推しの水神   作:八重堂の小説家

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2章第1話 

 

 すぅ すぅ と、寝息が聞こえてきた。

 

 昨日の夕方からお昼寝したとはいえ、事件に関する報告や、その推理で眠れていなかったからな。しかも偶然とはいえ、告発人として審判における主役の1人となったのだし。

 

 昼間は宝石のように輝く衣服でまさしく神って見せているが、ネグリジェのようにシンプルなデザインというのは、どうにも普通の女の子って感じがする。

 

「どう見ても、普通の女の子なんだよな」

 

 眠っているフリーナ様の頭をヨシヨシと撫でると、ちょっとだらけきった表情になるのが可愛いところだ。

 

 疲れた時は甘いもので、緊張した時はスープくらいしか喉を通らないし。

 不安になったら、1人では夜も眠れないときだってあるし。

 剣術を嗜み程度に身に着けていても、いざ戦いとなれば震えるし。

 

 だが、予言に対抗するため何百年も、本を読み漁る姿は、ちゃんと神で。

 

「いや別に、腕っぷしの強さが、神の強さってわけでもないか」

 

 思わず呟いた言葉は、このフォンテーヌという広い国に響くことはない。どうにも予言のこともあって、何かが起きた時は『水神様が災害を防いでくれる』って声が大きい。

 

 歌劇場前には噴水があちこちに見受けられるが、水の道は作れても、水自体を操る(すべ)なんて科学では難題なことだ。科学院の方角を見れば、とある天才が空中に残したのだが、キューブ状に多量の水が漂っている。

 じゃあファンタジー的な水元素力に頼ればいいかと こっそり聞いてみても、出会った頃のフリーナ様に『この僕でも無理だね』と断言されたし、ヌヴィレット様も『洪水を防ぐことはできても、大規模な津波を押し留める程の力は、私にはない』って、だからこそ民へ過度に期待させないよう、2人とも水元素の力をあまり見せない方針になったのかもしれない。

 

 いろいろと考えごとをしていたら外に出ていたが、あまり人気(ひとけ)がないな。普段は夜景が綺麗ということもあって、この辺りはカップルや夫婦で賑わっているのだが。

 

「おい! しっかりしろ!」

 

「っ……パイモンか! 何があった?」

 

 声がした方向へ急げば、ルキナの泉の前で蛍ちゃんが倒れていて、その肩をパイモンが慌てて揺らしていた。

 

「ボロンゴ! 泉から声が聞こえてさ、そしたら蛍が近づいていって!」

 

「声? 確かに『ヴァシェ』って誰かを呼んでいるが」

 

 『ルキナの泉』は、大地に落ちた涙を含め、フォンテーヌのすべての水が集まる場所とされている。涙には強烈な感情が含まれているともされ、たまにこの噴水から『声』を聴く人がいるらしい。こういうのは初めてだが、今の蛍ちゃんからは水元素の力を感じるので、たぶん草以外の元素とも共鳴しやすい体質なんだろう。

 

「なあ、今度もちゃんと目覚めるのかな? 」

 

 パイモンは涙を流しながら、俺を見上げてくるが、これはフリーナ様かヌヴィレット様案件だぞ。

 

「オイラ、やっぱり心配だぞ……前にスメールでもこんな風に……」

「すまん。俺かキミたちか知らんが、厄介なヤツに目をつけられたみたいだ」

 

 パイモンの声を遮り、俺は『海淵のフィナーレ』という片手剣のほうを構えて、ガシャガシャという音に備える。

 

「これもう警備型とは言わないな。言うなれば、兵器型マシナリーか」

「おい! なんだよ、あの数! どんどんやってくるぞ!?」

 

 こちらへ歩いてくるのが20以上はいて、なんなら30くらいは用意してきたか。1台のお値段も個人所有では高価すぎるのに、それほど俺や旅人たちの実力を認めてくれているらしい。

 

