推しの水神   作:八重堂の小説家

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第6話

 

 まだ審判の終了宣言があったわけではないが、連続少女失踪事件はこれ以上起きることはないだろう。なぜならヌヴィレット様が主導して、密売組織のメンバーは芋づる式に逮捕されるから。

 

 彼はそういった内容を宣言し。

 毅然とした瞳が、民を安心させる。

 

 そして、彼は頷いた。

 

「ナヴィアさんの告発が成り立った今、タルタリヤ殿への告発も無効となる。」

 

 罪をなすりつけられるところだったタルタリヤだが、たとえ彼の審判が進んでいたとしても、無罪だっただろう。

 

「ああ。俺は気にしなくていいよ。ただ、大切な人を失ったというのに、復讐するヤツがいないってのは、残念だね」

 

 タルタリヤもまた、もしこれからの未来でそうなったとき、狂うという確信があるのかもしれない。

 ファデュイ執行官という肩書きで誤解されそうだが、身内にはとても優しそうな青年だ。

 

 観客たちも、静かに歌劇場から出ていくようだし。

 

 俺とフリーナ様はもうやることがないので、隅っこに立っていた蛍ちゃんとパイモンのところへやってきた。今思えば、フリーナ様にとっては、この距離で2人へ話しかけるのは初めてだな。

 

「や、やあ、旅人にパイモン、大手柄だったね。この僕が褒めてあげよう」

 

 フリーナ様は小声だが、まだ審判の途中だから というわけでもなさそうだ。さては緊張しているな。

 

「えっへん。 とても役に立っただろ?」

「解決してよかった。緊張しているの?」

 

 さすがに鋭いな、蛍ちゃん。

 

 俺が声に出さないよう忍び笑いしていたら、ちょんちょんと横腹で肘でつつかれた。本気でやらない辺り、フリーナ様って暴力とか好きじゃないよな。

 

「こほん、そんなことはないさ。いや、なに、賞賛すべき相手を、ちゃんと賞賛するというのは、神として寛大だと思わないかい?」

「相変わらず偉そうなやつだな……」

 

 回りくどい言い方だが、『ありがとう』ということだぞ、パイモン。

 

「そういえば。タルタリヤは大丈夫なの?」

 

「もうお開きムードだが、手続きを受けるくらいだな。なんだ、あいつが気になるのか?」

 

 ちょっとニヤニヤしてみたら。

 彼を見ていた蛍ちゃんが固まったが。

 

 えっ、まじですか。

 

「僕は最初から、彼が犯人だとは思っていなかったさ」

「この前はめちゃくちゃファデュイを怪しんでたくせに」

 

 他の国で起きたように、神の心を狙って執行官が来るかと思うと、それは怖いことだから、どうにも意識してしまったな。

 予言のことで精一杯なのに、ファデュイを牽制だってしていなければならないし。

 

「もしかしてお前って、実は怖がりなのか?」

「全く、全然、そんなことないんだけど?」

 

 できるだけ声を抑えつつ、フリーナ様は腕組みをしながら、パイモンと言い合っているが、なんだか似た者同士に思えてくる。

 この2人がフレンドリーというのもあるが、これはフリーナ様と、すぐにでも友達になってくれそうだな。

 

 さて、そろそろ審判も終わりそうかな。

 

「で? ここに立っているだけでいいんだろ。さっさと終わらせてくれよ」

 

 審判の手続きはあと少しらしく、後はタルタリヤが無罪と判決を受けるだけか。といっても、先日のリネ君のように、罪を着させられるために選ばれただけで、彼にはいい迷惑だっただろう。

 

 ヌヴィレット様は普段通り、審判結果を警察隊の隊長と確認しているが、どこか様子がおかしいな。

 

「諭示裁定カーディナルの審判結果により、タルタリヤ殿は……有罪、とする」

 

「「なんだって!?」」

「そんな! どうして!?」

「おいおい...こんなこと一度も」

 

 蛍ちゃんを追いかけるように、俺たちもステージへ走る。

 

 その間にもぐるぐると頭の中で考えるが、諭示裁定カーディナルが、ヌヴィレット様と別の判決を出したことはこの数百年間で初めてのことだ。しかも罪状だって不確定である。

 

「へぇ、そんな冗談、面白くないんだけど?」

 

 タルタリヤは声を低くして、ヌヴィレット様へ殺気を向け始めた。

 

 警備に戻っていたクロリンデや、降りてきたナヴィアさんたちも、ステージの付近にやってきたようだが。

 

「その機械、故障でもしてるんじゃないか?」

 

「ねぇ、どうしてタルタリヤが有罪なの?」

 

「……冤罪であるならば、こちらで調べよう。警察隊、彼を連行せよ。」

 

 諭示裁定カーディナルが判決を下した以上、その規則から審判は続けることはできない。ヌヴィレット様も内心は疑念を抱いているだろうが、それでも冷静なまま、警察隊へ命令した。

 

「これがフォンテーヌの規則ってやつか...」

 

 被告人の席から飛び出したタルタリヤはステージへ降り立ち、周囲へ撒き散らすような殺気を纏った。

 

 審判が始まる前の茶化していた時とは違って、ファデュイ執行官としての本気を感じる。警備型マシナリーが囲うように動くが、彼を相手には足止めにもならないだろう。

 

これがそっちの規則なら、俺も自分の規則でいこう!

