魔鎧戦綺レイジョーガー VS 異世界   作:クサバノカゲ

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仮面舞踏会【後篇】

 空には更にいくつもの黒円が出現していた。

 そこから同じ姿の、紅い魔鎧兵(レギオン)たちが続々と会場に降り立つ。

 

 会場の各所に配備されていた近衛騎士隊が、訓練通りの見事に統制された動作で斬りかかり、その刃をあっさりと装甲に阻まれる。

 そして次の瞬間には、いつかの私が騎士(リヒト)にしたように、圧倒的な力でねじ伏せられていく。

 そのたび会場は、怒号と悲鳴がないまぜの喧騒で包まれていった。

 

「──聖女様、私めの(うしろ)に!」

 

 舞台上、ひらり跳び乗ったリヒトが凛然と言い放ちながら、マリカを背にかばう。胸のどこかで、ちりりと羨望がくすぶるのを感じた。

 

 それらをぐるりと一瞥してから、ひとりテーブルに腰かけたままの私は、優雅に紅茶のカップを口元へ寄せる。ミオリが淹れてくれた、毎朝(いつも)の紅茶だ。咲き乱れる香りが心を落ち着け、頭は冴え渡っていく。

 

 ──いつもありがとう、ミオリ(おねえちゃん)

 

 別命を果たすべく、すでに傍らにはいない彼女に、心の底からの感謝を捧げる。

 

 あの日、アニメで見たこの日の光景を、脳内で幾度リプレイしたことだろう。そのおかげもあってか、私は自分でも意外なくらい平常心だった。──さて、そろそろかしら。

 

「いたぞ! こいつが侯爵令嬢だ!」

 

 暴力に酔い痴れた声が響く。重い足音と共に、五体の魔鎧兵(レギオン)が、椅子に掛けたままの私を取り囲んでいた。

 

「我らに従っていただければ、あなたの命()()は保証しましょう」

 

 装甲に金ラインの走る兵長用魔鎧兵(レギオン)が、私の傍らにひとり進み出て紳士的脅迫を発する。気持ち程度だけど、出力(パワー)が強化されているタイプのはず。

 

「そ、ご丁寧にありがとう。けれど、お断りさせていただくわ」

 

 私は悠然とカップを置きながら、丁重に、そして毅然と吐き捨てた。

 それを聞き届けると同時に、噴出した彼らの強烈な殺意が私の白肌を粟立たせる。

 複製時の魔紋の変質により量産型(レギオン)に発生した、装着者の残虐性を引き出すという副作用(デメリット)を、お父様は切除しようとしていた。

 しかしジブリールは、強き兵士のための副次効果(メリット)として残したのだった。

 

 残虐性(そこ)に火が着いたのなら、相手が生身の少女だろうと関係ないことだろう。あるいは、嗜虐心を更にかきたてるかも知れない。その無惨な結果を、私はこの目(アニメ)で見ている。

 

 ああ、それで思い出した。アニメを見て私は「特撮なら絶対に同じ技術で変身して反撃する展開なのに」などと、そんなことを思ったのだ。今まさに変身(それ)をせんとしているのは、空気の読めない勇敢な青年ではなく──悪役令嬢(わたし)自身なのだけれど。

 

 流れるような優雅さで椅子から立ち上がり、兵長用(レギオン)に向き合いつつ、私は右腕の黒い輪具(リング)を天に掲げた。この半年間で磨き上げた魔力を、そこに惜しみなく流し込む。

 

「──まさか、それは?」

「そのまさか、かもね」

 

 長い黒髪が紫の燐光をまとって背にふわりと拡がり、ドレスの裾がはためく。

 

纏装(てんそう)──」

 

 そして私は、運命に抗う力の()を、高らかに呼んだ。

 

「レイ!」

 

 紫の炎が全身を包み込み、燃え上がったドレスは濃紫の素体(スーツ)に再構築されて、私の肌を密に覆っていく。

 

「ジョー!」

 

 燃え盛る炎は凝結して黒い装甲となり、悪魔の如き姿を組み上げて。

 

「ガーッ!」

 

 最後に炎は散華するように消え、兇々しき漆黒の魔鎧(レイジョーガー)を纏って私は、そこに立つのだ。

 

「──どうなっている!? 王国に魔鎧は存在しないはずだ!」

「なんて禍々しい姿……それにこの凄まじい魔力は……」

 

 浮足立つ魔鎧兵(レギオン)たちの装甲から、スマホの振動(バイブ)めいた低周音が鳴り響きはじめる。

 

「これは……我々の魔鎧が……(おび)えているのか……」

「兵長、制御不良(エラー)が……!」

「落ち着け、相手は一人だ! 全員で掛かれば負けることは……」

 

 ジブリールの試整壱型(プロトワン)は、魔黒手甲(マガントレット)原型魔紋(オリジナル)の影響で自壊した。

 同様に、原型魔紋(オリジナル)に限りなく近いレイジョーガーの魔紋が、魔鎧兵(レギオン)魔紋(それ)に干渉して何らかの機能不全を引き起こすことも、充分あり得る。──お父様の、想定通りだ。

 

 じわじわと後ずさる魔鎧兵(レギオン)たちを前に私は、腰に手を添え優雅に、尖踵(ピンヒール)の一歩を踏み出していた。

 

「さあ──」

 

 そして人数も体格も此方(こちら)に勝る彼らを見下すように、ずっと準備してきた最高の決め台詞(ゼリフ)を言い放つ。

 

「──仮面舞踏会(マスカレイド)開宴(はじまり)よ!」

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