 剣の効果が発動するのを待ちながら、横目で屋敷を見るが、今のところそっちへ向かう様子はないな。恐らく、フリーナ様が来る前に終わらせるつもりでこの数か。

 

「起こせるようなら、蛍ちゃんを起こしてやってくれ」

「え、待てよ! お前だけであの数を!?」

 

 マシナリーは違法レベルに武装も追加されているようで、マシンガンだけでなく、ドリルってのはロマンが分かってるじゃないか。

 

「当たらなければどうということはない! ってやつだ!」

 

 ドリルのやつを盾にしつつ、コアを剣で貫き。

 こいつを蹴り飛ばして、道を作る。

 

「これで、3体!!」

 

 高速で剣を振るって、3体のマシンガンを持った腕を斬り飛ばす。

 

 さて、どこかで首謀者は見てるな。

 1体の動きが手動に切り替わったが。

 

「出血大サービスだ! 持っててよかった、神の目!」

 

 手のひらに貯めた水元素の力を後方へ投げて、蛍ちゃんたちを守るように3匹配置する。

 

「えぇ!? こいつらスライムか!?」

「ただのスライムじゃない、訓練された水スライムさんだ!」

 

 ほら、頑張って泡をプクプク出して銃弾を防ごうとする姿が可愛いだろ。

 まあ残念ながら水元素だけでは防御力が皆無なので、とある宝石魔術のようにトパーズを投げ込むことで結晶反応を起こすことができる。

 

「これで5発くらいならシールドで防げるだろ!」

「結局スライムくらい柔らかいじゃないか!?」

 

 パイモンのツッコミを受けつつ、またマシナリーを斬り飛ばすが、これだけドンパチやっていたら増援も来てくれるか。俺からすれば、予想外の人物たちではあったが。

 

「なら、あたしの岩元素でどう?」

 

 昼間の棘薔薇の会(スピナ・ディ・ロースラ)のお嬢さんが、蛍ちゃんたちのシールドをより強固にしてくれた。腕に身に着けた神の目を輝かせながら、彼女は両手剣を構える。

 

「ナヴィア、来てくれたのか!」

 

「お嬢様! こちらの守備は」

「お任せください!」

 

 彼女はドレス姿なのに、俺より前の集団へ華麗に飛び込み、力強く両手剣を叩き込んだ。彼女の従者2人も、蛍ちゃんたちへ近づくマシナリーは対応してくれるらしいな。

 

「ねぇ、倒しても立ち上がってくるんだけど?」

「科学者の執念をなめるなよ。コアを破壊しない限り、動いてくる設計だ」

 

 マシンガンを失ったマシナリーも、片腕で落ちている武装を拾ってまで立ち向かおうとする。警備にしろ護衛にしろ、どれだけ壊れても人々を守ることが義務なのだ。

 

 プログラムを書き換えられることに対してプロテクトや自壊も取り入れているが、まあシステム面をゼロから構築されれば、完璧な殺人兵器になるってわけだ。

 

「改悪ではなくゼロから作るなんざ、よっぽどの大金持ちらしい。全部壊して、大赤字にしてやるか!」

「軽口叩いてる余裕、よくあるね!」

 

 合法的にちょうどいい訓練用マシナリーを大量に破壊できることを笑っていたら、ナヴィアさんに怒られてしまった。

 

 そりゃあ、こっちの身体を1発で消し飛ばすくらいの『魔物』と違って今更、銃弾程度でビビらないしな。どこまでも機械的であり、クロリンデや公爵のように威圧感だってない。

 

「……何が起きているの?」

 

 もう3人とも肩で息をしているし、目覚めたばかりらしい蛍ちゃんもまだ本調子ではないし。

 

 こういう命がけは楽しくなってくるな。

 だって、生きてるって感じがしないか。

 

「おーい! 警備隊員が誘導でもされたか?」

「あれは、クロリンデ?」

 

 クロリンデはマシナリーの集団の奥から、雷元素の力をフルに使いながら、高速起動で斬り裂いていく。細身であることを活かしながら、するりするりと間を抜けて、マシナリーをお互いに同士討ちだってさせている。

