イオリと先生   作:じーYA

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後書に書いた内容を妄想してたら出来上がりました。


イオリと当番

【金曜日 1限目終了後の10分休み中 教室にて】

ヴヴヴ

 

机の上で震える携帯がうとうとしていた意識に介入する。こんな時間からモモトークって委員会関連かな…昨日も遅くまで事務処理があったのに。机の上にだらりと体を伸ばし、気だるげな手つきで携帯を手に取る。

 

『お疲れ様です。当番のことで相談があるんだけど今時間大丈夫かな?』

 

先生じゃん。なんだろ、私の当番は来週のはずだけど

『休み時間中だから手短にお願い』

 

10秒ほどしてメッセージが返される。

 

『今日の当番の子が体調を崩してしまって。午後だけ代わりを頼めないかな。』

 

今日の午後なんて急だな。体を起こし、机に備えられたタブレット端末を操作して時間割を確認する。この範囲なら授業は後でBD見れば事足りるし、なんなら今日の予習復習の範囲を少し広げるだけで十分かな。委員会には…確か今日は私の部隊で動く任務はないから、あとでアコちゃんに一報入れておけばいいか。携帯のフリックを滑らせる。

 

『お礼と言ってはなんだけど、今回はトリニティ視察に行くから帰りにカフェでもケーキでもご馳走するよ。』

『わかった。いいよ』

 

送信ボタンを押した瞬間に先生からのメッセージが届いた。なんてタイミングの悪い。これじゃまるでお礼に釣られて即答したみたいじゃないか。

 

『違うから!お礼を見て決めたんじゃないからな』

『ありがとう。そういうことにしておくね』

『だからちがうってば!』

 

つい反論してしまったけど、まるでテンプレのような言い訳は火に油を注ぐだけっていうのに気付いたのは送った後。

 

『それで終わり?もうそろそろ授業時間になるから』

 

授業開始前に眠気が完全に飛んだのはありがたいけど、このまま続けてもずっといじられるような気がするし早めに切り上げてしまおう。そう思って携帯を再び机の上に置いた瞬間に、連続するバイブ音が鳴る。それは机を介して教室に響き渡り、いく人かののクラスメイトの目がこちらに向いた。携帯を持って逃げるように教室を出る。

 

「ちょ、ちょっと先生??急に電話は—」

「手短に済ますね。スケジュールと日程間の調整の話をしたいから2時限目が終わったら電話お願い。それじゃあ。」

 

ぷつりと切れる先生の声。なんなんだよ一体…。

「って時間やばっ!」

 

気づくと休憩1分前を示すスマホの時計。出てきた道を引き返すように、廊下を早歩きで教室に向かった。

 

***

 

「改めて。引き受けてくれて有難うイオリ。おかげでスムーズにことが進んだよ。」

「私ほぼ何もしてないけどな。」

 

長い行列の果て、露店で買ったクレープに舌鼓を打ちながらトリニティの舗装された歩道を歩く。俗にいう買い食いというやつだが、今は風紀委員の肩書きもなく、またここはゲヘナでもないし。何より買い食いというものをやってみたかった気持ちもある。うん、これはなかなかに背徳的。

 

「使った資料はどれも無駄がなく洗練されていたし、書類のまとめ方も丁寧だった。正直少し暇なくらいだったよ。」

「今日当番の子は風紀委員会の1年生の子だったんだ」

「ああ、なるほど」

 

それでか と1人納得した。どうりで資料体裁やまとめ方に既視感があるわけだ。おそらくだけど私の部隊員だろう。教育がしっかりと行き届いている証拠だ、誇らしく思う。

 

「その子、今回が初めての当番でね。遅くまで頑張ってくれていたんだけど…」

「そのせいで熱を出したのか。本末転倒、自己管理を怠るからだ。」

「叱らないであげてね。私がちゃんと進捗管理と調整ができていなかったせいだから。」

 

先生がバツの悪そうな顔をする。しまった、別に誰かを責めるわけじゃないのに口調がキツくなってしまった。何か言葉を探して思案するが、いい言葉が思いつかない。

 

ぱくぱくとさせた口———が塞がれるように何かが突っ込まれた。先生の右手のクレープが私の口の中でとろける。クリームのふわりとした甘さの中に香るフルーツの瑞々しさと少しの酸味。

 

「…一口って意味じゃ無かったのかい?」

「ふが—」

 

薄い生地を噛みちぎり、飲み込む。

 

「ちがう!…けどこれも美味しい。」

「そうだよね。並んだ甲斐があったな〜。」

 

私の口をつけた後に先生も一口齧る。間接キスになってしまっているけど、そんなことでいちいち動じる時期はもうとっくに過ぎてしまった。あ、でもそういえばこれって…。

 

「そういえばこのクレープの露店、出店場所が毎回違うことで有名なところでしょ。よくわかったな」

「ああ、それも実は当番の子から教えてもらったんだ。」

「え、そうなのか。」

「なんでも独自のルートで次の場所の情報を仕入れたとか。それで“トリニティに用事があるなら一緒にいきましょう先生!”って熱くお願いされちゃってね。」

「下心ありありじゃないか…」

 

先生が軽く笑う。

 

「動機はなんであれ一生懸命に取り組んでくれたから。イオリも資料見ただろう。」

「そうだね、よくできてたと思うよ」

 

書類も資料も事前準備が入念で、側から見ても気合が入っていたのが伺えた程だ。今日という日をそれだけ楽しみにしていたのだろう。

 

