童貞冒険者が娼館に行く話   作:クー

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二話

……落ち着け俺。

そうだ、落ち着くんだ俺。

 

なぜこんなにも慌てているのか。まずは俺をそうさせた問題から考えよう。

俺は今、娼館にいる。そして初めて女の子を頼んだ。そうだ、そこまでは良い。

だが、今俺の目の前にいるこの人、いや女性は──

 

──可愛すぎる。

 

え待っていくら高級娼館って言ってもこんな可愛い子いっぱいいるの凄すぎないかというか俺の好みすぎてマジでエグイってかこの子よく見たら頭に動物の耳生えてる────!

 

 

 

……だから落ち着け俺。

 

そう、この子は獣人だった。なんか頭に猫っぽい耳が生えてる。てかお尻のほうにも尻尾みたいなのあるし。

ちなみにこの国だと獣人は珍しい。別に差別や格差があるといったわけではないが、数が少ない。なんでもここから遠く北の方に、獣人たちが多く住む場所があるらしく、多くの獣人たちはそこからこの国に来ている。

あと俺が個人的にケモ耳とか尻尾とか好き。いっぱいすき。

 

 

 

話が逸れたな。

 

まあとにかくこの子が俺のクッッッッッッソ好みであるということが分かってくれればそれでオーケーだ。

 

……あれ待ってこの子なんか俺の方に近づいてくるんだけど待ってまだ心の準備ができてないってなんか俺にくっついてきたんだけどぴとって待ってなんかめっちゃいい匂いするんだけどこの子ああああああああ!!!!!!

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

一時間ぐらいたった。

……あの子ずっと俺の横にくっついてるだけだったんだけど。

え? ここ娼館だよね? 娼館ってなんだっけ?

 

ていうかこの子もずっとしゃべんないし。俺はどうすればいいんだよ! 童貞だよ! 分かんねえよ!

あとこの子可愛すぎてえっちする気失せた。なんか可愛いものって自分で汚したくない的なあれよ。まあこの子も娼館で働いてるわけだしその……アレなんだろうけども。

 

ねーこの子いい匂いするー。あぁ^~心が癒されるんじゃあ~

あーなんかもう良い匂いするし眠くなってきた……。寝るかー。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

私は獣人だ。名前はラーナ。今は、ある高級娼館で働いている。娼館と言っても、しっかりと給料は払われるし、貧民街の娼館ほど劣悪な環境な訳でもない。ここに来た理由と言えば、私の両親がここに私のことを売り払ったからである。あの時は少しばかり悲しかったが、今ではそんなことは思っていない。むしろこんなに良い環境に売ってくれたことに感謝すらしている。ただ働きというわけでもなく、衣食住も保証されていて、休日までしっかりとある。まあ娼館だけど。

 

だが、こんなに恵まれた環境でも、私には不満があった。

……私が働いているのは、高級娼館だ。そう、”高級”なのだ。つまり、利用料金がクッソ高いのだ。一回の利用料金で、慎ましく暮らせば半年は生きていけるほどの金が溶ける。正直言ってエグイ。そしてそんな金を払えるのは、辺り一帯で一番大きい商人とか、お屋敷で暮らしているお貴族様とか、そんな人たちばかりである。いや、別にそういう人たちが嫌なわけじゃない。だけど、彼らの体は…こう、ぷよぷよ、なのだ。

 

いや、あのね? 別に運動してないことを咎めたいー、とかじゃないんだけどね? そういう人たちは普段、屋内での仕事を頑張ってるのは知ってるんだけどね? 私の好みはもっとこう、その辺を歩いてる冒険者みたいに引き締まった体なの。ぷよぷよじゃないの。はあ、もうこんな言い方しても仕方ないから言うけど──

 

 

私は! 筋肉フェチです! 

 

それもムキムキじゃなくて、バキバキの筋肉が好きです! 

 

分かりやすく言うと、細マッチョが大好きです!!! 

