イオリと先生   作:じーYA

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「イオリの尻尾ってさ」から始まるいつもの日

「イオリの尻尾の先っぽさ、なんか美味しそうだよね」

「…は?急に何」

「ほらそこのさ、広がったところ。エイヒレみたいにしゃぶれそう」

「うっわ気持ち悪い…」

「三徹目の私の前でゆらゆらと尻尾揺らす方にも非があると思う」

「三徹は効率落ちるからやめてって言ったじゃん、私やっとくから寝てなよ。

あと徹夜は自己責任だしそれは免罪符にはならないから。どぎついセクハラだぞ」

「イオリ、生徒に正論ぶつけられて泣く大人の姿がご所望みたいだね。三十秒で用意できるよ」

「三十秒あれば泣く前に落とせるな。先生この書類のここにサイン頂戴」

「訂正。三秒で土下座して見せるよ、初めて会った時みたいにね。わかった」

「先生は書類の訂正は二重線してから横に書けばいいけど、口から出た言葉は二重線できないこと覚えておいた方がいいと思う」

「そうだね……うん。修正テープと修正液と砂消しと、あと何で消せるかな」

「…書くとこ間違えたならちゃんとそう言って。原本のコピーとってくるから、その間にメールチェックしといて」

「助かる」

 

 

 

「ねぇイオリ」

「やだ」

「まだ何も言ってないんだけど…」

「今まで先生から話広げて纏まったの三割くらいだ。残り六割は無駄話で、残り一割はそこそこいい話」

「三割なら打率で言えば一流じゃん」

「そうだな、でも先生は野球選手じゃないだろ」

「先生兼大人兼お祭りアドバイザー兼特別顧問だから、今更野球選手が増えても問題ないと思わない?」

「思わない、で何?」

「うん。実は午後の出張なんだけど、一波乱ありそうだから用意しといて」

「へぇ?なんか久しぶりだな」

「あ、悪い顔」

「わッ!?」

(あ、尻尾が跳ねた)

「違う!そんな顔してない!」

「ふふ、いいじゃない。可愛げがあって私は好きだよ」

「…子供扱いして…なんでもそういえば丸く治ると思うなよな…」

「はいはい肝に銘じておくよ。これ弾薬庫の鍵ね。終わったらいつものところに戻しといて」

「ふん…申請書は後出しでも問題ない?」

「ダメー!…なんだけど、イオリならいいでしょう。ただし提出期限は当日までなので戦闘後に忘れないように書くこと。オーケー?」

「わかった」

「よろしい。ところでさ」

「?」

「私の振った話を率に例えるくらい覚えてるの何で?」

「あ————」

「もしかしてイオリ。まさか…」

「いやそんなんじゃ…!」

「まさか友達と雑談とかしない感じ?いやまさかまさか友達が…?」

「———は?」

「だって女子高生がこんなおじさんとの会話を覚えてるってそう言うことでしょ。言っておくけど私のテキトー言ってる話に記憶のキャパシティ割くことないからね」

「…」

「そんなのに枠割くならもっと周りの人との思い出を作りなさい。学生時代は有限だからね」

「…はぁ」

「どうよ、これはいいこと言ったでしょ!いいこと言った一割が二割ぐらいには増えたんじゃない?」

「うん。打率一割以下に下がったよ」

「えぇっ?!なんでぇ!?」

「私に聞かないで自分で考えてみなよ。私弾薬庫いくから。じゃあね」

「あ、うん。気をつけてね。でも何で下がるんだ…」

「……………………はぁ」

 

 

