推しの水神   作:八重堂の小説家

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1週間でフォンテーヌ魔神任務と伝説任務を終わらせたので(たぶん)初投稿です。


第1話

 

 この世界の神というのは、基本的に長寿である。歴史書を開けば、各時代にその真名で偉業を残している場合もある。そして宗教と結びつけられずとも、人々に崇められることも多い。例えばお隣の国だって、いまだ幼い見た目だが、スメールの人々は知恵の神として慕っている。

 

 人の身では対処できない問題はあって。

 往々にして、彼ら彼女らは慕われるものだ。

 

 水に囲まれた『正義』の国にだって。

 人々の救世主は、確かに存在する。

 

 ちゃんと、貴女は……

 

「うへへ~ 僕のかちだ~」

 

 よだれを垂らして緩みきった表情でさえ、その端正な顔立ちによって美しさを感じるほどだ。

 ゆったりとした水色のネグリジェが着崩れていることもあって、こんな蠱惑的な姿は他の誰にも見せられないだろう。

 

「僕のかーどはちゅよく~」

 

 漏れている寝言は、昨日の夜、七聖召喚というカードゲームでボコボコにしてしまったせいだろうか。だって、手加減できないだろ、デュエリストなら。

 

 ていうか、フリーナ様のカードとかそろそろ出ないかな。他の神くらいに最強で。

 

「むにゃむにゃ~」

 

 それにしても、猫のようにかわいいし、美しい。

 さてこんな時は、いつだって冷静沈着な友人を思い浮かべようか。

 

「俺は朝食を食べるが。君は食べないのか?」

 

「うにゅ~?」

 

 軽く肩を揺らしたことで、ゆっくりと開かれる瞳は、まるで宝石のようで、海のように人々を惹きこむことだろう。トロンとした表情のまま、しなやかな両腕を広げる姿には、何年も見慣れた俺でさえ動揺してしまうほどだ。

 

 1つの国を統べる神としては、華奢すぎる身体だ。背中に片腕を回して、もう片方の腕は彼女の膝裏へ回す。ゆっくりと寝具から持ち上げるも、いくらなんでも軽すぎて、それに柔らかい。

 もし爪が当たったならば、すぐ傷ついてしまうくらいに、彼女は繊細だ。

 

「んぅ~? あさ?」

 

「あと少しで昼だ」

 

 いわゆるお姫様抱っこというやつだが、俺の袖によだれが垂れているくらいには、まだ覚醒しきってはいないだろう。シルクのように煌びやかな銀髪が腕にかかるが、まさしく水の神としての美しさを持っている。

 

 ソファに彼女の身体をゆっくりと置けば、ふんわり低反発で受け止めるくらいに、その高級さを発揮してくれる。確か領収書は見たはずだが、そのお値段に俺は宇宙猫状態でさっさと事務に回した。

 

「ん~~!」

 

 腕を高く伸ばして、片腕でそれを掴むように背伸びを始めた。今日もぺったんこだ。諸君、大きいのも小さいのも、公平に愛そう。

 

 ほら、『はわ~』って大口を開けて、手のひらをパタパタとする仕草など、とにかく可愛い。庇護欲をそそるじゃないか。

 

 さて、ワガママな神が起きてしまった。

 紅茶を入れたカップを机に置いてみるが。

 

「うむ。くるしゅうないぞ」

 

 ごくごくと、ぷはーと喉を潤してから、パンはともかく、机に置かれたサラダにはフリーナ様は目を逸らす。

 腕を組んで う~むと唸る仕草をした。

 

「僕はケーキが食べたい気分だ」

 

 フリーナ様は、両腰に手を当てて、お得意のドヤ顔でそう指示してくる。

 

 フォンテーヌの神でありながら、一般的なお屋敷の主人たちと違って給仕がいない理由として、とことん彼女は気分屋だ。何年も鍛え上げてきた技術で豪華な朝食を作ろうとも、フリーナ様の食事量は多くはないし、放っておけば偏食だってする。

 

「ないが?」

 

 そろそろスメール教令院か、フォンテーヌ科学院の誰か、冷蔵庫とか開発してくれないかな。

 その昔、氷スライムを飼ったことはあったが、さすがにかわいそうになって仲間のところへ逃がした。

 

「じゃあ、新鮮なバブルオレンジがいいな」

 

「今から買いに行こうか?」

 

 よだれを垂らされたせいで、上着を一度着替えてから街の露店に向かったとして、戻ってくるのは1時間後くらいになるか。これだから歌劇場に併設された屋敷は、店から遠くて面倒なんだ。

 それに、起きる時間が普段より3時間も遅いせいで、フリーナ様はさぞ、おなかペコペコだろう。

 

「1時間かかるが?」

 

「おい! キミなら30分でいけるはずだ!」

 

 いざ探すとどこに実っていたか覚えてないし、とりあえず面倒だ。

 

 それに、『ぎゅるる~』ってお腹の音が、もちもちの頬をプクプクさせたフリーナ様から鳴っている。我慢も限界だったのか、腕を組んでから、ぷいってする。

 

「む~~ 明日はケーキだからな!」

 

「それだと3食ケーキになりそうだから、却下だ」

 

 さっさと俺も向かい側の高級ソファへ座って、食事を始める。

 

