魔王になりたい魔族と死霊の勇者(完)   作:発狂する雑草

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続いた。意外とノリって続くものなんですね。
今回も例にもれずヒンメルが若干黒いです。
仕方ない、仕方ないんだ!ヒンメルくんフリーレンの記憶の中でしか出ないから妄想で補完するしかないんや。
魔族と長く話しているシーンとか(雑草が読んでいる段階では)ないからわかんないんだ!!


仕方ないから冒険のお供にしてあげるよ!べ、別に怖いとかじゃないし!

「…時間を巻き戻したい。今すぐに」

 

顔に大量に絆創膏を張り付けたフィールは現在しょんぼり顔で荷物を空の彼方に吹き飛ばしていた。どうして荷物を吹き飛ばしているのかというと憂さ晴らしだ。

 

 

 

遡ること数時間前

地面にめり込むという醜態を晒す羽目になったフィール

いつまでもめそめそしていては駄目だ。めそめそしたって時間は巻き戻らないし事態は好転してくれない。気持ちを切り替え次の行動に移すべし。

ということで、一先ずヒンメルの従僕化、(もとい)懐柔を行うため、一先ず仲良くなろうと思った。

 

『魔族は人語を話す害獣だと思うことにしてるんだ』

『酷ッ!!!』

 

のだが、とてもいい笑顔で一刀両断された。

 

勇者って優しいものじゃないの?え?違うの?

確かに今は”魔族”なんて言われてるけど、元は魔獣…”魔の獣”だ。でも見た目は(つの)以外魔法使いと大して変わらないよね?

なのにこの人サラッと害獣って言ってきたんだけど…!!

 

勇者は人間の勇者であって魔族の勇者ではないため、人間には優しくすれども魔族にはかなり辛口であった。

このまま作戦を続行した場合、今度は物理的に一刀両断されかねない。

危険を察知したフィールは作戦を変え、今度は魔族、そして魔王のすばらしさについて演説し、心を動かそうと試みた。

 

『魔族は人語を話す害獣だと思うことにしてるんだ』

『ぐっ…!!』

 

だがとてもいい笑顔で一刀両断された。

というかさっきと理由が全く同じだった。まるでビデオを再生しているかのような寸分変わらぬ声と笑顔であった。思わず二度見した。

というかそもそも魔王と魔族を生前狩り(殺し)まわっていた勇者にそんな演説したって意味などなかった。

この会話の中で、フィールはこの男の懐柔は不可能だと即座に悟った。

 

どれだけ強い従僕といえどもこの調子じゃ意味なんてない。魔力の無駄だ。

非常に惜しいが邪魔になるだけの存在ならば致し方ない……というのは建前で

正直トラウマの塊(ヒンメル)を前に精神が疲弊していることと先程の何気ない一撃が思った以上に肉体的にダメージを負っていたことから今すぐ号泣して「かえって」と叫びたい気持ちでいっぱいだった。

此奴が従順になろうがなんだろうが誰が好き好んでトラウマ装置とずっと一緒に居たがるか。

 

本来死霊は呼び出した段階ですでに自我を持たないものだ。

というか前にやったときは自我がなかった。

だが不思議勇者パワーによるものなのか、ヒンメルは自我を持っているし勝手に動き回るしで制御できないのだ。

しかも何故か無駄に若々しい。人間って50年間も見た目保ってられる生き物だったっけ?まぁ多分不思議勇者パワーとかが理由だろう。勇者は何でもできるチートだって誰かが言ってたし。

兎にも角にも、強制的にあの世へ押し返すことが出来ない状態になってしまっているわけで。

 

なので自分の意思で天国へ行ってもらうしかない。

なんでも天国で贅沢三昧する予定だった、といっているあたりきっとすんなり天国へと言ってくれるはずだ。

 

だが、どう言う?

 

これ以上の醜態を晒すわけにはいかない。

ということでフィールはヒンメルに魔族らしく胸を張ってお帰り願うことにした。

 

『お願いします天国へ帰ってください。ほんとお願いします』

 

土下座で。

 

何度でも言おう。フィールにプライドという言葉は存在しない。

 

『やりたいことがあるから無理だ。諦めてくれ』

 

まるで誰もが参考にしたくなるほどに美しい土下座をかましたというのに無情にも勇者ヒンメルは本日三度目のいい笑顔でバッサリと断った。フィールは泣いた。

 

そうして数時間にわたる説得の末、先に根を上げたのはフィールであった。

魔王を討伐し、長年勇者としてこの世界に君臨したその精神力…面構えが違う。

フィールが勝てるわけがなかった。

 

