魔鎧戦綺レイジョーガー VS 異世界   作:クサバノカゲ

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魔戦士の鎧

 時間は普段(いつも)の速さで流れ出す。

 

 ギィン──と高音を響かせて、アズライルの振り下ろした剣は私の肩を覆う装甲に弾かれ、刃の半ばであっさり折れた。

 その切っ先は回転しながら彼自身の顔面を襲う。

 

「ほう、これは」

 

 無造作に首を傾げてかわしたアズライルは、続けて飛来するミオリの投じたナイフたちも、半分の長さの剣で易々(やすやす)と叩き落としていく。

 

 その隙を突いて、私の右腕がひとりでに動く。

 あの優しい声が『いまは任せて』と囁いた気がした。

 拳は固く握りしめられ、彼の胸の真ん中に向けて凄まじい速度の正拳突きが放たれる。

 

「おもしろい! おれを殺してみせろ魔戦士の(すえ)!」

 

 不敵に笑って折れた剣を放り捨てたアズライルは、迫る黒き鉄拳の一撃を、重ねた両掌で受け止めた。──額の擬神化(チート)魔紋が、激しい輝きを放っている。

 

 手甲の内部から放出され、魔戦士の鎧を形成した魔力は、おそらく緊急用の蓄魔器(コンデンサ)のものだろう。

 それは過去に手甲を使った誰かの魔力の残滓。

 誰かが誰か(・・)は、今は置いておく。

 

 重要なのは、そう長くは()たないだろうということ。

 長引けば、不利なのはこちらだ。

 

「……なんだ、この程度か?」

 

 失望したように吐き捨てる彼の目は、しかしそこで驚愕に見開かれる。

 受け止めた私の黒い鉄拳が、凄まじい勢いで発射(・・)されたから。

 

 ──は!?

 

 いわゆるロケットパンチだ。 

 というか、いちばん吃驚(びっくり)したのは私だ。肘のあたりで突然に爆発が起き、私の右手を残して魔黒手甲(マガントレット)だけが射出されたのだ。

 特撮にもたまに登場する武器だけど、まさか自分の手からそれを放つことになるとは思いもよらなかった。

 

 その威力たるやすさまじく、アズライルの両掌を胸にめり込ませがら全身を吹き飛ばし、一瞬後にはお仲間(ジブリール)が寄りかかる壁の隣に(はりつけ)にしていた。

 

「……やって……ゲボッ……くれたな……」

 

 咳き込んだアズライルの口元から鮮血がこぼれ、足元に黒い手甲が転がり落ちる。

 ほぼ同時に、私の全身の装甲はすべて紫炎となり、散華するように消えた。

 

 ──ミオリ、お願い!

 

 最高の姉で侍女で忍者である彼女は、私が口に出すまでもなく、手甲を取り戻さんと前傾姿勢で駆け出(ダッシュ)している。

 

「まあいい、必要なものは手に入った」

 

 対して、すでに魔鎧を解除したジブリールは、無事なほうの左手で懐から黒い鍵状の物体を取り出していた。

 なんらかの魔具だろうそれを膝立ちで足元の石床に突き立て、鍵穴があるかのようにくるりと半回転させる。

 

「ミオリだめ、戻って!」

 

 嫌な予感に突き動かされ私は制止の言葉を上げる。

 応じて急停止したミオリのつまさき数ミリの位置まで、黒い円形の()としか形容しようのないものが、ジブリールの足元を中心にして床に広がっていた。

 

 帝国から来た男二人と、足元に転がった魔黒手甲(マガントレット)は、泥の沼に沈んでいくようにズブズブとその黒穴の中に吸い込まれていく。

 

 ここは地下室で、それより下の階はない。しかし私には察しが付いた。

 それが、()()()()()()に使われる禁呪「転移門(ゲート)」であること。

 黒穴の下は地中でなく別の空間──おそらく帝国領のどこかに繋がっているのだろう。

 

「あとは()までお預けだ。待っているがいい、そのときこそ──」

 

 ジブリールの口にした「次」こそが、あの襲撃の日になるのだろう。

 そして見る間に肩まで沈んだ赤髪と蒼髪の二人は、それぞれに狂笑と、不敵な笑みとを浮かべ、同じ意味の台詞を吐いた。

 

貴女(アナタ)は、私の実験体( モノ )だ」

「おまえは、おれの獲物(モノ)だ」

 

 ──なにやら、すごくモテているような気がする。すこしも嬉しくはない。

 

 互いの言葉に憮然として睨み合ったまま彼らは地中に消え、黒穴も滲むように消えて、元通りの石床だけが残る。

 

 私の左手にはお母様の紫水晶(アメジスト)

 右手には、奪われた魔黒手甲(マガントレット)一部(パーツ)だろうか、唯一残された黒い円筒形の魔具(なにか)が、無意識のうちに握りしめられていた。

 

 ずっと張り詰めていた糸が、ぷつんと切れる。全身からすべての力が抜け落ちる。

 駆け寄ったミオリの優しい腕のなかで、私の意識もまた黒い闇へと沈んでゆく。

 

 もしかして、次に目覚めたときには見慣れたアパートで、ぜんぶが夢で、日常に戻っていたりしないだろうか。消えかけた意識のなか、私は思っていた。

 

 ──でもオタクとして、夢オチは好きじゃないんだよなあ。

 

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