【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる) 作:高坂 源五郎
Ⅳ 対バクス戦争の終結 97話 【内戦篇③】 スターファイター実戦選定
▫️カフト星系 惑星ベリル▫️
艦長のアラン・コリント少将が惑星アデルに戻り政務に邁進する中、〈イーリス・コンラート〉はセリーナを艦長代理として惑星ベリルに降下したバグスを排除する任務にあたっていた。人類の戦況はそれだけ悪く、〈イーリス・コンラート〉が稼働出来るなら停滞させる猶予が無かった。
『・・・それでは、目標エリアへの攻撃を開始してください。』
〈イーリス・コンラート〉のセリーナ艦長代理から、スター級重巡洋艦〈パイオーン〉に対地攻撃開始の指示が飛んだ。
シェアリング少佐とセリーナ艦長代理は共に少佐の階級となる。シェアリング少佐が先任士官だが、彼らは今は同盟関係の別の組織の航宙軍同士という建前でもある。そして指揮権はギャラクシー級の〈イーリス・コンラート〉にある。お互いに、なんとも気を使う必要のある間柄なのだ。
〈パイオーン〉は、既に〈イーリス・コンラート〉が瞬間的に開通したワームホールを通過して惑星ベリル直上の静止軌道への侵入を果たしていた。艦長のシェアリング少佐は、ホロ投影されるセリーナ艦長代理に敬礼してからこう返答した。
「〈イーリス・コンラート〉のセリーナ・コンラート少佐へ、こちら〈パイオーン〉のシェアリング艦長。了解した、作戦を開始する。」
〈イーリス・コンラート〉はワームホールを自在に操って星系を瞬時に移動する程の驚異的な能力を持つが、派遣した宙兵に対する対地支援攻撃についてはごく限られる。範囲の広い軌道爆撃は行えても、細やかな地上支援手段には乏しい。
破壊する為の斧の用意があっても、手術用のメスの用意は無いようなもの。だからこそ宙兵隊との連携や民間人保護の為の精密な対地狙撃という点で、サテライト級の活躍を期待されている。友軍に期待され、頼りにされるのはシェリアング艦長のような歴戦の猛者でも心地よいものだった。
〈イーリス・コンラート〉との交信を終え、シェアリング艦長は艦橋で控えている部下に向き直った。
「では、仕掛けよう。ガードナー中尉、頼んだぞ。」
「はい、任せて下さい。」
シェアリング艦長の指示に、ガードナー中尉が元気よくドンと胸を叩いて応える。
「ラーダ星系の再来だ。好きなだけ害虫を駆除していい。盛大にぶちかましてやれ。」
「了解しました!」
〈パイオーン〉による軌道上からの一方的な攻撃、それも圧倒的な火力による蹂躙が開始された。とても対等の戦いとは呼べないが、そもそもバグスと人類の関係は捕食者と被捕食者である。
自己の種の保存という至上命題を前にして、人類側に手段を選ぶ猶予はない。やるか、やられるか。人類にとって共存不可能な不倶戴天の敵とは、まさにこのバグスの事を指すのだ。
〈パイオーン〉が放つ対地ビーム攻撃で、空を舞うバグスのビートル種が続々と狩られる。惑星ベリルの海原には、ビーム砲の光柱が幾つも幾つもつき刺さる。ビームが海に直撃すると、蒸発した水蒸気が水柱のように攻撃された海面から吹き上がる。ビーム砲の直撃を免れたバグスの個体であっても、体の一部を損傷したり水蒸気の柱の煽りを喰らったりして失速した。そして、そのまま落下して海中へと没していく。
バグスの大半の種は、水中では生存できないらしい。バグスは人間の『泳ぎ』に匹敵する能力さえ欠いているようだ。呼吸器を閉ざす能力がなく、体内に水の侵入を許しすぐに溺死すると云う。
そのような情報も、ここ惑星ベリルのバグス研究所からもたらされた知見である。この重要な報告書は、これまで注目されずに帝国の大量の情報アーカイブの中に埋没していた。だか優れた演算能力を有する艦載AIのイーリス大尉によって見つけ出された。今となって日の目を見たこの研究の成果は、ようやく実戦に活かされはじめていた。
「知識だけで避難民3万人を救った研究所か、凄いな。」