「それにしても最近はシャーレの名前もそこそこ通ってきてたと思ったんだけど。私の力不足を痛感するなぁ」

「そんなことないんじゃない?実際最初の頃よりも戦闘する回数減ったし」

「そう言ってもらえると思ってた。ありがとね」

「あのさ、思ったこと何でも口に出すなって朝も言っただろ」

「でも口に出さないとイオリ無駄に心配するじゃない。凹んでるから何か言わなきゃーって感じで」

「自惚れすぎ。別に何とも思ってないし」

「へぇ。前はあんなに不安そうに尻尾をゆらゆらして落ち着かない様子で絡めてきたくせに。説得力皆無だよ」

「なっ!?そんなことしたことない!嘘だ!嘘つくな!」

「嘘じゃないよ。なんならイオリの尻尾となら会話できるかもって最近考えてるくらいには」

「えぇ…」

「もしかして無自覚?だとしたら流石に心配になるけど。距離感おかしくなってない?適切な距離感とソーシャルディスタンスを意識しようね。大丈夫イオリならできるよ」

「はぁ!?先生が距離感とか語るな!無理矢理詰めてきたのはそっちのくせに!!!」

「ふふ、イオリは拒絶してくるからついついずんずん行っちゃうんだよね。仕方ない欲しがりさんなんだから〜」

「欲しがってない!それにその…尻尾の件だってその場で注意してよ!」

「?。何で」

「何でって…その場で注意してくれたら次からしない様にするから」

「私は嫌じゃないもの。イオリに触れられるの」

「へ」

「あーでも、イオリが他の人にもそうしてるんだと思うとそれはちょっと嫌だから、私も距離感は考えよう。シャーレに戻ってからちょっと話そっか」

「…」

「何その顔、私変なこと言ってないよね?」

「…」

「あのイオリさん?急に俯いてどうしたの」

 

「…………………………………………………………………だからそう思ったことを脊髄反射で口にしないでよ……」

 

「ごめん俯いて言われてもよくわかんない。なんて?」

 すぅ

「イオリ?」

「何も言ってない!ほらシャーレ帰るんでしょ。私も申請書書かなきゃだし早くいこ!」

「あちょ待ってよ急に走らないで!?」

 

 

 

「先生申請書かけた。先生のサイン貰えたらゲヘナの方にもスキャンデータをメール送るから」

「はいよーっと」

「にしても今日は久しぶりに当番として戦闘したな」

「それは本当にごめんね。もっと私が頑張るから」

「ちょっと、責めてるわけじゃないから勘違いしないで。ただ久しぶりだったーってだけ」

「それはそうだろうね。当番は非戦闘員として考えてるもの」

「え」

「あれ?言ってなかったか」

「聞いてない」

「そっか、まぁわざわざ聞かせる話でもなし。当番の目的は私の仕事の補佐であって戦闘じゃないってだけだよ。そりゃ最初の頃は人手が足りなくてお願いしてたんだけど。その節はイオリにも大変お世話になりました」

「そうだな、出会ってからずっと戦闘に駆り出されてたのは今でも覚えてるぞ」

「あの頃は右も左もわからなかったからイオリに頼りっぱなしだったね」

「今だから言うけど実はあの時、内心ちょっとイラッとしてた。何だこいつ毎回毎回呼び出して、いい加減にしろ!って」

「私も実のところ、あの時期のイオリにビビってた。声掛けるだけで殺気ぷんぷんさせてたから」

「それは当然だろ。急に現れてわけわからない組織に所属して知らないヒトの指揮下に入れって。テロと勘違いされてもおかしくなかったし、当時は風紀委員会内でも対応の方針に一悶着あったし」

「でも義理堅く最後まで付き合ってくれたよね」

「恩を売れるって言うのが前提にはあったけど、弾丸一発で大怪我するヒトを放置してほっとけるほど私だって悪魔じゃない」

「じゃあ恩はいつ返せばいいかな。はいこれ書類」

「そのうち。私がいる間に返してくれたらいいよ。ありがと」

「あ、スキャンしに行くついでにコーヒー用意してくれないかな。寝そうでさ」

「ホットミルクなら入れてきてやる。待ってて」

「いやそれじゃ余計に眠く———」

「三徹人間をこれ以上酷使できるか。私が当番になったのが運の尽きだな、観念して今日は寝るからな」

「…善処します」

 