 

 仮面を被り、公子は雷元素力を解き放った。

 

 俺はフリーナ様を、クロリンデは残っている観客を守るように動く。そして蛍ちゃんも彼を止めるために、俺たち3人はそれぞれ片手剣を構えた。

 

 いつも通り、『海淵のフィナーレ』は効果発動まで時間がかかるな。

 

 公子はその間にも、双剣を逆手に持ち、次々と警備型マシナリーを破壊していく。

 

 彼が腰に身に着けた『神の目』に似たものは、クロリンデやセノが扱っている物より出力が高く、それでいて禍々しさを感じさせる。俺が握っている剣よりも、その代償は大きいように思えるが、あれはなんだ。

 

「ハハッ! 次は誰が来るのかな。

 そこのお嬢様?

 決闘代理人最強?

 水神様のボディーガード?

 それとも最高審判官かな?

 なんなら俺は水神様でもいいよ!」

 

 『それとも……』と公子は、自分に向かって歩いてくる少女を歓迎するように、仮面の下で微笑みかけた、気がした。

 

「旅人、キミが俺と殺し合うかい?」

「タルタリヤ、私があなたを止める」

 

 その直後。

 互いの剣がぶつかり合う。

 

「腕を上げたね! あの淑女にだって勝利したことも頷けるよ!」

 

 その余波は空気の振動となって、こちらにまで伝わってくる。

 ナヴィアさんは、蛍ちゃんのことを『相棒!』と呼んで心配しているが、それはそれで公子をヒートアップさせそうなんだが。

 

 今はそんなことを気にしている場合でもないか。

 

「歌劇場が壊れちゃうじゃないか!」

「そんなこと言ってる場合かよ!」

 

 フリーナ様とパイモンは慌ててつつも、俺の背中の後ろで言い合っている。冷や汗をかいているクロリンデはともかく、ナヴィアさんも両手剣を握る手が震えているな。

 

 連携は期待できずとも、蛍ちゃんに協力すれば彼を止められるだろう。ただ、因縁って感じで、この戦いに割って入っていいのかどうか、ちょっと悩むな。

 

「この前は草元素だったけど、今は水元素力を扱うんだね! なんだか嬉しいよ!」

 

 牽制として、蛍ちゃんは指から水弾を発射するも、公子はその雷元素の双剣で斬り裂いていく。

 彼が距離を詰めてくることに対して、蛍ちゃんも応戦するように、スピード重視の戦いに乗ったが。

 

「だがそれ以上に、剣技や体術が磨かれている。稲妻での経験が活きているのかな!」

 

「くっ……強くなっている、けど……」

 

 体格差があることもあって、鍔迫り合いともなれば、蛍ちゃんが不利なようだ。

 両手で片手剣を握って耐えている姿に、フリーナ様とパイモンは『はわわわわわ』って限界のようだし、俺たちもそろそろ割り込むか。

 

「言ったよね。邪眼は使わないでって!」

 

「俺も前に言ったよね。強くなるのなら、神の目でも邪眼でも、アビスの罪人から学ぶことさえも(いと)わないさ!」

 

 俺とクロリンデが左右から斬り込もうとしたことに対して、公子は油断することなく、バックステップで後退した。仮面を付けているのに、どの方向にも死角がないように思えるほどの強者だな。

 

「お邪魔させてもらうぞ」

「投降しろ。さもなくば撃つ。」

 

「いいね! 1対3というのも悪くない!」

 

「あいつ、魔王武装を使う気だぞ!」

「名前の響きだけで強そうなんだけど!」

 

 公子の雷元素力はさらに高まり、生み出された鎧を身に纏っていく。まさしく変身シーンってやつだが、待ってあげる義務もない。

 

 だが、妨害ができないほどの風が、俺たちへ浴びせられてしまう。フリーナ様を守るように移動するが、雷の攻撃を防ぎきるには...

 

 いや、まだ彼がいたか。

 

「本気を見せようか!... ッ!?」

 

 今止められるのは唯一、最強だけで。

 

「すまない。だが、これ以上は見過ごせない。」

 

 強大な水元素が雷元素を包み込んで、歌劇場のステージが少しだけ破壊されることにより、周囲は煙に包まれた。手加減はしているだろうが、相も変わらず、次元が違う強さだな。

 

 煙が晴れれば、ヌヴィレット様の腕が背中を抑えている光景で、タルタリヤは地に伏せていた。

 

「さ、さすがは、我が国の最高審判官だな!」

「あいつが、一撃でやられるなんて!?」

 

「……タルタリヤ!」

 

 俺やクロリンデは剣を下ろして、戦闘態勢を解いた。

 蛍ちゃんがタルタリヤのところへ駆けつけるが、彼女がホッとしている様子を見るに、あくまで気絶しているだけで、よほど頑丈なのか、大きな怪我もなさそうだ。

 