 

 しかも銃弾を剣で弾くとか、流石だな。

 それに、小型銃でセンサー類を破壊しているし。

 

「すまない。遅くなった。」

「気にするな。十分働いてくれてる!」

 

 最も警戒すべき対象がクロリンデになったからか、マシナリーはこちらから銃口をずらした。

 

「みんな、今だよ!」

「「はい!」」

 

「クロリンデ! 望み通り、合わせてやる!」

 

 水元素を片手剣に纏わせて、いまだ雷元素の余波が残っているマシナリーを斬っていけば、簡単に感電反応を引き起こすことができる。決して油断することなく、周りが何も動かなくなるまで斬っていって。

 

 すべてが終われば、剣を下ろす。

 兵器型にしても、マシナリーはまだまだ弱いな。

 

 咄嗟に戦術を組み立ててくれたクロリンデだが、彼女にも水元素を扱えることは見せていなかったな。まあ積極的に触れてはこないだろう。

 

「あなたが無事でよかった」

「……助けてくれたお礼を言うべきかしら?」

 

 ナヴィアやクロリンデたちも残ったマシナリーを残骸にまで破壊していて、ホント頼れる女性たちだ。周囲を警戒しても、マシナリーを手動で動かしていたやつは、戦闘の途中で血相を変えて逃げ出したか。

 

「最悪の目覚まし時計で悪かったな」

「……ううん、ありがとう」

「ふぅー みんな無事でよかったぜ」

 

 クロリンデたちは個人的な会話があるみたいだし、俺は蛍ちゃんの身体を支えながら噴水を椅子代わりに座ってもらう。

 

「なぁ、どうして警備ロボが襲ってきたんだ? こういうことってよくあるのか?」

「警備ロボではないな。さっきのは元々、兵器として作られたマシナリーだ。まあ……まだ未完成の時期のマシナリーが野良で暴走しているのもいるが

 

 冒険者もしているらしい蛍ちゃんたちは、討伐依頼で思い当たる節があったらしい。

 

「それで、何があったの?」

「お前が気絶している間に、待ち伏せしていたロボが飛び出してきたんだ。それで、ボロンゴと、ナヴィアたちが助けてくれたんだぞ」

 

 『あっ、それにクロリンデっていう決闘代理人もだ!』とパイモンが、蛍ちゃんへさっき起きた出来事を伝えてくれている。ナヴィアとの会話を終えて、クロリンデはすでに帰っていくようだが。

 

「運がよかったぜ。オイラだけじゃあんなやつらに勝てなかったぞ」

「パイモンはスライムにも勝てないからね。この水スライムは?」

 

 敵意もなくぽよぽよと飛び跳ねるスライムたちをすっかり忘れていた。

 

「そいつらは俺が出したのさ。見てな?」

 

 ここはカッコよく見せるべく、リネ君のように指をパチンと鳴らそうとしてみたが、残念ながらパスッと乾いた音しか鳴らなかった。

 

「「あー ……」」

 

 なんかドンマイって視線を向けられたが。

 ほら、指パッチンって難しいよね。

 

「お前、神の目を持っていたのかよ?」

「ん? じゃじゃーん」

 

 パイモンにそう言われたので、ポケットから指に挟んで一度見せてから、すぐに戻す。

 

「……何にせよ助けてくれてありがとう、ボロンゴ」

「俺は偶然通りがかっただけだ。この近くに住んでいるしな」

 

 何かを察したような蛍ちゃんは、お礼に問いただすことはしてこないらしい。まさかわざわざ神の目を偽装で作っている人なんてほとんどいないだろうし、パイモンはすっかり騙されてくれたみたいだが。

 

 ほら と俺は目線で、話したがってそうなレディーに場所を譲った。

 

「ナヴィアもありがとう」

「いいよ、そんなよそよそしいこと言わないで」

 

