病み期に入った監督生が歌う話   作:雨言

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※注意※
・男装監督生(性別バレ済み)。
・監督生の名前はデフォルト名のユウ採用。
・監督生が病んでます。
・ツイステッドワンダーランドの音楽文化に対する捏造あり。
・pixivにも同内容で投稿しています。
・その他、何か問題がありましたらコメントにてご指摘お願いいたします。



第1話 誇れるものがない監督生

監督生は病み期である。

 

なんて一昔前のラノベのタイトルみたいな一言で始まったが、事実、監督生こと私は絶賛病み期の真っただ中である。

まあ昔から自己評価は低い方だし、自尊心なんて皆無どころかむしろマイナスだし、自己嫌悪と希死念慮に襲われる事なんてしょっちゅうだから、今更病み期がどうのと言うのもおかしな気はするが。それでも他に上手い言い方が見つからないので仕方あるまい。

別に病んでいるからと言って死にたい訳では無い。

……いや、死にたい気持ちは確かにある。それでも「死ぬのは怖い」と思ってしまうのが生物の宿命であるし、本当に自死を決意したとしても死にきれなかった時のデメリットや、死んだ後の肉体の始末。それに、何だかんだと言って私が死んだら悲しむ人もいる訳で、そういったモロモロの事を考えるとやはり実行に移す事は出来ない。

……話が逸れた。とにかく私は現在進行形で病み期に入っているのだ。それも今回のは最近の中では特に重い症状が出ているように思える。まあ元の世界にいた時と比べれば全然軽い方だけど。

 

普段はグリムやエース達と一緒にいる事が多いから何とか気を紛らわす事が出来ているが、あいにく彼等は今、クルーウェル先生に補講と言う名の説教を食らっていて不在だ。

つまり私は今、一人で中庭のベンチでボーッと呆けている事になる。

一人になると無意識の内に色々と考えてしまう。元いた世界での記憶や、未来に対する漠然とした不安。上手く行かない現状へのもどかしさや、自分に対する激しい嫌悪感。そしてそれらの感情に押し潰されそうになる恐怖。

もういっその事何もかも投げ出してしまおうか。でもそんな事をしたら迷惑がかかる。

こんな弱い自分が嫌になる。なんで私はこうなんだ。どこへ行っても、何をしても、結局変われず同じ醜行ばかり繰り返している。

死んでしまいたい。なんて、出来もしない事をのたまう自分は、どれだけ浅はかで愚かなのか。

ああ、駄目だ。また思考が悪い方へ回り始めた。このままでは私はまた底の無い自己嫌悪の沼にハマってしまう。意識を思考する事に回してはいけない。何か、他の事に意識を逸らさなければ。

 

……そうだ、こういう時は歌でも歌おうか。

歌っている最中は歌詞を追う事に意識が向いているから、余計な事を考えずに済むし。なによりこの鬱屈した気分も少しはマシになるかも知れない。

見ればなんだか示しを合わせたかのように周りには誰もいないし、これはもしや神様が「歌ってええんやで」と生暖かい目で微笑みかけてくれているのでは? うんそうだ。そうに違いない。

さて、そうと決まれば何を歌おうか。そうだな、こんな気分の時はあの歌が良い。微睡みの中にいるような不安定な少女の苦悩を綴った、あの歌を。

――私は、静かに口を開いた。

 

 

*

錬金術の授業で大ポカをやらかしクルーウェル先生の怒りを買ったオレ達は、補講という名の説教からようやく解放されのそのそと廊下を歩いていた。

しかし今回も長い説教だった。実際は三十分くらいしか経ってないんだけど、体感的には一時間くらい懇々と説教をくらった気分だ。横を歩くデュースとグリムも同じ気分だろう。二人共しなびた野菜みたいに疲れ果てた顔をしている。

 

いや、てか今更だけどオレまで説教喰らったのはおかしくない?