「メロピデ要塞行きとする。これは決定事項だ。」

 

「蛍ちゃん、タルタリヤを悪いようには扱わない。今はあの場所について、居心地も悪くないって思う人が多いしな」

 

 まあタルタリヤと公爵が喧嘩する日々になりそうなのが、心配だが。

 

「今回暴れた分の刑期が終われば、自由の身にもなれる。蛍ちゃんも、彼を告発する気はないだろうから、多くて1ヶ月ってとこだろうな」

 

「うん。告発する気はないよ」

「タルタリヤのやつ、そのメロピデ要塞ってとこで、ちょっとは反省してほしいけどな」

 

 やれやれって表情のパイモンの言う通り、蛍ちゃんのためにも、もう少しは戦闘狂な一面を抑えてほしいものだな。

 

 さすがに手錠を嵌められたタルタリヤの護送は、特巡隊の隊長ちゃんたちが行ってくれている。

 観客も避難誘導されていたから、今はリネ君たちの審判の後にいたメンバーだけが残ったな。

 

「あっ、でも、なんでタルタリヤのやつは有罪判決を受けたんだ?」

 

 そうパイモンが空気を変えるべく、そう話題を作ってくれた。

 

「すまない。このような状況は私でさえ初めてだ。だが、フォンテーヌ法廷が当初定めた規則により、判決は諭示機が示した結果に準ずる」

 

 つまり、目の前にある天秤は、ヌヴィレット様以上の権限を持つというわけだ。今まで一度も、判決が違ったことはなく、俺からしてもエネルギーを作り出す装置って認識にもなっていた。

 

「諭示機がこのような結論を出した理由は、私より尋ねるべき者が他にいるだろう」

 

「えっと、キミたちは、どうして僕を見るんだ……?」

 

 理由を知っているかなって、俺すらフリーナ様へ注目してしまった。

 あれは俺がフォンテーヌへ来る前からあったらしいし、数百年間メンテナンスすらしてないから、神が作ったものだとは思うが。

 

「ぼ、僕だってなんでこんな状況になったか知らないぞ……?」

 

「あれはフリーナ様が作ったわけじゃないってこと?」

「歌劇場ができた当時、すでにあったと聞いておりますが」

 

 ナヴィアさんやクロリンデも、どうしても疑念を抱いてしまったようだ。今を生きるフォンテーヌ人にとって、諭示裁定カーディナルが生み出すエネルギーが、当たり前のように生活を豊かにしてくれているしな。

 

「あれは、その……」

 

「ボロンゴも昔からフォンテーヌにいたんだろ? 何か知らないのか?」

「……ん? ああ、こう見えて、ヌヴィレット様やフリーナ様よりは若いぞ」

 

 言い淀むフリーナ様から、次は俺がパイモンから尋ねられたが、つまり『俺も知らない』ってことを伝えた。それならやっぱり、諭示裁定カーディナルに最高審判官すら従う規則は、おかしいって思ってしまうのも仕方がないか。

 

 となると、会ったことすらないが、先代水神様のエゲリア様が作ったのだろうか。

 

「こほん……よもや、この僕が実情を知らないと思ったわけじゃないだろうね?」

 

 両腰に手を当てて、まるで余興だったという風に、フリーナ様はそう述べた。

 

「諭示裁定カーディナルは正義であり、その概念の化身というわけさ。理由のない判決など下されはしない」

 

 つまり、理由があるってことか。

 その理由とは何だろう。

 

「かの青年が、連続少女失踪事件とまったく無関係と思い込んでいるようだが、えー、その~ ……」

 

 蛍ちゃんからジト目を向けられるから、フリーナ様が口元をヒクヒクし始めてしまった。さっきの戦いを見たからか、下手なことを言ってしまって、蛍ちゃんが怒られると怖いそうだしな。

 

「彼はザンギャク……えっと、いや、そう! 血気盛んであるからして、メロピデ要塞で少し反省させるべきじゃないかな、うん」

 

「さっきオイラが言ったことそのままだぞ……」

「何もしてないのに。タルタリヤがかわいそう」

 

 蛍ちゃんがしくしくと仕草を見せるが、それが簡単な演技ということすら、今はとても焦っているフリーナ様は判断できないらしい。

 それにしても、蛍ちゃんが茶化すとか、誰かさんの影響を受けてないか。

 

「こ、答えは時間が証明してくれる! 謎が残されて気になるところだろうけど、今日のショーはここで一区切りといこう!」

 

 『それではまた会おう!』と、フリーナ様はターンを決めて、早歩きで出口へ向かっていった。

 付き人である俺が追わないわけにもいかないので、ジェスチャーで『どうにか説明しておいて』ってヌヴィレット様へ伝える。

 

 でも、あの人はそういうの苦手だったわ。

 きっぱりと『逃げたな』と言うだろう。

 

 フリーナ様の秘密がまた増えたか、それとも本当に知らないか、どっちにしろ、俺まで問いただす必要もないだろう。

 

 そういう関係だから、長続きしてきたのだし。

 

 

 

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