イオリと先生   作:じーYA

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お久しぶりです
pixivにも同じものをあげています


イオリと当番表

「先生、この間のことなんだけど」

「この間っていうと…当番制のやつ?」

「そう、来週からでしょ。これ生徒のリスト表。各学園の名前順に揃えてあるから何枚か選んどいて。」

「え来週からだっけ。あー……イオリに任せるよ。いい感じに選んどいてくれない?」

「はぁ?いいのかそんなんで」

「”適切に“って意味だから!それに当番歴はイオリが一番長いし、何やってくれたら私が助かるかも分かってきたでしょ。じゃあ私別件があるからあとヨロシク!」

「あちょっと!待てってば!」

 上着を羽織った先生は小走りに部屋を出て行った。普段は静かに開け閉めするように言っていたのに、ばんと勢いよく閉められた扉の風を頬を撫でた。その衝撃か、机に置いてけぼりにされた膨らんだクリアファイルから数枚の紙がするするとまびろ出た。

「あーもう…」

 そもそも紙で出してくれたら忘れないから!と念押しされたから、わざわざ印刷して学園別学年別名前順に並べてやったのにこの有様、怒り通りこして理不尽だ。とはいってもこの程度のことは当番になってからざらというもので、慣れてしまった自分が恐ろしい。

 怒る方がエネルギーを使うのだ。であれば怒るよりも別に感情を処理してしまった方がいい。なにせ怒りにエネルギーを発散するくらいなら目の前の業務に発散した方が無駄がない。それくらい先生の業務は多く多く多く多く、規模がでかい。

 ここ半年で慣れてしまったので今更毒吐くこともない。せいぜいため息と共に拾い上げてやるだけだ。

 そう、確か半年くらい。私が当番になってから先生がキヴォトスで過ごした日数は大体そのくらい。肝心なのは最初から当番じゃなかったということ。だからシャーレ設立時のいざこざや、今でこそ学園最強とも名高いあの小鳥遊ホシノの在籍するアビドス高等学校を巻き込んだ事件に関しての詳細は知らない。

 それからゲヘナートリニティ間で条約が締結されてから、私が先生からの指名で入ったところだ。色々と政治色めいたやりとりが水面下であったらしいが私には関係のないことだ。どちらかというと先生の変態行為に対して取り締まって欲しいところである。

 近くのソファに腰をおろし、拾い上げたクリアファイルの中身を取り出す。なかなか見やすいデザインで区切られたA4用紙である。左上には候補者の写真、中央から来歴と下には動機などなどがずらりと書かれている。先生発案らしいけど流石と言ったところか。

 机の上に置いておいた先生用に準備したコーヒーにミルクと砂糖を溶かし混ぜる。用意したのに飲まれなかったので、湯気も冷めてすっかり温くなった。こんなコーヒーはどろどろに甘くするに限る。

 適当に混ぜ込んで、一口啜る。品定めをするようにクリアファイル内の書類を取り出した。

 

 えーっとこれは…トリニティ総合学園、あのお嬢様学校か。

 お嬢様学校なんて漫画程度の知識しかないけど、頭お花畑でスイーツ食べて上品に笑ってるイメージしかない。何だろ、話の話題は恋バナとか、あとは…何だろ。分からないけどそれなら結構なことだ、ゲヘナの銃撃爆撃入り混じる日常と比べればなんだってマシに見える。

 でも逆に、そんなお上品な奴らにpcデスクの前に座って書類処理なんてできるのかとはたはた疑問である。pcに紅茶ぶっかけてぶっ壊すのがオチなんじゃないかと思ってる節がイオリにはある。

 そういったわけで採用はごく少数にして欲しいなぁと願いながらも、イオリの心情に反して当番の立候補者数は群を抜いて多かったことを思い出す。他学園、学校よりも母数が違うとはいえ、二番目に多かったゲヘナをぶっちぎりで追い抜いて、だ。

 中にはお前何しに来るんだよって感じの書類の内容だったり、先生に対してしっとりした文章を書いてるやつもいた。多分これ先生にダイレクトで届くと思ってたんだろうなぁ…その間で誰かに読まれると思わなかったんだろうか…。捌くだけでも共感性羞恥の雨霰である。

 先生は女子生徒からの人気がなぜか、本当に不思議なくらい人気が高い。確かにルックスは悪くない。性格は上振れればまぁ許容できないこともない。そして”大人“だ。

 これが大きいのだろう。私たち生徒、学生からしてみれば憧れとミステリアスな領域にいる人だ。底の知れない知略と行動、数々の事態を収束に導いた先生。いかにもお嬢様学校のお嬢様たちが好みそうなロマンスにうってつけ、危険でアンモラルな恋の予感とでも言おうか。それだけで立候補者といて応募しようというのだろう。

「バカじゃん…」

 イオリは文章全てを読むまでもなく、開始の二行をサラッと流して捌いていく。こういう奴らの動機部分は大体が読みやすい。なぜなら言葉を差し替えた文章調であることが非常に多いからだ。多分ネットで調べてコピペしてるか若干のアレンジを加えてるんだろうなと察せられる。当番に必要な能力は“潤滑油”だとか“頑張ったこと”ではなく、これまでの来歴と実力だ。であれば書くことなんて大体決まっって来るだろうに。伴わないやつの書くことは決まって同じ。

「当番ってそんなにいいもんじゃないんだけどな」

 当番に指名されてからというもの、上手く行ったことよりも凹まされて先生に慰められることのほうが圧倒的に多い。自分だって名指しに期待しなかったわけじゃないし、自分の事務処理能力は高い方だと思っていてもだんだんとそんな生易しい気分は持てなくなった。先生はなるべく生徒への負担が無いようにと配慮してくれていてこれだ。もちろん学業や委員会活動が制限されない範囲で手伝っているだけだというのに、それでも相当に肩が凝る。

 この惨状でさらに紙束のビルが建てられているのを横目で眺めていると先生がいつ寝ているのかすら不明だ。一昔前、といっても思い出せる範囲で先生が生徒たちへとスキンシップを取っていたのはどういう時間の捻出をしていたのか本当に気になる。連邦生徒会のサポートがあったからこそか?

