縦横同時に閃く手刀の光刃──その
「ぐッ……!?」
アズライルは驚嘆を漏らすと、仰け反りつつ後方へと退く。それによって刃は彼の胸まで斬り裂くことなく、装甲に大きな傷痕を刻むに留まった。
──この戦いで、あるいは敵の命を奪うことになるかもしれない。大切なものを守るため、その覚悟はしてきたつもりだ。
けれど彼の本性を知ったことで、あるいは無意識に手心を加えてしまったのだろうか。
いいや、そんなことを考えるのは全てが終わってからでいい。
アズライルの離脱で白刃取りから解放された右の光刃が、誰もいない空間を縦に両断する。これによって私の眼前には、紫光の軌跡が十字に浮かんだ。
光の十字架越しに、間合いを取って体勢を立て直したアズライルの
さらに後方ではこちらに背を向け、ジブリールの
計画通り、そして私が信頼していた通りにミオリ──
迷宮口に向かった四骸将の残る二体は、アリオスに任せよう。
地上で活動できるのは
奇しくも、地下迷宮の生みの親である魔学者がかつて目指したもの──魔物の力を使った王都防衛が、今ここで成し遂げられつつある。
歯車は噛み合っていた。未だマリカからリヒトへの「絶聖の加護」は片鱗も見えないけれど、それならそれで、このまま皆の力を借りて
そして私の眼前に煌めく
──
全身全霊の魔力を込めた右の正拳を、十字中央の光の交点に叩き込む。
私がオマモリのリミッターを外し、
あのとき私に力を貸してくれた、静かで凛々しくて、ひたすら優しい、まるでお母様のような
彼──伝承では常人の二倍もの巨躯を誇る暴れ者だったというそのひとは、本当はあの声の通り、知的で凛々しく優しい女性だったのではないか。
伝承が後の世に都合よく捻じ曲げられてしまうことは、ままある。そこにどんな思惑が絡み合ったのか、それはわからない。
ただ、彼女の
結果的に
十字の光刃は、拳から魔力と意志を受け取って、巨大化し加速しながら前進してゆく。
上端は私の背の倍にも伸びて空を裂き、下端は深く大地を穿ち、さながら地を這う巨大な鮫のように
これぞ最終必殺技──
その威容を目の当たりにし、胸から蒼い粒子をこぼしつつ転がるように退避するアズライル。
彼の姿を、いつからかこちらに向き直っていたジブリールは、無言で見下ろしている。
「そういえば、殿下のせいで大っぴらにガキどもに
言い捨てると同時にその背後から伸びた、紅くて長い蛇腹状の
「──ついでに、死ね」
迫る十字架の中心に、放り投げていた。
そのとき私は見た。粒子化する
それはきっと、
だから私は──
連動して横に傾いだ十字架の、中心からずれたアズライルの体は、光刃の端に灼かれながらも、地面にバウンドして転がり小さくうめき声を漏らす。
消えかけた魔鎧は、最後に彼を守ったのだろう。どうにか命は取り留めたようだ。
「ジブリィィィルッ!」
私はその名を叫ぶ。こいつの紡ぐ
胸の底から湧き上がる怒りを込め、より強く握った拳を、蛇の如き尻尾をくねらせ待ち受ける、その紅き魔鎧へと向けた。
「──さて、潮時ですかね」
余裕ぶる彼の足元から、漆黒の
私の想いを受けて、加速した光の十字架がジブリールの紅い魔鎧を呑み込む──
寸前。足元の
──それは私の渾身の魔力から成る光の十字架を受け止めると、ぐしゃりと握り潰すのだった。
そびえる黒い巨掌。その大きさ以外の何もかもが、奪われた