「キミはいつもいじわるだな。僕は神だぞ」

 

「神なら、好きキライせず、食べれますよねぇ?」

 

 そうして煽ってみると、『なんでも食べれるとも!』ってドヤ顔をする。

 フリーナ様はチョロい。

 

 いまだ多めにドレッシングをかけないと野菜を食べられない、そんなフリーナ様もフォークでサラダをつついてから、諦めたように食べ始める。

 このフォンテーヌはどうにもスイーツ好きが多いため、水神としてイメージ戦略を使ってでも食生活を見直させないと、国の未来が危うい。

 

 その小さな口でパンとサラダを少しずつ静かに食べている姿は、まるで物語のお姫様のように美しいのにな。

 

 決して多くはない量を食べ終えたフリーナ様は、紅茶の空いたカップをこっちに向けてくる。従者としては側に立って、タイミングを見計らうものなのだろうが、あいにくとそんな堅苦しい関係は、何年も前に消え去っている。

 

 座ったまま、ぬるい紅茶をカップへ注ぐ。

 もう、あれから何年経過したか。

 

 放っておけなくなるくらいには、こんな俺でも、フリーナ様から離れたくなくなっていた。

 

「さて。今日の予定はどうだったかい?」

 

「そろそろ休みたいって嘆いていたから、何も入れてないな」

 

 フォンテーヌの人々から慕われることもあって、フリーナ様とお茶会をしたいという民は非常に多い。事務がスケジュール調整をしてくれているが、数十件は溜まっているはずだ。フリーナ様だって遊びたい日はあるし、趣味や仕事で歌劇や審判を観に行くことも多いし。

 

「うんうん。さすがは僕の従者だ」

 

「それはどうも」

 

 ヌヴィレット様も、もっと休んだほうがいいと思うが。

 どうにか時間をとって七星召喚を教えて、ヌヴィレット様をデュエリストにしたい。絶対強くなるし。

 

「これでケーキを出してくれたら完璧なのにな~」

 

「このポケットから何でも出せるわけじゃない」

 

 最近有名なマジシャンから、マジックポケットという便利な物を貰ったが、さすがに食品類を入れておくのは忘れた時が怖いと思うのだが。

 

 今日が休暇だと知って、うきうきのフリーナ様は、ソファから立つ。

 どこかに出かけるのかと思えば、俺の机にあった新聞と、棚のお菓子袋を持って、さっきまで寝ていたベッドへ移動をする。

 

「食べたばかりだ。寝るなよ?」

 

「はいはい。分かってるよ~」

 

 ネグリジェ姿のまま、再びボフっと寝具へ飛び込んだ。そのすらりとした足を裾から見せながら、パタパタと動かす姿は、俺がいることも気にしないくらいに、自室でリラックスできている証拠だろう。

 

 野良犬のようだった俺はフリーナ様に拾われ、今はこんな静かな休日を過ごせている。あっちこっちへ振り回されているうちに、ヌヴィレット様だけでなく、人々との交流も増えた。仮面は張り付けたままだが、何年も経過すれば民にはフリーナ様の従者として認知されていた。

 

 ならば、その期待に応えるべく、フリーナ様のために、俺は。

 

「あはは! 旅人ったら、今度はスメールで大活躍じゃないか!」

 

 そんな嬉しそうな声で、思考の渦から呼び起こされた。

 

 スチームバード新聞社の情報はとにかく早い。この世界ではいまだ情報通信技術が未発達なのに、彼ら彼女らは己の足で世界各国から情報を報道してくれる。何年も鎖国だったあの稲妻から、もうスメールの国まで、旅人は世界を旅している。

 

 きな臭い国ではあったが、それが解決されたこともあって、俺自身もホッとしている。フリーナ様も最近は草神のことが心配になって、あわあわと慌てる彼女をあやして、寝かせないといけないくらいに大変だったし。

 

 教令院の友人たちも無事だろうし、なんなら旅人に手を貸したかもしれないな。

 

「ねぇねぇ! もしかすると次はこっちに来るかな?」

 

「あの砂漠を越えて……きそうか」

 

 雄大な自然が溢れるスメールの中心から少し離れれば、広大な砂漠が広がっている。かつては俺も旅したことがあって、その過酷な環境を味わったが、噂の旅人なら余裕で乗り越えてくるだろう。

 

「ふふん。それならこの僕が、神として出迎えてあげないとね!」

 

 新聞を置いてから身体を起こし、フリーナ様はベッドの上で両足を広げて座り直す。

 ポップコーンをハムハムと口に入れながら、出会ったときのカッコいい演出でもシミュレーションしているのだろう。

 

 演劇とかマジックとか、そういったものにはすぐ影響を受けてしまう。イメージに反して上手くいかず、トランプを床にばら撒いている姿もかわいいのだが。

 

「よしっ、今日はおしゃれな服を仕立てに行こう!」

 

「はいはい」

 

 そうなると、まずはその綺麗な銀髪を整えることからか。

 

 彼女は財布を持ち歩かないし、1人で買い物をするのだって苦手だ。フリーナ様が自立できない原因の1人として、また事務の人から怒られるだろうが、だってフリーナ様はとことん甘やかしたくなるじゃないか。

 

 推しの水神だから。

 ということにしておいてほしい。

 

 




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