 

 

……ふぅー。

うん、分かった? でもね、そんな細マッチョは高級娼館には来ないの。来るのは、ぷよぷよ、ぷよぷよ、あとぷよぷよにぷよぷよ、そしてぷよぷよ。たまにガリガリ。

細マッチョは、いません。はい。

 

……はい。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

ある日、いつも通りに仕事をしていた時。今日もなぜか受付をしていた店長から、指名が入った。はぁ、今日はぷよぷよかガリガリかどっちだろう、なんてことを考えながら部屋に向かう。そしていつも通りに部屋の前に着き、ノックをする。そして、開けられた扉の先には──

 

 

……え何これ待ってなんかこの人ぷよぷよでもガリガリでもないしお、お腹にき、ききききき筋肉がありますよしかも割れてるん何でこの人こんなところにあああああああああ!!!

 

 

ふぅー、ふぅー、はっ、はっ、はっ、お、落ち着け私。と、取り敢えずまずはベッドに入って一緒に──じゃなくて! えーっと? ま、まずはこの筋肉、じゃなくてお客様に話を……ん!? こ、この人と話す!? 私が!? 無理無理無理絶対無理心臓破裂するヤバイてかこの人よく見たら普通にイケメン細マッチョでイケメンとか敵なしか!? あぁん!?

 

 

ああ待って、なんかベッド入っちゃった…ってもしかして私今からこの人とセッ〇スすんの!? あ、あの私の心臓ちゃんが耐えられるか怪しいからまだ心の準備を──ってだ、抱きしめられてる!? 私抱きしめられてる!? め、目の前に細マッチョの筋肉の壁が!? あああああ待って待って待って! まだ! 心の! 準備が!!!

 

 

……あれ、なんか抱きしめられてるだけなんですけど。ていうか気づいたら一時間くらい経っちゃってるんですけど。ていうかこの人寝ちゃったんですけど。

 

よし、寝ちゃったんならしょうがないね。私はこのイケメン細マッチョ布団で寝るとするか。うん、素晴らしい。これが筋肉か。良き触り心地かな。うん、おやすみ。

 

あ、イケメン細マッチョ布団の寝心地は、それはそれは緊張していたせいで、まったく寝れずに寝不足になる寝心地だったとか。まあ寝不足になったの私だけど。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

結局、何もなかった。まあ、めちゃくちゃいい寝心地の抱き枕を一晩だけ借りたと思えば……いや、一晩でこの値段は高すぎるわ。何なら買いたいくらいだぞ。まあ、今回はあの寝心地に免じて許してやるが。

 

「それでは当店をご利用いただきありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」

「ええ、それでは」

 

うん、受付の人はこんな冒険者の俺に対しても誠実だ。実に良い人だな。

というか、もしかして一晩中何もしないっていうのは、相手の女に人にとっては失礼なことなのか……?

うん、もしそうだったらごめんな、ロリケモミミ美少女よ。まあ、もし今度来る時があれば……その時は、しっかりできれば…いや、やっぱ無理かも。可愛すぎた。

よし、次までにその可愛さをどうにかして出直してこい! 出直すのは俺だった! ではさらば!

 

俺は娼館を後にした。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

あの男の人が、会計をしている。身分証明に出していたプレート、あれは冒険者の物だ。ちなみに私は、カウンターの奥からあの人の姿を見ている。決して覗いているわけでは──いや、覗いています。ごめんなさい。でも許して。

 

あの細マッチョボディは、冒険者だからだったのか。

でも、冒険者でここの娼館に来るなんて、よっぽど冒険者として成功した人なんだろう。今も、目玉が飛び出るほどの金額の金貨を、店長に渡している。

あれ、というか店長昨日の夜から今までずっと受付にいたの? マジか……。やっぱり店長ゴーレム説は本当かもしれない。フィジカルも強すぎるし。

 

はあ、あの男の人、良い筋肉だったなぁ。また来てくれないかなぁ。まあ名前すら知らないけど。

……あれ、そういえば私、抱きしめられてただけ……。それに、目の前で寝られたし……。もしかして、私の見た目が気に入らなくて、そのまま寝ちゃったってこと!?

うん、絶望的だな。だめだ、もう一回指名される可能性はほぼ0%だな。

 

ああ、そんなぁ~! 私の細マッチョ筋肉がぁ~! ま、待って! 行かないで!!!

 

私の心の叫びも虚しく、彼は娼館を去っていった。

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