鍋爆発させたのだってデュースが入れる薬品の量間違えたのが原因じゃん。まあ確かに? オレがグリムをからかって、激昂したグリムがデュースにぶつかって……って言う前段階はありましたけど。でも実際に鍋大爆発させたのはデュースだし、あれぐらいで怒るグリムもグリムだろ。

そもそも監督生がグリムをちゃんと見て無かったのも問題じゃん。それなのにアイツだけその場で少し注意されただけで説教部屋行きになってないってどう言う事? 同じ班だったのに。

クルーウェル先生は「監督生は日頃の行い云々」とか言ってたけど、なんだか納得いかねー。

なんて心の中で愚痴りまくっていたら見覚えのある後ろ姿が見えて足を止めた。

監督生だ。

一人、中庭のベンチに座ってボーッとどこか遠くを見つめている。足元でグリムが「アイツ、何してんだ?」と眉を顰めた。確かに、あんな所で何してんだ。

まあいいや。補講も終わって疲れたし、監督生を連れてとっとと帰ろう。ついでに一人だけ罰から逃れた事について嫌味の一つでも言ってやろうか。そんな事を考えながら声をかけようと口を開いて、動きが止まった。

 

監督生が歌っている。

いや、アイツが歌を歌うなんて前からよくあった事だし、なんなら「布教だ!」とか言って異世界サブカルテロ起こした前科者だし。別に今更驚くほどの事でも無いんだけど。それにしても今日のは、なんというか……今までオレ達の前で歌っていた時とは雰囲気が違う気がする。

そしてオレの予想は的中した。監督生の透き通った声にのせて吐き出された言葉に息が止まる。

 

なんだよ、"死にたくて"って。

 

お前、そんな事考えてたのかよ。

いつもお気楽なアイツからは想像もつかない言葉に、オレも、そして隣にいたデュースもグリムも驚いて固まっていた。

そんなオレ達の存在になど気付く事はなく、監督生はどこか虚ろな表情で歌い続ける。その歌声は酷く不安定で、まるで夢うつつのまま紡がれているようで、今にも消えてなくなってしまいそうな危うさを感じた。

"好きだったお笑いも、人生を変えた音楽すら自分を否定しているように思える"なんて、一体いつからそんな風に思うようになったんだよ。

さっき薬がどうのって言ってたし、何? どこか具合でも悪いの? それとも薬を飲まないとヤバいくらいの悩みでもあんのかよ。だとしたらなんで何も相談してくれないわけ?

元いた世界の奴等は忙しくてお前の話を聞いてくれなかったかも知れないけど、オレらは違うじゃん。悩みがあればちゃんと聞くし、どうにかしてやろうとするよ? まあ、ちょっと小言は言うかもしんないけど。それでもちゃんと聞いてやるから。

だから、頼むから、そんな一人で抱え込むなよ。

 

 

*

クルーウェル先生の補講が終わり、エースとグリムと共に中庭へ向かうと監督生が歌っていた。アイツは歌が好きみたいで何かとよく歌っていたから、今回も「ああ、また歌ってるんだな」ぐらいにしか思わなかった。

監督生が歌う曲はこちらの世界ではあまり聞かない物ばかりだった。こちらでの『歌』と言ったらもっぱら恋愛曲ばかりだし、それ以外といっても全体的に明るく前向きな内容の物が多い。だから監督生の世界の曲を初めて聞いた時はとても衝撃を覚えた。

今までも監督生は散々僕達に「布教だ!」とか言って歌を披露していたから、今回も「僕達に聞かせるためか?」と思ったんだが……なんだか様子がおかしい。いつもの監督生の歌とは雰囲気がまるで違っていて、思わずエースと揃って足を止めてしまった程だ。

その歌声は切なくて苦しくて悲しげで、綴られる歌詞も"死にたくて"とか"消えてしまおう"とかマイナスな言葉ばかりが続いている。

 

"誇れるものが無い"なんて、そんな事言わないでくれ。僕はお前の事を凄いと思うぞ? だって魔法の無い世界から来たのにこの学園の生徒として立派にやっていけてるじゃないか! オンボロ寮の監督生になって、寮長達のオーバーブロットだって元に戻して、他にも色々な厄介事を解決させて……そんな事、僕だったら絶対に出来ない。尊敬する。

