【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅳ 対バクス戦争の終結 93話 【帰還篇⑦】 軍事法廷②

Ⅳ 対バクス戦争の終結 93話 【帰還篇⑥】 軍事法廷②

 

詳細を確認する段になって、俺とイーリスとはそれぞれ別室に分かれて細かな事実の確認を行なった。必要な項目の詳細の確認を全て終え、長時間に及んだ聴取の場はお開きとなった。軽い休憩の間に、惑星アデルに降下する為の連絡艇(シャトル)が用意される。これ以降は、惑星アデル上での対応となるとの事だった。

 

艦内でこちらの事情を聴取したのは、証言内容を秘匿する意図があったのだろう。惑星アデルでは、誰がどのように聞き耳を立てているのか分からないそうだ。活動停止を命じられた帝国倫理委員会はじめ、アデル政府の各委員会が設置されていたお膝元である。政府の諜報機関だけでも、委員会毎に乱立しているのだという。

 

「惑星アデルに残された構成員は、謂わば選別から漏れた状態だ。彼らもノヴァミサイルの標的にされた以上、忠誠心は低下し既存の組織はガタガタな筈だ。それでも、狂信的に組織に忠誠を誓う存在はいる。今はそう考えて、何事にも慎重に対処すべき時なのだ。」

 

そう言いながら、宙兵隊を従えたアイローラ提督が連絡艇(シャトル)に乗り込む。宙兵隊は俺の看守を兼ねているのかと思ったが、航宙軍や惑星の状況が俺達の想定以上に悪いらしい。こちらが受ける印象は、人類同士の大規模内戦の一歩手前である。俺とイーリスもアイローラ提督の後に続く。

 

「サーラ艦長は出廷されないのですか?」

 

気がつくとサーラ艦長の姿が見えなかった。無礼に当たるかも知れなかったが、思わず俺はアイローラ提督にそう問いかけていた。

 

「彼女は専門家として証言する立場だが、艦を預かる責任もある。指揮官が二名同時に艦を離れる訳にはいかない。軍法会議での証言は報告書で済ませると、そう言っていたよ。」

 

連絡艇(シャトル)の座席の背もたれに頭をもたれ掛けさせながら、アイローラ提督が返答してくれた。周囲は武装した宙兵隊が取り囲んでいる。着席をしているし威圧する意図まではないのだろうが、提督を護ると共に俺の逃亡を阻止する構えなのは明らかだった。

 

「ところで、私に武装を許したままで問題はないのでしょうか?」

 

その一方で、俺は帯剣を許されていた。ポケットの中の魔石も取り上げられてはいない。惑星アレスの常識では、これは虜囚に対してはかなりの厚遇である。宙兵隊という古巣の悪口は言いたくないが、俺を相手にするには自信過剰でいささか油断しすぎとさえ言える。

 

「武装とは、その剣か?君の惑星では君主としての儀礼用を兼ねているのだろう?銃器の携行でなければ構わないさ。」

 

「確かに、惑星アレスにおいて武装する権利は重要であり、丸腰で連行される様子は民に一定のメッセージを与えることにはなりますね。」

 

「今回の記録は部分的にだが公表される。そうなれば、いずれ惑星アレスの住民も知る事になる。その際、彼らの君主に恥をかかせたと感情を害する必要はないだろう。この星の住民にとっても君は英雄だ。この件では、そのような判断が働いている。」

 

俺とアイローラ提督の会話は、惑星に向けて降下する連絡艇(シャトル)内で行われている。会話がそこで長く中断した、それは俺の中で繰り返し込み上げる不快感の為だった。

 

アレス製の連絡艇(シャトル)の滑らかな動きになれると、大気に擦られる既存の人類銀河帝国の連絡艇(シャトル)の乗り心地はあまり快適とは言えなかった。

 

宙兵隊はパワードスーツで直接惑星大気に飛び込む蛮勇を誇示している。もちろん俺も何度もパワードスーツを着用しての惑星への直接降下を体験している。そうではあるのだが知らないパイロットに任せてローテクノロジーの連絡艇(シャトル)を使っての惑星降下は、壊れかけの遊園地の遊具で遊ぶような類の恐怖感を喚起させる。

 

俺にとってこの振動が、頼りにならないあの偽装帝国品質の脱出ポッドで惑星アレスに降下した記憶を蘇らせるのだ。自分で操作して降下する感覚とはまるで違う。この感覚には落ち着かなくてモゾモゾとする。

 

こちらの様子を監視する宙兵隊の指揮官は、苦手そうに顔を顰める俺を面白そうな顔つきで見ていた。英雄と称えられ、宙兵上がりでもある俺が惑星降下如きで不安そうな表情を見せたのが面白いのだろう。俺は宙兵隊の指揮官と思しきその少尉に、思わず声をかけていた。

 

「少尉、俺が連絡艇(シャトル)の惑星降下くらいで顔を顰めているのが面白いかな?」

 

「顔に出ていましたか。これは失礼しました。しかしバグスの大艦隊を撃退した閣下も、苦手なものがあるのですね。」

 