そんな感想を漏らすシェアリング艦長に、砲撃指示の手を休めずにラーダ中尉が答えた。
「ええ。よくこのようなバグスが跳梁跋扈する環境で、それだけ大勢が良く生き延びたものです。」
それはバグスの支配する惑星で人類が生存する為に、バグスに対する多様な知識がいかに重要かの証左でもあった。
現在の〈イーリス・コンラート〉は、〈パイオーン〉とは離れてカフト星系内のバグスの主力艦隊と対峙していた。実際には逃げ惑うバグス艦隊を追跡しているのだ。宙兵隊の大半を惑星に派遣する今回、艦内にバグスを侵入させる気はない。大型のバグス艦からただ順番に主砲で破壊してゆくのみである。
『宇宙が駄目なら地上から宇宙を攻撃すれば良い』とバグスは考えたのだろう。惑星上に分散配置されていたBG-I型巡洋艦が起動し、惑星軌道に単艦で展開している〈パイオーン〉目掛けて上昇を開始する。遂にバグスが反撃し始めたのだ。
「シャロン、主砲の管制は貴方に任せるわ。〈パイオーン〉にバグスの艦を近づけさせないで。」
「了解!』
BG-X型戦列艦を全て撃破され、敵艦隊は大いにその数を減らしていた。今なら主砲を〈パイオーン〉の支援に振り分けても、残敵は〈イーリス・コンラート〉の巨体を活かした体当たりで余さず処理できるだろう。
セリーナは連絡先を切り替えると、既に出撃した2名のパイロットに新たな指示を告げた。
「護衛の各機へ〈イーリス・コンラート〉より通達。〈パイオーン〉に、バグス艦を近づけない為に展開せよ。作戦を開始する。後はそちらの判断で動きなさい。」
『『了解!』』
スターファイターに搭乗したホーク中尉とユッタ中尉が返事をする。待ち侘びたスターファイターの初舞台である。二人の返答には気迫がこもっていた。
実戦稼働しているスターファイターは現在2機。いずれもデータ収集の為に試作された。それぞれ機体形状からして全く異なるのは、別々のコンセプトモデルに基づいて作成された検証機である為だ。
これは、量産開始前に機体デザインや操縦系統の確定を意図した措置である。まず、全ての原型機と言うべきA-Typeはアラン・コリント少将のデザインである。先日、艦隊本部の主計士官達に披露されたのも、実はこのA-Typeだった。
A-Typeの仕上がりは上々だったが、実は大きな難点がある。宙兵上がりのコリント少将好みを反映した為か、必要以上に装甲が分厚い。これが大量製造に際してのコスト高の要因となり、量産開始の障害となっていた。
個々の機体で考えると、装甲が厚い方が生存性は高い。だが戦争全体に視野を拡大すると、一定の性能で数を多く揃えられる方が優れている。1機や2機のコンセプトモデルとしてなら費用の高さは許容されるかもしれない。しかし、今回の配備計画は大量生産が大前提である。高すぎるコストは、量産実現の為に看過できない問題と見做された。
この為、A-Typeについては早々に別の用途に転用する事に決まった。兵員輸送用のアサルトシャトルに改装しようというのだ。そうする方が、『輸送時の安全の確保』という宙兵の理想の具現化に近い。
その役割は限りなく
異なるコンセプトモデルを策定してスターファイター計画を推進する為、アイローラ提督とコリント少将の下からそれぞれパイロットを派遣する話に決まった。これは以後のスターファイター計画の進捗の為、実際の使用者に担当させたいというコリント少将の意図でもある。
アイローラ提督の〈エーテルゼルダ〉からはホーク中尉が、コリント少将の〈イーリス・コンラート〉からはユッタ中尉が選ばれた。これまで航宙軍に存在し無かったスターファイター搭乗に志願する士官はまだ少ない。この二人は互いに面識は無かったが、共に自分の駆る機体でバクスと渡り合う事を夢見てきた。謂わば同志ともいうべき間柄であり、両者共にスターファイター計画に全身全霊で取り組む覚悟でいた。
単艦で静止軌道から惑星に攻撃を加えるサテライト級など、バグスから見て仕留めやすい獲物でしかないのだろう。惑星重力から離脱する速度と相まって、バグスが〈パイオーン〉を目指すバグスは殺到と呼ぶのが相応しい程の勢いである。