『……し、かたない!きみ…じゃなくて、貴様の同行を特別に認めてやろう!』

『ああ、死霊は使役者からあまり離れられないのか…』

『ただ俺様だって貴様を呼ぶのに魔力を食われているのだ!だからその対価として荷物を運んでもらうぞ!』

『ん?それは___』

 

何かを言いかけたヒンメルだが、断られる前にとフィールは貴重品が押し込まれている鞄をヒンメル目掛けてぶん投げた。

 

『拒否は認めないからな!ちゃんとそれを持って___』

 

直後、非常に不穏な音が響いた。

 

『死霊は物に触れない。死体じゃないからね』

『…』

 

直後、何処か呆れたような、ため息交じりに履かれた言葉は死刑宣告に近かった。

ギギギ、と音が鳴りそうなほどぎこちない動きで振り返るフィールの目には歪な形に折れ曲がったカバンの姿

勿論その中身も無事ではなく、鞄の僅かに開いた部分からは恐らく中に入れていたものであろう魔道具の残骸が出てきていた。

 

『それが…』

『ん?』

『それが勇者のやることかぁぁぁぁぁ!!!』

 

完全な責任転嫁であり八つ当たりであったが叫ばずにはいられなかった。

ヒンメルがまるで珍獣を見るような目でフィールを見ていたが気にしている余裕など今のフィールにはなかった。

 

この後、死体使役と死霊使役の違いについてもっと早く気づいていたらヒンメルと出くわさず、鞄も無事だったという事実に気づき重ねて凹むことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして気づけば夜が明け、漸く立ち直ったフィールは王都の市にてせっせと働く住民で陰湿な嫌がらせをしているわけだ。完全な八つ当たりだが、魔族なので問題もないだろう。

 

大根と人参が大量に入った箱を持つ男の手から浮遊魔法で箱を奪い取る。

男が目を見開いてきょとんとしていた。なにかこちらに言っていたが恐らく「なにするんだ!」とかその辺だろう。

驚き慌てふためく人間の姿はとても滑稽だった。

他にも何件か同じようなことをして遊んだ。

 

一通り遊び終えたあと、ふと見れば子供がいた。

座り込んだ子供の前にはちょっと大きめの獣が立っていた。

子供と獣…これは一緒に戯れて遊んでいるのだろう。よく見る光景だ。

なので獣をその辺にあった枝でつっついた。獣はその場から走っていった。

子供は涙目になってこちらを見ていた。

獣との戯れを邪魔されて不満げだ。とても満足

綺麗に一つにまとめられた頭を乱すように頭を掻きまわす。

ボサボサになった頭を押さえてこちらを見上げる子供に機嫌がよくなる。

 

八つ当たりにこんなに悪行を重ねるとは、なんて極悪なんだ。これは魔王になる日も近いな。

ふふんっと内心得意げになるフィール

 

「……魔族ってこんな感じだっけ」

 

後ろで何かヒンメルが言っているが無視だ。

因みにヒンメルは死霊なので周りの人間には見えない。

いや、見えるには見えるが、見えるのは魔力を持っているもののみだ。

それもただ魔力を持っているだけじゃなくて、相当の魔力量を持っていないとみることはできないため、王都の人間には彼の姿は見えていないのだ。

まぁ見えていたらそれはそれで問題なのだが。

 

さてフィールがまだこの王都に留まっている理由は薬品作りの為だった。

というのも数時間前にぶっ壊してしまった魔道具、なんとか修繕できる程度の破損具合だったのだが問題はその中身

入れていた薬品が思いっきり流れ出してしまっていたのだ。

この薬品は回復を促進するもので、回復魔法が苦手なフィールにとっては死活問題になりかねない。

 

「…821ページに確か…あ、あったあった」

 

死ぬほど分厚い紙の束を捲る。

そこには薬品の調合方法、そして素材について書かれている。

 

「おい従ぼ…ごめんなさい」

 

従僕と呼ぼうとした瞬間スッとチョップの手を構えられたのですぐさま謝る。

 

この勇者、全然勇者っぽくない。とても怖い。

 

立場が明らかに逆転している事実に歯をギリギリしながらも、すすっと近づき紙を見せる。

 

「この素材、全部ここで揃ってるのか」

「…うん。ただ最後のは今の時期は出回っていないよ」

「いつ?」

「先月が丁度出回りの時期だったから…次は来年だ」

「来年…うーん、来年かぁ…」

 