「宙兵の降下はパワードスーツでの直接降下が基本だろう。俺としては馴染みのあるそのやり方の方がまだ楽でいい。それに前回の惑星降下は、大破したギャラクシー級から降り注ぐ破片を回避しながらだったからね。」

 

「それは、稀な経験をされていますね。思い出されるのは確かに辛い。」

 

「安心してください、コリント准将。この連絡艇(シャトル)は帝国品質の基準を満たしています。」

 

イーリスがやや挑発的な雰囲気を秘めて、俺にそう囁く。だがその声は、囁くにはやや大きすぎる。それは聞かせることを意図した囁きであり、宙兵隊の指揮官である少尉は備品を貶されたと感じて明らかにムッとした顔をして見せた。

 

「ギャラクシー級〈イーリス・コンラート〉の脱出ポッドは全てオーランド重工の性能偽装の不良品でした。コリント艦長は、その不良品の脱出ポッドで惑星に降下した時の事を思い出されているのです。」

 

「なるほどな。確かに報告書に記載があった。トラウマを刺激されるのも理解できる。」

 

それまで、目を瞑って会話をただ聞き捨てにしていたアイローラ提督もそう口を挟んだ。

 

「しかし、だ。今回が事故以来で初の惑星降下という訳ではないのだろう?」

 

「アレスで新たに製造した連絡艇(シャトル)上陸艇(エアシップ)は、重力制御を可能としています。振動がまるでしません。それでつい、艦が難破した際の降下の感覚が蘇りました。」

 

「重力の完全制御とはすごいな。このような惑星効果の場合、どの程度まで重力を相殺できるんだ?」

 

「完全に、です。」

 

自信を込めた俺の言葉に、宙兵の誰かが口笛を吹いて驚きを表現した。

 

「最新の重力制御ダンパーでさえ、即死しないレベルに緩和するのが精一杯と聞くが。」

 

「はい、事故の際に身を持って体感しました。重力制御ダンパーのお陰で生き延びましたが、それでもナノムが活動しなければ俺も即死していました。」

 

「あの時のコリント准将は瀕死の重症でした。通常のナノムの対応だけでは間に合わなかったでしょう。あの時は私と会話中で直接モニタリングしていた為、異変をすぐに察知出来たので必要な救命活動が間に合いました。」

 

確かにあの時の俺は血だらけになっていた。体内にナノムを注入されている以上、本来であればナノムは流血を阻止する。血だらけになるのは通常では考えられない。つまり流血を阻止する以上に、ナノムを治療にフル活動させる必要があった。それほどの大事故だったということか。

 

「そうか。改めて命を救って貰った礼を言わせてくれ、イーリス。」

 

俺の言葉にイーリスがくすぐったそうな表情を見せる。艦載AIが操作する生身のような端末がそのように女らしい仕草を見せる様子を、宙兵隊の面々はポカンと驚きの目で見ていた。

 

「それ程までに凄い性能なら、是非体験して見たい。帰りはそちらの連絡艇(シャトル)に乗せてくれないか。」

 

「・・・宜しいのですか?」

 

「君が無罪放免となれば、問題がある筈がないだろう?」

 

アイローラ提督がそういうとウインクして見せた。

 

「航宙軍の装備を大幅に改善できるなら、是非とも入手したい。それは生産も可能なんだろう?」

 

「ええ、中核部品は惑星アレス固有の製品です。それをカートリッジ交換するように消耗品として、適宜部品交換する形であれば輸出は可能でしょう。」

 

イーリスが魔石の存在をそのように暈かしながら俺に代わりそう答える。そしてイーリスはその先の指示を促すように俺を見た。

 

「分かった。セリーナ・コンラート少佐に連絡を入れて、こちらの状況を伝えてくれ。それと共に審理を終えて惑星から離昇する際は、〈イーリス・コンラート〉の連絡艇(シャトル)を使用する予定だと伝えて欲しい。」

 

「了解しました。」

 

イーリスは少し小首を傾げると、再び俺にこう告げた。

 

「セリーナからは『了解。互いの関係を明らかにする為に、コリント姓を名乗る事を検討しても良い』との事ですが。」

 

こちらを見守る宙兵隊の視線が好奇心に溢れ益々熱を帯びる。彼らの視線に俺の頬も赤らんだ。留守を預かるセリーナとは俺の妻だと、今の会話の内容で何も知らない宙兵達にも気付かれたのだろう。惑星アレスの習慣は夫婦の姓についてはどうだっただろうか。リアはスターヴァインの名乗りを変えていない。あちらの貴族社会は選択式にせよ、夫婦別姓で良いようだ。

 

「戻った後で話し合おうと言ってくれ。そこは惑星アレスの流儀に従う形で良いだろうとも。」

 

イーリスは何やら話し込んでいる様子だった。事情を把握しているアイローラ提督でさえこちらに好奇の目を向ける中、今の俺が置かれているのは針上のむしろと言っていい。

 

「『了解した。無事の帰還を願う』と。これはセリーナとシャロンの両名からです。」

 

