三つ目の、最後の質問。その前に私は、ちょっと意地の悪い笑みを浮かべる。
「──え? 今のはきみが勝手に話したんだから、まだあと二つじゃない?」
『なっ……』
絶句する
「ふふ、冗談だよ。こちらにしても、そろそろ先を急ぎたい」
『……
「いいや、きみはそういう
『……早く、最後の質問をしろ』
否定しないことが、何よりの肯定だった。
「わかった。それじゃあ
そして私は、今度こそ最後の質問を口にした。
「──ほんとの名前を教えて欲しい」
沈黙が落ちる。マリカが首を傾げ、ラファエルも怪訝そうな表情を浮かべていた。
いちばん欲しかった情報は、すでに入手してある。
私が気になったのは、きわめて人間的な
しかし最初に「
『アリオス。そう、呼ばれていたこともあったな』
彼は名乗った。過去形で。
「アリオスか、綺麗な響きの名前だね。それじゃあ、いろいろありがとう」
私はどこにいるのかもわからない彼に丁寧に頭を下げ、感謝を伝える。
影狐もそれに習い、マリカは天井に向かってぶんぶんと手を振っていた。
ラファエルは、穏やかに微笑んでそれらを見ている。
「またね、アリオス」
そして私たちが、歩き出そうとしたそのとき。彼の声が足を止めさせた。
『待ってくれ』
「うん?」
『いや、なんでもない。ただその、気をつけ──』
その言葉を遮るように、影狐が片腕を斜め上に向けて払う。
「──曲者っ!」
空を裂いて飛ぶ一本の
それは石造りの天井に影のようにわだかまる赤黒い塊を刺し貫き──と思えば塊はぐにゃりと形を変えながら、石の隙間に沁み込むように消えていった。
からん、と
「おや、珍しい。
「陽光に弱いらしく地上では見かけないけど、小動物を捕えるくらいしかできない存在だから、スルーしても大丈夫だと思いますよ」
「なるほど、危険がないから私もぜんぜん気付かなかったのか。でも、気付いた影狐ちゃんはさすが忍者!」
うんうんと、二つ結びを揺らして激しくうなずくマリカである。
そしてそれきり、
「さてと」
歩きだしつつ、私はパーティの三人に、考えていたひとつの提案をする。
「マリカは、先を急ぎたいよね?」
「うん。できればすぐにいきたい。私だけなら、回復魔法を自分に使ってずっと走っていけるから」
しかし、さきほどの壁と化した
聖魔紋への異常適性。それこそが聖女の
とは言えひとりで特攻させるのはさすがに無謀すぎるだろう。性格的にも。
一応、
──当然、そんなリスクは冒せない。
「迷宮攻略のセオリーからは外れるけれど、パーティを二手に分けようと思う。マリカと影狐が道しるべを残しながら先行して、私とラファエルはそれに追従する」
そこで考えたのが、パーティ分割だ。
影狐がマリカに付いてくれれば安心できるし、道しるべの目印なんかは忍者ならお手の物だろう。
「なるほど! 任せて!」
満面の笑顔を浮かべ、前のめりに即答するマリカ。
「いえ! 私はエリオット様のお
「影狐、お願い」
「……御意」
影狐も渋々ながら承諾してくれる。
「
「そうですね。先遣隊は心配だけど、僕は体力がないし、きっとその
ラファエルの賛同をもって、私の提案は実行に移されることとなった。
「それじゃ、二人ともあとでね!」
「エリオット様、どうかお気をつけて」
同じ
その背中を見送った私とラファエルも、後を追って歩き出す。
アリオスの話では、このフロアに魔物はもういないはずだ。
「信用してくれて、ありがとう」
一息ついて、隣を歩きながら改めて感謝の言葉を述べる。
彼にとっては今日はじめて出会った年下の編入生に過ぎないはずの
やはり、このひとになら全てを話してしまっても──
「いいえ、礼には及びませんよ。きみはとても聡明で、そして
彼は優しく微笑みながら、言葉をつなげた。
「──そう、昔からね」
…………えっ!?