しかしバグスのBG-I型巡洋艦が重力を脱する為に全力を尽くしている以上、攻撃や回避に割く推力は限られる。つまり、攻撃者視点ではその動きはとても鈍い。セリーナはバグスがこう動くと読んでいた。その為に、スターファイターを配置してあるのだ。
『スターファイター初の実戦、全員が貴方達に期待しているわ。』
投げかけられたセリーナの声に呼応したかのように、サテライト級の影から2機のスターファイターが姿を現す。〈パイオーン〉の護衛として配備された彼らは、データ収集用のスターファイターの
先頭をいくユッタ中尉のスターファイターはB-Typeと呼ばれる機体だ。この機体の特徴は火力に特化した事で、ビーム砲は回転砲塔式を2門採用している。
『
今まさにゼロワンからは4発の
惑星から離礁しようとしていた2隻のバグス艦はそのまま地表で破壊された。既に離昇した2隻はバランスを崩し、すぐに惑星の重力に捕まった。立て直そうとしても、全てが手遅れである。惑星の重力とは実に揺るぎない。
惑星の重力からの離脱は、安定した大推力でなければ不可能であった。被弾したバグス艦は高高度からバランスを失って失速する。そのまま重力に引かれて凄い速さで墜落してゆく。そしてあっという間に大地に激突し、火花を散らした。予期せぬ敵の出現に、被弾を免れた他のバグス艦も慌てふためいている。散会し〈パイオーン〉への攻撃の手が鈍った。
『ゼロワン、4隻撃破!』
望外の戦果に興奮したユッタ中尉が叫ぶ。
『ゼロワン、こちらゼロツー。残り12隻のバクス艦が現在も離昇中だ。まだ油断するな。』
そんなユッタ中尉をサポート役のホーク中尉が嗜める。彼らは今まさに命のやりとりをしている最中なのだ。ここで油断すると、次に撃破されるのは自分かもしれないのである。
『・・・了解、少し冷静さを欠いていたかもしれません、ホーク中尉。』
『良いんだ、お嬢さん。ベテランの俺は、ルーキのアンタを支援する為にここに呼ばれたんだからな。』
かつて〈エーテルリンク〉に所属していたホーク中尉は、自殺任務を拒否した事でコリンズ副長に疎まれていた。だからカース艦長の力を借りて〈エーテルゼルダ〉に転籍した。
そして今回のスターファイター計画の発動により、ようやく活躍の場を得た。〈エーテルゼルダ〉より〈イーリス・コンラート〉に転属が決まったのだ。それは最高のスターファイターを開発する為のテストパイロットとなる為である。
『了解。こちらは次弾装填にかかるわ。』
『よし。それでは俺が前に出る。』
ユッタ中尉とホーク中尉は意思を伝えあう。ユッタ中尉のB-Typeは次弾装填に時間がかかる。そしてホーク中尉の駆るスターファイターはC-Type、火力は最小限にしたモデルだ。
C-Typeは
今回の作戦ではアタッカーを火力偏重のB-Typeが務め、その護衛を速度重視のC-Typeが務める。これも全て機体データの収集の為だった。異なる特性を伸ばしたモデルをテスト運用する事で、量産機に採用すべき特性を洗い出す意図である。
火力重視のB-Typeはホーク中尉の意見を元に、速度重視のC-Typeはユッタ中尉の意見を元に作成されている。それぞれ発案したのとは異なる別の機体を操作しているのは、発案者以外のパイロットで機体の挙動を見る為だった。設計者に使いやすい機体なのは、ある意味では当然だからである。兵器としては、第三者に適していなくては意味がない。
ホーク中尉のC-Typeが衛星軌道に上ったバグス艦の一隻に
回転式の発射筒を採用する事で、ほぼタイムロスを知覚する事無しで次弾を発射できた。何故だかこの仕組みを、〈イーリス・コンラート〉ではリボルバー方式と呼称している。
対するB-Typeは
実際に戦いながらこうして比較してみると、両者の違いがよく分かる。装填が高速な事は、同時発射可能であるより遥かに恩恵が大きい。つまりC-Typeが採用したリボルバー方式は量産機への採用を推せる要素である。
『当たりだな、この機体。』
