魔鎧戦綺レイジョーガー VS 異世界   作:クサバノカゲ

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天より降る刃

 漆黒の魔鎧が全身を包み込む。

 その下で肌を覆う、先ほどまでの紐状(ワイヤード)ではない完全版素体(スーツ)のサポートで、私の体は羽のように軽い。

 そしてラファエルから託された魔力(ちから)が、体内にみなぎっていた。

 

「とう!」

 

 眼前に山の如くそびえる怪獣(ミノタウロス)の威容。

 振り下ろされる巨大な拳に向かって、私は跳躍する。

 額で紫に輝く第三の目(サードアイ)の攻撃予測は、真っ赤な滝のように降り注ぎ、私とマリカたちをまとめて飲み込んでいた。

 

 ──やらせない!

 

 みなぎる魔力を右腕に集約する。

 肘装甲から激しい紫炎(ジェット)が噴射され、跳躍がさらに加速する。

 溢れた魔力が紫の光となって腕全体、鋭角な肩装甲まですべてを包み、迫りくる巨拳に向けて一直線に向かってゆく。

 

零星(レイジョー)オオオ──」

 

 地上までは聞こえないだろうし、もういっそ聞こえていてもいい。

 自身を鼓舞する意味も込めて必殺技の名を叫びながら、ゼロ距離に到った巨大な拳の赤黒い表面に、紫光まとう拳を叩き込む!

 

「──(パンチ)ッ!」

 

 着拳(インパクト)の瞬間、凄まじい衝撃が腕から全身を駆け抜ける。

 漆黒に(よろ)われた私の拳は、数百倍はあるだろう質量差を覆し、巨拳を上方へと弾き返していた。

 

 しかし同時に、体は反発力で後方に激しく吹き飛ばされる。

 高さ的には建物の三階ぐらいだろうか、魔鎧が守ってくれるにせよ頭から落ちるのは嫌だなと思った瞬間──素体(スーツ)が自動で動き、両肘と踵からの紫炎(ジェット)噴射によって体は空中で半回転する。

 そのまま私は、マリカたちの前方に華麗な三点着地(スーパーヒーローランディング)を決めていた。

 

 ちなみに三点着地とは、片手・片足・片膝の三点で着地する(余ったもう片方の手には武器を持ったり見得を切ったりする)もので、海外のヒーロー映画によく見られるけど、原点は日本製アニメのヒロインである。

 

 ──などと雑学を披露している場合じゃないよね。

 

「マリカ、動ける?」

 

 たぶん声を掛けるまでもないのだけれど、一応聞いてみる。

 

「大丈夫! また助けられちゃったね!」

 

 声はすでに後方に離れつつあった。

 ちらり振り向くと、気を失ったリヒトの両腕をマリカと影狐(カゲコ)が左右からひっつかんで、下半身をずるずる引きずるように通路の方へ退避していくのが見えた。

 

「先輩ごめんなさい、擦り傷とかあとで治療するから」

 

 微かに聞こえたマリカの、それほど申し訳なさそうにも聞こえないリヒトへの弁明に苦笑しつつ。

 私は改めて、目の前にそびえ立つ巨体を見上げる。

 すでに体勢を立て直した怪獣(ミノタウロス)の、いっぱいに開いた両掌から伸びる幅広の攻撃予測は、私の立ち位置で交差し周囲を真っ赤に染めていた。

 掌で左右から挟撃して圧殺(ぺしゃんこ)、という算段か。

 

 広範囲過ぎてほとんど意味をなさない攻撃予測を一時解除(オフ)し、逡巡する。

 右か、左か、正面か?

 

『エリオット様、角の折れている側を!』

 

 そのとき耳元に聞こえたのは影狐の遠隔話法・風話(かざはな)だった。

 なんて頼りになるお姉ちゃんだろう。たしかに、怪獣(ミノタウロス)の側頭部、水牛を思わせる巨大な角は、左側だけが途中で折れたように短い。

 さらによく見れば、左肩から胸にかけてまっすぐ、周囲より一段どす黒い古傷のような痕跡が走っていることに気付く。

 

 ──そこか!

 

 私は迷わずそちら側に駆け出していた。

 その動きに反応し、私を握りつぶさんと迫る巨大な左掌の、柱の如き指の間をすり抜け広い手の甲に跳び乗り、そこから腕をいっきに肩まで()()()()()

 

 しかし辿り着いた肩の上で、私の視界が真っ赤に染まった。

 再開(オン)した攻撃予測が、左肩にとまった(わたし)を払い落とすべく巨大な右の手が迫っていることを知らせているのだった。

 

『──お任せを!』

 

 そのとき再び耳元に囁く影狐の風話(こえ)に続いて、高速で飛来した白い光の矢が怪獣(ミノタウロス)の手首に突き刺さる。

 

 全身を白い光の粒子に包まれた影狐が、前方に突き出した長剣──おそらくはリヒトの聖剣を、深々と突き立てていた。

 彼女が飛来した方角を見ると、マリカが例の光柱を前方に突き放った体勢で立っている。

 つまり、光柱(あれ)で影狐をミサイルのように射出したということ? なにその燃える合体技、いつ編みだしたの! ずるい!

 

 などと羨ましがるのは後回しだ。二人の作ってくれた隙を無駄にしてなるものか。

 霧が晴れるように攻撃予測の赤色が薄れ、色を取り戻した視界のなか、天井を見上げる。

 肩上(ここ)からなら天井(そこ)に届くことを確信した私は、直上に全力跳躍していた。 

 

 ──衿沙(わたし)エリシャ( わたし )になったあの日。

 はじめて魔黒手甲(マガントレット)を装着し、そして奪われたあの日。

 私の手には唯一、黒い円筒状の魔具(マグ)だけが残されていた。

 

 お父様の解析で判明したのは、それが魔戦士ダンケルハイトの愛剣である魔刀「黒逸(クロイツ)」の(つか)ではないか、ということ。

 つまり、それもまた神遺物(レリック)ということになる。

 しかし肝心の刃が存在しない、不完全な状態だった。

 

 今この零星牙(レイジョーガー)にはお父様の手によって、魔刀(そこ)に刻まれていた魔紋(マモン)が実験的に移植されている。

 

 私は、ラファエルに託された魔力と、温存していた自分自身の底力(まりょく)を合わせ、すべてを出し切るつもりで惜しみなく魔鎧の各部に注ぎ込んだ。

 紫の燐光が、全身を包んでいく。

 

 そして頭上に掲げた両手が天井に着いた瞬間、素体(スーツ)によって増幅(ブースト)された両腕の全力で、押し返す。

 落下に転じながら私は、その腕を胸の前で交差させる。

 同時に両肩の装甲が開き、肘部のそれを十本は束ねたような全開の紫炎(ジェット)が噴射された。

 

 腕力プラス紫炎(ジェット)噴射プラス重力。

 尊大に腕を組んだ私は、直下の怪獣(ミノタウロス)に向けて超高速落下する。

 初変身のとき一撃で瘴犬(コボルド)(ほふ)った尖踵(ピンヒール)兇々(まがまが)しき円錐を芯に、全身から紫の燐光が集約し、巨大な紫光の刃が形成されてゆく。

 

 そう、これぞ魔刀(クロイツ)が魔紋の力、名付けて必殺──

 

「──零星(レイジョー)断罪刃(ギロチン)ッ!」

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