シャロンという新たな名前の女性の存在に、宙兵達の視線が突き刺さりザワつく。俺が彼女達と結婚したのは事実なのだ。ここは堂々としようじゃないか。

 

「俺からも妻達に『愛している』と、そう伝えてくれ。」

 

俺の返事に囃し立てるような歓声が上がった。ちくしょうめ。これで宙兵隊から艦隊内、そして航宙軍全体に俺のゴシップは広がるだろう。しかし妻達を愛しているのは事実なのだ。だったら俺がそれを公言して、いったい何が悪いというのか。

 

 

 

 

 

セリーナとシャロンは大笑いしながら、イーリスとの通信を打ち切った。

 

「やり過ぎよ、セリーナ。」

 

「いいの。私達とアランの関係をこうやって公言しておく方が、万事都合がいいんだもの。」

 

アサポート星系、いや人類圏で最強の艦を現在指揮しているのはセリーナである。そんなセリーナの元には、多様な通信が寄せられていた。それらはイーリスの助けを受けてシャットアウトしているが、援助の要請やら取材や結婚の申し込みまで内容は多岐に渡る。

 

セリーナとシャロンの詳細は民間に公開されていないのだが、航宙軍士官であれば軍の内部資料として閲覧できる。役職に加えて、姓名階級や年齢は隠しようがない。艦長の名前も公開情報である。軍務に慣れた者達には簡単な情報の特定により、見ず知らずの男達に通信で言い寄られるという今の事態を招いていた。

 

「しかし、こちらの顔も分からないで結婚の申し込みが殺到するとは驚いたわ。」

 

「あら。私たちの年齢と顔写真なら、航宙軍のデータベースの中にある筈だわ。」

 

セリーナのぼやきに、シャロンがそう謎解きをしてみせた。幸か不幸か、各士官の婚姻関係は軍のデータベースで公表されていない。もしセリーナ・コンラートの関心を惹いて口説き落とす事が出来れば、人類最強の艦の艦長代行を口説く事に繋がる。

 

セリーナもシャロンも、未だ10代であり小娘と見られやすい年齢である。初心な若い娘なら騙せるかもしれないと、あの手この手でセリーナやシャロンの気を引く申し出が殺到したのだ。

 

それもあってセリーナはアランとの婚姻関係を宣言する動きに出たのだ。直属の部下との婚姻については違法性はない。問題となるのは両者の合意を伴わないハラスメントであって、士官同士の私的な関係は自由だ。特に婚姻関係があれば、責任を取ったと見做されて問題とはされない。問題視されるとしたら艦内の軍務における線引きくらいだが、そこはセリーナとシャロンも弁えていた。

 

男女の関係性を公言する方がメリットが生じる事例は少ない。今回はその極めて貴重な例外と言える。だがその成果はすぐに発揮された。噂は光速より早く艦隊内を駆け巡る。アラン直々にセリーナとシャロンの関係を認めさせる事が、彼女達に当てられた通信の激減に繋がる。

 

少なくとも結婚の申込は激減した。逆手にとって『不倫しよう』と口説く内容の通信はあるにはあるが、それは一部のガチ恋勢に限られる。その為に悪評がたっても彼女達は気にしない。結局のところ事実に基づく批判ではなく、自分達の頭の中の妄想で文句を言っているだけなのだから。

 

彼女達としては外野を黙らせる意図があったのだが、その過程でアランの反応を楽しんでないとは誓言出来なかった。大いに鬱憤を晴らしたところである。

 

「アランは優しいから、ちゃんとこちらの意図に沿った発言をしてくれると信じていたわ。」

 

セリーナが自信満々でそう告げる。

 

「そうね。でも宿直が終わっても、アランの寝顔を見に行けないのは寂しいわ。」

 

シャロンがセリーナの惚気にそう応じた。

 

「・・・アランが解放されるまでの、たった数日間の辛抱じゃない。」

 

アレスの後宮ではある程度の自由はあれど、クレリアを初めとする他の妃との兼ね合いもある。妃達はセリーナやシャロンとは異なり軍務で交流できない場合が多い。となると互いに他の妃との時間を邪魔は出来ない。そういう意味では、非番になり次第アランの元を訪れられる今回の勤務は良かった。セリーナとシャロンの姉妹にとっては、アランとの距離感が実に快適な環境であったのだ。

 

ハイタッチを交わしてセリーナとシャロンが任務を交代すると、シャワーを済ませて眠っているアランの横に潜り込む。そういう行為もないでは無かったが、艦隊勤務中のアランは控え目だった。何はなくても、相手の人肌を感じながら寝入るのは心地よかった。アランの発する多少のいびきも、慣れてしまえば可愛らしいものである。

 

「待つ身は辛いわ。」

 

そう言って寂しそうな表情を浮かべて項垂れるシャロンにセリーナは応じた。

 

「他の皆も耐えている。艦を任されたのだもの。私達もしっかりとアランの留守を守らなくては、ね。」

 

 

 

 

惑星アレスで俺が案内された部屋は、五つ星ホテルのペントハウスである。政府の予算ではツインだったそうだが、ホテルの側がこちらに配慮して無償で部屋のアップグレードしてくれたようだ。