人間に比べれば長生きできる魔族

だがそれでも魔族は途中で討伐されることが多く、フィール調べによると大体300歳くらいが平均死亡年齢となっている。

だからか魔族にとってもやはり時間は貴重だという認識が少なからずある。

とはいえ、回復薬無し、回復魔法も使えない状態で旅立つほどフィールは自信家ではない。

 

「…魔法の練習して人間で憂さ晴らし、悪を極めつつ気長に待つかぁ」

 

「あと回復魔法、いっそのこと作れないかやってみよ」と呟き、一年ここで時間を潰すことを決めるのだった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

 

勇者ヒンメルの死から1年

 

ヒンメルの言葉通り王都の市にて売りに出された最後の素材を購入したフィールは素材を調合し薬品を作った。

因みに回復魔法は開発できた。だが回復できるのは擦り傷切り傷などの小さい傷だけだった。

正直使いどころあるか?というのは正直なところだ。

人間と違って魔族は痛覚が鈍い為、細かい傷程度ならなんてことはない。

ただ、小さい傷から入った菌に殺される…という話を何処かで聞いたことがあるので

ある意味便利な魔法ではあるのかもしれないとポジティブに考えることにした。

 

「さて、と。準備も整ったことだし魔王になるための旅に___!」

「あ、行きたい村があるからそっちに寄ってもらっていいかな?」

「勇者の命令を聞く魔王はいない!」

 

確かに勇者は恐ろしい。

恐ろしいがそれに屈するわけにはいない。

既に何度か屈している気もするがアレは本能に忠実に従っただけであって決して屈服したわけではない。ないったらない。

 

「どうだろう。魔王は王だから民の意見を聞き入れるのも仕事だと思うけど」

 

そうしてヒンメルの言葉を無視して王都を出ようとした時

ぼそっと呟かれたヒンメルの言葉にフィールは勢いよく振り返る。

 

「ほんと?」

「ほんとほんと」

「勇者も民なの…?」

「勇者は”勇ましい者”…王じゃないだろう?」

「……民って人間も入る…?」

「差別はよくないよ」

 

勇者ヒンメル、彼は内心自分は人間と魔獣を”区別”しているだけで”差別”しているわけではないと屁理屈をこね、笑顔でそうのたまった。

 

「た、確かに…?」

 

そしてお頭の弱いフィールは彼の言葉を信じた。

 

「しっかたないなぁ!どこに行きたいんだ!言ってみろ!俺様が叶えてやろう!」

「中欧諸国グレーゼ森林を抜けた先に村があるんだ」

「ぐれーぜしんりん……確か3番の紙束に…あったあった」

 

大きめの鞄から紙束の一つを取り出す。

分厚い紙束を捲れば中途半端に地図が書かれた紙が出てくる。

同時にペンを取り出し、フィールはキリッとした顔で言う。

 

「そんじゃ案内頼んだ勇者ダンベル!」

「ヒンメルね」

 

そうして彼らは南の方へと歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「この村、なにかあんの?」

 

てくてくと森林に向けて歩くなか、暇だったのでフィールはヒンメルに尋ねる。

 

「生前の習慣だったんだ。毎年村へ行って封印の確認をするのがね」

「封印?」

「腐敗の賢老クヴァールがね、封印されているんだ」

 

腐敗の賢老クヴァール

魔王軍の中でも屈指の魔法使いとして有名な魔族だ。

100年ほど前はよく名前を聞いていたのだが、最近はめっきり聞かなくなったがどうやらヒンメルたちに封印されていたらしい。

 

「封印ってことは倒せなかったってこと?」

「クヴァールは史上初の貫通魔法。防御魔法は勿論装備の魔法体制すら貫通し、人体を直接破壊する。人を殺す魔法を使っていた。当時の魔法技術じゃ抑えることで精いっぱいだったよ」

「……当時の魔法技術ってことは今は違うの?」

「…長寿種にとってはあまり実感が湧きづらいかもしれないが、人間にとって50年は酷く長いものだ。研究者たちが必死に術を分析して貫通できない防御魔法を作り上げるくらいには」

「対策されたってことか」

「ああ」

 

確かに聞いたことがある。

人間は勤勉な生き物で、学習能力が非常に高く、また他の種族からは到底考えられないほど急激に進化を重ねる生き物だとも。

それにしてもそうか。人間を殺せる魔法はたった50年で殺せない魔法へと変えさせられてしまったのだ。

しかも封印されている間に。

 

「というか分析したってことは、殺せる魔法、人間も使えるんじゃ」

「使えるね。”魔族を殺す”魔法となってね」

 

