~とある騎士~
私はサマディー王国に使える騎士の一人で,今はこの国の王子であるハムザ様の部隊に所属させて頂いている。
私と王子が初めて出会ったのは,王が開催された御前試合での時だ。
当時の私は剣だけでなく魔法の才能もあったこともあって,同年代から頭一つ抜けた実力があったことで異例のスピードで出世していき,このまま王国一の騎士になってやるという気持ちに満ち溢れていた。
しかし試合当日,私は王子との勝負で敗北したことで自分の弱さを知った。
その時はただ単に自分の才能がその程度だったのだと落ち込み,しばらくは訓練も身に入らず家族の話もほとんど頭に入らないほどであったが,ある日に偶然王子をお見かけした際に私は人生の大きな転換点を迎えることになる。
その時の私は静かなところで休もうと人目につかない城の端の中庭に赴いたのだが,先にその場所にいた王子がひたすら剣を振っておられるのを目撃した。
私が驚いたのは,どれだけの時間そうやっているのかはわからないが王子の表情が見たこともない程の疲労を湛えていたことだ。
訓練中の王子はいつも涼しげな顔をされておいでで,それを見るたびに才能の差を感じる思いだったが,ここにいる王子は顔を歪ませながら泥臭く剣を振っておられた。
……私はなんという思い違いをしていたのか! 自分の怠惰に腹が立った。王子は私よりも若いが私の何倍も努力しておられるではないか!
私は恥ずかしさでその場を後にしてからそのまま訓練場へ向かい,それを紛らわすために体が動かなくなるまで剣を振り続けた。
それを続け,とうとう体が動かなくなって地面に仰向けに転がった私だったが,そこで私の顔を影が覆った。
「精が出るな」
「お,王子!?」
私は慌てて立ち上がろうとするが,体に力が入らずにうまくいかない。
そんな私を見た王子は急に笑い出した。
「ははは! そのままで良い。それにしてもこんな時間まで訓練とは真面目だな。俺も見習わなければならんな」
そう言って笑う王子の顔を私は直視できなかった。私は王子にそんな言葉をかけていただく資格はないのだ。
「ふむ。なにか悩みでもあるようだな。私で良ければ聞かせてくれないか?」
そんな王子の言葉に,言えるわけないと思いつつも私の口は動いていた。
「実は,私は王子が考えておられるより弱く不甲斐ない人間なのです。そんな自分が悔しくて……かといってどうすればいいかもわからず,そんな自分もまた悔しく」
今までこんな気分になったことがなかった私はどうすればいいのかもわからなかった。
「なるほど,それは難しいな」
王子が言葉を漏らすのが聞こえる。……呆れられたのだろうか。
「だが,俺はその悩みは悪いことではないと思うぞ」
……どういうことだろうか?
「それはつまるところ向上心だ。自分の弱さを知り,その悔しさを力に変えるには必要な過程だろう。だから,悩む自分を不安に思う必要はない。それは成長の証だ」
!!!……そうなのだろうか? 王子が言うならそうなのかもしれない。
「お前はまだまだ強くなれるはずだ。共に頑張ろう! ではまたな」
私は手を振りながら遠ざかっていく王子の背中を目で追いながら,今の言葉を噛みしめたのだった。
「(あ,あの強さで不甲斐ない? やべえ,俺も自主練増やさないと!!)」
ちなみに王子は密かに決意を新たにしていたとかなんとか。
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それからまた時が過ぎ……
はぁっ! はぁっ! 何ということだ! 父がそんなことを!
私は父が引き起こした事態を聞き,一刻も早く謝罪せねばと王子を探していた。
知らなかったとはいえ,その原因の一端が私にあったかもしれないのならばなおさらだ!