 

「イーリスと同じ部屋か。これってまずくないだろうか?」

 

今更気兼ねする間柄ではないのだが、今日のイーリスはいつにも増して人間らしいだけに俺としても戸惑う。さらに言えば、この部屋は盗聴され監視されてもいるだろう。中で何をしても筒抜けだと考えて間違いがない。

 

「法的な事を言えば、私はいわば“備品”です。それに艦長は、そう、治療プログラムの対象者でもあります。」

 

そういうとイーリスは制帽を脱いで髪を整える。そして俺を見て舌なめずりをする。その仕草は機械ではなく、獲物を捉えた肉食動物のそれである。

 

「今夜こそ、中断していた治療を再開しましょう。」

 

そう言いながらイーリスは制服の上着を脱ぐ。

 

「俺の結婚を機に、治療は解消したんでは無かったのか?」

 

制服のシャツもスカートもすっかり脱ぎ捨ててから、ついっとイーリスが俺に迫った。その仕草は俺に自身の下着姿を見せつけるかのようだ。

 

「これは経過観察です。治療の記録は一定間隔で行う必要があります。それに、この星系にいる奥様達の了承はとりましたよ?」

 

そういいながら、イーリスは俺の制服の上着を脱がせる。脱衣をイーリスに任せる俺の脳裏にセリーナとシャロンの顔が浮かぶ。リアやエルナはどう思うだろうか。それは聞くまでもない。彼女達にとって、夫が他の妻やその侍女を抱くのは普通の行為なのだ。イーリスの行為が『役目の上の事である』と説明されれば、それ以上の疑問は生じないだろう。

 

俺の気持ちはどうだろう。明日は大丈夫と考えてはいても、不安はある。それにイーリスの主張通り、治療していたのだからそれを彼らに実態として見せておく方が他の証言の信憑性も増すのではないか。

 

だが監視されていると知っていて、俺はちゃんと出来るのだろうか。逡巡した俺は、ようやく心を決めた。

 

「・・・よろしく頼む。」

 

「はい、喜んで。」

 

イーリスが2人の制服を畳んでから、俺に覆い被さる。もつれあったイーリスと俺の身体は、夜が更けるまで離れる事は無かった。

 

 

 

 

サーラ艦長は頭を抱えていた。やはりあの艦載AIは異質だ。帝国倫理委員会は、あのような規格外のAIの存在を決して認めないだろう。しかし大尉の振る舞いを見る限り、艦載AIとしての基本原則は全て遵守していた。

 

イーリスが語ったように、人類は既に幾つかの状況打破のヒントをこれまでに得ていたのだろう。しかし、バクスとの戦争においては解決の糸口を無視して、徒に状況を長引かせているようだ。

 

それが意図されたものであるならば、帝国倫理委員会は自らの支配体制の維持の為にAIや艦隊士官に制限を課しているのではないか。事の真偽がどうであれ、今のままでは人類が到底現状打破する事は期待できない。

 

バグスに対する優れた戦績を有するアイローラ提督でさえ、今の人類の限界を抜け出す例外となれる存在ではないのだろう。局地戦では容易にバグスに勝てるのかもしれない。しかし盲点があればバグスの根絶は出来ない。それは現在の人類の置かれている状況と一致する。

 

少しでも人類に不利な環境が生じれば、ずるずると劣勢に落ちた人類は退勢を覆せずにバグスに敗北するのではないか。現に事態はそのように推移している。人類が決定的な敗北を喫する事、これだけは絶対に避けなければならなかった。だが〈イーリス・コンラート〉が出現する直前のアサポート星系の戦況は、まさに破滅の一歩手前だった。

 

またノヴァミサイルが発射された際、それを抑止したのはアラン・コリント艦長と彼の指揮する〈イーリス・コンラート〉だった。過去の行動は何より雄弁な指針となり得る。人類に対する彼らの忠誠心は、この点を見ても疑う余地がないだろう。

 

既に自分はあのAIに魅了されて、判断が歪められているのかもしれない。今感じているこの感情も、全てAIによる洗脳の効果かもしれない。或いはタウ・ベガス2星系で共に脱出出来なかった後悔が理由なのかもしれない。しかし迷いはなかった。サーラ艦長はイーリスを全力で支援すると決めていた。誰よりも親しかった存在が生き返ったのだから。

 

それにノヴァミサイルからアサポート星系に住む人類は確かに救われている。同じ危機がまた生じても、コリント准将とイーリス・コンラート大尉は躊躇なく再び人類を救うだろう。それこそ自分達も信じるべき守るべき正義なのではないか。

 

『艦載AIの振る舞いは、人類の生存と航宙軍の戦力維持という原則に基付き実施されている。これは全て航宙軍の求める基準に適合しており、艦載AIが唯一の生存者を庇護して航宙軍を再建するのに適切な処理を実行したと認める。』

 

