本当は誕生日と合わせたかったけど我慢できなかったので。
「先生…」
あたりを見回す、腕時計の示す時間は約束の1時間前。早かったか。
あたりを見渡すと手を振ってる人が目に入った。もしかして…
「お〜いこっちこっち」
履き慣れない靴に四苦八苦しながら小走りに近づく。見慣れた背丈。少し赤みがかった顔。
「ごめん先生、まさかこんなに早く待ってるとは思ってなくて」
「そんなことないよ、私もさっき着いたところだから。」
「嘘、さっき見えたぞ。ポッケから手を出してみろ」
「銀鏡、もしかして手繋ぎたいの?こんなに人が多いところで…大胆だね」
「ち、ちがう!いいから早く出してみろ!」
「ほら、手が真っ赤じゃないか。それにこんなに冷たい」
「銀鏡が温めてくれない?」
「それはおかしいだろ。」
「時間が分からないからずっと待ってたんだけどな〜。銀鏡ってば場所の約束はしたけど時間までは連絡してなかったでしょ」
「うっ」
「ずっと待ってたんだけどな〜。寒いな〜冷たいな〜」
「ぐっ…」
確かにあの日約束したのは日取りと雑破な時間だけ。
先生を待つことになると思ってたから、自分が早めに着いて後にでも連絡すればいいと思っていた。
まさかもっとずっと前から待っていたのか?
「わかった…今回だけだからな!」
先生の両の手を胸の前まで引っ張る。
鼻から息を吸う、冷たい空気が鼻をツンとさせる。
は〜、は〜
白い息が先生と私の手に当たる。
温めているのは先生の手のはずなのに、私の体温がどんどん上がる。
温度の高い方から低い方へ、私の中から先生の中へと流れ込んでいく熱量。
「ほら、これであったまっただろ!」
しばらくして先生の手と私の手が同じくらいの暖かさ。もう冷たくはない。
なのに先生が手を離してくれない。振り解けるだけの腕力はある。でもそうはしない自分の腕が恨めしい。何か期待しているとでも言うのだろうか。
「イオリの手、あったかい」
「ちょ、ちょっと先生?!」
わざわざ膝を折ってまで頬擦りする先生。先生の頬が肌に触れる。肌荒れケアはちゃんとできていただろうか。手汗かいてないか、一瞬で頭の中がそんなことに支配される。
「ここ人前…あーもう!調子乗りすぎ!」
「あら」
手を引き抜く。人前でなんてことをしてくれるんだ先生は。
「と言うか先生、連絡くれれば急いで来たのに。」
「なに、銀鏡とお出かけデートだからね。楽しみで早く着いちゃった。」
「デッ…?!」
「あれ、デートじゃないの?トリニティで待ち合わせなんて。」
「それに、キョロキョロしてる銀鏡を眺めるのもなかなか趣があるものだよ」
「どんな目で見てるんだヘンタイ」
「…待て先生、いつから私に気付いてた?」
正義実現委員会に見つかると面倒なことになりそうだし、そうでなくともゲヘナ生徒はトリニティでは浮いてしまう。だからこちらに赴く時は服も髪型も変えている。
今日の姿はといえば、髪は下ろして上はカシミヤニット、下はロングのチュールスカート黒。グレーのマフラーをぐるりと巻いている。靴はいつものブーツほどヒールが高くないものを選んだ。
普段の制服のイメージと結びつかないようにかなりカジュアルダウンさせたつもりだ。
ゲヘナから電車に乗ってきても特に注目もされなかった。
「いつからって、改札口はここから見えるから。こっちに歩いてくるのも見てたよ。」
「いや、人も多いのに。この格好で、よくわかったな私だって…」
あっけに取られている私を見て先生は続ける。
「それはそうだよ。銀鏡は私の大切な生徒だからね、見間違えなんてするわけないよ。」
「でも確かに今日は普段と違うイメージでまとめてるね。よく似合ってて可愛いよ。」
ふわっと微笑んでくる先生。
ーーーーーずるい。
ずるすぎるだろ、なんだそれ。
そんなこと言われたら…。
ぼっと赤くなる顔。マフラーに口元を埋めて上がる口角を隠そうと躍起になる。
「銀鏡?」
「う、うるさい見過ぎだバカ!ヘンタイ!」
「それはちょっと理不尽じゃない?!」
「じゃない!!」
今は顔を合わせられるような状態じゃない。
「と、とにかく!早めについたならそれはそれで都合がいい」
「行くぞ先生、人気店だから早めに行くのに越したことはない」
ツカツカと少し早歩きで歩みを進める。
先生が隣に並んでくる。
「隣に並んでもいいかな?」
「もう並んでるだろ…別に気にしない。」
「手、繋がない?」
「だめ」
「ダメか〜」
「・・・・今はまだ、人が多いから。あとでなら。」
「そっか」
周りの音と反比例するように、自身の心音が激しくなっていくのを感じた。
銀鏡呼びなのはイオリへの配慮です。
名字は読み方含め知ってる人が少なそうなので。