なのにどうしてそんなに自分を卑下するような事を言うんだ? 僕達がよく知っている監督生は普段とても明るくて、魔法が使えない事を他の奴にからかわれても腹を立てる事もなく、平然としているような肝の据わった奴だったはずだ。決してこんな風に暗い感情を吐露するような人間じゃない。

……でも、それは僕の勝手な思い込みだったのかも知れない。もしかしたら監督生はこっちの世界に来てからずっと無理をしていたんじゃないのか? そしてそれを誰にも気付かれないように必死で隠して笑っていただけなんじゃ……。そう考えると胸が痛くなる。

僕は、親友としてお前に一体何をしてやれるんだろう……。

 

 

*

監督生が歌い終わった後、エースとデュースはしばらくの間動けなかった。あまりにも衝撃的な内容の歌詞に頭がついて行かなかったせいもあるが、それ以上にあんな思いを隠していた彼女になんと声をかければ良いのか分からなかったからだ。

監督生は未だにエース達の存在に気が付いていないらしい。いや、もしかしたら彼等が来ている事を知っていてわざと今の歌を聞かせたのかもしれない。

そう言えば以前、彼女は歌について「さりげなく自分の気持ちを口に出せるから好き」だと言っていた。あれはきっと自分に対する皮肉も含まれていたのだろう。

"歌を通さなければ自分の気持ちも口に出せない小心者"だと。

 

「子分」

 

いつまで経っても動かない二人に代わって、先に口を開いたのはグリムだった。相変わらず空気の読めないモンスターだ。だが今の彼はグリムなりに監督生の気持ちを理解しようとしているのかも知れない。

そんな相棒の声に驚いたのか、監督生はバッと背後に視線を移すと少しだけ困ったように眉を下げた。

 

「ビックリした、いつからいたの?」

 

彼女の問い掛けに対し、最初に答えたのはエースの方だった。

 

「最初からだよ。補講終わって中庭に来たらお前が歌ってたからさ、邪魔しないようにと思って待ってたんだよ」

「え、今の聞いてたの?」

 

「うわー、まじか」と苦笑いを浮かべる監督生に対して、エースは真面目な顔付きのままこう続けた。

 

「お前、なんか悩みとかあんの?」

「え?」

 

監督生はキョトンとした表情でエースを見つめ返す。エースは更に畳み掛けるようにして言った。

 

「さっきの歌さ、何? 死にたいとか消えたいとか。お前、ずっとあんな事思ってたわけ? だとしたら、なんで何も言ってくんないの? ……オレ達、ダチじゃなかったのかよ」

 

言葉尻は徐々に弱々しくなっていったが、それでもしっかりとした口調で言い切った彼の横顔をデュースは固唾を呑んで見守っていた。

監督生もまた同じである。まさかあの歌を聞いて自分の事を心配してくれる友人がいるとは思わなかったのだ。だからこそ、彼女は自分の行いを後悔した。

そう、ここは知っての通り夢と魔法溢れる世界。そして先述した通り、この世界にとって『歌』とは自己表現の一環でもある。だからこそエース達は監督生の歌を聞いて、彼女が自らの死を望む程に病んでいると思いこんだのだ。

まあ、病んでいるのは間違いでは無いし希死念慮を患ってしまっているのも否定はしない。

だが違うのだ。上手くは言い表せないが、エース達が思っているほど監督生は深刻に悩んでいる訳では無い。ただ漠然と病んでしまって、そんな自分の気持ちと合う歌を気晴らしに歌っていただけ。ただそれだけなのだ。だから、心配しなくていい。

心配など、する必要ない。

 

「心配してくれてありがとう。でも、今のはただの気晴らしだから。別に深い意味とか無いよ」

 

これ以上、彼等にいらぬ心配をかけないように、監督生は努めて明るく振る舞った。

 

「まあ強いて言えば、今月も経済的に厳しいくらいだけど。それはまあ、いつもの事だから今更だよね」

 

