聖夜の星空に放物線を描きながら、冬也は冷静に腰の
この勢いのまま街なかに突っ込んだら被害を出しかねない。しかし、そうなる前になんとかできるはずだ。なにせ、トナカイは空を駆けるものだから。
「これ……は……」
排出されたカードには、気だるげに寝転んだ睫毛の長いトナカイと
──くっ、これじゃない気がする!
それはそれで
『
引き当てたのは、雲の上まで跳ぶトナカイ──
ためしに空中を蹴ると、何もないそこに圧縮された空気の塊でもあるかのような反発力が発生し、体の向きをぐるりと変えた。
──これでやるしかっ!
期待したように自在に空を駆けることはできなくとも、着地点のコントロールぐらいならできそうだ。
首をねじって地上に視線を巡らせた彼は、人通りの多い商店街のなかに、ぽっかり開けた空間を発見する。
そうして、彼は。
「あれって、新しいライダー?」
「いや、
「なるほど…… すごいよね、急に飛び降りてきたし」
「ワイヤーとか使ってるんじゃない?」
クリスマスイベント開催中の広場の真ん中に、華麗に着地してしまった。
ちょうど演目の合間だったらしい。まばらな客たちの中で、立ち去ろうとしていた母親の手を引きとめてベンチに腰を据えた男の子が、キラキラした瞳を向けてくる。
「あ……」
よりによっての状況に、棒立ちのまま広場を見回す。
他にも数人の子供たちと、かつて子供だっ た大人の一部が、冬の冷たい空気を焦がす熱い視線を送ってきていた。
まるで……そう、まるであのころ手作りのお面の覗き穴から見えた、弟の瞳と同じ輝きを宿して。
彼らの期待に応えたいけれど、公園に戻って衿沙に加勢しなくては。しかしこんな風に大勢から、場の主役として注目された経験のない彼は、頭が真っ白になっていた。
追い打ちをかけるように、周囲がざわつきはじめる。広場の端のほう、蛍光色の運営ジャンパーを着たおじさんが、すごい勢いでスマホに何か話している。
──その時。
「彼の名は、聖獣装煌トナカイザー! クリスマスと子供たちを守る正義のヒーロー!」
公園内に、朗々とナレーションが鳴り響いた。
「そして……とうっ!」
観客たちの頭上を跳び越えて、トナカイザーの真横に三点着地を決めた黒い姿は、言うまでもなく。
「異世界より来たる漆黒の魔人、魔鎧戦綺レイジョーガー!」
彼女は悠然と立ち上がり、トナカイザーを「びし」と指さす。
「この私がトナカイザーを倒し! 聖夜を黒く染めあげて! クリスマスを中止にしてあげる!」
そしてスピーカーからは、熱いBGMが流れ出した。数年前に放送されていた特撮作品の戦闘シーンで流れる曲。冬也もサントラを持っていた。
見ると運営のおじさんが、なぜか満足そうにうなずいている。
「さあ覚悟しなさいトナカイザー!
「えっちょっ! ちょっと、待ってください!」
制止の声を聞く耳持たず、薙ぎ払われたレイジョーガーの手刀がトナカイザーの鼻先をかすめる。さらに襲い掛かる前蹴りを、銀の
「どうした! そんなことじゃ、クリスマスも子供たちも守れはしないぞ!」
鋭い声で糾弾しつつ、彼女は攻め手を緩めない。その一撃一撃にしっかり重さが乗っていて、手加減しているようには思えなかった。防戦一方の冬也は、じわじわと後退ってゆく。
「……がんば……れぇっ……!」
ふと、声が聞こえた気がした。公園で出会った小さな弟の声? 視線を客席のほうに向けると、いつの間にか増えていた観客たちの人だかりの後方に、兄に肩車されたあの子がいた。
それなりの距離があるはずだが、どうやって……という疑問を抱く隙もなく、身を沈めたレイジョーガーの足払いをまともに喰らう。
「くっ……」
「ここまでね! きみも、子供たちの夢も、ここで終わり!」
情けなく尻もちをついた彼を、見下す彼女の異様なほどの貫禄。
もしかして、もともと彼女はヒーローではなく、
──それじゃあ、僕がここで負けたら、ほんとうにクリスマスが……子供たちの、夢が……?
だめだ。そんなことはさせない。冬也は──トナカイザーは、立ち上がる。彼は
「がんばれー!」
また、声が聞こえた。
「がんばれー!」「トナカイザーがんばってー!」「まけるなー!」
重なって、いくつも聞こえた。あの子だけじゃなく、広場にいた子供たちも一緒に、彼に声援を送ってくれていた。そのたび彼の胸の奥、炎の温度が上昇する。連動するように、力がみなぎってゆく。
「なん……だと……? なんだ、この力は!」
対峙したレイジョーガーが、後退る。
「まっ、まさか! 子供たちの応援がトナカイザーをパワーアップさせるというのか!? やめろ、やめるんだ子供たち! これ以上、トナカイザーを応援するんじゃない!」
彼女は客席に向けて叫ぶ。しかし当然ながら逆効果、子供たちは大人にやめろと言われるほどやりたくなるものだ。ましてやそれが悪役の言葉なら。
「「「がんばええ! トナカイザー! がんばれえええ!」」」
降り注ぐ子供たちの歓声。腰の
「ぐわあああっ!」
瞬間、
「くっ、さすがはトナカイザー! 今日のところは、これで勘弁してやる!」
よろよろと立ち上がった彼女が、客席から見えない位置にある片手の親指を、立てて見せる。それで冬也は理解した。
──これは
「さあ、
「はい! ありがとう、レイジョーガー! ありがとう
応える子供たちの歓声が、さらに彼に
いまの自分なら、あの巨大
『
『
輝く
並ぶ二枚の
『
黄金の
「……って、このまま飛んでったらさすがにやばいですかね?」
「いやあ、私は
小声の問いに、衿沙が小声で返す。
そこで彼はふと思い出し、
『
カードから放たれた七色の光が広場を包み込んで、愛らしい仔トナカイたちの
「かわいい……けど、これはどうなってるの?」
「プロジェクションマッピング……かな……たぶん」
見惚れながら呟く観客たち。
やがて踊り終えた仔トナカイたちが、拍手とともに雪の結晶になって霧散したころ、二人のヒーローの姿は既にそこにない。
黄金の
向かう公園の中央に、両腕を拘束されもがく巨大
さらに、足元の黒い影からは通常サイズの
広場を後にする直前、衿沙が耳打ちで教えてくれた。あの兄弟は、
母親は時間になっても現れず、代わりに
今まで喰われた人々は全員、巨大
──それなら、倒して救う!
目前に迫った巨大
夜空に静止して対峙する冬也は、全身にみなぎる力と決意を込めてレバーを回す。
『……行こう、トウヤ……!』
現出するは金色に
描かれるは雄々しく凛と立つトナカイ。
鳴り響く
『──
トナカイザーの全身は紅き炎に包まれ、