「頑張った生徒にはそのぶんだけお返しを用意する。先生としてそれくらいのことは答えなきゃね。」

「それは給金が出てるだろ。ただ生徒に甘いだけのくせに。」

「でもご褒美はないよりある方が嬉しいでしょう?」

「それはそうだけど」

 

ふたたびクレープに口をつける。そう、今食しているクレープのように。頑張った末に先生からこういう贈り物をされるのは嫌いじゃない。最初から当てにするのは良くないけど、やる気も出るし、頑張れる要因の一つであることは間違い無いだろう。

 

…あ

口の周りについたクリームを舐めとる。

 

「誤解しないように言っておくけど先生。今日引き受けたのはご褒美があったからじゃないからな!勘違いするなよ!」

「わかってるよ。」

「…ならいいけど」

 

本当にわかっているのか先生は。クレープを一口齧る。

そうだ、と先生の方から話を切り出す。

 

「それでちょっとイオリにお願いしたことがあるんだけど、いいかな」

「あれ、今日の業務は全て完了したはずだけど。何かあったか。」

「業務には関係なくてね。これを届けて欲しいんだ。」

 

先生が後ろ手に取り出したのは紙袋。サイズは片手に乗るくらい、正面にロゴが入ったシンプルなものだ。持ち手を受け取ると確かな重量感が伝わる。

 

「——中身見ても大丈夫?」

「構わないよ。」

 

届け物の中身を気にするのは良くないとはわかっているが、一応確認する。先生のことだからいかがわしいものの可能性がないでもないし…それに2人の時に私以外の人への贈り物を、他でもない私に頼むのが少し嫌だった。

 

許可を得たことで中身に手を伸ばす。薄くて冷たい感触が指先から伝わる。取り出したのは綺麗にラッピングされた袋が複数個。中には乾燥した焼き菓子が詰まっている。

 

「これは…ラスク?」

「そう。一応有名店でのおすすめを教えてもらって選んだから間違いはない、と思う。」

「ふーん。で、これを誰に届ければいいの?」

「今日お休みなっちゃった当番の子に。楽しみにしていたようだから。」

「なるほど——でもそこまでしなくてもいいんじゃないか。特別扱いは良くない…と思うけど。」

 

嫌味のような私の言葉に対して、先生は少し驚いたような顔をしてからすぐに、いつもの顔に戻り微笑みかけてくるように優しい口調で言った。

 

「私にとっては生徒一人一人が特別だよ。」

 

それに と続ける

 

「私も彼女に教えてもらったおかげで、こうしてイオリと楽しい時間を共有できているからね。」

「そのお礼も兼ねてということで渡してもらえないかな。」

 

そう、そうだよな。先生の生徒に対しての考え方は知っているし、気にするだけ心労が増えるというものだ。それに今回は私も後輩に対して感謝すべきだろう。おかげでなかなか口にすることができないクレープにありつけた。

 

半ば諦めたようにため息を一つ溢す。

 

「わかった。おかげで私もクレープを食べられたし。礼も兼ねて頼まれてあげる。」

 

中身を紙袋に戻す。クレープをひと齧りしてから歩みを再開する。

 

「ただし!今度必ず直接会って先生からお礼を言うこと。わかった?」

「そうだね。もちろん。」

「約束だぞ。私の後輩にやな思いさせたら先生でも容赦しないからな。」

 

意味のない約束を取り付けて、残りの時間を目一杯先生と遊んだ。




後日、見舞いも兼ねてイオリが後輩モブちゃんの部屋を訪ねる。後輩モブちゃんは憧れの銀鏡先輩に見舞いに来てもらえるわ仕事は褒めてもらえるわ先生から差し入れがもらえるわ「今度クレープでも奢るから一緒に行こうか。」なんて提案までされちゃったので急な情報の嵐に興奮のあまり日曜日も寝込む。それを聞いてイオリは「何か言い方きつかったかな…」なんて杞憂に陥る。

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弊シャーレでは以下のような当番割で回してます。妄想です
・各学校で当番志願者をシャーレのホームページにて募集(得意分野、使用武器など記載欄あり)。その中から担当者を選出し一ヶ月サイクルで予定を組んで前月20日にホームページ内で展開、選出された生徒には個別でメールあり。
・選出基準として『学業に支障をきたさない成績を収めているもの』『学校に席を置いているもの』の2点に重きを置いている。
・当番の生徒には給金、もしくは先生からのご褒美あり。

月:生徒A(当番経験者もしくは行政機関に相当する組織に携わった経験があるもの)
火:生徒A
水:生徒A、生徒B(未経験者もしくは経験が浅いもの・引き継ぎなどをメインで行う)
木:生徒A(AMのみ)、生徒B
金:生徒B
土:生徒C(必要に応じて※1当番が可能な生徒がシャーレに控える。特別手当あり)
日:当番なし※2昼頃に来週の生徒Aに日程を事前連絡

※1.戦闘経験が豊富なもの、またはそれと同等の能力を持つ部活、委員会に所属しているもの2名
※2.問題が発生した場合は主犯格に当たる生徒を当番としてシャーレに拘束、教育。(という名のお説教)

…としているが、シャーレによっては手伝ってくれる生徒が一定数いるので基本的に1〜4人程度の当番制となる。土曜日は買い物ついでに寄る生徒や休憩にやってくる生徒が多い&シャーレ自体が複合施設のため最大でも10人程度集まったことがある。

今回は生徒Bの子が金曜のAMで倒れてしまったので…という感じ。
ゲヘナ生徒、風紀委員会所属ということで先生の独断で銀鏡イオリに白羽の矢が立った。
最後の”意味がない“っていうのはわざわざ約束しなくても先生は必ずそうするだろう というイオリの先生に対する信頼の表れ。
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