サーラ艦長は、艦載AIであるイーリス・コンラートの活動を“是”とする報告書を書き上げた。今の事態を乗り切るのに、彼らの力が絶対に必要だった。それに友人としてイーリス・コンラートに借りた物を返済する番だと考えてもいた。人間かAIかは別として、サーラは既にイーリスを過去と同一の存在と認めている。ならば命の借りを返済するのに、もう躊躇いはなかった。

 

 

 

 

 

翌朝、寝不足気味でホテルのロビーに現れた俺を見てもアイローラ提督は何も言わなかった。提督も、警護の関係もあって同じホテルに宿泊をしていたのだ。きっとこの美しい上官に内心では軽蔑されているのだろうと考えながら、俺はアイローラ提督に続いて送迎車に乗り込む。前後を宙兵隊の車列が囲んだ。

 

「・・・よく眠れたか、とは聞かないでおこう。」

 

車が走り出すと、アイローラ提督がそう言ってからニヤニヤとした笑みを浮かべた。

 

「確か・・・『必要な治療』だったか。まあ、程々にな。」

 

「昨夜は、あれでも艦長は抑えられたのです。」

 

「あれでか。英雄色を好むというが、な。」

 

アイローラ提督は心底驚嘆した顔で俺を見ている。

 

「てっきり、私のような監視者を喜ばせる為のブラフかと思ったが。」

 

そう言いながらアイローラ提督は自身も監視していた事を隠そうともしていなかった。

 

「昨夜の姿は、コリント准将のありのままの真実ですわ。」

 

イーリスがどこか得意そうに付け加える。どうやらこの星では、この俺の為のプライベートという概念は存在しないらしい。監視されている上に、同伴者に夜の内容を異性の上官に証言までされるのだ。逃げ場のない車内で居た堪れない俺は急速にリアやエルナが恋しくなっていた。少なくとも彼女達なら、今俺が感じている羞恥心というやつを共有してくれただろうから。

 

 

 

 

法廷の控え室では担当官より、諸注意の説明を受けた。俺はイーリスとは引き離され、制服姿で一人座っていた。こんな時は、腰から吊るした魔剣の存在が心強かった。限られた惑星アレスとの繋がりを示す品であり、特にこの剣を贈ってくれたリアの存在を思い出させてくれるからだろう。

 

この魔剣は、関係者には儀礼用のサーベルと周知されているのだろう。それに加えて銃を構えた宙兵という分かりやすい護衛が存在している為なのだろうか。法廷に呼ばれる直前のこの段階となっても、誰も腰の魔剣については詮索をしない。

 

室内には2名の宙兵が、廊下には一個小隊の宙兵が控えている。彼らとは〈アイネイアース〉で初めて顔を合わせた間柄だが、任務に忠実な連中と理解していた。いずれ機会があれば、彼らと酒を酌み交わす未来もあり得るかもしれない。少なくとも、今も知った顔に見守られているのは安心できた。

 

「時間です。」

 

俺が呼び出された法廷には、聴衆が誰もいなかった。軍事法廷とは関係者のみ、本来そういうものなのだろう。代わりにカメラが多数配置されている。この場の出来事は間違いなく記録され、監視されていた。

 

法廷内にはアイローラ提督もイーリスもいた。しかし彼女達はこちらとは視線を合わせようとはしない。俺も極力彼らの方を見る事はしなかった。裁判長が俺に尋ねる。

 

「それでは被告人、起立して姓名と役職・階級を述べてください。」

 

「ギャラクシー級戦艦〈イーリス・コンラート〉艦長のアラン・コリント准将です。」

 

「コリント准将、それでは宣誓を行なってください。本法廷では、真実のみを述べるように。誓いますか?」

 

「はい、真実のみを述べると誓います。」

 

そこから先は淡々と議事が進行した。俺が尋ねられている内容は、ただ報告書に記載の内容が真実か否かである。恐らくはイーリスの仕事なのだろうが、この件で動員されているAIは掛け値なしに優秀だった。こちらの言い分が過不足なく開陳される。入念な陳述調書が作成されているお陰で、俺は確認された内容を肯定するだけでいい。

 

読み上げられる資料の内容には少なからずアイローラ提督に語った内容が含まれていた。事情聴取と聞いていたが、アイローラ提督への報告内容は間違いなく今回の裁判の基盤とされていた。

 

「・・・以上で事実の認定については全て完了したものとします。判決は明日、言い渡されます。被告人は退廷してよろしい。」

 

ドヤドヤと裁判官が事務官を引き連れて退廷する。突然解放された事に俺が呆気にとられていると、俺の横に見慣れた宙兵隊の少尉が姿を見せた。イーリスもそれまで腰掛けていた証言者席を離れ、初めて俺という存在に気がついたような素振りでこちらへと接近してくる。

 

「さ、閣下。参りましょう。」

 

両脇を彼らに挟まれ、廊下に一歩出るとそこは音と光の洪水だった。

 

『コリント准将、何かコメントをお願いします!』

 

通路の先、建物の入り口に大勢のマスコミが詰めかけている。彼らが手にするカメラは強烈な照明をこちらに浴びせかけてくる。晒し者にされているようで建物の出入口に向かうのは気が進まなかったが、宙兵隊が人垣を構成してすぐにマスコミを排除してくれた。俺が晒し者扱いされる現状は変わらないが、邪魔されずに歩く事は出来そうだ。

