~先輩視点~
王子を含めた我々は現在,城外にある農園からの視察の帰りだ。
昨日から様々な場所をまわっているが,このサマディーが変化している様子を感じられてとても有意義なものだった。
先の農園では,王子は話を聞きながらも好物のサボテンのことが気になっているようで,チラチラとその区画をたびたび確認していた。
王子はバレていないと思っているのかもしれないが,王子のサボテン料理好きは城のものの間では有名で,王子がサボテンの育成を優先させようとしていたのは明白だった。
理由を挙げる際にそれらしい説明を重ねられていたが,王が微笑ましい表情をしていたことは印象的だ。
きっと普段は大人びている王子の子供らしい一面を見られて嬉しかったのだろう。
このあとは城下の孤児院の視察で終わりだな。あそこは王子の肝煎りの施設で,王子も気になっているのか早く行きたそうにしている。
それにしても,今は我々は近道をするために街道から外れたところを通っているが,近頃は街道の警備も以前より厳重になったおかげで魔物の被害も減少傾向にあるのは良いことだ。
――パーン
そんなことを考えながら馬を走らせていると,遠くから何か音が聞こえた。これは……最近開発された緊急用花火!?
それと同時に,進行方向とは少し違うが遠くの方で砂煙が上がっているのが見えた。
よく目をこらすと,どうやら馬車が魔物に襲われているようだ!
「お,王子! あれをご覧ください!!」
どうやら他の者も気が付いたようで,声を上げている。
さらに近づいていくと,より鮮明に状況が見えてくる。
「あれはまさか砂漠の殺し屋デスコピオン!? 王子! 如何しましょう!」
まさか新しい個体が誕生していたとは……今回は完全に想定外の遭遇だ。襲われている者の救出,城への報告や討伐隊の結成など様々なことが頭に浮かぶ。
「俺が奴に当たる! お前たちはその間にあの者を救助しろ!」
なんと!? 本来はお止めするべきなのかもしれないが,救出する時間を稼ぐには魔物を相手にする役は必須!
しかしあのクラスの魔物となると,王子も本気を出されるだろう。我々では足手まといになりかねない。
ここは我らも王子の力を信じてお任せするのが最善と判断した。何より王子の目には有無を言わせぬ強い意志が宿っていたからだ。
「はっ! ご武運を!」
そう言って,魔物の標的が王子に移ったことで追われなくなった馬車の様子を確認する。
「大丈夫か! 我らはサマディーの騎士だ! 怪我人はいるか!」
馬車からも御者台に座っていた男が対応してくる。
「おお! お助け頂きありがとうございます! そうだ! どうか妻をお助け下さい!」
彼に促されて馬車の中を見ると,ひどい傷を負ったご婦人が毛布の上に横たわっているのを見つけた。
その近くにはゆりかごで眠る赤子もいる。
その後我らがすぐさま回復呪文による応急処置をしたことで命の心配はなくなったが,我らは医療には然程詳しくはない。後で念のために医者に見せた方がいいかもしれないな。
処置の最中に話を聞いたところ,彼らは旅の商人の一家で,最近景気が良いと言われるサマディーでも商売をしようとサマディーの都まで行こうとしていたらしい。
しかし休憩中に先ほどの魔物に襲われて妻の方が怪我を負ってしまい,なんとか死に物狂いで逃げ続けていたが,追いつかれそうになっていたところで我々が発見したということらしい。
我らが近道の為に街道から外れた場所を走っていなければ恐らくそのまま殺されていただろう。
また,ここで発見できなければデスコピオンの誕生を知るのはいつになっていたかわからない。彼らには悪いが,この段階でそれを知れたという意味では奴の出現は幸いだったかもしれない。
私は二人ほどを商人の護衛として彼らと共に城に先行させ,残りを率いて王子の元へ向かった。
我々が遠くに王子を見つけた時,王子は目をつむって何かをしている様子だった。
すると突然に王子の体が青い光に包まれ,目をつむったまま魔物と戦い始めたのだ!
あれはもしや極限の集中状態に入るとなれると言われるゾーン状態と呼ばれる現象だろうか!?
