レイジョーガーこと
ダンケルハイトの血脈のみならず、膨大な魔力と卓越した魔力操作の技術、更にはセンスと相性──およそ
それが若き日のお母様とお父様のスタート地点でした。
ずっと右腕に抱きかかえてきた、私が
けれど、もともと不足を補うために作られたレイジョーガーの
『ええ、あとは
ダンケルハイトの優しい声が、聞こえた気がします。
私は天に掲げた右腕に、左腕を
「無駄な足掻きを! そんなものを起動する魔力が、おまえのどこに残っている!」
私の狙いを察したのか、皇帝が大仰に嘲笑います。
確かに、ほんのわずか眠っただけで回復した魔力は微々たるもの。対して
けれど、大丈夫。
「ラファエル先輩──!」
私はその名を呼びます。落ちるしばしの沈黙、そして。
「──はいはい、お待たせいたしました」
小さく聞こえた柔らかな声は、戦いの舞台と正反対、迷宮口のほうから。
そこに立つ、あいかわらず緊張感のない声の主・第二王子ラファエルこそ最後のピース。視線を向けると彼は、手にした杖の下端を地面に突き立てたところ。
それと同時に私の足元から、手のひらサイズの白い球体が、地面を透り抜けぽこりと空中に飛び出した。
デフォルメされた愛らしい目と口を備えるそれは、地下迷宮への避難誘導でも活躍したラファエルの
シロるんが私の胸に吸い込まれ、そこからじんわりと魔力が体に沁みわたります。これだけでは、焼け石に水だけれど。
「おのれ、小賢しい真似をッ!」
気付いた
それは、私の立つ地面のずっと下、地中に広がる迷宮でラファエルが集めてくれた、
全身に満ちていく魔力と共に、シロるんに込められた想いが微かに伝わります。
それは
──ええ。私に、お任せなさい。
溢れる魔力が、紫の燐光となって私の体の輪郭をなぞってゆく。黒髪が重力から解放されて、ふわりと肩上に拡がります。
しかし、そこに
暴力的な
「纏装──」
同時に私の足元から、紫光のラインが地面に複雑な幾何学紋様を描きつつ、円形に拡がってゆく。
形成された巨大な魔紋円の中心に私は立つ。
二人のプリンスを一撃に
紫に染まった視界の中で、私の全身を大きくて温かなものが、ふわりとした浮遊感とともに優しく包み込んでいく。
それはいつかのお母様の抱擁のように、そして衿沙が一緒にいてくれたころのように、溢れる心強さを私に与えてくれます。
これが、
けれど、衿沙の愛する特撮を最新のテレビや映画まですべて
「──シン・レイジョーガー!」
紫炎の散華と共に、誇りを込めて名乗ります。晴れた視界に映る光景は大きく拡がっていて、立ち上がったアスラデウスが呆然とこちらを
──魔戦士ダンケルハイトは、常人の倍の身の丈を誇ったと云う。
私は、まさに伝承通りの巨大な漆黒の魔戦士の姿に変じていたのです。正確には、巨大な魔鎧の上半身胸鎧内に私の体が収納されているかたち。
レイジョーガーとは違って己の体型に関係なく、ひたすらに屈強な超重装騎士として、皇帝より頭三つぶんも高い目線で立ちはだかるのです。
「さあ、
言い放って踏み出した、ずしりと重い右脚は、自分のものと遜色ない自由さで動く。
額には変わらず
「おのれ魔戦士ッ! またも我が前に立ち塞がるかッ!」
吠える
私にとっては目の前にいる真の
激昂する
対する私は、地響きを上げながらも無造作に歩を進めます。
「
間合いに入ると同時に、
対する私は
鳴り響く凄まじい破壊音と、身代わりで
その頭部で紅い八眼が輝き、背からも八本の
シン・レイジョーガーの
ダンケルハイトから代々のご先祖さまたちに大切に継承され、お母様とお父様が蘇らせ、そして衿沙が命を吹き込んだ、そう、これは誰かを守るための力──!
「
絶叫と共に
正面からは敵わないと察し、
対して、私は握りしめた右の拳に、残る全魔力を注ぎ込みます。ダンケルハイトが衿沙に伝えた技を、衿沙の記憶を通して、私が受け継ぐ!
「
足首まで埋まるほど大地を踏みしめ、真っすぐ突き放った紫光まとう正拳は、肘から先が切り離されて、
紫光の弾丸と化した魔拳は、魔鎧内部で私が振るう右腕に連動して縦横無尽に翔け廻り、
そして最後に、成すすべなく棒立ちの
「これにて──
瞬間、魔拳に注ぎ込まれていた膨大な魔力が解放され、紫の爆炎の柱となって、
天を突く火柱に背を向ける、魔力を使い切って粒子化しつつある魔鎧胸部から、黒髪とドレスに風をはらませて、ふわりと地面に飛び降りる私。
「……やった、か?」
視界の端でミハイル王子が、剥き出しの上半身から溶け落ちた魔瘴装甲をどろりと滴らせながら、呟きます。……こ、これは見てはいけないやつ……そして、
「……おのれ……おのれ魔戦士ィイィ……!
案の定、怨嗟の声が響きます。肩越しに振り向くと、薄れゆく紫炎のなかから、魔鎧を一片も残さず失った皇帝が這い出して、よろよろと立ち上がったところ。
その全身は、無数の魔紋が放つ蒼い
「だが我は不死身なりッ! 何百何千年掛けようと、必ずやお前の
のたまう皇帝の足元には黒穴──
「右肩、真後ろ」
聞いた皇帝の
「御意」
一瞬の間も空けずに続いた
背後から魔刀
皇帝の全身の魔紋からは光が失われ、くすんだ青灰色に変じてゆく。無数の魔紋のなかで、いま
「なぜ……知って……」
疑問も無理はない。一日ごとに場所の入れ替わる統括魔紋の位置は、皇帝本人しか知らないはずなのだから。
「それは──」
だって、
「──私が、悪役令嬢だから」
「さあ、これで皇帝の座は空位。どうだ、エリシャ? 改めて、帝国の玉座に興味はないか?」
ほんとうに懲りないひと。だけど、彼の声と
ふと不穏な気配を感じて見回すと、いつの間にかラファエルと並んでこちらに向かってくるユーリイ──私の婚約者様が、ものすごい顔でアズライルを睨んでいます。
帝国の子供たちと連れだって、眠そうな目をこすりながらこちらに向かってくるマリカの姿もあります。視線に気づいて満面の笑顔と共に立てた彼女の親指に、私も笑顔と親指を返す。
そして私の傍らに控える
──今度こそ、本当に、すべてを守り切った。みんなを、そして
ひとつだけ物足りないのは、誰よりもこの想いを分かち合いたい
「そうね。帝国の玉座、考えておいてあげる」
右腕の、
これから私はもっともっと力と知識を得て、強くならなくちゃいけない。もう
その手段として、帝国の玉座もひとつの道かも知れない。
「私を、女帝に迎えるならね」
そしていつか衿沙に直接、はじめましてとありがとうを伝える。──それが今日から、私の描く
※次回は現代に帰還した衿沙のお話になります。