そう言っていつもの様に笑ってみせる監督生を見て、エースとデュースの二人は安心するどころか逆に不安を募らせた。一見すると普段通りの笑みも、どこか疲れているような、無理をしているような気がしてならないのだ。

そんな二人の心情など知る由もない監督生は、ふと空に視線を向けると「もうすぐ日が暮れるね。そろそろ帰らないと」と言ってベンチから腰を上げた。

足元にいるグリムを抱きかかえて歩き出す彼女を見詰める二人の表情は優れない。

……監督生は、自分の事についてあまり話そうとしない。それは元の世界にいるであろう家族や友人の事はもちろん、彼女自身の過去や内面的な部分も含めて全てである。

聞かれたら一応答えてはくれるのだが、それもどこか上澄みだけというか、本当の意味で心を開いてくれてはいないように二人は感じていた。

それは単純に他人に話したくない事だからなのか。それとも、自分達の事をまだ信頼しきってくれていないのか。

『オンボロ寮の監督生』としての彼女しか知らない彼等にとっては、そのどれもが想像の域を超えない。故に、今の彼女を見ているとどうしてもモヤモヤしてしまう。

 

「……なぁ、デュース」

「なんだ、エース」

「オレ、あいつがあんな風に笑うの初めて見た」

「僕もだ。あんな風に寂しげに笑える奴だとは知らなかった」

 

自分達は彼女のマブとして、この学園の誰よりも彼女の事を理解しているつもりだった。

でもそれはあくまで自分達の思い込みにすぎなくて、本当は何も見えていなかったんじゃないか。そんな考えが頭から離れないのだ。

 

「どうする、エース。このままじゃ本当に取り返しのつかない事になるかもしれないぞ」

「そうだな……。どうにかして、あいつの抱えているものを少しでも吐き出させてやんねぇと……」

 

「このままじゃマズイ事になる」。そんな焦燥感ばかりが募っていく中、エースとデュースはポケットからスマホを取り出すと早速行動を開始した。

 





●当話登場人物

・監督生(ユウ)
アニメや漫画が好きな異世界人。歌は好きだが得意では無い。
普段は明るく能天気に振る舞っているが、その実、自己肯定感皆無の悲観主義者。定期的に病み期に突入しては答えの出ない自問自答を繰り返している。元気な時と病んでる時の落差が激しい。
エース達の事を信頼していないわけでは無いが、出来るだけ周囲の人に迷惑をかけたくない為、極力自分語りはしないようにしている。今回、心配をかけてしまったエース達に対して申し訳無さを感じている。

・エース
監督生のマブ一号。一人だけ説教から逃れた監督生に対して嫌味の一つでも言ってやろうかと思っていたが、彼女の抱える闇の片鱗に触れそんな考えは吹っ飛んだ。今回の監督生の様子を見て、「アイツ、平気そうな顔してるけど実は精神的にヤバイ所まで来ているのでは?」と心配している。このあと寮に帰ってリドル達に相談するだけでは無く、メッセージアプリにて各方面に監督生救済の手助けを要請する。

・デュース
監督生のマブ二号。どんな時でも明るくて根性のある監督生の事を凄いと思っていたのに、そんな彼女が自分自身を卑下するような歌を歌っていてショックを受けた。監督生が一体何に悩んでいるのか知りたい気持ちはあるが、自身の経験上「誰にだって言いたく無い過去はある」と深く追求するのはやめようと思っている。それでも監督生を元気にしたいと言う気持ちはある為、この後エースと共に色々な方面に応援要請を行う。

・グリム
監督生の相棒。普段は我儘で自己中心的な態度が多いが、相棒である監督生の事は誰よりも大切に思っている。同じ寮で暮らしているため、彼女が時々鬱々としているのを知っている。だけど、自分が心配し過ぎるとかえって監督生が申し訳なさそうな顔をする事に気付き、今では黙って寄り添うだけに留めている。


・今回使用させて頂いた楽曲
『小.夜.子 / み.き.と.P』
です。とても素晴らしい楽曲なので、お時間ありましたら是非聴いてみてください。
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