王子は魔物の激しい攻撃を顔色一つ変えずに流れるような動きで捌いていき,相手の懐に潜り込んで強烈な攻撃を食らわせていた。
その光景を見て我々は驚きで立ち尽くすことしかできなかった。まさかあの伝説の魔物を相手に圧倒しているなんて!
さらに驚くべきことに,王子は一度ゾーン状態が切れた次の瞬間にはまたゾーン状態に入っているようだった。
あの状態に入るだけでなく完全にコントロールするなんて聞いたこともない。我々は今……伝説的瞬間を目の当たりにしているのかもしれないと思った。
~主人公視点~
幻惑がーーー! 治ったーー!
皆さんどうも! マヌーハなしで幻惑を突破したハムザ君です!
デスコピオンと斬りあいを続けている間にようやく幻惑が治り,体力も少し回復した俺は目を開ける。
すると目の前の魔物は傷だらけになっており,先ほど見た時とは大違いだった。
これ俺がやったのか!? ……ということはやはり俺の成長の成果! ん? ところでなんか俺……青くね?
こ,これってもしかしてゾーン状態!? す,すごひ……俺初めてなったよゾーン状態!
……あ,切れた。だがなんかまだできる気がすると思って意識を集中させると再び青い光に包まれる。
こ,こいつはまさか”ゾーン必中”を覚えたってコト!? 勝ったな! 仁王立ちしてくる!
そんな冗談を考えながらも体は動かし続け,敵を少しづつ追い詰めていく。
そんな時,敵の背中の氷が溶けたことで相手が背を向けて怪しい紋様で混乱させようとしてくる。
「無駄だぁ!!」
「ギシャアアアア!!」
俺は目をつむることでそれを防ぎ,紋様のある背中を斬りつけることでその技を封じる。
こちとらさっきまで目をつむって戦っていたんでござるよ! なめるな!
敵はここに至って勝ち目がないと悟ったのか,すぐさま逃亡し始めた。
だが――
「ハムーララ!!!」
呼ばれた相棒はすぐさま俺の元へやってきて乗せてくれる。
俺たちから逃げられると思ったら大間違いだ!
俺たちはたちまち敵に追いつき,敵との距離が十分になったと判断すると相棒の背で立ち上がる。
ここで今の俺が考える最強の一撃で決めようと剣に雷の力をまとわせるが,ここで放つのは雷光斬ではない。
俺はその剣を右側に構えると,上段から一気に振り下ろした。
「雷光!渾身っ!!斬りっ!!!」
その一撃が魔物に命中した瞬間,あたりがはまばゆい光に包まれた。
~~サマディー地方~~
あの後,近くまで来ていた先輩たちと合流し,襲われていた商人と共に城に戻ったらしい騎士の報告でやってきた応援の兵たちと話をしたりした後,ようやく城に帰れることになった。
いや~なんか異常に疲れた~。今日は楽しい楽しい視察の日だったのにまさかこんなことになるなんて思いもしなかったよ~。
疲れてはいるけどそれを表に出さないように馬に乗って移動していると,城門が見えてくる。
そんなに離れていないはずなのにすごくかかった気がするな。なぁ相棒?
「ブルルルゥ?」
相棒は全然疲れていないらしい。やっぱり俺も人間に付けられるおうごんのたづなが欲しいでござる…。
城門をくぐると予想通り国民たちが出迎えてくれた。
「うおおおおお! 王子万歳!」
「砂漠の殺し屋だろうが王子の敵じゃねえぜ!」
「すげえよ! すごすぎるよ王子!」
「サマディー万歳! 万歳!」
「こっち向いてー! ハムザ王子ー!」
うんうん。みんなに喜んでもらえてぼかぁ嬉しいよ。……今更だけどこっち向いてほしい姉貴いつもいるね。顔覚えちゃったよもう。
今回の嬉しいところは父上たちも出迎えに来てくれていることだ。俺は父上の前で民にも聞こえるように大きな声で報告をする。
「父上! この国の平和と民の安全を脅かす凶悪な魔物を討伐して参りました!」
「うむ! まずはこの国の王として,あの砂漠の殺し屋を仕留めたその功績と手腕に最大級の称賛を送る!
またこの国に生きる一人のものとして最大級の感謝を送る!