 

「背筋を伸ばして、顎を引き気味に。その方が映えます。」

 

左手をそっと掴むイーリスにそう忠告され、俺はマスコミの射線を横断し切ると用意された車に体を押し込んだ。マスコミが構える機材が立体映像用のカメラではなくサンダーボルトSB-10(ディスラプター)なら、俺は間違いなく敵の旺盛な火力を避けきれずにバラバラに切断されていたに違いない。

 

「いやはや、大変な過熱ぶりだな。」

 

「意図してリークした者がいたのでしょう。明日はこの倍は集結しますよ。」

 

遅れて車内に乗り込み車を出すように指示してから、もうすっかり顔馴染みの宙兵隊の少尉がそう答えた。

 

「それでは、ご宿泊のホテルへお送りします。」

 

「よろしく頼む。」

 

俺がほうっとため息をつくと同時に、車が滑るように走り出した。

 

 

 

 

 

「本日はゆっくりお休みください。明日の為に、体力を残さないといけませんから。」

 

ルームサービスで夕食を終え、俺に入念なマッサージを施すとイーリスはそう言って続きの間のベットルームへと姿を消した。

 

考えてみれば、誰かに邪魔されずに熟睡できる時間も久しぶりである。翌日には判決を言い渡される。俺はまるでイーリスに眠れと暗示をかけられたかのように、そのまま夢も見ずにぐっすりと眠ってしまった。

 

 

 

 

 

「・・・やれやれ、今日はショーはなしですか」

 

「これもAIとしての彼女なりの気遣いでしょう。明日の判決を前に今夜の我々監視者は忙しいと、そう察知しているのでしょうから。」

 

元首の発言にアイローラ提督はそう答えた。彼らは明日の審理終了を前にした最終確認の為に顔を合わせていた。

 

留置されている被告人が監視されている事は当然の事である。昨夜は本人達も見られていると承知であのような行為に及んだのだ。しかしながらショーは長く続けば監視者の体力も削られる。今日は大人しく眠ってくれているなら、それはそれでその方が楽でいい。

 

「それで、彼らをどう見ます?」

 

「アラン・コリントは信頼できる航宙軍士官です。彼に対する私のその評価は変わりません。些か欠点を見せていますが、欠点のない人間はいない。こちらに弱みを晒すのも、彼なりの信頼の示し方なのでしょう。」

 

「そうですか。法廷での争点も今後の活動でも、脅威となり得るのはあの艦載AIの方だと聞いていますが。」

 

「部下にAIの専門家がいます。こちらが法廷向けに作成させた報告書です。」

 

アイローラ提督は元首に報告書を差し出した。元首は内容を知らないふりを装ってパラパラと確認する。

 

「・・・軍事法廷はこれで乗り切れるでしょう。内容はやや理想的に描かれすぎているきらいはありますが。」

 

「意見具申してもよろしいですか?」

 

「構いませんよ、どうぞ。」

 

「指揮官としての私は考えます。上手くいっている組み合わせを変える必要はないと。コリント准将と艦載AIのイーリス・コンラート大尉。彼らの組み合わせは当面そっとしておかれてはいかがでしょうか。」

 

元首のアイローラ提督を見る目が細くなる。

 

「ほう。ずいぶんと彼らに入れ込んでいますね」

 

「験担ぎのようなものです。が、人事の変更でバランスが崩れて敵に遅れをとった例は幾らでもあります。戦う相手が人類でもバグスでも。まずは今の彼らを敵にぶつけて結果を見るべきかと。」

 

「彼らの今の編成を容認し,弱体化を意図した介入を避けて大目にみよと」

 

「はい。航宙軍の艦隊の大半は未だに十人委員会と共にあります。それに彼らはノヴァミサイルを迎撃に成功しました。その報酬を与えられても良いのではないでしょうか。」

 

「いいでしょう。元々、私もあなたも承知している話だ。今の人類銀河帝国に、いや最盛期の帝国でさえ彼らを阻止可能な戦力はない。我々と彼らの関係は、彼らの祖国の政府というだけに過ぎない。だから半ば独立してしまった彼らを上手く懐柔し、人類銀河帝国の為に役立てる必要があります。不干渉は簡単だ、だが要請には従わせたい。貴方にそれができますか?」

 

「はい。全力を尽くします。」

 

「それは貴方がその肉体を与えてでも、成し遂げられますか? 英雄の例外に漏れず、彼は色を好む。惑星アレスの住人は、どうやらコリント准将とはそのような折り合い方を実践したようだ。ここは我々もそれに習うべきでしょう。そして幸いにして、貴方は未婚で美しい。私は彼は自分のコレクションに喜んで貴方を加えると私はそう思います。」

 

アイローラ提督は、元首の言葉に流石に狼狽えた。

 

「・・・コリント准将よりも年上の私など,そう言って頂くほどの魅力があるとは」

 