ホーク中尉は満足する。連発して
『こちらゼロツー、1隻撃破した!』
この戦果はB-Typeが挙げたこれまでの戦果、離昇中や地上のバクス艦の撃破とは異なる。戦闘状態の敵と対峙し、渡り合った上での正面からの真っ向勝負を簡単に制しての撃破である。正に今後のスターファイターの可能性を示唆する成果だった。
『こちら〈パイオーン〉、こちらからもバグス艦への砲撃を開始する。スターファイター各機は、本艦の射線に立ち入らぬ様に注意せよ。』
味方機にそう警告を発すると、〈パイオーン〉が回避機動をとりながらバクス艦への迎撃を開始した。ちゃんと戦術画面を見ていれば、言わずとも自然に伝わるはずの話ではある。しかしスターファイターの奔放な飛び方を見るに、パイロットには戦術画面に目を向ける余裕すらないだろうとシェアリング艦長は判断したのだ。
スターファイターという要素を含めた戦術運用はまだ手探りの状態なのだ。上手くいっているような見える時こそ、落とし穴がある。シェアリング艦長が航宙軍で培った経験は、こういう落とし穴の回避に役立てられている。やや後ろ向きな用途で目立ちにくくはあったが、不注意による事故が起きないように老練な指揮するのは若者には難しい。経験者の特権ではあるだろう。
戦況は極めて有利だった。本来戦力的には劣るはずのサテライト級一隻とスターファイター2機で、16隻のバクスのBG-I型巡洋艦を相手に対等以上に渡り合っている。
ビーム砲と
〈イーリス・コンラート〉の艦橋では、セリーナとシャロンがスターファイターとサテライト級の戦いぶりを見守っていた。
「シャロン、バグスのBG-I型巡洋艦は残り4隻までこちらの主砲で減らしましょう。それでも味方が危ないようなら、適宜介入して。タイミングは任せるわ。」
「了解。4機程度なら、次の攻撃でユッタ機が全て仕留めそうね。」
シャロンが主砲を操作して、味方の攻撃対象外の適当なバグス艦から撃破を開始する。〈イーリス・コンラート〉の現在地は惑星より遥かに遠い。惑星から離昇したばかりの新手のバグス艦にとっては、所在不明の敵からの攻撃となるだろう。
バクス艦は〈イーリス・コンラート〉の遠距離射撃という予期せぬ攻撃に慌てた様子だった。なんといっても、〈イーリス・コンラート〉の主砲は攻撃対象からすると謎のエネルギー波でしかない。だが、人類の艦に肉薄するバグスは攻撃を受けない。バグスはその事実から、『これは人類による攻撃だ』と正確に見抜いたらしい。やはりバグスは単なる魔物とも違う。思考する怪物なのだ。
バグスは彼らが認識する唯一の人類の航宙艦である〈パイオーン〉に殺到した。それら生き残りの4隻のバクス艦と〈パイオーン〉の間に、2機のスターファイターが横から割って入る。
絶好のタイミングだったが、ユッタ中尉の駆るB-Typeは
対してホーク中尉はすれ違い様に別々の艦に2発命中させた。〈パイオーン〉がこの被弾した敵を引き取り、動きの鈍った2隻にとどめを差してバクス艦は撃破される。やはりリボルバー式で
残る2隻は標的を変え、ユッタ中尉の駆るスターファイターに肉薄する。彼女のスターファイターと交差するこのタイミングを狙っていたのだろう。バグスの放つビームと、そして多数の砲弾蟲がユッタ機に降り注ぐ。B-TypeはC-Typeより見るからに遅い。だからこそ狙われたのだ。
襲われたB-Typeは、回転砲塔式のビーム砲を煌めかせて肉薄するバグスの砲弾を迎撃する。このビームの回転砲塔の真価は、迎撃の射線を自在に確保できる点にある。ビーム砲の攻撃対象は、進行方向に固定されてはいないのだ。
細かな飛翔物の迎撃は人間の反射神経の手には負えないが、AIによるフルオート射撃で命中率は担保されている。苦もなく命中する軌道の敵弾を全て撃退してみせた。
一方のホーク中尉の機体のC-Typeには、回転砲塔は備えられていない。ユッタ機を追尾するホーク中尉は、全ての蟲弾をスターファイターの機動力と操縦技術で回避してみせた。
