魔鎧戦綺レイジョーガー VS 異世界   作:クサバノカゲ

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緊急事態

 エリシャが敢えて悪役令嬢を演じていた、ということは理解した。

 

 そうだとして、今の私は同じことをするべきだろうか。

 だって、自分だけを悪者に──犠牲にするなんて、結局あの悲劇的結末(バッドエンド)となにも変わらないじゃないか。

 

 ──ねえ、エリシャ。私達(ふたり)でもっと良いやり方を、探そう?

 

 私は自分の中にそう語りかけて、それから口を開いた。

 

「……そうね……すこし、やり方を変えてみようと思っていたの」

「ふうん? それは、どんなふうに」

「まだ考えてるところ。ただ、ひとつお願いがあって」

 

 (いぶか)しげに問いを返すユーリイの目を、まっすぐに見つめ。

 

「あなたにも、手伝ってほしい」

 

 そう訴えかけた。これは、賭けだった。

 

 ここまでのやりとりで、どうやら(ユーリイ)がエリシャを大好きだということはだいたいわかった。

 エリシャとしてはあまり認めたくないようだが、衿沙(おねえ)さんの目は誤魔化せないぞ。だからこそ、彼はエリシャの変化を敏感に感じ取って、別人とまで言い切ったのだろう。

 

「……えっ……」

 

 意表を突かれて固まる彼。まさかエリシャが──誰のことも信じない孤高の彼女が、自分に頼ってくるなどありえないと思っていたことだろう。

 

 彼はそのことを、別人だからと受け取るのか、それとも。

 

「……俺に、なにをしろって言うんだ? いや、まだ君をエリシャと認めたわけじゃない……けどまあ、話ぐらいは聞いておいても、いいだろう……」

 

 急に眼を泳がせながら、言い訳じみた言葉をもごもごと口にする。──そう、別人と受け取るか、それとも大好きなひとに頼られた嬉しさが勝るか、という賭け。

 

 結果は少なくとも、私の大敗けはなさそうだ。

 

「だから、それはもう少し考えさせて。けどあなたが協力してくれるなら、きっとうまくできると思うの」

 

 言って、ふわりと微笑んで見せる。それは心の底から、エリシャと衿沙の総意だった。

 第三王子であり、頭も切れる彼が味方になってくれるなら、これほど心強いことはない。

 

「……ああ……わかったよ。まだきみを、エリシャと認めたわけじゃないが」

 

 すこし私の微笑(かお)に見惚れてから、彼は言った。そしてふと思い出したように手をぽんと叩き、言葉を続ける。

 

「それともうひとつ。きみのお父様の話だ」

 

 言われてみれば、もともとそれで呼び出されたのだった。

 一難去ってまた一難か……と私が内心で頭を抱えかけたとき、唐突に、教室の外から何やら喧騒(ざわめき)が聞こえはじめる。

 数人が廊下を走っていく足音がして、私は驚いてそちらに目を向けた。

 それは本来、厳格な校則のもと絶対に禁じられている行為である。

 

 どうやら、何らかの非常事態が起きているようだ。

 

『エリシャ様。外から聞こえる声を拾ったのですが』

 

 姿なきミオリの囁き声が、耳元にそう告げる。

 

 つい先日、彼女のこういった遠聞・遠話は「風話(かざはな)」という忍術だと教えてもらったばかりだ。

 で、そもそも忍術とは何かと言えば、忍道具と呼ばれる専用の魔具(マグ)とその使用技術をまとめて体系化したもの──と、ここまでは話してくれたのだが、それ以上は門外不出とのこと。

 

『学園内に複数の魔物(マモノ)が出現したようです』

 

「──なんですって?!」

 

 想像以上のありえない話に、私は思わず声に出して聞き返していた。

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