童貞冒険者が娼館に行く話 作:クー
この世界は不条理だ。
俺が一体何をしたというのか。
……いやナニは毎日しているが。
…………話が逸れた。
コホン。俺は、この世界で冒険者という職業に就いていた。
冒険者と言えば聞こえがいいかもしれないが、社会に溶け込むことができなかった荒くれ者やならず者の受け皿となっている、というのが実情である。
俺はそんな冒険者たちの中でもある程度の成功は収めていた……と思っている。ていうか思いたい。
仲間思いで実力もあった、良いパーティーメンバーにも恵まれたと思うし、彼らとの思い出は俺にとって決して忘れられない宝物だ。
ちゃんと信頼関係を築けていたと思うし、そこには確かに絆が存在した。
幾度となくピンチにも陥ってきたが、仲間たちのおかげで何とか乗り越えて来ることができた。
俺のパーティーは剣士の俺、魔法使い、戦士、僧侶、そして悪魔の5人だった。
俺と戦士は全線で戦い、魔法使は後方から攻撃、僧侶は疲れた皆を癒し、悪魔は……まあ、活躍はしていたと思う。
バランスの取れていた良いパーティーだったと思うし、実際それで実績もある程度は残してきた。
……しかし、現実は非情だった。いや、それは当然だったのだろう。俺たちの冒険がひと段落ついたところで、ある提案があがった。
「そろそろ状況も落ち着いてきたことだし、一旦パーティーを解散しない?みんな、自分がやりたかったけどこの稼業のせいでできてなかったことってあると思うの。だからそれをする期間、ってことで。……どうかな?」
魔法使いからの提案である。
しかし俺にはやりたいことなんてなかった。冒険者になってからのみんなとの思い出以上に大切なことなんてなかったし、これからもみんなと冒険者を続けていきたいと思っていた。
だが俺以外のメンバーはその魔法使いの提案に賛成していたし、みんなにもやりたいことくらいはあったのだろう。
そのままパーティーは解散となってしまい、俺は一人、取り残された。
少し……いやとても悲しかったが、仕方のないことだったのだろう。
だが俺には大きな、とても大きな心残りがあった。
ここで、冒険者という職業について。
一般的に冒険者とは民間人からは蔑まれる対象であり、結婚なども民間人とはあまりできないため、冒険者同士で結婚することが多い。
危険な職業の為早く結婚して早く……その、子作りをすることも多かったし、俺の周りのパーティーでもよくカップルができていた。
ここで一つ言っておくが、俺のパーティーメンバーは全員女である。しかもみんな可愛い。
もしかしたら俺にも春が……なんて思っていたが、なぜかそう言うことは一切なく、そのまま解散という流れになってしまったのだ。
そう、俺は成人した冒険者にも関わらず、童貞なのである。
もちろん女の人とお付き合いした経験もなく、完全に童貞である。
そう言う知識はほかのパーティーの男達からされた話でしか知らない。
一体俺がナニをしたっていうんだ!……いやナニはしたって!
…………とにかくそんなわけで放心状態だった俺は、俺たちのパーティーが昔拠点にしていた街を意味もなく歩いていた。
歩く、歩く、ただ歩き続ける。いつもだったらにぎやかに見えていたこの通りも、一人だと寂しく感じた。どこに行ってもかつての仲間たちの面影が浮かんできて、振り払うことができない。気分が沈んでいく。本当は周りにたくさん人がいるはずなのだが、まるで遠くのことのようにしか認識できない。心にぽっかりと穴が開いてしまったみたいだった。
ああ、いつの間にか遠くまで歩いてきてしまったようだ。いつもなら来ないような高級旅館や金持ち用のカジノがあるような区画に立っていた。
「うん、高級娼館?……一回くらいは、悪くないかもな」
これから何をしようか、なんて全く考えていなかった俺は、衝動的にその娼館に入ることにした。
俺は気づいてしまった。なにも、結婚とまでは言わない、童貞を捨てるくらいならいくらでも手段はあったのだと。
それに、こうでもしないとあいつらのことを忘れられそうになかったから。
◇ ◇ ◇
この辺りの金持ち達が利用するための店なのだろう、中のつくりは豪華で、とてもではないが俺のような一介の冒険者が入っていいような雰囲気ではなかったが、解散の時にパーティーの貯蓄をメンバー全員で等分したため、懐には余裕があった。一回くらいなら金も足りるだろう。
嫌になるほどフカフカの赤いカーペットの上を歩いて行き、受付に向かう。
「ようこそお越しいただきました、本日はどのようなご用件で?」
受付にいたのは40代くらいのオッサンだった。体系は引き締まっていて、高級そうなスーツを着込んでいる。
というかこんなところに要件なぞ一つしかないだろう。
そう伝えると、オッサンは身分を証明できるものを出せと言ってきた。
身分を証明するもの……あ、冒険者の時に使っていたこのプレートでいいか。
はい、と渡すと、オッサンは「おお、これは……!」と言っていた。なんだ、冒険者如きがこんな高級娼館に来るなと言いたいのか。いいだろう、金はあるのだし。
それを伝えるとオッサンは「いえいえそんなことは……それではこちらからコースをお選びください」と言ってきた。
ふむ、コースか……今はもう夜だし、泊まりのコースにするか。
えーと、お値段は……うん、高いね。まあこれも童貞を捨てるためと考えたら安い、のか?
それとオプション?……へぇ、SMプレイやその他の特殊性癖にも対応してるのか。まあ初めてだし、普通ので、と。
後は相手の女性の特徴か……俺はどっちかと言うと小さくてかわいい系の子が好きだからな……よし。
おい今ロリコンって言ったやつ誰だ!ロリコンじゃねーし!小さくてかわいい子が好きなだけだし!
記入を完了した俺は、オッサンに部屋の鍵を渡された。オッサンに「では先に部屋で休んでいてください。一時間もしたらお相手が参りますので」と言われた。
あと一時間もしたら俺は……と考えると興奮した。
◇ ◇ ◇
さっき興奮するといったな……それは本当だが、今ものすごく緊張しているし不安だ!
少し部屋の外から音がするだけでビクビクしているし、マジで怖い。
まだ会う前からこんなので、本番は大丈夫だろうか?
というかここは本当に俺みたいな冒険者が来ていいような場所だったのだろうか?
部屋に置いてある花瓶や鏡も明らかに高そうなものだし、部屋には一基いくらという魔法によってお湯を生成する風呂もある。
こんなの壊したら弁償できねえぞ……というか――
コンコン、とドアがノックされ、俺の心臓が飛び跳ねる。待ってちょっと怖いからもっと静かにしてくださいよていうかまだ心の準備が――
ギィ、と音がしてドアが開けられる。
そこに立っていたのは、身長が150㎝あるかどうかくらいの小柄な女性だった。
そして俺の頭の中は……
え待って可愛い無理死ぬあああああああああかわええええええええ!!!!!!
……俺の好みドストライクだった。