2機のスターファイター共、なんとか無事にバグスの反撃を切り抜けた。再び旋回したユッタ機が敵の攻撃を引き付ける。両翼の回転式ビーム砲でバクス艦の放つ蟲弾を全て喰い破る。
そこにホーク中尉の駆るC-Typeが
「なかなか、よくやるじゃない。」
セリーナがスターファイターの戦いぶりを賞賛すると、シャロンが得意げに言う。
「アランとイーリスお姉様がA-Typeの基礎設計したのだもの。スターファイターは全てそのバリエーションモデル。これくらい出来て当たり前だわ。」
「それぞれ活躍に繋がった長所もあったけれど、共に欠点も見えたわね。」
「ええ、ユッタが4発同時に
セリーナの言葉に反応して、シャロンがユッタの失敗を手厳しく指摘する。ユッタ機の戦果は4隻。ホーク機の戦果は3隻と共同撃破が2隻である。
B-Typeの火力は優れているが、使い所がかなり限定される。8発搭載した
ホーク中尉は腕が良いが、だからこそ彼の考案したB-Typeの
「装填が遅い為に、4発を同時に撃とうとして発射のタイミングがシビアなんだと思う。離昇前のバクス艦の撃破には最適かもしれないけれど、それだと用途がニッチすぎる。量産はできないわ。」
次弾装填がスムーズなC-Typeの方が遥かに使い勝手が良い。1発1発撃つ方が、命中もさせやすい。
「でも、B-Typeの回転砲塔をAIと組み合わせるのは攻防において極めて優秀だった。帰還してデータを分析してみないと断言出来ないけれど、B-Typeが浴びせられた攻撃を全て凌げたのは回転式砲塔のおかげでしょうね。」
セリーナの言葉にシャロンは頷いた。
「そうね。今回の成果から量産機はB-Typeの回転砲塔にC-Typeと同型の
『〈イーリス・コンラート〉、こちら〈パイオーン〉のシェアリング少佐。惑星上の飛行種の大半は駆逐した。こちらは地上の残敵の掃討に移る。』
『了解しました、〈パイオーン〉。こちらも
「了解した。支援する。」
『貴艦の支援に感謝します。』
〈パイオーン〉はバクス艦が全て撃破された後、瞬時に惑星上のバグスの殲滅を再開したらしい。状況を確認したセリーナは、新たな指示を下した。
『
宙兵を分散させた3機の
〈イーリス・コンラート〉が用意したワームホールを
マリーはユーミ、カーヤ、ユッタの妹で漸く少尉に任官した所だ。研究活動に従事させられていた事も理由ではあるが、実技の成績がこれまで芳しく無かったのだ。少し成長して、なんとか最低基準をクリアして滑り込んだ形である。
「えー、私が実戦なんて。」
マリーは年齢的なこともあって実戦は初である。それを考慮して第二線での配備とされているが、本人の士気は低かった。敬愛するコリント少将が見ていてくれるなら奮闘したかもしれないが、残念な事にこの場にはいないからだ。
『マリー少尉、私語は慎みなさい。』
『は、はい。すみません。』
セリーナが手厳しく叱責する。この場には自分達だけではない。友軍にもマリーの声は中継されてしまっているのだ。アランの留守を預かる身としては、なんとも恥ずかしい次第である。
「大丈夫よ、みんな上手くやるわ。」
シャロンが苛つくセリーナを気遣い、そっと声をかける。なんだかんだ言って、この双子は仲が良い。
「ええ、分かってる。私達はまだこんな所で立ち止まれないもの。」
バグスとの戦いは人類に課せられた使命であり、アランの元に航宙軍を再建しつつある今となってはセリーナとシャロンの目標にもなっている。それは繁殖や人類の幸福への寄与に並ぶ三大要件の一角である。
「なら尚のこと、イライラしないの。一人で抱え込まない。」
シャロンには分かっている。今はアランがいない。だから留守を任せられたセリーナは気負いすぎているのだと。だがアランが後を任せたという事は、『この二人なら問題なくやれる』とアランが判断したからでもあるのだろう。シャロンはその点、ひどく楽観的だった。そしてシャロンがいる限り、セリーナにばかり負担をさせるつもりは毛頭なかった。
▫️惑星アレス オンフルール▫️