最近の父の様子が少しおかしいとは感じていたが,国の重鎮ゆえの苦労によるものだろうと思い込んでいた。
すると,部隊の副長と話しながら角を曲がってくる王子を見つけた。
私は跳び上がると――
「王子! 誠に申し訳ございませんでした!」
五体投地の姿勢で謝罪した。
…………
「……い,一体どうしたというのだ?」
「此度の父の件,私も聞き及んでおります! いくらお詫びしても足りぬとは思いますが,責任をとって騎士の位も返上いたします! 申し訳ありませんでした!」
それから少し時間を空け,王子が語り掛けてくる。
「ふむ……私はお前に責任があるとは思わぬが,それでは納得できそうにないようだな。だがやめるくらいなら俺の部隊に来るといい。お前ならば歓迎するぞ?」
「な! なぜそこまでして下さるのです!? それでは私への罰になりません!」
私は顔を上げて王子に尋ねる。
「なんだ罰が欲しかったのか? なら俺の部隊で少しでも多くの者を救うのが罰だ。よし,これで文句はないな。なら話は以上だ。せん……副長,こいつのことは任せた。」
「はっ! お任せください。」
なっ!! 王子は言い終えるとすぐに奥へ行ってしまった。
「ふふ。王子はああいうお方だ。紹介が遅れたな,私は部隊の副長を預かるセルジオという。これからよろしく頼む」
「は,はい」
私はその時から王子の部隊の一員になった。
かつては王国一の騎士になるという野望があった私だが,今は自分のためではなく自分以外のために騎士として生きている。
それが多くの民,そして王子の助けになると信じて……。
~とあるサーカス芸人~
ふ~。ここサマディーは想像以上に暑いねえ。
アタシの名前はローズ,まあ本名か芸名かは秘密だけどね。旅のサーカス団の一座で活動している若手芸人の一人さ。
とは言っても最近はスランプに陥っててね。以前のショーでの失敗で怪我をしてからは舞台の上で芸を披露するのが怖くなってしまって,めっきり自分の実力を発揮できなくなっちまった。
その時のことを思い出すと思いきった芸ができなくてね。
アタシもここまでなのかしら……。
いや,自分のサーカス団を作って最高の芸人たちを集めて世界中でショーをするっていう夢を叶えるまで終わってなるもんですか!
さっき言ったことが原因で,最近ではショーの調子も悪いけれど,ここから巻き返してこのローズの完璧な芸を皆に見せつけてやるのさ!
アタシたちは今,サマディー王国のサーカステントに来ている。
ここはすごく大きな会場で,さらに最近はこの国を訪れる観光客も増えてるって話だから席も常に満員状態らしい。
こんな環境が揃ってるってことはこの世界でもトップクラスの大舞台だろう。
ここで素晴らしい芸を披露できれば一躍有名になれるかもしれない!こんなチャンス逃してなるもんですか!
今日は最初のショーがあるからしっかりやらないと!
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「お集まりの皆さん! 今宵はわがサマディーサーカスにお越しいただき誠にありがとうございます! 本日はゲストに旅の一座を迎えてのショーとなります! それではどうぞお楽しみください!」
いよいよショーが始まった。
今回はなんと初めて団長からトリを任された。団長のためにも自分のためにもいつも以上に頑張らなきゃね。
たくさんの芸人が次々に芸を披露していき,遂にアタシの番が回ってきた。
アタシがやるのは綱渡りだ。奇しくも以前怪我をしちまった芸と同じ。
緊張に負けないように気合を入れて,綱の上を歩いていく。ただ歩くだけじゃない。跳ねたり回ったりしながら進んでいく。
観客からの反応も上々だ。このまま……あっ!!!!
その時アタシは足を滑らせてしまい,落ちそうになる。
でもあの時と同じにはしない!
とっさに綱に掴まり,衝撃を和らげることが出来そうなものを探す。
そして見つけたペンキが詰まった大きなバケツに勢いをつけて突っ込んだ。
――バシャーン
ペンキまみれになったものの,なんとか恰好をつけようと真面目な顔をしてポーズをとってみた。
……はあ~。怪我はしなかったけど大事な場面で失敗しちまった。やっぱりもうだめなのかね。
「くっ,はははははははははははははは!!!!!!」
その時,客席の一つからものすごい笑い声が聞こえてきた。どうやら若い青年……いや,少年のようだ。
「アッハッハッハ!!」
「アハハ! ペンキまみれでなんだよそのポーズは! 腹いてぇ!」
「ハハハハ! 最高だぜ!」
そしてそれにつられるようにして会場中から笑いが起こる。
え? 失敗したのに?