 

 

「そういえばお昼に定食食べたじゃん?今日丼がカツ丼だったんだけど、刑事物で出てくるのってなんでカツ丼なんだろうね」

「あれ要は兵糧攻めってことらしいよ。疲れた心に高カロリーで」

「うわ誘惑すごそう。ちょっと食べてみたいかも。矯正局とかの食堂にあるかな」

「カツ丼が出るのは取調室じゃない?」

「あーそっか」

「でもゲヘナの地下牢屋だったら私が融通してあげなくもないぞ。その代わり…分かってるよな?」

「もちろん、足舐めろってことだよね」

「ちがう。その場面は賄賂とかそういうやつでしょ」

「おお、賄賂って言葉がイオリから出てくるとは意外」

「やらないし受け取らないけど、頭の中で考えるだけなら無罪だよ。さっき見てたドラマでもあったじゃん」

「じゃあ私が頭の中でイオリとイイことしても無罪なわけだ」

「口に出したから有罪で」

「情状酌量の余地もないなんてご無体な。はい、髪乾かし終わったよ」

「ん」

「なにその可愛い顎は」

「んん」

「梳かせと?」

「そうしたら印象が良くなって少しは減刑されるかもな」

「はいはい。仰せのままにお姫様」

「ん」

 

 

「それじゃ寝ようか」

「隣で一緒に寝るのいつぶりだっけ」

「うーん、二ヶ月とか。それくらいじゃないか」

「そんなに経ってたか。私からしたら昨日くらいだけど」

「時間感覚おかしいでしょそれ。先生どっちがいい」

「私壁側で。この感覚はイオリも大人になればわかるよ…悲しいことにね」

「ふーんそう」

「興味なさげだね」

「それより先生、いつもの」

「ん、何?」

「だから…その、いつものやつ。やるんでしょ。早くして」

「?」

「こう言う時にわざと言わないのはずるじゃん」

「何のことだか」

「いやだから…」

「…?」

「……」

「……?………ああ、あれか。でもいつものっていうかアレは…」

「これ以上ほっとくなら私だって。考えがあるんだからな」

「…一応聞くけど、何」

「拗ねる。二ヶ月以上構ってくれないのは流石にそれぐらいの権利あるだろ」

「よぉし先生もう準備万端!ほら、おいで」

 

「んぅ…」

「よーしよし、今日もお疲れ様。頑張ったね。偉い偉い」

「うん」

「ごめんね最近時間取れなくて。でもイオリのことを忘れた日なんてないよ」

「ん」

「気長に待っててくれると嬉しいけど…学生に強要はできないから、無理に感じたらいつでも去るといい。気にしないでいいからね」

「それはわたしを信用してないってこと?」

「そういうことじゃなくて、どうしても今回みたいになること多いから。それに付き合わせるのは私の望むところじゃ…」

「じゃあわたしがおばあちゃんになるまでまてばいいの?」

「そこまで待たせないと思うけど、きっとイオリは歳食っても綺麗だろうね」

「はなしそらすな」

「そうねぇ…じゃあこういうのはどうかな。イオリが卒業して、自分の道を一人で歩ける様になったら改めて進めていこう。何も今しかできないことでもなし。それに学生って肩書は教師として無意識的に回避しちゃうのよ」

「そおう、じゃああと数年か…」

「それまでは寂しい思いをさせちゃうと思うけど待っててくれると嬉しい、かな」

「ん…」

「ありがとうね。私を思ってくれて」

「ん…」

「イオリ?」

「…———…———…———」

「あら寝ちゃった。じゃあ私も寝ようかな」

「あそうだ、言い忘れてた」

 

 

 

 

 

 

 

  

 

              「私も好きだよイオリ、おやすみ」

 

 

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