魔鎧戦綺レイジョーガー VS 異世界   作:クサバノカゲ

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魔刃の一閃

 ざん。

 

 ──余りにも薄味(あっさり)な音を響かせつつ、王妃様のドレス姿の首から上は、空中に()ねとばされていた。

 

「ふっはははっ! ざまをみろ!」

 

 鳴り響く耳障りなジブリールの哄笑のなか、空中を舞う頭部(くび)は放物線の頂点まで到ると──まばゆい閃光とともに、爆発四散する。

 

「はああ!?」

 

 続くジブリールの驚愕の声のなか、閃光が収まった地上では、メイド服姿がリヒトに手を引かれて地下迷宮の方へ駆けてゆく。

 騎士ルイゼも、そこにぴったりと付き従っている。

 

 それを見送ってから、首をドレスの内側に収納していた中身(わたし)は跳躍した。足元に抜け殻(ドレス)を残し、空中で藍色の忍び装束姿に転じて、黒い狐面を装着しながらマリカの傍らに降り立つ。

 

 ──忍法、虚蝉(うつせみ)の術。

 

 そう。ミオリ(わたし)のメイド衣装姿をしているのが王妃様、そして王妃様のドレス姿だったのが(ミオリ)だ。

 

 入れ替わったのは式典のはじまる直前の控室。お渡しした旦那(クラウス)様からのお手紙を一読してすぐ、「あら、面白そうね」と快諾されたのにはさすがにちょっと呆気にとられたけれど。

 

「おつかれさま、影狐(カゲコ)ちゃん」

 

 もちろん、マリカはお見通しだった。彼女の勘の鋭さは忍び(わたし)の隠形もあっさり上回る。影狐(カゲコ)ミオリ(わたし)であることもとっくに気付かれていたし、おそらくはエリシャ様のことも……

 

「……あー、やめだやめだ。皇帝陛下への手土産は、学園(となり)から女生徒(わかいこ)を十人も連れて行けばいいだろう」

 

 ジブリールは苛立ちを隠さない。レイジョーガーと激しい接近戦を演じている皇太子(アズライル)の魔鎧をちらりと一瞥だけして、彼の下知をあっさりと上書きする。

 その程度の忠誠心しか持ち合わせていないのだ、この男は。私やルイゼとはきっと、生まれ変わったとしても分かり合えないだろう。

 

「研究対象として面白そうな聖女(そいつ)だけでも捕獲しようと思ったが、もういい。さっさと全員、殺してしまえ」

「……その言葉、お待ちしていマシた……」

 

 続けて淡々と命じるジブリールに、応じた死神型(デス)の声は、地の底から響くような陰鬱さ。

 その手では、大きな弧を描いて戻った回転刃が長柄(シャフト)の先端に復帰して、再び大鎌となっていた。

 

「ひとの命を、なんだと思って!」

 

 マリカの怒りと共に振り下ろされた光の巨拳だったが、死神型(デス)の姿は蜃気楼のようにゆらめいて消え──次の瞬間には再び像を結ぶように、私とマリカの真ん前に出現していた。

 

「命は()()()()デスよ、お嬢さんタチ」

 

 紅い髑髏(ドクロ)を思わせる仮面の下、死神型(デス)が舌舐めずりするように囁いて──光が、一閃する。

 少女たちの首が二つ同時に宙に舞う、その代わりに、きょとんと見つめるマリカの前で死神型(デス)の大鎌が地面にゴトリと落ちていた。

 

「……え、なンデ……?」

 

 彼の疑問も無理からず。何せ大鎌の長柄(シャフト)は、彼の両腕の()()()()によって握られたまま、地面に落ちているのだから。

 

「大人しくしておきなさい。そうすれば、そこの聖女様がくっつけてくれるから」

 

 うんうんまかせなさい、と事もなげに頷くマリカを見上げつつ、両手の肘から先を失った死神型(デス)はその場にへたり込んでいた。右腕の装甲に内包されていた纏装輪具(リング)が切り離されたことで、魔鎧は急速に粒子化していく。

 

「──貴様、なんだ()()は」

 

 ジブリールの視線は私の右手に釘付けだった。そこに握られた、黒い円筒状の「剣の(つか)のような」物体──その先端から小太刀状に伸びた紫色の光の刃に。

 

 一閃したのは、この光刃だった。

 

「ありえない……魔鎧の装甲を切断できる魔具(ぶき)など、作れるはずがない……」

 

 ジブリールの述懐は決して誤りではない。

 私の手にあるそれは、お屋敷の地下での攻防戦の後、エリシャ様の手に残されていた魔具。レイジョーガーにその魔紋を組み込むことで解ったのは、刃が無いのではなく、刃を生み出す剣だということだった。

 

 ──魔刀「黒逸(クロイツ)」。神遺物(レリック)の光刃は、魔鎧の装甲をも断つ。

 

 それをダンケルハイトの血族ではない私が、小太刀サイズとは言え、なぜ扱えるのか。それは、定かではなかった。

 ただ、長きに渡ってお仕えしてきた我らアイゼン一族との間に、どこかで幸せな物語(ハッピーエンド)があって──それが今の私に大切な人(エリシャさま)を護る力をくれたのなら、これ以上に素敵なことがあるだろうか。

 

「ああああっ! くそっくそっ! なんなんだ!」

 

 そんな私の一瞬の夢想を、頭を抱え地団駄を踏み散らすジブリールの癇癪がぶち壊す。

 

「よしおまえ! そこから地下迷宮(ダンジョン)に潜れ! 逃げ込んだ王国民( ザコ )どもを皆殺しにして来いっ!」

 

 地下迷宮(ダンジョン)の入口付近で、王妃様たちを待ち受けている重装型(ファランクス)獣人型( コング )のうち、後者を指さして叫んだ。

 

 ヴォウッ!

 

 獣そのものな咆哮で応え、石碑の裏側に回り込んだ獣人型( か れ )は、体格との比率が標準の三倍はある巨腕で、台座を掴む。

 めりめりと異音を発しながら引き剥がされた石造りの隠し扉は、後方に軽々と放り投げられてしまう。

 

 そうして露わになった地下への通路に、首をすくめた獣人型( コング )が無理やり巨体をねじ込んでから、間髪入れずに。

 

 ──ヴォアアッ!?

 

 苦しげな咆哮と共に迷宮から転がり出て、白砂利をまき散らしながらのたうち回る。それはまるで、全身から何かを引き剥がそうとしているかのよう。

 よく見ると、彼の全身には不定形(ドロドロ)の赤黒い()()がまとわりついていた。その一部は顔面を完全に覆っていて、視覚と、おそらく呼吸も塞がれているだろう。

 

 顔面を激しく掻きむしって、ようやく地面に投げ捨てられた()()。そこへ、全身にまとわりついていた()()も全て合流して──見る間に形作られたのは、腕組みをして立ちはだかる赤黒い人型だった。

 

 言うまでもないだろう。地下迷宮(ダンジョン)を荒らすということは、すなわち彼を敵に回すことなのだから。

 

 ──迷宮の主(ダンジョンマスター)、アリオス・フレイザー。

 

 その心強さを受けて私は、初対面時に彼の顔を苦無(クナイ)で穴だらけにしたことを、今さらながら深く反省するのだった。

 

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