推しの水神   作:八重堂の小説家

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第5話

 

 油の匂いがあちこちから漂い、熱気で過ごしづらい。そんな環境の中でメロピデ要塞の住民たちによって、次々とマシナリーが製造されている。人型をしている警備用もあれば、ショベルカーのような工事用もある。

 

 この生産エリアでは、監督役でありながら看守たちも作業に参加していて、その雰囲気は良好だと感じた。

 

「ファ・イ・ト! ファ・イ・ト!」

 

 俺が探していた少女たちはこういった場でもよく目立っている。できるだけ簡単な加工を担当しているとはいえ、旅の道中で新鮮な体験を噛みしめるように、2人で元気よく仕事をしていた。

 

 古い機械の動作が悪くなれば、蛍ちゃんがいい拳を叩き込んで直しているし。

 

「おぉ! これって最高の出来(でき)なんじゃないか!」

 

「うん。だんだん慣れてきた」

 

 パイモンがフワフワと浮かんで、加工機で完成した歯車に油を塗り始めた。その間に、蛍ちゃんは額の汗を作業服の袖で拭っている。

 あの白いドレスは特別性なのか汚れなさそうだと思うが、こういった作業に適した服でもないだろう。

 てかパイモンサイズの作業服なんてよくあったな。

 

 今は仕事の邪魔をするのも申し訳と思ったから、看守の1人として俺もあちこちで作業を手伝っていると。

 

 意外とすぐに。

 2時間ほどが経過したらしい。

 

「よしっ! お前たち、片付けた者から順に帰っていいぞ! 機械の整備を忘れるな!」

 

 手を叩く音の後に、看守の声が響けば、作業していた者たちはテキパキと動き始めた。さっきまでも十分働いてくれていたが、さらに効率よく片付けている。

 

 しかも、ただ自分たちのところだけじゃなく。

 

「何か手伝うことはないか!」

 

「じゃあ箱を倉庫まで……だが重いぞ?」

 

「大丈夫、剣を振って鍛えていたから」

 

 蛍ちゃんたちが来る前からそうだったのかは分からないが、今は多くの人々が助け合っている。まああの少女たちがあれだけ同僚に協力的だから、自分たちもそうするべきと自然に思うものだろう。

 

 特に男性諸君は頑張ってくれていて、女性や子供やメリュジーヌを大切にするというフォンテーヌ紳士の理念は、ここにもあるみたいだな。

 

「俺も手伝うよ」

 

「この声....ってボロンゴか!?」

「どうしてここにいるの?」

 

「新入りたちと知り合いみたいだが、ボロンゴさんって、あのフリーナ様の付き人の?」

 

 蛍ちゃんたちからすれば、確かに俺が看守の服を着て、ここにいるのはビックリさせてしまうか。2人の驚いた声でこちらを見た人も多く、あまりややこしい事態にしたくはないな。

 

「いや? 俺はプックルだ。よく似ているって言われるが」

 

「お、おう?」

「……人違いだったみたい」

 

 蛍ちゃんたちは煮えきらない様子だが、今は片付け作業を優先することにしたようだ。

 

 それにしてもこの身体はかなり筋力があるので、役に立てる場所はとても多い。外の世界と違って、元素力が必要な戦闘もめったに起きないだろうし、過去に関する詮索もされない風潮のようだし。

 

 もし予言を乗りきることができたら、再び旅に出ようかとも思っているが、ここで暮らすのも悪くないかもしれない。

 この安寧の地ならば、たとえ正体がヒルチャールであっても受け入れてくれるかもしれない。そう思えるくらいには贖罪に適した場所に思えた。

 

 おっと、そろそろ終わったみたいだな。

 

「ふわぁ~ 今日も疲れたぞ~」

「なぁ、浮かぶのって疲れるのか?」

「疲れるみたい。歩くのと同じくらいって」

 

 パイモンがお腹をぎゅるる~と鳴らせながら、俺たち3人で食堂へ向かっていた。歩きながら蛍ちゃんはタオルで汗を拭いているが、火照った頬はとても可愛らしいものだ。

 

「なら肩に乗るか?」

「おぉ! 考えたこともなかったぞ!」

「ちょっと。うちのペットを甘やかさないで」

 

 俺の肩を椅子代わりにしてくれて、その小さな身体はしっかりと重みを感じる。

 子どもくらい小さいとはいえ、さすがに蛍ちゃんの肩には乗れないだろうから、これに慣れさせると確かに大変だ。

 

 それにしても、『誰がペットだ!』『ごめん、相棒だった』ってほんと仲が良いな。そのやり取りを見ていて、フリーナ様はちゃんと食べているかなって心配してしまったのは、我ながら依存しすぎている。

 

「これとっても楽ちんだな!」

「蛍ちゃんも背負ってあげようか?」

「私は平気……ちょっと恥ずかしいし」

 

 羨ましそうな表情は隠せていないな。

 まあ年頃の女の子にとっては恥ずかしいか。

 

 賑わっている食堂で俺たちは1人1つずつ弁当とパンをもらって、できるだけ離れた席にやってくる。経費を抑えつつも、日々の食生活に少しでも楽しみをもたらすために、無料の弁当に関してはランダムらしいが。

 

「おぉ! 今日はスープにカニが入ってるぞ!」

「冷めているのがちょっと残念だね」

「確かに美味しそうだ……面白くなかったか?」

 

「「……」」

「すまない。自分でも寒いギャグだと思った」

 

 気を取り直して俺も弁当を開けると。

 なぜか崩れたケーキが入っていた。

 

「当たり……なのか?」

「運がいいと思うぞ!」

「確かかなり高かったはず」

 