アタシは困惑しながらもお辞儀をして,退場した。
その後に団長からも叱られることはなかった。どうしてかわからないままモヤモヤした気分でいると,誰かが裏方に入ってきた。あれは……さっき最初に笑ってた人?
「おお王子! 先ほどのステージをご覧になられましたか!」
「ああ。特に最後の芸は久しぶりに笑った。あの芸人は笑いの神に愛されているな」
「そうですな。おお,彼女がその芸人ですよ」
サマディーのサーカス団長の話を聞いて驚く。え! 王子!? このサマディーの?
私は恐る恐る自己紹介をする。
「ローズと申します。あの! なんでさっきのショーで笑ってくれたんですか! アタシ失敗したのに!」
サーカスは見事な芸で感動と笑いを届けるものだ。さっきのはいったい……。
「そうだな。サーカスでも,芸の完成度だけでなく,場の雰囲気や芸人の特徴によって様々な笑いが起こる。さっきのもそういうものだ。それに,君の所属する団はまじめな芸が多かったから面白さも一入だった」
私は衝撃を受けた。今まではそんなこと考えたこともなかったからだ。
「そういう意味では,失敗すらも笑いに変えた貴方は芸人に向いているな。今後の活躍にも期待しているぞ」
「は,はい!」
そうか,今までアタシは自分の芸のことばっかり考えてたけど,ショーは見ている人達のためにやるもので,それを一番に考えなきゃいけないんだ! その芸も極めればアタシはもっとすごい芸人になれる!
芸の形もたくさんあって,まだまだ知らないことがたくさんあるんだと思うとなんだか気分が高揚してくる。
アタシはまた一つ成長できた気がした。
よし! うだうだしてる暇なんかない! 今度あの王子様が見に来た時にはもっとすごいショーを見せてやる!
そうと決まればさっそく修行だよ!!
~とある商~
私は旅の商人をしている"フェルナンド"というものです。近頃はサマディーの国は随分と景気が良いという話を聞いて,家族と共に行ってみることにいたしました。
デルカダール地方で船に乗って内海に出てから西のソルッチャ運河を通って外海に出て,そのまま西廻りでサマディーの港に向かいます。
サマディー王国は長らくの間,バクラバ砂丘でいくらかの船の往来があったものの民間の船の受け入れには積極的ではありませんでしたが,少し前から南側に港を整備し,海運も盛んになっています。
それにダーハラ湿原で内海側に港を建設する計画もあるようで,さらに数年もあれば貿易もさらに活発になっていくでしょう。
……ただ,以前使われていたバクラバ砂丘のルートは完全に封鎖されたようですが何かあったのでしょうか?内海側の港の完成までは開放するのも良いと思うのですが,おそらく事情があるのでしょうね。
それからもしばらく航海続けていると,最初の目的地であるハムザリアの港に到着しました。
この町の名前は,ここの建設計画を提案したこの国の王子からとっているそうですよ。
「ふう~。やっと着きましたね」
「そうね! それにしても,最近できた港だと聞いたけれど随分にぎやかなのね」
妻がそう言いますが,私が思うに新しい港だからこそでしょう。内海にも港ができれば内海から外海に出るためのルートが増えることになりますから,ここの重要度も増します。先のことを見据えてここの港で地盤を築こうと考えているのかもしれません。
「う~あう~」
「ふふふ。ラハディオも興味津々ですね。せっかくですし何か食べていきましょうか」
「なら海鮮料理のお店にしましょう! ここは漁業も盛んらしいし期待できるわよ!」
流石というかなんというか,妻は船旅の疲れなどなかったかのように元気いっぱいです。海鮮料理ですか,とても楽しみです。
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この町の海の幸に舌鼓を打った私たちは,交易所でいくらか売買を行った後にこの港町を後にしました。
なれない場所ですが準備もバッチリです! 町で販売されていた魔法のバッグに加えて,緊急用花火というものも買ってみました。どうやら緊急時にこれを打ち上げるとサマディーの騎士様が助けにきてくださるんだとか。おふざけで使うと捕まってしまうらしいので,慎重に管理しなければいけませんね……。
私はサマディー地方に来るのは初めてですが,新しいものが多くてワクワクします。
道中は準備のおかげもあって大きな問題もなく進むことが出来ています。ですがそろそろ休憩しましょうか。
「あそこの岩陰で休憩しましょう」
「そうね。私達は平気でもこの子にはこまめに休憩が必要よね」
そうして少し休憩することになり,私は辺りの安全を確かめに行くために馬車から少しだけ離れてしまいました。その時――
「キャー――!!!!」
!!!