惑星アレスで政務に邁進する俺はルミナスと別れた後、フェアファクス卿と面会する為に〈天空城〉でデグリート王国の大陸領を訪れていた。リアを待たせているのは分かっていても、要件を先に片付けなければなかなかすぐに戻れない。
鉄道網が開通し、大陸の西側は様変わりしていた。オンフルールは、今はサテライトのメンバーを代官として派遣したコリントスを経由してアレスに至る重要な大都市として繁栄の中にある。
フェアファクス卿も、今は大陸侵攻軍の責任者ではなくアレスとの連絡役という側面が強まっていた。魔道通信機で予告していたからだろう、部下を引き連れて盛大に出迎えてくれた。
「閣下、お越しいただけるとは恐縮です。お呼びいただければこちらから出向きましたものを。」
「お願い事をするのに、足を運ばないわけにもいかないでしょう。」
「人類スターヴェイク帝国は我らの盟主です。何なりとお命じください。」
わざわざ足を運んだ甲斐はあったようだ。俺が訪問した事で、部下に対しての威厳が増しでもしたのだろうか。フェアファクス卿は上機嫌である。俺に尊重される重要人物という評価は、彼の仕事をより円滑にするのだろう。
未だ婚姻を果たしてはいないが、フェアファクス卿の娘のエヴリンとは婚約関係にある。彼女と結婚すればフェアファクス卿も舅の一人となる。今日の来訪にはその件についての話し合いも含まれている、そう彼は承知しているのだろう。
「本日お伺いした要件は2つあります。」
「はい。」
「これはまだ内々の話ですが、我が祖国で私の大陸統治について承認されました。祖国からも指図されない、独立した君主という位置となります。今後の関係性は協議していきますし、同盟関係を結んで互いに支援しますが。」
これは嘘ではないだろう。人類スターヴェイク帝国は、人類銀河帝国ではない独立した同盟国なのだから。
「おお、それはおめでとうございます。遂に閣下は皇帝位に即位されるのですな。」
フェアファクス卿も笑みを浮かべる。俺が初王国の王達の王、つまり大陸初の皇帝となる事は既に諸国から期待されている。奇妙な話だが、皇帝の下で各国王の地位が保全されることが望ましいと考えられているのだ。
デグリート王国は、王家の血筋でもあるエヴリンを次期女王として指名している。大陸統治者と新女王の婚姻は両国の自然な融和に繋がる。フェアファクス卿の狙いはそこにある。俺と娘が結びつく事で、彼の重要性はデグリート王国からも人類スターヴェイク帝国からもより高まるのだ。
「はい。一年後にアレスで俺とクレリアの即位式を行います。エヴリンとはそこで婚姻する事を、閣下にはお許し頂きたい。」
「それはもう、その為に娘をアレスのクレリア様の元で花嫁修行させているのです。こちらからも是非よろしくお願いします。」
フェアファクス卿は満面の笑みを浮かべる。良かった。この調子だと、クレリアの皇后就任に対する横車はなさそうである。当日も喜んで参列してくれるだろう。
「式の日取りは追ってお知らせしましょう。さて次の要件ですが、実は我が祖国から難民を連れ帰りました。」
「なんと、難民ですと。」
俺はかいつまんで説明した。祖国が今、強力な敵と戦争している事を。
「私と部下が参戦した事で、戦況は有利に推移するでしょう。ただ、受けた被害の回復が急務です。そこで、デグリート王国をはじめとした諸国には難民を引き受けて頂きたいのです。無論、全ての経費は我々が負担します。ただ彼らを預かり、清潔にして食べさせるだけでいい。彼らには、のんびりと静養させてから母国の復興に従事させます。いかがでしょう、お引き受け頂けますか?」
フェアファクス卿は胸を張った。
「おう、そのようなお話ならただお命じくだされば良いものを。我らデグリート王国の民は皇帝となられる閣下と共にあります。喜んで、その任務をお引き受け致しましょう。」
今回は短めとなりました。
スターファイターについてなど、内容も複雑かもしれません。その辺りは時間がかかりました。また、自宅の光回線のONUが経年劣化で壊れてそちらに時間を取られておりました。もう少し色々展開したかったのですが、次回に持ち越しとなります。