魔鎧戦綺レイジョーガー VS 異世界   作:クサバノカゲ

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衝撃的事実

 ──馬車に揺られる、王立学園への道行き。

 

 結局、丸二日間も欠席してしまった。

 とは言え学園は基本的に、学位認定試験にさえ合格できれば進級できるので、成績優秀なエリシャ( わたし )にしてみれば一日や二日はどうってこともない。

 

 何より、唯一の弱点だった魔力量不足が完全に解消された今となっては、学年三傑入りも揺るがないだろう。

 一位とは言い切れないのが、もどかしいところなのだけれど。

 

「エリシャ様、お体ほんとうに大丈夫なのですか?」

 

 向かいの席に座ったミオリが、きょう何度目かの問いを口にする。

 

「ええ、もう平気。たくさん寝たし、それに……」

 

 私は、右の手首の黒い纏装輪具(ブレスレット)を左手の指先でなぞってみた。

 昨日これを身に着けてから、痛みがだいぶ治まったような気がするのだ。

 

輪具(それ)には乱れた魔力を調律する機能も付いている。ただし母さん(エリーゼ)の魔力波長に合わせたものだから、もしきみにも効果があるのなら、きっと二人はそこも似ているのだろうね」

 

 ──(クラウス)の嬉しそうな言葉が蘇ってくる。

 

 ただ、浮かべていた表情はとても寂しげで。

 

「彼女がいなくなって、僕は絶望した。生きる意味を失いかけたよ。ほんとうはあの時……」

 

 彼は、なにか言葉をひとつ呑み込んでから、その続きを口にした。

 

「……僕が今こうしていられるのは、エリシャ、きみがいてくれたからだ」

 

 当時、私は私で哀しみに暮れていた。

 それを支えてくれたのは父ではなくミオリだった。

 そのことをほんの少し恨んだこともあったけれど、父は父で苦しんでいたのだと本人の口から聞けて、わだかまっていた小さな雲も晴れた気がする。

 

「ジブリールが声をかけてきたのは、そんな折だ。たしか学会に役員の辞退を申し入れに行った帰りだったな。僕の研究に以前から興味があったと、あの調子でつらつらと……同年代ということもあって、つい心を許してしまった」

 

 光景が浮かぶようだ。──って、ちょっと待っていま何かおかしなことを聞いたような?

 

「いまにして思えば、あれは偶然じゃなかったんだろうな」

 

 いやいや、そうじゃなく!

 

「──同年代、ですか?」

「ああ。ちょっと若作りだから、よく誤解されるそうだが」

 

 ちょっとどころじゃあない。

 どう見積もってもアラサーと思っていたのに、アラフィフ手前だったとは。

 たしかに言われてみれば()っすらとメイクをしているように見えたけれど、それにしても……。

 

「彼は王国の辺境伯だと名乗っていてね。はじめは、辺境警備兵のための装備を開発したい、という触れ込みだった」

 

 私の混乱を置いてきぼりに、父は話を進める。

 

「僕と彼女の夢が無駄にならず、民を守ることに使われるのならと、快く研究成果を共有した。けれど彼が試作品として設計したのは、民を守るより敵を殺すことに特化したものだった」

 

 それが、あの試製壱型(プロトワン)ということなのだろう。

 

「僕はそのことを指摘して、それ以上の研究成果の開示を拒絶した」

 

 ──そこで彼は、豹変したのだという。

 

 あとは私も知る通り、脅迫まがいの取引きを強要してきて、今に至るというわけだ。

「ところで、僕の位置からはっきりは聞き取れなかったけど、アズライル……(ライル)のことをジブリールは、そう呼んでいたね」

 

 そこまで話したところで思い出したように、父はあの蒼髪の従者についても言及する。

 

「はい。それに『閣下』と敬称を……」

「やはり、そうか。とても信じ難いことだが……いや、ここまで来たら常識にすがるのも愚かだな」

 

 続けて語られたのは、ジブリールの年齢以上に衝撃的なことだった。

 

「王立学園では習わないだろうけど、『アズライル』はアスラフェル大帝国を建国した初代皇帝の名だよ。つまり、そう名乗ることを(ゆる)された彼はおそらく」

「……まさか……」

 

 奈津美の話では、ゲーム内での彼は人気はあれど攻略対象ですらない、モブキャラに毛が生えた程度の存在だったはずだ。 

 

「帝国の皇太子──アズライル・アスラフェルなのだろう」

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