは艦載AIを通じて通知されただろう。しかし貨物として惑星AIの管理下にあるのなら、どれほど大きくとも目立たず注意を引かずに他の星系に移動されていた筈だ。そして今は隠蔽された上陸艇(エアシップ)の接近に気がついていないから、無警戒なままなのだろう。

 

「間も無くワープポイントに到達します。危険ですが、接舷しますか?」

 

ニコラス少佐は時計を見た。この速度ならまだワープポイント到達まで一時間弱は猶予がある。

 

「ああ強襲プランに沿って接舷しろ。内部を占拠すれば後はどうとでもなる。」

 

準備万端のニコラス少佐がそう応じた。アイローラ提督が〈エーテルゼルダ〉に乗り込んだかどうかについては、彼は半々の確率と考えていた。しかし目障りな艦はこの機会に押さえてしまえば良いのだ。

 

こんな事でもニコラス少佐の功績となる。後々、働きが悪かったと言われない為にも進んでエーテル級を拿捕するべき所だった。同型艦に乗り組んでいる以上、内部の構造も把握できている。

 

「行くぞ!」

 

上陸艇(エアシップ)を固定し、惑星管理AIを経由してハッチを解放させる。より抜きの部下を率いたニコラス少佐は、掛け声も勇ましく内部へと乗り込んだ。

 

 

 

 

 

2名ずつに別れて、各セクションを占拠する。ニコラス少佐は一切の抵抗を受けず、〈エーテルゼルダ〉の重要セクションを全て次々と占拠した。

 

艦橋、機関セクション、第一コールドスリープ、第二コールドスリープ、通信セクション、重力制御セクション、第一格納庫セクション、第二格納庫セクション、工業用セクション、生命維持セクション、医療セクション。

 

その中で抑えるべき重要セクションは、艦橋、機関、通信、重力制御、医療の各セクションである。

 

(こちら機関セクション、確保しました)

 

(通信セクション、確保です)

 

(重力制御、抵抗はありません。)

 

(医療セクションは明け渡されました。)

 

部下からの通信は全て順調であった。

 

「さて、連中の顔を拝みにいくとするか。」

 

部下を一人連れ、ニコラス少佐は〈エーテルゼルダ〉の艦橋に踏み込んだ。ワープポイントまではまだ二十分強の猶予があった。まず問題ないだろう。艦橋内では当直中の女性士官と会話していたらしきスーツ姿の女が、ニコラス少佐と部下を見咎めるように問いかける。

 

「あなた達は?」

 

「宙兵隊のニコラス少佐だ。本艦は我々が制圧した。大人しく指示に従って貰おう。」

 

「元首補佐官として、本艦の全てを貴方に明け渡します。」

 

スーツ姿の女性は両手を挙げるとそう述べた。そのしおらしい返答にニコラス少佐は満足する。

 

「では、〈エーテルゼルダ〉を停止させろ。この艦は〈エーテルリンク〉率いる艦隊と合流させる。」

 

「私達には操作できないわ。艦載AIがないし、この艦は惑星管理AIが貨物として回送しているから。」

 

ニコラス少佐は思わず舌打ちした。回送というのはそういう事なのか。その時、ガクンと衝撃が走った。突如〈エーテルゼルダ〉が加速したのだ。Gのかかり方からして、かなりの急加速である。宙兵以外は予告なしの急加速に推進方向へ大きくよろける。ニコラス少佐も自分めがけて飛ばされてきたスーツ姿の女を抱き止めた。彼がいなければ、体を固定していなかった彼女は大怪我を負っていただろう。

 

「怪我はないか?」

 

覗き込むと、衝撃を予期して閉じされていた女の目がゆっくりと開いた。そして不思議なものを見るように、ニコラス少佐の顔を眺めた。

 

「ええ、ありがとう。大丈夫だわ。」

 

「なぜ加速した?」

 

「惑星管理AIが〈エーテルゼルダ〉の新たなる艦長を認識した為よ。」

 

抱き抱えられたままで、その女は答えた。ニコラス少佐はその返答内容に面食らった。

 

「誰が新しい艦長だ?」

 

「貴方です、ニコラス少佐。」

 

スーツ姿の女が手にした書類の束を差し出す。紙、久々に見るそれはよほどの事態でなければ使用されない。ニコラス少佐は嫌な予感を覚えながら、その書類を手で開いた。艦長の任命書であり、ニコラス少佐のナノムがその書類は本物であると保証する。

 

「実際には艦に佐官が乗り組んだ時点で、対象者が艦長に自動昇格します。それが貴方なのは、私達も予期していませんでした。」

 

「私が艦長なのか?そうであるならば命じたのは停船のはずだが。艦載AIは正しい反応しないのか?」

 

ニコラス少佐は少なからず混乱した。少佐の助けを借りて立ち上がると、スーツの女は噛んで含めるように説明を始めた。

 

「この艦に艦載AIは搭載されていないわ。乗組員(クルー)が操作するコンピューターが設置されているだけ。今は惑星管理AIが回送しています。」

 

「確かに回送中というのは見たが、それが何故このタイミングで加速する?」

 

