魔鎧戦綺レイジョーガー VS 異世界   作:クサバノカゲ

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異界侵蝕

舞闘(ダンサー)

 

 光の結晶化したDANCER(ダンサー)のカードが両膝に吸い込まれると、足が勝手に軽やかなステップを踏みはじめた。

 

 ──うっ。もしかしてハズレを引いた?

 

 冬也(トナカイザー)の焦りを見透かしたように襲いかかった瘴角獣(ペリュトン)は、しかし華麗に舞い踊り背後に回り込む彼の動きに翻弄される。

 そのまま足をもつれさせ、仲間の瘴角獣(ペリュトン)を巻き込みながら地面に倒れ込んだ。

 

「──零星(レイジョー)踏穿(ヒール)!」

 

 そこに続くレイジョーガーの凛々しい声と共に、黒く研ぎ澄まされたピンヒールが、紫光をまとって瘴角獣(かれら)のっぺり(・・・・)した顔面を踏み貫いていた。

 

 衿沙(かのじょ)が本物のヒーローとして活動してきた先輩であることは、察しがついた。初めて公園(ここ)で会った時も、きっと瘴角獣(ペリュトン)を調査していたのだろう。

 本物のヒーロー、それに本物の怪物。ありえないことだけれど、自分でも呆れるほどすんなり受け入れることができた。

 

 ──ずっと、なりたかった存在だから。

 

 母親に引き取られて以降、一度も会っていない弟のことを思い出す。

 一度だけ掛かってきた電話の向こうでは、相変わらず泣いていた。

 

 あれから、もう十年近い。幼いころの涙はきっと、もっと楽しい記憶に上書きされていることだろう。……でなきゃ困る。

 

 それでも冬也にとっては、あのとき弟の涙を止められなかったことが、ずっと後悔として残っていた。そして本当のヒーローになれば、あの日の弟のような誰かたちを悲しみから守ることができる。

 

 十年間も胸の奥で密かにくすぶっていた信念(おもい)熾火(おきび)

 それがいま炎となって、彼を突き動かしているのだ。

 

 ──黒き魔人レイジョーガーと、銀赤の騎士トナカイザー。二人の連携によって、またたく間に瘴角獣(ペリュトン)の数は半数以下まで減らされてゆく。

 

 よし、このまま全滅させる! そう冬也が決意したのと、それ(・・)はほぼ同時だった。

 

『……トウヤ……!』

「足元、気を付けてっ!」

 

 脳内に聞こえる──おそらくルドルフの──声と、同時に響くレイジョーガーの警告に慌てて視線を向けた足元。

 黒かった。夜だから、というレベルではなく、周囲の地面がすべて、墨汁をぶちまけたように真っ黒く染まっている。

 目の端で、ついさきほど倒した一体がその黒い地面に溶け込んでいった。

 

「これは──」

 

 まるで、瘴角獣(ペリュトン)が地面から出現するときの黒い穴のようだ。

 逃げなくては、本能がそう感じたのと同時に、ぐらりと視界が揺れる。

 

「なんですかこれ?!」

 

 足元の黒い地面が小山のように盛り上がってゆく。冬也は為すすべなく転がり落ちながら、衿沙(せんぱい)に問いかける。

 

「巨大化!」

「……なるほど!」

 

 倒した敵が巨大化するのは戦隊もの(トクサツ)ならお約束、驚くことではない。オタクとしての共通認識による高速の意思疎通で、すぐに平静を取り戻す冬也だった。……のだが。

 

 ──やばい。

 

 視界が樹々の枝の中をぐんぐん上昇してゆく。

 公園の入口辺りからあの兄弟がこちらを見上げている。その向こうには、クリスマスに浮かれた平和な街のイルミネーションがちらつく。

 

 こんなバケモノを、公園の外に出すわけにはいかない。

 

 しかし体の自由が利かない。

 そして装甲に守られていても感じる、強烈な圧迫感。

 トナカイザーの首から下は、立ち上がった巨大瘴角獣(ペリュトン)の右手にすっぽりと握りしめられていた。

 

「ちょっ、大丈夫っ!?」

 

 自身は額の紫水晶(サードアイ)による攻撃予測で退避したレイジョーガーが、足元から威容を見上げる。

 

 ──サイズは魔鎧龍(ファヴニール)ぐらいか。瘴牛鬼(ミノタウロス)ほどではないけど。

 

 樹々に囲まれ照明の少ない公園の、中央から生えた巨大な瘴角獣(ペリュトン)の上半身。おそらく毛むくじゃらのシルエットと枝角のおかげで、クリスマスできらびやかな街から見れば、木に同化して目立たないだろう。

 そう衿沙(かのじょ)は冷静に分析する。

 しかしこの人喰いの巨獣を公園から外に出してしまったら、状況は逆転する。クリスマスに賑わう街はパニック必至。それはなんとしても避けねばならない。

 

