──トナカイザーのまとう紅い炎が夜空を照らすころ。
地上を、建物の屋根伝いに疾駆する黒い影──レイジョーガーもまた、公園の正門前に降り立っていた。
通常サイズ、と言っても身長3メートル近い
幸いなことに、周囲に人通りはない。周囲に漏れ漂う瘴気を感じた無意識の本能が、人々の足を遠ざけているのかもしれない。
「──さてと。それじゃあサンタさんのプレゼント、ありがたく受け取らせていただこうかしら」
異形の群れを前にしても、あくまで不敵な
薄いカードから、凝縮された強い力を感じる。額の
──
そう、トナカイザーは
トナカイザーが子供の声援を受けて巨大
主催していたのが彼女の行きつけの老舗玩具店の店主だったおかげで、思いのほかスムーズに事が運んだ。あとでまた、掘り出し物を探しに行こう。
「
彼女はカードを頭上に掲げ、想いを込めた。
それは光となって、細長い形状に変化してゆく。
あの日あの空で運命を断ち斬ったレイジョーガー最強の武器、
「……は、さすがに無理か……」
その切っ先を天に向け、彼女の手に握られていたのは一振りの、通常サイズの日本刀だった。緩やかに反った刀身に、薄紫の刃紋が美しく波打ち、漆黒の
「でも、これはこれで妖刀っぽくて
もしかして、私のダークヒーロー嗜好が反映されちゃった? などと思いつつ、前方に剣の切っ先を向けると。
「
駆け抜けざまに斬り付けられた
──魔瘴に
光の発生源は上空、全身を紅蓮の炎に包むトナカイザーだ。
巨大
さらに膨れ上がる炎は、紅い翼の双角と、空を踏みしめる逞しい四肢をそなえた、巨大な
トナカイザーを胸の中心に据えた聖獣は、月のない夜空を高く高く駆けのぼってゆく。眼下の街はきらきらと、色とりどりの光を放っていた。そこにはきっと、この日を楽しむ人々の笑顔がある。
同じように別の街のどこかでは、冬也の弟もきっと笑っているだろう。
──あの
見降ろす真下、ぽっかり穴が開いたようにわだかまる
『
電子音声と共に曲がれ出す荘厳な調べは、
「──そして
『
──
街のどこかで、窓から空を見ていた幼な子が、興奮ぎみに声を上げた。
「まま! となかいさんいたよ! おそら!」
「あら、じゃあうちにも、プレゼント運んでくるかな?」
「くる! となかいさん、がんばえ!」
そんな小さな声のひとつひとつが、さらなる
激しさを増す炎の軌跡で、夜空にまっすぐ紅い
ズン──と重い衝撃音。まっすぐ股下まで突き抜けた紅と銀の装甲が大地に降り立ち、同時に
炎をすべて贈り付けてきた彼の両手は、引き換えに、人間ひとり入るほど大きな──そう、サンタクロースのような──白い袋をいくつも掴んでいた。
それらは彼の着地に少し遅れて、優しくふわりと地面に安置される。
「──やるじゃない」
称賛するのは、
「よし、あとは任せて」
脳天から貫かれ、炎に包まれながらも、巨大
レイジョーガーは速度を緩めず、跳躍する。その手の
「
空宙、黒き切っ先を天に向け、彼女は高らかに言い放つ!
「──
振り下ろし、返す刀で横薙ぎにした
──その中心は先刻、
重なった十字をなぞって紅蓮の焔は火力を増し、巨体は四方に引き裂かれるかのように、見る見る焼滅していった。
剣を片手に、トナカイザーの傍らに着地するレイジョーガー。
二人のヒーローの肩にはらはらと、舞い落ちる白い灰に混じって──聖夜の空には、粉雪が舞いはじめていた。
◇ ◇ ◇
目が覚めると、冬也は自室の床に突っ伏していた。兄弟と母親の再会を見届けたあと、どうやって
もしや、ぜんぶ夢だったのかという疑念を浮かべつつ、起き上がる。
「いででで……」
その瞬間に全身を襲った激痛が、昨夜の激闘を事実だと教えてくれた。痛みにくじけて再び床に転がると、傍らに落ちていたバッテリ切れ寸前のスマホで時刻を確認する。
すでに、午後一時を過ぎていた。
「やば……く……ないか……」
喫茶店はクリスマスパーティ翌日は臨時休業だと叔父が言っていた。
事前にわかっているなら臨時じゃない気がするが、やる気はあるけど物理的に不可能だから臨時なんだよ、とか力説されたので、それ以上つっこむのはやめた。
ついでにLINEを開くと、
イヴの夜にガン無視したことで、とんでもなく機嫌を損ねてしまったらしい。なぜか「年上の女には気をつけろ」などと見当はずれなことも書かれていた。
そこで、見慣れないアイコンが目につく。一瞬、衿沙かとテンションが上がるも別のアカウントだった。首を傾げながら、開いてみると。
やった! クリスマスでとうとうスマホをもらえたよ!
にいちゃんは元気? 久々に会いたいな!
「──!?」
痛みも忘れて上体を起こし、アカウント名のアルファベットを注視する。
「……Winter True……
もう十年も会えていない、実の弟の名前だった。
懐かしさと嬉しさと、さすがに十年ぶりにしては軽すぎるノリへの突っ込みと、いっしょくたになって自分でもよくわからない感情が、目の端から温かいひとしずくになって溢れた。
「あっ……」
『……えっ、出るの早っ』
スピーカーから微かに聞こえる驚きの声。──相手は衿沙だった。
「あ、その、ちょうど触ってたとこで」
『あー、あるよね。いま、お邪魔じゃなかった?』
「いえそんなことはぜんぜん!」
『そう、よかった。それでね……今日って、ヒマかな? さすがに疲れてるだろうから、ゆっくり休みたいよね……?』
遠慮がちな問いかけに、冬也の胸は高鳴る。まさか、これは。
「ヒマですぜんぜんヒマです!」
『じゃあ、これから会えないかな……。ちょっと、きみに甘えさせてほしいって言うか……』
甘えさせてほしい。甘えさせて、ほしい? 反芻しても言葉の意味が理解し切れず、むやみに膨らみそうになる妄想を必死で抑えつける。
「あっ会えますっ! ぜんんぜんどこでも行きますっ!」
『ほんと!? うれしい! それじゃあ、例の公園で待ってる。どうやら数匹、とり逃がしちゃった
──あ、甘えるって、そういう……。
急激にしぼんでいく妄想の横で、彼は自分の使命を思い出していた。そう、今日はまだ12月25日。
「当然です。クリスマスの、
「やった、ありがとう! お昼は美味しいシャケ弁おごるから!」
ゆっくり立ち上がる。
体の痛みは、いつの間にか薄らいでいた。
『それじゃ、あとでね。あっ、それから!』
最後に彼女は思いだしたように、すこし恥ずかしそうに囁く。
『メリー、クリスマス』
(番外編の最後までお付き合いありがとうございます!)