「年齢はそう変わらないし、貴方は十分に魅力的です。しかし、今の私は貴方の覚悟を問うています。彼が異性に甘いのもそういう見せかけ、用意された弱点の可能性はある。しかし人類の為に、全ての手を尽くす必要があるとそう考えるように。」

 

「・・・本当に、その必要があるとお考えなのですか?」

 

「当たり前でしょう。これは綺麗事ではないんです。候補はこちらでも用意します。ただ、我々の中で貴方が彼の最も近くにいる異性だ。彼と個人的な関係を結ぶ機会があれば,決して躊躇はしないように。」

 

「・・・了解しました。」

 

「心配せずとも大丈夫ですよ。私と彼の話し合いが上手くいけば、彼は普通に協力に応じるでしょう。他の妻との関係も分からない。だから貴方に身体を張ってもらうにしても,それは最後の手段でしょうから。」

 

「その、餌の食い逃げと言うことも,あるかもしれませんし。」

 

「ええ,その通りです。徒労に終わる可能性は高い。それでも、彼に敵意を示すよりはずっとマシな結果でしょうね。」

 

 

 

 

 

イーリスは元首とアイローラ提督の様子を監視していた。魔石を用いた演算能力の向上によって、イーリスは既存の人類のテクノロジーの数段上の演算力を保持している。彼女にとって電子機器に囲まれた惑星アデルは、未開の惑星アレスにいるよりも遥かに環境に恵まれたボーナスステージである。最高のセキュリティに囲まれていると安心する程、監視対象はイーリスの前で丸裸となるのだ。

 

(今の所は大丈夫よ。明日の判決は無罪の見通しで手配されている。そして彼らは艦長を懐柔する手段が無いので、色仕掛けを検討しているわ)

 

((良かった))

 

イーリスの報告に、セリーナとシャロンの安堵した声が伝わる。

 

(アランが無罪になるのは当然だわ。何も悪いことはしていないのだし。)

 

(それに色仕掛けだなんて。アランの妻がどれだけ美しくて手強いか分かっているのかしら?)

 

セリーナがアランの為に憤慨し、シャロンが自分達を含めたアランの妻の美貌を誇る。人類銀河帝国が広く人で溢れているとはいえ、アランの正妻たるクレリアもミス・ギャラクシー級の美女なのだ。無論自分達も、アランを惹きつける事で他者に負けるつもりもない。どんな女が相手でも、勝負して負ける気はなかった。

 

(色仕掛けの件は余り気にしないで。他に手段がないと考えての事でしょうから。力尽くが失敗したて関係性が絶たれると、相互に困った事になると承知しているだけマシな相手とそう考えましょう。)

 

アランの身の安全を図る為、武力の行使があれば〈転送門〉を開いて即座にセリーナかシャロンが兵を率いてアランを回収する手筈になっている。

 

その備えとして〈イーリス・コンラート〉は、惑星アデルの全運動に同期するように調整を完了していた。人類の暮らす惑星はテラフォーミングされ、重力の値もほぼ等しい。事が起これば数分の内に〈転送門〉を開通させてアランの救援が完了する手筈である。

 

ホテルを守る宙兵隊の動きも全て把握していたし、宙兵隊に隠れて動く元首直轄の特殊部隊の動きさえも全てがイーリスの監視下にあった。

 

(いずれにせよ、相手の手の内が分かったわ。少し警戒を緩めて大丈夫ではないかしら。)

 

イーリスの報告にセリーナが決断した。

 

(判決が出る明日も長丁場になる。それなら交代で休息を取りましょう。)

 

セリーナのその発案にイーリスが答える。

 

(私が監視していて、すぐに貴方達を起こす事も可能だけれど?)

 

(いざという時が怖いわ。兵達も半分に分けて、片方の班は完全武装で待機させましょう。)

 

シャロンもセリーナの判断を支持した。彼らは手早く分担を決める。現状は、軍事法廷で無罪の判決が出るまで見守るだけで大丈夫そうな情勢ではある。しかしアランが本当に無罪放免されるまで、アランの最後の守りを構成する彼女達は油断するわけにはいかなかった。

 

 

 

 

「・・・それでは本法廷の判決を言い渡す。被告人を無罪とする。アラン・コリント准将が現時刻をもって全ての職務へ復帰する事を許可する。」

 

裁判官が振り下ろす木槌の音が鳴り響いた。無罪の判決が宣告されると共に、俺の内部に突如として音と色彩が溢れてきた。

 

多数の通信をキャッチして、脳内でナノムが鳴り響く。なんてこった。これまでナノムへの管理権すら喪失していたのか。ナノムの表示は全て、見えず聞こえないようにされていたらしい。そしてナノムにアクセスできない事を知覚すらせず、俺自身もまるで疑問に思うことも無かった。

 

今回の判決がもしも銃殺だったのなら、俺はその結果を受け入れてそのまま射殺されていたかもしれない。そう考えると、怪物の開いた口の横に立たされているのに突然今気がついたようなものだ。実にゾッとする。

 

(アラン、無罪放免おめでとう。こちらの状況は終了し、通常の艦の運用に戻ります。)

 

セリーナから短く通信が入る。どうやら銃殺の判決が出た場合に備えて、なんらかの対策を用意をして待機してくれていたらしい。

 

(アラン、こちらに戻るまでは決して油断しないてね。それと、美人に言い寄られても他の女に目移りしてはダメよ。)

 

続くシャロンの通信は短いながらも感情がこもっている。

 

(どうやら無事に切り抜けたようだ。なるべく早く戻るようにする。二人に会うのが待ちきれないよ。)

 

((了解!))