いまのところ(・・・・・・)大丈夫です! それより、こいつを外に出すわけには!」

 

 二人の間で、その目的は共有できていた。しかしどうする。異世界(あちら)側の存在がここまで大規模に侵蝕してきたことはない。

 

「トナカイザーになんか奥の手ないの?」

「奥の手………………すいません、わかんない……くッ……です!」

 

 巨大瘴角獣(ペリュトン)に握られた冬也(かれ)の返答は、すこし苦しげだった。さらに周囲からは、残った通常サイズの瘴角獣(ペリュトン)が迫る。

 

 ──そのときだった。

 

「……がんば……ぇえ……」

 

 それは微かに、けれど確かに、耳に届いた。

 トナカイザーの装甲が小さく上げるみしみしという悲鳴に紛れて、冬也にも確かに、聞こえた。

 

「……がんばれぇええぇっ!」

 

 公園の入り口から見上げる兄弟。背負われた小さな弟が、小さな口から必死に絞り出す応援の声だ。

 

 やはり、自分はヒーローの器じゃなかったのか? ちいさく消えかけていた冬也(かれ)の胸の奥の火が、ふたたび強く燃え上がる。

 

「そうだ、俺は──」

 

 同時に力が、みなぎる。微かに押し返した瘴角獣(ペリュトン)の巨指の隙間で、起動帯(ドライバー)のレバーを回す!

 

「──守る!」

 

CHOOSE( チュー ) PRESENT( セン )

 

 頭上に飛び出した金の(レア)カードは雷を背負うトナカイが描かれたDonder(ドンダ-)、そして。

 

EXTRA(エクストラ)

 

 カードの裏から真横にスライドし、もう一枚のカードが出現する。カード名はBlitzen(ブリッツェン)、描かれるのは雷をまとうトナカイ。

 

雷鳴( ドンター )

『稲妻《ブリッツェン》』

 

 電子音声と共に二枚のカードは、それぞれ空中でぐるり逆向きの円を描き、トナカイザーの左右の角に吸い込まれる。

 蒼白い光に包まれた双角より、ほとばしる雷は枝分かれして、蛇のように瘴角獣(ペリュトン)の手から腕を這いまわった。

 

 ヴフォォォォ……オォオン……!

 

 苦しげな咆哮を響かせて、巨獣はその右腕を大きく振りはらう。夜空にすっぽ抜けたトナカイザーが、きれいな放物線を描きながら、街の方へ吹っ飛んでいく。

 

「これって……!」

 

 それを見送りながら衿沙は、紫水晶(サードアイ)の分析のなかに、何か(・・)を見出していた。仮面の下、口元に微かに浮かぶ不敵な笑み。

 

 ──ただ、こいつを何とか抑えないと。

 

 収まらない瘴角獣(ペリュトン)が地団駄を踏んで、足元にいたノーマル瘴角獣(ペリュトン)たちが踏みつぶされる。

 だが、そこで巨体の動きは、ぴたりと止まった。

 

「……え?」

 

 巨獣の両腕は左右に、まるで夜空に(はりつけ)られるかのように掲げられ、その拘束(・・)から逃れようと頭を振って藻掻(もが)いている。

 

 ほんの一瞬だけ幻影のように、白く輝く巨大な(てのひら)が、瘴角獣(ペリュトン)の両の手首を掴んでいるのが見えた。

 

 ──あれは、マリカの「聖掌(セイヴァー)」!?

 

 続いて毛むくじゃらの胸の中心に、紫の光の十字架が浮かび上がり、瘴角獣(ペリュトン)は弱々しい咆哮を漏らしながら、だらりと(こうべ)を垂れた。

 

 見間違えるはずもない、機能を制約(オミット)された今のレイジョーガーには使えない最強の技──零星(レイジョー)断罪刃(ギロチン)十字葬刻破(クロスハートブレイク)の凶々しき輝きだ。

 

 ──エリシャ、あなたね!

 

 この瞬間、きっと異世界(むこう)でもみんなが戦っている。

 侵蝕の規模が大きいだけ、互いの干渉力も大きいということだろう。おそらく、異世界(むこう)ではすでに追い詰めている。

 しかし、悪性干渉点(マリグナント)は両側で滅さなければ、復活してしまう。

 

「よし──」

 

 世界を隔てて離れていても、あの仲間たちと、何よりエリシャと共に戦える。それなら私は、絶対に負けない。

 

「──ここからは、クリスマスパーティーの開宴(はじまり)よ!」

 

 見上げた聖夜(そら)に言いはなち、衿沙(かのじょ)は踵を返すと、勝利の鍵──トナカイザーの元へ駆け出していた。

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