魔鎧戦綺レイジョーガー VS 異世界   作:クサバノカゲ

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昏き底で

「──零星(レイジョー)断罪刃(ギロチン)ッ!」

 

 魔戦士ダンケルハイトが数多の魔物を斬り伏せたと伝わる、魔刀「玄逸(クロイツ)」──その魔紋(マモン)を宿す右脚の尖踵(ピンヒール)を芯に、顕現した巨大な紫光の斜刃(ギロチン)が、怪獣(ミノタウロス)の山頂じみた左肩にざっくりと喰い込む。

 

 必死の巨体がこちらに首をねじり、折れた角がぎりぎり真横を凄まじい勢いで薙いでいった。()()が折ってくれたのなら、感謝を捧げなくては。

 

 ──斬りっ、裂けっ!

 

 硬い皮膚に削がれた加速を補うべく、肩の紫炎(ジェット)噴射に最後の最後の魔力を注ぎ込む。尊大に腕を組んだ私の両肩で、応えた紫炎(それ)は煌々と輝きを増し、羽ばたく巨大な光翼(つばさ)と化した!

 

 ヴァオオ……ァアァ……ァ……

 

 咆哮を頭上に遠く聞きながら──レイジョーガー(  わたし  )怪獣(ミノタウロス)の左肩を貫いて体内を垂直(まっすぐ)に突き進む。左胸で心臓のように脈動していた大きな魔瘴(ましょう)の塊を穿(うが)ち抜き、何も見えない闇の中を、どこまでも落ちて行った……

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 ……体が、重い。視界が赤黒い闇で染まっている。

 

 魔力を使い過ぎたのもあるだろう。だが何よりの原因は、私の体が魔瘴の中に沈んでいるせいだ。

 

 見えてはいた。怪獣(ミノタウロス)の下半身が魔瘴のプールに浸かっていること。

 しかしその水面から下が何もないとは、考察が及ばなかった。つまり巨大な上半身だけが、魔瘴から「生えて」いる状態だったらしい。

 

 怪獣の腰の辺りで落下の勢いが削がれたところを、うまいこと地上に脱出できればいいなとか楽観視していた私は、まんまと魔瘴の(プール)の底に沈む羽目になったのである。

 

『まったく、本当に面白いやつだおまえは』

 

 すぐ(そば)から、声が聞こえた。

 

 ──アリオスくん。

 

 声になっているのかわからないけれど、私は彼の名を呼ぶ。

 

『絶対に倒せないよう設定さ(つくら)れた迷宮の主(ミノタウロス)を、倒すとは』

 

 呆れたように。そして、嬉しそうに。

 

『おかげで、迷宮の主(ダンジョンマスター)としての管理者権限を取り戻せたよ』

 

 誰かが私の体を、優しく抱き上げてくれるのを感じた。つづく上昇感。

 遠くから、私の偽名(エリオット)()ぶ声がふたつ、聞こえてきた。きっと、影狐とマリカだ。

 

『おまえの名前、エリオットというのか』

 

 赤黒い闇が、ぱっと光に転じる。魔瘴の中から抱き上げられた私は、赤黒い水面の真ん中に浮かんでいた。

 その水面が、まるで瘴粘(スライム)のように蠢いて人型に盛り上がり、魔鎧をまとった私を軽々とお姫様抱っこしているのだった。

 

 これは私の限りなく深読みに近い考察なのだけれど、このプールに溜まった魔瘴がすべて巨大な瘴粘(スライム)で、そこから小さく分裂した瘴粘(スライム)が迷宮の各所で状況を把握、制御していたのではないか。

 第二区郭で対話したアリオスの声もきっと、直後に見かけた瘴粘(それ)を介したものだったのだろう。つまりこの大瘴粘(メガスライム)こそ、迷宮に魔物を生み出しすべてを統括する迷宮の主(ダンジョンマスター)=アリオス、そのもの。

 

「私のほんとうの名前は、エリシャ……エリシャ・ダンケルハイト」

 

 うっすらと目鼻の面影が浮かんだ瘴粘(かれ)の顔を覗き込みながら、私は名乗る。きっとそれが、彼がアリオス・フレイザー()()()()()の姿なのだろう。

 

「……ダンケルハイト……」

 

 水面を滑るようにプールの端へと私を運びながら、彼は噛みしめるように言った。その声はもう加工(エコー)もなくて、張りのある少年のそれになっている。

 

「俺がまだ生徒(にんげん)だったころ、同級生にもおまえのように面白いやつがいた。体が弱いくせに、やたら正義感が強くて、賢くて……それから美人だったな」

 

 彼の腕からプールサイドに降り立った私は、駆け寄るマリカと影狐の方を見やりながら、その言葉を黙って聞いていた。彼が()()()()学園を自主退学したのが、約三十年前だという。つまり、それは。

 

「あいつ──エリーゼ・ダンケルハイトは、健在か?」

 

 ──アリオスが口にしたのは、エリシャ( わたし )のお母様の名前だった。

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