魔鎧戦綺レイジョーガー VS 異世界   作:クサバノカゲ

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最奥の巨怪

 私とマリカが最深部(そこ)に到達したとき、先行パーティはすでに壊滅寸前だった。

 

 長い下り通路の先に突如として開けた、王城の広間(ホール)もかくやの大空間。

 その奥側の半分は赤黒い液体──おそらくは魔瘴(ましょう)の並々と満たされた(プール)で占められており、手前側では赤黒い人型の巨怪が先行パーティの面々を蹂躙していた。

 

 大瘴鬼(オーガ)を越える巨体は、足元で聖剣を振るう金髪長身の男子生徒──リヒトの五倍近いだろう。

 魔物(マモノ)の常として頭部は口のみで目鼻耳はないけれど、側頭部から左右には猛牛の如き巨大な角が伸びている。

 

 (たが)えようなく、この巨怪こそ瘴牛鬼(ミノタウロス)だろう。

 その名は地下迷宮に棲まう牛頭人身の魔物として広く知られていたけれど、実際の目撃例はなくて、大災厄と共に歴史に埋もれた存在ともされてきた。

 ひょろりとしていた瘴鬼(ゴブリン)大瘴鬼(オーガ)系と違い、その肉体は分厚く筋骨隆々で、凄まじい威圧感を伴いそこに存在している。

 

「ひどい……」

 

 そう一言だけこぼして、マリカは躊躇なくその修羅場に飛び込んで行った。私も、手近に倒れて呻いている屈強な男子生徒に手を貸す。

 

「ああ、来てくれたのか聖女マリカ…… そちらは忍びの者か?」 

 

 私たちに気付いたリヒトが、瘴牛鬼(ミノタウロス)の剛腕から繰り出される打ち下ろしを盾でぎりぎりに逸らしながら声を上げた。

 それと同時に、丸太のような剛腕に聖剣の一太刀を浴びせている。相変わらず、隻眼とは思えない技の冴え。

 

「不甲斐ない、完全に私が判断を誤った。どうか彼らを、安全な場所まで退避させてくれ」

 

 こんな怪物と単騎で渡り合いながら、自分のミスを真摯に認め、そして自分以外の者たちのために助力を乞う。心技体とも、学園最高の騎士と呼ばれるに相応しい男である。

 

「──時間は、この命に代えても稼いでみせる」

 

 認めたくないけれど、エリシャ様が惹かれるのもやむを得まい。

 

安息地点(セーフポイント)から地上に緊急脱出通路があります。それと、ラファエル先輩もこっちに向かってます」

 

 神官(ヒーラー)と思しき白手袋の女生徒の、魔瘴に浸蝕された半身を浄化しつつ、マリカが手短に必要な情報を伝える。

 神官(ヒーラー)を回復させれば、そこからパーティの立て直しが可能になる。

 おそらく彼女は、そういうことを知識より直感で理解しているのだろう。

 

「やつの巨体では通路(ここ)までは追ってこれないはずだ。他の皆を、頼む」

 

 肩を貸して通路まで退避させた男子生徒が、痛みと悔しさないまぜの苦悶を浮かべながら懇願する。

 マリカが浄化した女生徒も、自力でこちらに向かってきていた。

 彼のことは、彼女に任せればいいだろう。

 

 あと二人。孤軍奮闘するリヒトのすぐ(そば)で魔術士の魔杖(マジョウ)に頼りながらふらふらと立ち上がった女生徒の元には、マリカが駆けていく。

 それを視界にとらえた私は、手前に倒れた細身の男子生徒の方に向かった。

 すぐ近くには大きな弓が落ちているから、おそらく弓士(アーチャー)なのだろう。

 私が走りながら弓を拾い上げた、そのときだった。

 

 ヴモォォォォォ──

 

 凄まじい咆哮が轟いた。

 空気を震わせる、とかいうレベルのものではなく、両肩を掴まれて揺さぶられるような明確な圧力を伴ってこちらの行動を阻害する。

 聴覚もしばらくは使い物にならないだろう。

 

 咆哮の主であろう瘴牛鬼(ミノタウロス)に視線を向ける。

 至近距離でそれを喰らったリヒトが、膝立ちになって聖剣に体重を預けている。

 しかし瘴牛鬼(やつ)は目の前の彼よりも、マリカと魔術士のほうに狙いを定めていた。

 

 ──瘴牛鬼(ミノタウロス)は乙女を好んで喰らう魔物という話もある。こちらの退却の動きに気付き、獲物を逃すまいと考えたのか。

 

 足元のおぼつかない魔術師に肩を貸しながら、地響きを上げ突進してくる巨怪と対峙するマリカは、聖なる光の壁を顕現させていた。

 

「なに、あれ……」

 

 通路の入り口、神官(ヒーラー)の女生徒が思わず治癒の手を停め呆然とその光景に目を向ける。やはり同業者でもあの聖套(ヴェール)は異常らしい。

 

「気持ちはわかるが、まずは彼らの治療を」

「あ、うん、そうよね」

 

 そんな彼女に、預けた弓士(アーチャー)を目で示しつつ、私は再び広間(ホール)に駆け出していた。いくら異常でも、あの瘴牛鬼(バケモノ)の一撃を受け止めることができるとは思えない。

 

 ヴモォォォ!

 

 巨体が咆哮と共に、頭部の双角を突きさすように光壁へと激突する。

 光壁には無数のひびが走り、次の瞬間、粉々に砕け散っていた。

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