そしてそなたの親として……最大級の誇らしさを感じておる。」
ち,父上~(´;ω;`)
「そこでワシはそなたの功績に報いるため,ここで二つの褒美を与える! まずは我が国の国宝であるこの天馬の大剣を授けよう! これは真の強き騎士にしか本来の力を引き出せないと言われる武器だがそなたであれば使いこなせよう!」
「はっ! ありがたく!」
俺はその場で跪いてそれを受け取る。
……なんかどえらい武器を手に入れてしまった。この天馬の大剣は原作ではウマレースのプラチナ杯の難しい方の景品となっている武器だが,その入手は最短でクリア後だ。
この剣は全両手剣武器の中でも五指に入る攻撃力を誇り,それはつまり数値だけ見ると魔王の剣よりも強力ということになる。
父上は真の強き騎士にしか使えないとか言ってたけど……それ,たぶん僕じゃないです……。
「そして! 現在空席となっているこの国の騎士団長の座をそなたに与えよう! この役職はそなたにこそ相応しいだろう! もちろん受けてくれるな?」
拒否権……ないみたいですね。
流石に父上の正気を疑って顔をチラ見してみたが,ダメだこれ逃げられないヤツだ……。
実はなんとこの国の騎士団長の座は現在空いているのだ。その理由は,前任者が以前の大臣の件に加担してた罪で罷免されたからだよ!
彼は過去の功績によってその座についていたが,それも大臣の協力ありきのもので,それもあって影響下にあったのだ。騎士団長を動かせたなんてぞっとする話だ。
あれから時間は経っていたが,下手な人間に任せるわけにもいかずそのままになっていた。
くっ! 処罰された後もこうやって俺を悩ませる案件を残すとは流石元サマディーのフィクサー!
奴の功績は俺と王子隊のメンバーを引き合わせてくれたことだけだ! ……あれ? 十分な功績では?
それは置いておいて父上からの言葉に返答する。
「はっ! 身に余るお役目ではありますが,謹んでお受けいたします。」
まぁ俺も成長しましたし? みんなが出来るっていうんならなんとか足掻きながらやって見せますよ! 注目されるのも慣れてきたしね!
「はっはっはっ! 身に余るとは面白い冗談だ! では皆の者! 今日はめでたき日だ! 皆でハムザを称えようではないか!」
「「「「王子万歳! 王子万歳!」」」」
……
は……
は…………
恥ずかしいいいいいいいい!
やめてええええ! まだ慣れてなかったみたいですううう!
なんとか顔色を変えないように集中しすぎたせいでゾーン状態になりかけたが,そちらも気合いで抑え込んでやり過ごした。
~~サマディー城下町~~
あれからなんとか王子コールからの脱出を成功させ,その後のエトセトラを済ませた後,先輩以下視察メンバーと共に最後の視察場所に来ていた。
空は少しずつ茜色になってきている。予定より大分遅くなってしまったな。
「よし。なんとか来ることが出来たな」
「王子もお疲れでしょうに……明日でもよかったのでは?」
先輩がそう言うが,違うわけよ。
「いや,可能な限り予定はその通りにしたい。それに,あちらにも都合があるだろうし迷惑はかけたくない。心配してくれるのはありがたいが,私がそうしたいというだけさ」
「フフッ,わかりましたよ」
先輩はそう言って少し笑うと,建物の扉をノックする。
するとすぐに中から声が聞こえて扉が開くと,年老いた夫婦が出迎えてくれる。
彼らはこの施設の運営をしてくれている。腐敗しないための監査は少し厳しいかもしれないが,それも面倒だと言わずに承知してくれている優しい人たちだ。
「これは王子様!ようこそお越しくださいました」
「子供たちもお待ちしております。ささ,どうぞおあがりください」
「では上がらせてもらおうか」
中に入ると奥の大広間の方から子供たちの話し声が聞こえてくるので,そこを目指して進んでいく。
「あの子たちもここに慣れてきたようで,子供たち同士も随分と仲が良くなってきました」
「……そうか。それは良かった」
ここは孤児院だ。そして俺が父上から相談を受けるようになって真っ先に手を付け始めたものでもある。
何故かと言われると色々と理由はある。原作のサマディー王が行ったことへのリスペクトでもあるし,ここで育った子供たちに将来サマディーに忠誠を尽くして働いてほしいという下心もある。あとは治安の悪化の防止とか? そこらへんもなくはない。
