魔鎧戦綺レイジョーガー VS 異世界   作:クサバノカゲ

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試整零型《プロトゼロ》

「──うん、確かに手甲(ガントレット)と同じ組成だね。鎧を緊急発現させた畜魔器(コンデンサ)という可能性あるが、それにしては保持性の追求が不自然。まるで、なにかの()()持ち手(グリップ)のようだ」 

 ミオリの座っていた椅子に腰かけ、謎魔具を左見右見(ためつすがめつ)しながら、すっかり魔学者の顔になって父は言った。

 

「これは僕に少し貸しておいてもらえるかな。研究資料(データ)は奪われても、脳内(ここ)にちゃんと残っているからね」

 そして誇らしげに自身の額を指し示す。

 対する私は、話を逸らすことに成功してようやく胸を撫でおろしていた。

 やはり父は生粋の魔学者なのだなと、少し呆れつつも安心する。

 

 ちなみに私の体の痛みのほうは、とりあえず動かさなければ平気のようだ。

 力を入れると、特に胸から右腕にかけてが突き刺すように酷く痛むが、耐えられないほどでもない。

 

 かつて週一で通っていた駅前のカルチャースクールの殺陣教室も、翌日はこのくらいの筋肉痛に襲われたもの。

 おそらくこの痛みもそれと同じで、急激に魔力を放出したことによる「魔力痛」なのだろう。

「……それと、お父様にひとつお願いがあるのですが」

「なんだい? 僕にできることなら──いや、きみの望むことなら、なんとしてでも叶えてみせるよ」

 

 父は、真剣な眼差しを向けてそう応えてくれた。

 

 ()()は、アニメであの襲撃の日を見たときから浮かんでいたことだ。

 そして魔戦士(ダンケルハイト)の鎧を纏う経験を経たいま、私が運命に立ち向かうために必要なものは()()しかないと思える。

 

「──私に、魔鎧(マガイ)を作っていただきたいのです」

 

 敵には(それ)と同じ力で対抗する。

 (いにしえ)より、特撮におけるひとつの定石(おやくそく)でもあった。

 

 しかし、父は眉間に深々と皺を寄せながら答える。

 

「たしかに研究資料(データ)脳内(ここ)にある。でも残念ながら、魔紋を二次複製できるところまでは解析が進んでいないんだ」

「そう、なのですか……」

 

 私の相槌に頷きながら、言葉を継ぐ。

 

「ああ。だから魔玄籠手(オリジナル)がない状態では、魔鎧を新たに作ることはできない。……いま思えばジブリールは、最初から籠手を奪い去るつもりだったのだろう」

 

 だめなのか。私が私の力で運命をねじふせるには、それしかないと思ったのに。

 

「それにしても、きみはほんとうにエリーゼに──母さんに、似てきたね」

 

 だが父は落ち込む私に向かって、母の名とともに、なぜか今日いちばん穏やかな表情を浮かべている。

 そしてガウンのポケットから、手のひらサイズの黒い箱を取り出していた。

 

「きみの母さん──エリーゼは生まれつき体が弱かったけど、魔力と心のとても強い、そしてみんなに優しい人だった。それは、きみもよく知っているね」

 

 エリシャ( わたし )は、無言で大きくうなずく。

 

「幼なじみの僕は彼女に『うちの神遺物(レリック)を研究させてあげるから、私を強くする魔具を作りなさい』なんてことをずっとずっと言われ続けて……いつしかそれが、自分自身の夢にもなっていたんだ」

 

 父は穏やかに思い出を語る。ゆっくりと、箱の蓋を開けながら。

 

「彼女はいつも言っていたよ。強くなって、魔物や帝国から自分が領民(みんな)を守るんだってね。結局、完成まで待っていてはくれなかったけど……」

 

 そして開いた箱を私の方に、そっと差し出す。

 

「いま、きみが魔鎧(それ)を自ら望んでくれるなら、(ぼく)(エリーゼ)の夢を託そう」

 

 そこには鐵色(くろがね)鈍光(ひか)る腕輪が収められていた。

 どことなく、ジブリールの右腕にあった試製壱型(プロトワン)の赤い腕輪に似ている。

 

魔黒手甲(オリジナル)により近いこれは、ダンケルハイトの血族しか──つまり、この世できみしか使えないだろう。ジブリールも存在を知らない、これが最初(はじまり)の魔鎧」

 

 体の痛みも忘れて私が差し出した両手のひらに、父が置いてくれたそれはひんやり冷たくて、思ったより軽い。

 よく見ると、側面にはダンケルハイト家の鷲獅子紋(グリフィン)が刻まれている。

 

試整零型(プロトゼロ)星牙(ジョウガ)』──その纏装(てんそう)輪具(リング)だ」

 

 父の声は、誇らしげだった。

 

「ジョウ……ガ……」

「東方風のネーミングは僕の趣味だけど、試験運用(テスト)のときエリーゼは、こんな風に()んでいたな」

 

 片手を天に掲げた父は、優しく微笑みながら母の変身(すがた)を再現してみせてくれた。

 

纏装(てんそう)──零星牙(レイジョーガー)、ってね」

 

 

 

 ──翌朝。私はミオリともに、王都に向かう馬車に揺られていた。

 右腕にはもちろん、黒い輪具(リング)が輝く。

 

 その力を振るう機会は、思いのほか早く訪れる。

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