「どうしたんですか!!」
私は急いで馬車に戻ると,そこには見上げる程の巨大なサソリの魔物が馬車を襲おうとしていたのです。
私は急いで馬車を出発させようと乗り込みますが,既に魔物はすぐそこまで来ています。このままでは!
その時妻が突然馬車から飛び出しました。
「このっ! これでもくらいなさい!」
そのまま彼女は積み荷の一つである唐辛子粉が入った袋を魔物に投げつけたのです!
魔物はそれを爪で切りつけますが,その際に中身が魔物の顔に降りかかりました。
「グギシャアアアアアア!」
魔物がその場で暴れます。今のうちに逃げようと妻に声をかけようとすると,なんと彼女は怪我をしていました。魔物の攻撃を受けてしまっていたのか!!
私はすぐさま彼女を馬車に運び込み,馬車を走らせました。
なんてことだ。早く治療しないと妻が危険だ。しかし逃げることに夢中でここがどこかもわからなくなってしまいました。
「シャアアアア!!」
それに先ほどからあの魔物が追いかけてきており,このままではいずれ捕まってしまう!
!!
そうだ!町で買ったこの花火を使えば! ……だがここは恐らく街道からも外れているし,誰かに気づいてもらえるかはわからない。
でもそうする以外に何も思いつかない! お願いします! 誰か!
――パーーーーーン!!!
私は空にそれを打ち上げた。だが来てくれてもしばらく時間がかかるだろう。それまではなんとか逃げ切らなければ!
私が決意を決めていたその時,遠くから馬の足音が聞こえた。まさか!?
ああ! 助けが来てくれた!
やってきた騎士様の中で先頭を切っていた方が魔物に向かっていき,それ以外の方々がこちらにやってくる。
「大丈夫か! 我らはサマディーの騎士だ! 怪我人はいるか!」
私も馬車を降り,彼らに近づく。
「おお! お助け頂きありがとうございます! そうだ! どうか妻をお助け下さい!」
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その後は妻の治療や城までの護衛までしていただき,無事サマディー城に着くことができた。
妻は念のためと詰所の医務室で診てもらったが,後遺症なども残らないようで安心した。
私は少しばかりの診察費を払い,妻と話す。
「君の機転のおかげでなんとか命を繋ぐことができました。ありがとうございます」
こういう時に謝ると彼女は怒るので,感謝の言葉を述べる。
「そうでしょう!って言いたいけど…私の方が色々と迷惑をかけちゃってごめんなさい」
「そんなことないですよ!!」
私は慌てて否定する。そもそも助けてくれたのは騎士様で,僕がしたことなんて何もない。
「はあ~もう,準備が役にたったんだしあなたのおかげでもあるでしょ?」
たしかに騎士様も「花火がなければこんな場所では気づけなかったでしょう。様々なことが重なったことによる幸運ですね」と仰っていたし準備は大事ですね。
「あの魔物,王子様が一人で倒しちゃったんだって?」
そう。あの時魔物に向かっていった騎士様はなんと王子様だったんです。
あれほどのお方なら町の名前になるのも納得だと思いました。
「すごいわね~。あの人が次の王様ならサマディーの未来も安泰なんじゃない?」
そうですね。それに商売にも理解がある方らしいですし,僕ら商人にも暮らしやすい国になるでしょう。
「ならさ! もうここに住んじゃいましょうよ! お金もある程度貯まったし,そろそろお店を構えるのも悪くないんじゃない?」
「え!? 急に言われても……でも,確かにそれもいいかもしれませんね。ラハディオはどう思いますか?」
「キャッキャッ!」
「ほら! その子も賛成だって!」
「ふふふ。ではそうしましょうか!」
こうして私たちはこのサマディーの国で暮らしていくことにしました。色々と不安もありますが,家族で力を合わせればきっとなんとかなりますよね!
そんな希望を抱いて……。
キャラ年齢……時系列……ややこしや。
それではまた!('ω')ノシ