俺は転生者ではあるがかなり恵まれた環境に生まれることができたため,今世に悲観しすぎることなく生きていけるんだと思っている。
ただ,だからこそ考えることが出来てしまうのかもしれない。未来を変えるということについて。
俺には前世や原作の知識があるがそれは万能じゃないし,他国どころか自国内ですら救えない命や救えない思いがある。
その中には俺が転生した影響を受けてそうなってしまった人々もいるかもしれない。いや,いるだろう。
以前の大臣の件でも,良くも悪くも多くの人々の運命を変えてしまった。それは原作でもそうだったのかはわからないが,もしそうでも全く同じではないだろう。
俺は結局は俺の為に生きている。なまじ王子として権力を持っていることで,行動一つで多くの人を救い,多くの人を救わないことが出来る。
俺が認識していないだけで,本来幸せに暮らせた家庭を壊したり,本来叶えられた人の夢を壊したり。
前世では特に感じなかったが,最近俺はそれに責任を感じてしまう時がある。この悩みは傲慢が過ぎるだろうか。
原作で時を求めた勇者はどうだったのだろうか。魔王の覚醒を防ぎ,仲間であるベロニカをはじめとした多くの命を救うためならとどんな改変も恐れずにできたのだろうか。
それとも世界が崩壊したからこそ生まれた思い出や絆,そういうものを惜しんで足が止まることがあったのだろうか。
いずれにせよ自分の意思で今を捨てて過去を変える決心をした彼の心は俺なんかよりはるかに強いと思う。流石勇者だ。
ぶっちゃけると,俺のこの悩みに解決方法はない。
結局はどんな行動をとっても誰かの運命を変えてしまうし,既に変えている。
というか,生きている人間なら多かれ少なかれ悩みはあってしかるべきだし,解決方法のない悩みなんてザラにある。今言ったみたいな過去のこととかね。
話を戻すが,俺がここを作った一番の理由は自分のそういった悩みを和らげるためなのだろう。
……実際に作ったのは大工さんだけどね!
大げさに話していたが,結局は少しでも多くの人を救いたいっていう俺のエゴが理由なのかな?
……うん。別にあんまり大層な話じゃなかったわ。
この孤児院に入るだけで救われるとは思わない。だが,彼らが自分や未来について考える時間の余裕を与えてあげたい。
そこで彼らが泣いたり笑ったり感動したりしていく中で自分の幸せが見つかれば救われたってことにならない? ギリギリなるんじゃない?やっぱダメ?
……なんかしんみりしそうな話だけど結局はただの愚痴です! さっき先輩にも言われたけどやっぱり疲れてるんだろうね! 忘れて頂戴!
そんなことを考えているとあっという間に大広間に着く。
「皆~王子様が来てくれたぞ~」
彼の声を聞いた部屋の子供たちはいっせいに群がってくる。
「「「わーい!」」」
「ねえねえ! きょうのおうじさまかっこよかったね!」
「そうか? ありがとう」
「みんながワー!っていってた!」
「そうだな。すごく大きな声だった」
「僕も大きくなったら王子様の部隊に入って悪い魔物をやっつけたい!」
「ああ。楽しみにしているぞ」
「わたしはおうじさまのおよめさんになるー!」
「俺ももっといい男になれるように頑張るよ」
「王子様の絵を描いたの! これあげる!」
「おお!上手だな。部屋に飾っても良いか?(マジで上手いな)」
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そこからしばらく言葉のラッシュが続き,連れてきた騎士たちも同様の目にあっていた。笑う。
ははは。子供は元気だねぇ……はっ!? 俺まだ十歳だから全然子供だわ! 体のでかさと周りの接し方のせいで自分でも忘れかけてたけどそんなに変わらないよ? なんなら年上もいるよね!?
「王子様,もしご迷惑でなければ夕食を食べていかれますか?」
「いいのか? 私は頼みたいが……お前たちはどうする?」
「「「我らも是非!」」」
へー。皆意外と子供好きなのね。俺は良いことだと思うよ! うんうん。
その日は夜遅くまで滞在し,体は疲れるが心の疲れは取れるという不思議な体験を味わった。
次話に幕間を挟んでサマディー編は終わりになります!
それではまた!('ω')ノシ