 あとドラマチックな先生に憧れていようが、普段の仕事といったら申請書と会議、決議サインに各学校の視察。それと周辺の困りごとの対応だ。先生と二人の共同作業、とか各学園の問題を解決するヒーロー!みたいなことは99%ない。断言できる。特に周辺各地の困り事への対応なんてその場その場で発生するもんだから組んでた予定がグッシャグシャになるし、しかも先生はほとんど断らないんだからタチが悪い。「やめろ」っていったって

『ごめんね。でも誰かがやらないといけないことだから』

 と情けなく困ったような顔をして依頼人の元へと踵を返すのだ。

 いや、困った顔をしたいのは私なんだけど…と。結局手伝った方が早く終わるので手伝うのだけど。

 あんな顔を見せられては百年の恋も冷めてしまうというか…いや優柔不断な先生に対して苦言を呈するくらいやれるやつじゃないと絶対に精神的に持たない。先生に必要なのは従順な付人ではなく、当番というパートナーであるとイオリはこの半年で学んだ。その意識も持たないで当番になられても後処理が困る。そうなると適当な人選をしてしまうと不満たらたらで半周でバックれるか、先生を御しきれずに潰れるか、逆に先生をダダ甘やかして仕事にさせなくするか。この辺りが関の山だろう。

 ”いい感じ“っていう先生の意図を読むと三番目が色んな意味でいいのかも知れないけど、それは今までやってきたイオリの当番のプライドとして許すことはできない。ここは業務を行う場所であって、大人と生徒の禁断のラブストーリーを繰り広げたり、仮眠室でイイコトをするような場所ではない。というか先生と生徒がそんな行為をしたところに足を踏み入れたくない。

 と、長々と悶々としながら書類を弾いていく。たまに糖分の比率がやや大きくなった元コーヒーをグビリとあおる。

 何人か目を見張る人物も見受けられたが、この人たちに自分が教える側に回るのかと思うと及び腰になる。正義実現委員会は知っている。ティーパーティーなる存在も最近知った。とはいえその立場の人間がやはり書類仕事などできるのだろうか。自分の学園の生徒会を思い返しては疑問符は尽きない。周囲が優秀であるからトップは裁量権に責任が求められることをイオリは最近知ったばかりである。

 結局全てを捌き切るには時間は足りず、コーヒーも足りなかった。

 

***

 

「ただいまイオリ。頼んでたやつどう?」

「おかえり。実はあんまり決まってない…結局先生に意見をもらいたいんだけど」

「オッケー。じゃあお土産にアイス買ってきたしそれ食べながらやろっか。にしても今日は暑いよね」

「ありがと。たしかに今日はちょっと日差しも強いし、肌がちょっと汗ばんでやな感じだ」

 ソファの上で畳んでいた足を解いて横にずれる。先生は空いた隙間で人一人分の空間をおいて座り込んだ。

 

「そうだね。ちょっと汗ばむとシャワー浴びたくなるよね…ってイオリこれって」

「あごめん。脱いだ方が楽だったから。今どかすからちょっとまっー」

「脱いだ!?ブーツを!?ここで???」

「な、なんだよ!別にいいだろちょっと靴脱いだって…ブーツはちょっと暑いし…」

「蒸れた!?イオリの足!?!?!?ーーーーーなるほどね。うん。なるほどね理解したよ」

 

 

 

「じゃあスリッパでも今度から用意しようか。そのほうが過ごしやすいよね」

「う、うん。そうだと助かるけど…………って言いながら先生、私のブーツどこに持ってくのさ」

「どこって…私のイオリコレクションとして堪能してから飾るんだけど」

「はぁ!?」

「貴重なイオリの蒸れ蒸れの足を包んだブーツだよ。これはコレクションする価値がある。そうだ日付もちゃんと記録とっとかなきゃ…」

「バーーーーーーーーカ!!!!!!!何言ってんの!?」

「大丈夫だって顔突っ込んで匂いを堪能したらそのまま無菌処理してケースに入れるからさ。あ、もちろん代わりのブーツは新品用意するから安心してね!」

「そういう問題じゃないだろ!?一般常識で違うって分かれよな?!」

「大人に一般常識を語るなんてイオリ、百年早いよ。もっと社会の荒波に揉まれてきてからの方がいい。」

「ここぞとばかりに大人ぶるなっ!!!」

 

 

「そういう変態行動も言動も、他の当番きた子には絶対にするなよな…」

「しないしない。イオリにしかしないってば。」

「べ、別に私だけとかじゃなくて…私ぐらいしか許さないんだからな!ホントに」

「はいはいソウダネ。」

「むかつく言い方!」

 

 当番表のローテと人員の割り振りは思った以上にうまく行った。楽できて嬉しい反面、ちょっと面白くないイオリだった。

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