「惑星管理AIには艦長としての適格者が艦内に入り次第、センタナに向けてワープアウトするように指示が出ていました。今、〈エーテルゼルダ〉は貴方という艦長を得たので、定められた計画に従って航行を開始したのです。」

 

「なんだって、それは困る。引き返せ。」

 

「それはもう無理でしょう。惑星管理AIの管理下ですし、こうして話をしている間にもちょうどワープを開始するところです。」

 

艦橋に表示される外の風景が歪む。ニコラス少佐が女と戯れあっている内に貴重な時間が消費され、超空間に入ったのだ。

 

「もう超空間入りしたから引き返せないわ。」

 

ニコラス少佐の蒼ざめた顔を見ながら、元首補佐官であるブルワジットはニッコリと微笑んだ。漸く、彼女の望んだ通りに事態が動き始めたのだ。

 

「それでは後はよろしくお願いしますね、ニコラス艦長。」

 

 

 

 

 

〈エーテルリンク〉の艦橋では、ニコラス少佐の指揮する宙兵隊が〈エーテルゼルダ〉に取り付き内部突入する様子が映し出されていた。

 

「よし。事態はこれで正常化されるだろう。」

 

チートス特使が、傍に侍るコリンズ副長に声をかける。

 

「はい。内部に侵入したニコラス少佐が仕留め損なう事はないでしょう。」

 

彼らが見守っていると、ニコラス少佐と部下達は手際良くエーテル級の確保を進めていた。

 

「勝ったな。」

 

各セクションの占領を終え、艦橋に突入したニコラス少佐の姿を見てチートス特使はそう呟いた。アイローラ提督、あの忌々しい女が艦橋から引き摺り出されるのも、間も無くだろう。

 

しかし、異変が起きたのはその後である。〈エーテルリンク〉が突如自力航行を開始したのだ。そして加速した〈エーテルゼルダ〉が上陸艇(エアシップ)を貼り付けたままワープポイントへ突入し、そのまま超空間入りする様子が余す所なく映し出された。

 

「何があった?」

 

「恐らく艦橋が最後の抵抗を示して超空間入りを進めたのでしょう。」

 

「ニコラス少佐から通信が入っています。」

 

唖然としているチートス特使とコリンズ副長を尻目に、艦載AIであるエーテルリンク少佐が声を上げる。カース艦長が艦橋のオブザーバーシートに目をやると、そこに陣取ったチートス特使は『私が出よう』とそう応えた。

 

「ニコラス少佐、チートスだ。」

 

「特使閣下、申し訳ありません。〈エーテルゼルダ〉は占拠しました。しかし予めプログラムされた条件を満たしたらしく、予期せぬ超空間入りとなりました。」

 

「その条件とは何なのだ?」

 

「艦内に佐官以上の航宙軍士官が乗船し、そう名乗った場合です。」

 

「・・・なんだってそんな指令が?」

 

「艦長役の士官がいなかったから、との事で。」

 

「では今の艦長は誰なんだ?」

 

「不詳、この私であります。」

 

チートス特使は考える。ニコラス少佐が指揮官なら、大きな問題はなさそうである。

 

「引き返せないのか?」

 

「一度、超空間に入ると到着地まで出る事は難しいようです。予期せぬ場所で降りれば、ワープポイントまで何光年も離れた地点で放り出されかねません。」

 

コリンズ副長も首を振っていた。引き返させるのは現実的ではないのだろう。

 

「〈エーテルゼルダ〉の行き先は?」

 

「艦載AI受領の為、シャイア星系の主星のセンタナに向かうとの事です。」

 

「ふむ」

 

チートス特使は再び考え込んだ。〈エーテルゼルダ〉の確保自体は悪い話ではない。ニコラス少佐がすぐには戻れない以上、そのまま艦載AIをセンタナで搭載させれば完璧なエーテル級が二隻揃うことになる。

 

活用しきれるかはともかく、相手陣営に渡さないのは重要だった。いずれ使い道は見つかるかもしれないし、人類銀河帝国を再編するにあたって二個艦隊運営可能なのは大いなる助けになるだろう。予備としても良い。

 

「了解した。エーテル級の確保、ご苦労だった。少し手違いはあったようだが、せっかくの機会なのだ。そのままセンタナで艦載AIを搭載してもらおう。アサポート星系には戻るに及ばない。新たな集結地点は、こちらから追って連絡しよう。」

 

チートス特使の反応に、ニコラス少佐はほっとした顔を見せた。

 

「はい、ありがとうございます。」

 

「後の事は報告書を提出してくれ。」

 

「間も無く通信限界距離に入ります。」

 

艦載AIのエーテルリンク少佐がアナウンスする。そのまま敬礼と共にニコラス少佐が姿を消す。映像をやり取りする広域通信も、高速で離れゆく〈エーテルゼルダ〉との通信が不安定になったのだ。

 

「コリンズ副長、以後のやりとりは超光速(FTL) 通信で行うと、そうニコラス少佐に伝達してくれ。」

 

「了解しました。」

 

コリンズ副長がそう応えた。彼らはアイローラ提督が〈エーテルゼルダ〉にいたかどうか、その点についてニコラス少佐が言及しない事に何も疑問を感じていなかった。




いよいよ次回、アサポート星系に帰還します。
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