 もうナヴィアとも仲良くなっているのか。

 蛍ちゃんって友達多そう。

 

 俺とか、美少女たちの会話には入れないし。

 

 このメンバーで祝勝会というディナーをしただとか、パイモンのおかげで救われただとか。ていうか、飲食店で原始胎海の水を入れた飲み物が出てきたとか、今回の襲撃犯であって連続少女失踪事件の首謀者は、どれだけ昼間の審判が気に入らなかったんだ。

 

 だがフォンテーヌ人でない蛍ちゃんたちを狙ったわけではなく、ナヴィアさんだけを狙ったのか。それで、溶けることはない蛍ちゃんたちはマシナリーで殺害しにくる。フリーナ様やヌヴィレット様に簡単には手を出せないからって、レディーたちに刃を向けるとは、首謀者はずる賢いな。

 

 必ず、かの邪智暴虐の首謀者を除かなければならぬと決意した、なんてな。

 

「なあ、ボロンゴも声を聞いたんだよな?」

「ん? あー、そう、聞いた聞いた」

 

 話を聞いてなかったのがバレたら、カッコ悪いじゃないか。

 

「やっぱり、フォンテーヌ人以外にとって原始胎海の水は、水元素の感知力が上がるってことか?」

「うん、そうかもしれないね。それに、さっき新しい情報が手に入った」

 

 蛍ちゃんによれば、声は失踪した少女の1人で、少女が溶けた瞬間をヴァシェという人物は目撃したらしい。確かに水となって溶けた後、少女たちの残留意識のようなものがルキナの泉に移ってきていてもおかしくはないか。

 

 といっても、ヴァシェという名前に、俺もナヴィアさんたちも聞き覚えはない。少なくとも、連続少女失踪事件の被害者の関係者だとは思うが。

 

「うん、サンキュ、その情報はとても重要になる。引き続きこっちで調査をしてみるよ」

「じゃあ相棒、私たちも調査メンバーに入れてくれない?」

 

 蛍ちゃんやパイモンからニコニコと笑顔を向けられ、ナヴィアさんは嬉しそうに重ねて感謝を述べる。美少女たちの笑顔は絵になるって、従者君たちもそう思わないか。

 

「もうオイラたちも巻き込まれたしな」

「私に手を出したのが誤算って。思い知らせるよ」

 

「フフッ、じゃあ一緒にフォンテーヌ延の拠点に帰りましょ? 宿の手配もするから」

 

 しまった、屋敷に泊まっていかないかってイケメン的な提案が出遅れた。美少女で姉御肌で、イケメンでもあるとか、なんだか俺はみじめになってきたぞ。

 

「じゃ、ボロンゴさんも何か進展があったらすぐに教えてね?」

「ケーキ食べ放題の日程が決まったら教えてくれよ!」

「今日は助けてくれて本当にありがとう。大丈夫だとは思うけどボロンゴたちも気をつけてね。」

 

「おう。これだけの大赤字だから、すぐには手を出してこないだろうが、気をつけろよー」

 

 美少女たちもすぐに休みたいのか、俺へ頭を下げた従者2人と一緒に、巡回船で街に戻っていくらしい。俺も護衛に付いていくほうが良いのだろうが、残された俺が事件の報告とかをしなければならないし、この周辺で襲撃があった以上はフリーナ様の安全が心配だ。

 

 眠る必要もないが、今日も仕事をサボれないな。

 そう思いつつ、ルキナの泉に背を向ける。

 

 そんなとき。

 

終わりが見えない……凄く苦しい……一体いつまで耐えれば良いんだろう……

 

「まさか泣いているのか?」

 

 その声はずっとずっと幼くて、何百年も側で聴き慣れた声に似ていて。

 

早く……キミを自由にしてあげたい……

 

 おそらく原始胎海の水を飲んでいるわけではないので、俺にはちゃんと聞き取れないが。

 

 最推しが涙を流しているのはとても悲しい。

 だがこんな俺に、何ができる。

 

 

 

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