 

「艦長、おめでとうございます。」

 

こちらの様子からセリーナとシャロンとの通信が終わったと察して、イーリスから声がかけらる。

 

「イーリス、それで宇宙の状況はどうなっている。」

 

「問題ありません。今の所は全てが順調です。」

 

イーリスが仮想表示する資料には、〈イーリス・コンラート〉の乗組員(クルー)やアレスからの開拓民、そして彼らと共にいるラーダ星系の避難民の様子が表示されている。

 

セリーナの指示で最後のサテライト級はラーダ星系の見張りに送り込まれていた。ラーダ星系の現状はオフラインになっているものの、バグスが侵攻している兆候は見られないらしい。超光速(FTL) 通信についてはアイローラ提督のスター級に報告を集約する形になっている。セリーナとシャロンは俺の至らぬところまで良くやってくれていた。

 

(確かに問題はなさそうだな。だが、随分と時間を無駄にした。2人にもそう伝えたが、可能な限り早く宇宙に戻ろう。)

 

その時、満面の笑みを浮かべてアイローラ提督がこちらに接近してくるのが見えた。今日はいつにも増してビシッと決めている。彼女はシャロンが述べる警戒すべき美女の対象外だろうな。今後の関係性の為にも、ここは礼を述べるべきなのだろう。

 

アイローラ提督に敬礼を行う。少し驚いた様子で、アイローラ提督も敬礼を返してくれた。

 

「提督、ご助力をありがとうございました。」

 

「当然の事だ。皆、無罪の判決を待っていたのだ。これからが忙しくなるぞ。それでは、行こうか。」

 

スタスタとアイローラ提督が俺の腕を取ると通路を歩き始める。なぜか親しげな様子で、彼女の胸が俺の腕に押し当てられていた。

 

昨日とは異なり、車まではパワードスーツで完全装備した宙兵隊が既に確保していた。そうでなければ昨日の3倍は詰めかけているマスコミを前に、歩くスペースを確保するだけでかなりの時間を要したに違いなかった。

 

『『何かコメントをお願いします!』』

 

押し寄せるマスコミに対して、アイローラ提督が手を挙げて傾聴を指示する。群衆は静まった。アイローラ提督の発言に、場の人々の期待が高まる。彼女は真横に突っ立ている俺を指し示し、マスコミにこう告げた。

 

「諸君、この通りコリント准将は職務に復帰する。准将の行いは、軍法会議において何の問題も見出されなかった。我々はこれより元首閣下の元で、以後の対策を協議する。アサポート星系からバグスにまつわる諸問題が解決され、それが人類検討全体に及ぶのも間も無くであると私はそう確信している。」

 

『食糧危機の対策はどうなりますか?』

 

『他の星系との移動制限解除の見通しはいつになりますか?』

 

「ありがとう、ありがとう。」

 

アイローラ提督は口ではそう言いながら、再び俺の腕を掴んで引っ張ると容赦なく宙兵隊にマスコミを排除させていた。なんというか押し寄せる人々の熱気が凄い。それでも比較的短時間で車に到達出来たのは、容赦なく障害を排除するアイローラ提督の指揮ぶりが大きく寄与していただろう。

 

「凄い人の数ですね。」

 

差し向けられた車にイーリスと共に乗り込みながら、俺は提督に尋ねていた。

 

「彼らは皆不安に駆られているのだ。誰か権威がある存在から、『もう大丈夫』という言葉を貰ってただ安心させて欲しいだけなのだ。」

 

アイローラ提督はいつの間にか束ねて制帽の中に纏めていた髪を振り解いている。そして髪を止めるのに使っていた制帽を器用にクルクルと指先で回転させていた。車内に入ってしまえば外から見られる事はない。先程の演説とは打って変わって、もうすっかり寛いだ様子だった。ふわりと彼女の髪の匂いが車中に香った。それは魅力的な匂いで、解放された自由を俺に感じさせた。

 

「出してくれ。元首の公邸に向かう。」

 

運転手にアイローラ提督は指示を出す。或いはそれは俺たちにそうと行き先を知らせていたのかもしれない。車が微かに前進を開始すると、周囲の宙兵隊のパワードスーツが進路上のマスコミを実力で排除し始めた。そう俺は、ついに人類銀河帝国の最高権力者と対面を果たす事となるのだ。




懸念だった軍法会議のパートはこれで終わりです。書いでも書いても終わらず、先週公開の内容と合わせて3話分に分割する事となりました。

軍法会議は短く終えたかったのですが、イーリスやセリーナやシャロンが活躍したのでこれで良かった気もします。結果として、振り返りと情勢整理の時間になったような気がします。
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