 もしこれ以上の量を食べたければ、このメロピデ要塞の食堂にモラではなく『特別許可券』を払う必要があるらしい。俺もさっきリオセスリから給料として貰ったが、これはすぐにでも使いたくなるな。

 

 ケーキとパンだけだと、どう考えても栄養が偏るじゃないか。

 

「ならケーキは3人で分けることにしよう。そもそも俺からすれば足りないから、チキンとサラダでも買ってくるよ」

「ほんとか! 久しぶりのスイーツだ!」

「じゃあ。看守さんのご厚意に甘えるね」

 

 先に食べて始めていいことを伝えたが。

 食堂で特別許可券を支払って戻ってくると、談笑して待ってくれていたらしい。

 

「「「いただきます」」」

 

 俺たちは手を合わせて、食事を始めた。

 

 パンは固いし、チキンは冷めているし、サラダはしなしなだし。

 それでも労働の後で、誰かと食べる食事というのは美味しく感じるものだな。

 

 最近はシグウィン特製ミルクセーキとか、消化にいいものしか食べていなかったから。

 

「あっ、それでお前はなんでここにいるんだ? フリーナのやつも来ているのか?」

 

「どう見ても。私たちが出会ったボロンゴ」

 

 蛍ちゃんにはどう見えているんだ。

 でもバレたなら仕方がない。

 

「パイモンの質問に答えよう。だいぶ治ったが、俺は入院患者みたいなものだ。フリーナ様は来ていない」

 

 こちらからすればもう過ぎたことだが、心配そうにしてくれているのは2人が優しいからだろう。

 

「ちょっとファデュイの暗殺者とやり合ってな。フリーナ様にはたぶんクロリンデが付いてくれている」

 

「それならお前としても少しは安心できるな」

「ファデュイの……やっぱり神の心が目的?」

 

 神の心か。

 どこにあるんだっけ。

 

「神の心ってどんな形だ? 正直、見たことがないが」

「フリーナが持っているんじゃないのか?」

「チェスの駒のような形をしているけど……」

 

 それなら、と。

 

 部屋の掃除は俺がやっていて、カバンも俺が運んでいる。だからそのようなチェスの駒を、普段から持ち歩いていたり、私物として屋敷に置いていたり、そういうことは一度もない。ちなみにヌヴィレット様も持ち歩いているところは見たことがない。

 

 そういった内容を伝えると。

 

 『甘やかしすぎ』ってジト目で言われた。

 どうして。

 

「……なら。このメロピデ要塞にあると思う?」

 

「その可能性は低いだろう。そんな大事な物をこの要塞に持ち込めば、ここで争いが起きてしまうからな」

 

 俺がフォンテーヌを訪れる前からメロピデ要塞は存在していたが、できるだけ政治に関わらないようにしているような場所だ。

 

 さて、蛍ちゃんは何かを隠しているらしいが、大方ファデュイの誰かさんがここに入り込んでいるのだろう。しかも知り合いで。

 リオセスリのやつ、たぶんリネ君たちをわざと泳がせているな。あの子たちもまだ幼いところはあるから、フォローを入れろってことか。

 

「それで、会いたかった人には会えたのか? そのためにわざわざフリーナ様のケーキを盗み食いしたらしいが」

 

「オイラたちがそんなことするわけないだろ! なんだっけゼンザイ...?  冤罪だぞ!」

 

 おぉ、パイモンから冤罪って言葉が出てきた。

 

「といっても口元にホイップクリームが付いているから、説得力はないな。これは証拠になりうる」

「パイモンは食いしん坊だけど盗み食いまではしない。私は無罪を主張する」

「えっへん。オイラたちはお金持ちだからな」

 

 蛍ちゃんもノリノリで審判ごっこに乗ってくれたな。

 モラは使えず、特別許可券をゼロから貯め始めることにはなるだろうが、この2人ならいつの間にか大量に集めてそうだ。

 

「トリプルクラウンや聖遺物厳選に比べれば。パイモンのおこづかいなんて安いものだから」

「...うぇ? 何がトリプルクラウンだって? アイスの話か?」

「国家予算並みのモラが何かに使われている気がするが、俺やパイモンは聞かないほうが良さそうだ」

 

 それはさておき。

 パイモンに付いていることを伝えると。

 自分で指で(ぬぐ)ってペロッとする。

 

 そんなパイモンの仕草が可愛いし、蛍ちゃんもニコニコしていて可愛いし、目の保養になるってやつだな。

 フリーナ様も元気でいてくれればいいが。

 

「それで、まだタルタリヤは見つからないのか?」

「えっと、彼がここにいたことは、確認できたけど……」

 

 そう言って、蛍ちゃんは作業服のポケットから、水元素の神の目を見せた。タルタリヤからすれば彼女は適任だろう。ほら、また会える口実にもなるから。

 

「そうか、まだ見つかっていないか」

 

 彼女の物憂げな表情を見れば、どうやら行方不明のままらしいな。リオセスリですら把握できていない以上、そう簡単には見つからないか。

 

「この神の目を通して、タルタリヤのやつが経験した視点を見たんだってさ」

 

「なら、また見れるさ。このメロピデ要塞は迷路みたいになっているから、探検でもしているんじゃないか」

 

「うん...そのうちお腹を空かせて、ひょっこり現れるかも」

 

 蛍ちゃんは少し気が楽になったのか、3人で分けたケーキを食べ始める。

 

 これから1ヶ月以上はこうやって何度もテーブルを囲うだろう。旅人の仲間として、俺も微力ながら協力させてもらおう。

 

 

 





私事ですが、弊ワットのフリーナをトリプルクラウンさせました。素材とモラを捧げよ。
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