「貴公──何故その名を?」
目をかっ開いても美しさが損なわれることのない尊顔、単体ヒーロー作品の主演を張ったのち朝ドラ出演から国民的イケメン俳優に駆けのぼる姿が見えるようだ。
とか言ってる場合じゃない……!
「よもや、帝国の手の者か?」
剣の切っ先に別の、強い意志が灯るのを感じた。
とてもまずい。どうするのがベストなのか、考察するんだ。
「お待ちを、騎士様!」
割り込んできた声は、後方から駆け寄ったマリカのものだ。
「その方は、私たちを助けてくださったのです! そんな見た目だけど、きっと悪い人じゃない……はず!」
擁護してくれるのは有難いものの、微妙に歯切れが悪い。
やはり見た目が問題なのか、こんなにもかっこいいのに。
まるで、魔戦士ダンケルハイトのように。
しかし、実はそれが
我が家に伝わるおとぎ話や書物では、魔戦士《ダンケルハイト》は「寡黙で不愛想だが誰よりも優しく強い、聖騎士の好敵手にして相棒」となっている。
けれど王国全体から見れば、それは「異説」になのだ。
誰よりも強く、身の丈は常人の倍ある巨魁、そして粗暴な荒くれもの。
聖女に横恋慕して、彼女に気に入られるためだけに戦う
何か落ち度があればたちまち「だからダンケルハイトは」と陰口が飛び交うことになる。
だからこそ
「……しかし本人が
──いやあ、それはさすがにまずい。
『この無礼な男、
そのとき耳元に、囁き声ながら本気が伝わるトーンで、姿のない
って、いやそれは待って待って。私は内心で焦りつつもゆっくりと首を振る。
そして、どうすべきかを決断した。
「フッ、思い上がるなよ若造が」
精一杯の
大丈夫、体はもう元通りに動く。
ならば、生身の彼に
「くっ……!?」
両手に持ち替え全力を込めても微動だにしない剣に、さすがに焦りの色を見せるリヒト。
「我が目的はその
「えええっ!?」
とてもいいリアクションをするマリカちゃん。
「では、きみが報告のあった『奇跡の聖少女』マリカ・マリリア?」
「奇跡とかなんとかは知らないけれど、それは確かに私の名です」
リヒトの問いかけに応じるマリカ。
なんだか上手く話がつながった気がする。
修正力も今は味方してくれているのかも知れない。
「──しかし貴公の聖剣の助力なくば、それも叶わぬところだった。ゆえにひとつ
宣言した私は、彼の剣先を握ったまま右腕を真横に全力で払う。
剣は折れない。教団の管理する聖なる魔紋で強化された「聖剣」だ。そして彼は決して剣から手を離さない。
結果、彼の体は剣を追ってふわりと浮かび上がっていた。
「──さらばだ、また逢おう」
そう告げて右手を離した。
リヒトは「ぬおお!?」という声と愛剣とともに軽々と宙を舞い、ゆるやかな放物線を描いて水田の真ん中に頭から突っ込んでいった。
さすがに少し
そこで、いつの間にか私の
もうもうと拡がる紫色の煙が、一瞬で周囲の視界を覆い尽くす。
「こちらです、エリオット様!」
煙のせいで先ほどの囁きの術が使えないのか、直接に名を呼ぶ影狐に手を引かれるまま、私はその場を後にする。
「エリオットというのね! 今日は助けてくれて、ありがとう!」
マリカのよく通る声が背を追いかけてくる。本当にいい子だ。
そして偽名を決めておいて良かった。影狐──ミオリはいつも頼りになる。
ちなみに村内にいた数匹の
おそらくそれが
少なくとも人命に関わるような被害は防ぐことができた、とのことだ。
──
私は
ただ、この世界が本当に「ゲームの中」なのか、という点には疑問もある。
まずこの世界は完璧に「実写」だ。
人々はゲームの二次元キャラではなく、しっかり人間としてそこに存在している。
ここがゲームの中だと仮定すると、そこに大きな違和感があった。
シリーズものの特撮では作品世界の垣根を越えたヒーローの
その中で、たとえばひとつの作品の世界が、別の世界からは書籍やテレビ番組のような「
だからきっと
それが何らかの理由で、ゲームという形を借りて、互いに干渉しあっているのではないか。
──私は、そこに巻き込まれてしまったのではないか。
「エリシャ様、そろそろ王都です」
「ええ……」
たっぷり
確かめようはない。
けれど自分が、そしてこの世界に生きる人々みなが、誰かの作った物語の登場人物として筋書き通り操られているだけだと思うより、その方がずっといいだろう。
私が立ち向かうのは、ゲームの
右腕の
魔戦士ダンケルハイトと、
そうだ。どんな破滅フラグが立ちはだかろうともこの私──レイジョーガーが、鋼の魔拳でねじふせる!
車窓には王都の街並みと、その向こうにそびえる白亜の城が垣間見えた。
──そこが、あの
「ねえ、ミオリ」
「どうなさいました、エリシャ様?」
とは言えだ。むやみに「修正力」を発生させて状況を悪化させるのも、また悪手だろう。襲撃の日までは、どうにか平穏な学園生活を送りたいものである。
「これからも色々あるかも知れないけど、どうかよろしくね。頼りにしてますわ」
「そっそれはもちろんです、このミオリ・アイゼン、エリシャ様の侍女としても忍びとしても、そそそれからあああ姉としてもっ、全身全霊でお支えさせていただきます!」
「うん、ありがとう、でも自分のことも大事にしてね……お姉ちゃん?」
ちなみに彼女が今日、同行しているのは、王立学園への編入手続きのためでもあった。
もともとその予定はあったのだけれど、ここ数日のいろいろで、私の護衛の意味もありそれを早めることにしたのだ。
おそらくこの程度は、修正力の影響外だろう。
「あ、でも学年は上になるから、校内じゃミオリ先輩って呼ばなくちゃ」
車窓を見ながら話していた私は、そこでミオリの反応がないことに気付き、彼女の座る向かいの席に視線を向け──そして、ギョッとするのだった。
「ッ!? ど、どうしたのそれ?」
彼女はなぜか、いつものクラシカルメイド服の顔部分だけ、影狐のときの黒狐面をつけ、口元もマフラーで覆い隠していた。そしてよく見ると、肩がぷるぷると震えており、微かに声が漏れ聞こえてくる。
「……はぅ……おねえ……ちゃん…………せん…ぱい……」
「ミオリ! ねえ、大丈夫!?」
「……はひ……どうか……お気になさらず……」
「いや、気になるから!」
「うう、お許しを……」
彼女は苦しげに言う。
「いま私……とてもお見せできない
──とりあえず。校内でも普通にミオリと呼ぶことを、決意する私だった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
これにて魔鎧戦綺レイジョーガー第一部「誕嬢篇」、閉幕となります。
次回より物語の舞台は王立学園、その地下に広がる地下迷宮へと進んでゆきます。熱く燃える展開を保証しますので、どうぞお付き合いくださいませ!