そのサイズだけが、何十倍にも巨大化していた。
呆然とする私の全身の装甲からは、紫の粒子がたちのぼっている。魔力はほぼ尽きていた。アスライザーとの戦いで負った損傷もある。魔鎧は装甲としての実体を、もう長くは維持できないだろう。
「……そん……な……」
駄目なのか。やはり私は
その間にも、黒い掌は
「
勝者側の決まり文句を放つジブリールが、庭園の中央に陣取って動かなかったのは、これを呼び出す準備をしていたからなのだろう。
ともあれ、奴のいやらしい笑みに歪んでいるだろう表情が、紅い兜に隠され見えないのはありがたい。おかげでどうにか冷静さを保てる。
「……ジブリール、きさま……
そのとき耳に微かに届いた、怒りを込め絞り出される言葉は、私の視界の端で必死に立ち上がる──途中で膝を突く──を繰り返している
しかし、ジブリールには聞こえていないのか
「あれは一体、何なの?」
あまり答えは期待せずアズライルに問いかけながら、私は
彼女の直感は、この存在をどう見ているのか。
レーダーは更新されなくなっているが、兜内側の視覚補助機能は正常に動いていた。
迷宮口の方では、アリオスが変幻自在の攻防で
そして王妃様の手を引くリヒト──いや、ミハイル王子は眼帯を剥ぎ取って、その手にした赤黒い槍で、巨大なハンマーを振り回す
ドリルのように、あるいは巨大な顎のように変形するその魔槍は、アリオスが自身の一部から創り出した特殊な武器だ。
アリオスが
だから、
ミハイルは、その提案を受け入れたのだろう。彼は未だ守ることを諦めていない。その姿に勇気をもらいつつ、私は視線を巡らせる。
ジブリールの足元の
驚くことはない、腕が二本あっても不思議じゃない。そう自分に言い聞かせながら、マリカを探す。
……いた。
涙を流しながら口元を両手で覆い、それは慟哭しているようにさえ見える。
私の知る彼女──どんな危険の前でも明るく笑ってみせたマリカの姿は、そこにはなかった。彼女さえ絶望するほどの存在だというのか。
「……
代わりに私の疑問に答えてくれたのは、アズライルだった。おぼつかない足取りで、しかし立ち上がった彼は、続く言葉を絞り出す。
「それと、俺の
黒い両腕で
「……なんですって……」
「言っただろう。
そして彼は、まるで汚物を吐き捨てるように
「その子たち──俺の
──それは魔戦士ダンケルハイトの残した「誰かを守るための力」への、度し難い冒涜だった。誰よりも私の中の
同時に私は理解していた。
「それを更に何重にも
最後に彼が付け足した言葉には、どこか自嘲の匂いがした。
その間にも、腕の数倍も逞しい後ろ脚と、長大な尻尾で支えられた黒い巨体は、二人の視線の先で悠然と立ち上がっていた。
爬虫類的な頭部には、左右にねじくれた角が並ぶ。その中央の広い額にジブリールが立っていた。彼の背丈と比較して、頭頂高はおよそ
「ところで、
「それを知って、どうする」
ジブリールの体が、足元の広い額にずぶずぶと沈み込んで、呑み込まれていく。やがて奴の紅い魔鎧の顔面が、ちょうど
──瞬間、左右三個ずつ並ぶ計六個の瞳に、禍々しく深紅の光が灯った。
そして巨体をぶるりと震わせると、背に畳まれた巨大な黒翼を、広げる。風圧とともに、どろりと濃密な魔力が、吹き抜けていった。
「呼び名がないと不便でしょう。これから、戦う相手に」
「ほう。何かあれに有効な策でもあるのか?」
「ええ、よく聞きなさい皇太子殿下。私の策はね──」
それは私がこれまで、数多のヒーローたちから学んだこと。
「──諦めないこと」
その言葉に、アズライルはしばし
そう、まだ諦めるわけにはいかない。私には守るべきものがある。あなたも、そうでしょう?
「……たしか、
巨翼を羽ばたかせ、庭園全体を突風に巻き込んで上空に舞い上がる、その名は──
「
かつてこの地を支配した魔物の王の名を冠されし、漆黒のドラゴン。天空より放たれたその咆哮は──どこか、子供たちの慟哭にも聞こえた。