封印が解けた時、封印される前は確実に”人を殺す魔法”でイキリたっていたのにいざ攻撃してみたら一切通用しないとは絶望であろう。

しかも自分が心血注いで作り上げた魔法をもとに改良され”魔族を殺す魔法”となって逆に自分が狩られかねない可能性があると来た。

 

「人間こわっ!!」

 

皮肉というか、なんというか…恐ろしすぎる。

前まではヒンメル含めた勇者一行がトラウマだったが人間自体が恐怖症になりそうだ。

魔王になるには人間を支配しないといけないのだが、極力穏便に支配しようと心に決めたフィールであった。

 

「でも封印されてるなら見に行く必要ある?それとももうすぐ解ける?」

「いや、フリーレンの話じゃ、あと10年か20年は大丈夫だ。

ただ…フリーレンのことは当然信頼している。

でも生き残っている大魔族の中に封印を解けるのが混じっている可能性は否めない。そうならないように、念のためにね」

「ふーん?勇者の務め?」

「…本当は死んだ時点でお役目ごめんなんだけど。

こうして霊体になったことだし…せめて、次の勇者が現れるまでは、ね」

 

そういってヒンメルはふっと笑みを零す。

 

「やりたいことって、もしかしてこれ?」

「そうだよ」

「てことはこれから毎年その村にいくの?自分も一緒に?」

「そうなるかな」

「えー……」

 

魔王になる、という漠然とした目標しか掲げていないということは裏を返せば特にはっきりとした目的はないわけで、なので別に毎年村に通ったりするのは別にいいにはいいのだが、少し面倒臭いという気持ちが湧いてくる。

そこでフィールはふと疑問に思う。

生前からヒンメルは毎年村に通っていたと言っていた。

つまりフィールと同じで面倒くさいという感情を少なからず抱えている可能性がある、と。

 

「面倒臭くなかったの?それ」

「大事な人たちが平和に暮らせるなら、このくらいなんてことないさ」

 

否定はしなかった。やはり多少面倒とは思っていたのだろう。

だが、それでもいいとはっきりとヒンメルは言い切った。

彼は何処か遠くを、まるで懐かしむように目を細める。

その目が一体何を見て、何を思っているのはフィールには到底わからない。

それはフィールが魔族だからなのか、あるいは…。

ただ、その顔をみてフィールは思う。

 

人間らしくない人間だ、と。

 

人間は欲深い生き物だということをフィールは知っている。

これは誰かに聞いた話でも本で読んだ話でもない。

フィール自身が身をもって知っているのだ。

だからこそ、不思議で仕方ない。

あまりにも自分の人生を他者に捧げるヒンメルが、死して尚降ろしたはずの任を再び背負おうとする感覚がフィールには理解できなかった。

ただ

 

「まぁ?何を隠そう俺様は偉大な魔王になる魔族だからなっ!民のちっぽけな頼み程度、聞いてやる!」

 

多少なら、お願いを聞いてやってもいいかな、と思った。




フィール
今回も極悪非道の限りを尽くした。
さらっと流しているがヒンメルと一年一緒にいたらしい。
若干耐性がついたからかちょこっとだけ強く出れるようになった。これも魔王への一歩、うん、着々と魔王に近付いてるぞ!

記憶力がからっきしなことに自覚があるからかメモ帳(滅茶苦茶分厚い紙の束)を何冊も持ち歩くようにしている。
因みに零れた薬品によりメモ帳が一冊駄目になってしまい、一年かけて別のメモ帳を作ってそっちに書き写した。
正直この作業が一番大変だったらしい。

普段の一人称二人称は自分・君だが魔王ぶるときは俺様・貴様にしようと頑張ってる。形から入るのも大事だと聞いたので
ヒンメルのことを人間らしくない人間だと思っている。


ヒンメル
一応使役されている死霊なのでフィールとあまり離れることが出来ないらしいが思ったより苦労はない。
自分が死んだら魔族が活発に動き出す予感はしていたので、正直心配だった。
毎日フィールによる悪逆非道の限りを見てちょっと困惑はしている模様
だが前回の事件をかなり後悔しているからか完全に信用はしていない。
現在は様子見。一年間でフィールの扱いに慣れた。
フィールのことを魔族らしくない魔族だと思っている節はある。


とあるエルフ
現在一人で人を知る旅をしている。出番は多分まだまだ先だと思う。出番なくてごめん。
でもフィールを思うなら出番がない方がいいのかもしれない。
なんせ出くわしたら最後、この旅強制終了する可能性高いからネ
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