雪のように降りしきる羽根のなか──
救い出した帝国の子供たちの前で、私は静かにたたずむ。
少し離れた場所から、満面の笑みを浮かべたマリカが親指を立ててきた。
笑って応えたかったけど、もう表情筋にさえ力が入らない。加護の接続が切れたのだろう、魔鎧は紫に光る羽根となって舞い散り、消えてゆく。
それとほぼ同時に、マリカもその場でよろめいて、駆け寄ったミハイルに支えられていた。
アズライルは、転がるように走ってきて子どもたちの傍らにしゃがみ込むと、寝息を立てる彼らを起こしてしまわないよう、声を押し殺しながら泣いている。
こいつはまったく、どこまでギャップを振りまけば気が済むのだろう。──とりあえず、あとでたっぷり感謝してもらおう。
遥か上空から落下したジブリールは、なぜか生き長らえたようだ。自分の身だけは守れる
ぼさぼさの紅い長髪を振り乱し、涙と鼻水を垂れ流しながら地面にこすりつけるその顔は、メイクが剥げたのか、それとも何らかの魔法が切れたのか定かではないけど、年相応か
これから彼には相応の報いがあるだろうが、なんだかもうどうでも良かった。
そして私の腕には、
参ったな、お父様とお母様に顔向けできない。そんなことを考える私の視界は、見上げてもいないのに、なぜか羽根の舞う青空へと移ってゆく。たぶんいま、力尽きて後ろに倒れ込んでいるのだろう。
当前のように支えてくれる影狐の腕の安心感のなかで、私は
……あり……と……
『……ありがとう……』
闇の中、声が聞こえる。
『あなたのおかげで、世界はようやく前に進む』
優しく凛とした声。魔戦士ダンケルハイトのそれだ。
『
それはきっと修正力の仕業なのだろう。……いや待って、
『あの場でエリシャが命を落とす展開のときは、加護を得た聖騎士によって
展開。巻き戻る。つまり、世界は繰り返されている? やっぱりここはゲームの中で……
『あなたには、ちゃんと話さなくちゃね。そう、ずっとずっと、ずっと昔、大災厄よりずっと前。魔紋に人間の心を複製して遺すという技術があったの』
そんな私の疑問に答えるように、声は語りはじめた。
『一人の天才的な魔学者がいて。当時は、魔物を自由に操るために
もしかして、それはあの地下迷宮を作った魔学者のことだろうか。
『私はその技術を使って、いつかの未来のために私──ダンケルハイトの心を
なるほど……
『
彼女は、巻き戻されるたび何度も何度もジブリールの手で帝国に持ち去られた。そう、私が目覚めたあの日こそ、繰り返しの始点だった。
『帝国によって苦しめられている人々のことも知った。それから愛しい私の
──そして、その果てしない繰り返しのなか、聖女だけが毎回、まるで別人のように振る舞っていることに気付いたのだという。
彼女は、魔学者の言葉を思い出しながら、繰り返す時間の中で検証を重ね、ひとつの推論を立てた。
この世界を天から操る
そして聖女の言動や魔力の
彼女はエリシャの救われる展開を望み、祈った。しかし、そう転びそうになると運命の力が──修正力が働いて、ぶち壊しにする。
『きっと
そして彼女は考えた。エリシャにも、聖女と同じように異なる世界からの意志を接続すれば、別の結末を導けるのではないか、と。
『だから、帝国の子供たちの魔力も借りて、
……まあ、このへんの原理は説明されても、高度魔学過ぎてよくわからなかった。
なんでも、パラディン★パラダイスというゲームの存在は向こうの世界との
もともと、こちらとあちらは世界の位相が一部で重なっているため、情報を知覚するだけで意識を接続する筋道が繋がりやすくなる……らしい……。
『あ、ごめんなさい! 意味わかんないよね。私、後世に魔戦士とか伝えられてると思うけど、本職は魔学者なの。ケルちゃんってば夢中になるとなに喋ってるかわかんなくなる、とか
なんと、
と、とにかく、そうして接続されたのが
ただ、「影響を与える」ぐらいのはずが、よっぽどお互いの相性が良かったのか、主人格まるごと入れ替わってしまったのは想定外すぎてめちゃくちゃ焦った、そうだ。
──ちなみにその副産物として今回、マリカには誰の意識も接続されていなかった。
つまりアレが本来の彼女ということ。
とにかく、ひとつ確かなことは、この世界も人々も、ゲームの中の作り物ではなかったということ。それは私にとって、何より嬉しい情報だった。
『何にせよ、今のところ
聖女の選択、子供たちの命、帝国の皇太子と魔学者の顛末、そして
これだけのものを見せつけられれば、
『残念だけど、ここであなたの世界との接続が切れるみたい。でも大丈夫。あなたは、エリシャにたくさんの強さをくれた。もう何が来ようと、最兇のダークヒーローは負けない」
……え、待って! まだみんなにお別れもできてないのに! ユーリイを褒めてあげなきゃいけないし! それから、アズライルに感謝してもらわないと! あとそれから……
『ほんとうは、
……そうなんだ。でも、そうだよね。この体もまた、私のものじゃない。はやくエリシャに返してあげなくちゃね。
もちろん、贈り物なんていらない。エリシャとして──あんなにも最高の仲間たちと、めちゃくちゃカッコいい
『さよなら、
その言葉を最後に、私の意識は闇にのまれる。
────と。
入れ替わっていた間に経験したすべてが、長い物語のように頭のなかに流れ込んできた。
そして
(おわり)
これにて魔鎧戦綺レイジョーガー、最終回とあいなります。
お付き合いありがとうございました。
……そしてっ……
次回より劇嬢版 完結篇四部作を更新させていただきます!
引き続き、よろしくお願いいたします!