~~ハムザリア~~
皆さんどうも! 潮風を全身で浴びているハムザ君です!
今日はナギムナー村に向けて出発する日だ。そんな日に俺はハムザリアの町の端で海を眺めている。
近くの船着き場では騎士たちや港の者たちが船に荷物を詰め込んでいるのだが,俺も手伝おうかと思ったら遠慮されてしまったんだよなぁ……。
青騎士団の面々はこの町に随分馴染んでおり,船乗りたちとも気安く話をしている。
彼らは船上での戦闘だけではなく,船の運用や修理,更には水中での救助活動なども行うこともあり,立派な海の男として受け入れられているのだろう。うん……とても頼りがいがある。
それもあって俺は現在,絶賛暇を持て余しているのだ。
ハムザリアの町は,俺たちがバクラバ砂丘に船を付けることを禁止したことによって,今では南の大陸とそのほかを繋ぐ唯一の安全な港となっている。
ダーハラ湿原の開拓が済んでないから,ダーハルーネになる場所の船着き場からここまで来るのは非常に危険だからね。
ちなみにバクラバ砂丘側を閉鎖したのは,あそこは色んな意味で危ないので何かあった時の被害が大きいと思ったからだ。あとシンプルに怖いからあまり行きたくない。
俺が周りを見ると,あたりは非常に賑わっており,活気がある。
まだ朝の早い時間だが,漁師や商人,そして市場で品物を求める町人たちの声が響き渡っているのだ。
そんな活気のある状況も手伝ってこの町は現在も拡大が続いているが,それもほどほどにしないといけないだろう。
なぜなら,そのうちダーハルーネの町が完成することになれば内海からの船は多くがそちらに行くことになるだろうからだ。
内海の港からここまで来るにはソルティコの町が管理するソルッチャ運河を経由する必要があるため非常に手間と時間がかかる。今は先ほども言ったようにこの大陸唯一の大きな港なのでいいかもしれないが,外海に出ずとも来られるようになればわざわざこちらに船を回さなくなっていくだろう。
運河の管理は立派な利権だ。俺たちもそこをつついてソルティコと関係を悪くしたくはないのでノータッチだ。領内に運河をつくらないのも,金や労力がかかる以外にそういった部分も絡んでくる。
しかし,船は減ってもハムザリアとダーハルーネ間の陸路の交易路が活発になるだろうから依然として重要度は高い。
そうなるとここの港の取引相手は外海に港があるクレイモラン王国や今回行くことになるナギムナー村が中心になってくるはずだ。
そういう意味では今回の訪問はこれからの交易について話すいい機会でもあるだろう。
……まあここは漁港や軍港としてだけでも重要度は高いんだけどね。
「王子! 出航の用意が整いました!」
「わかった。よし,では私も行くとしよう。」
王子隊の一人,以前に土☆下☆座をしたことで俺のなかで密かに好感度(笑い的な意味で)が上昇している騎士の一人が報告してくる。
ちなみに俺は彼を心の中でDさんと呼んでいる。……理由は秘密だ。
彼は努力家だし貴族の出ということもあっていろんなことができるので,入隊から瞬く間に俺の側近に上り詰め,今回も先輩の代わりに色々と働いてくれている。
それにしてもようやく終わったんですね……気まずかった。
俺は返事をすると,そのまま艦隊の旗艦である”偉大なるサマディー号”に乗りこんだ。
そして全員が持ち場についていることを確認してから号令をかける。
「さあ! 出航だー!」
「「「はっ!」」」
……皆さん,こいつ働いてないくせに偉そうにとか思ってないよね!?
そうして俺を乗せた船を含む数隻からなる船団はナギムナー村に向かって出航したのであった。
~~外海~~
あれからしばらく経っているが,今のところは順調に進むことが出来ている。
途中で魔物の襲撃が少しだけあったが,俺が手助けするまでもなく騎士団の者たちだけで殲滅なり撃退なり出来ている。
……皆優秀だねぇ。出航前から薄々感じてたけど俺って完全に置物じゃん。肩身が狭いでござる……。
特にやることもないので,ナギムナー村に到着する前に今回の任務の詳細についてDくんと確認でもしておくか。
「ナギムナー村に到着するまでまだまだかかるが,念のため今回の任務について細かい部分まで確認しておきたい。説明を頼めるか?」
するとDさんは目の前の机に書類を用意しながら説明してくれる。
「わかりました。ではまずは魔物討伐についてですが,今回の標的についてわかっている部分から……。件の魔物が出現するのは村の東側に陸沿いにしばらく進んだ海域,バンデルフォン地方の南東からホムスビ山地の北東にかけての海だそうです。最初の襲撃時は,漁をしていた村の船が沈められ,その時は運よくサマディーの軍船が通りかかったことにより救助されて助かったようです。襲われた者たちの証言では,姿は良く見えなかったがオオイカほどの大きさはないものの大型の水棲の魔物だろうとのことです。」
いや船を沈められるならそりゃ普通に考えて大型の魔物でしょうよ。小舟じゃないんでしょ? もうちょっと具体的な情報が欲しかったけど見えなかったんならしょうがないよね!
ちなみにオオイカというのはダイオウイカやクラーゴンなどの魔物の総称で,めったに出現しないが恐れられている魔物たちだ。
しかし奴らは接近してきたらほぼ確実に気が付ける上に,ナギムナー村に住む大砲職人の作った大砲を撃てば撃退は一応可能であるため,対抗策のある災害みたいな扱いをされている。
このあたりで大型の水棲の魔物となると,鳥系の魔物は除外するとして,候補としては蛇系の魔物である”ヘルバイパー”あたりか? 大穴で上位種の”オーシャンナーガ”の可能性もある。
しかしそのぐらいなら彼らだけで対処できそうな気もする。
基本的に本国の騎士団まで応援要請が届く場合というのは現地の戦力だけでは対処が難しい場合だ。そして一応はナギムナー村にもサマディー兵がいくらか駐屯している。
さらに以前より時が経っていることから村の漁師の中にも戦える者は増えているはずなので,それもあって最近は応援要請が来ることも減っていたのだ。
「それ以降も同海域を通る船に被害が出てたことで討伐を試みたようですが,敵は船の破壊を優先するようで,思うようにいっていないのだとか。」
なんじゃそりゃ! めちゃめちゃタチ悪いね。
「……では,死傷者はどのくらい出ているんだ?」
「それが……その魔物は海に落ちた者を執拗に襲うことはないらしく,怪我人は多いですが死者はまだ出ていないようです。そのことから捕食目的での襲撃ではないと考えられますな。」
ええ……。何が目的なんだ?魔物が何のためにそんな海域封鎖みたいなことを……。
ただの縄張り意識からくる行動なのか,それともそこを通る何かに用があるのか?
この偉大なるサマディー号は俺が乗る船というだけあってめちゃめちゃ丈夫に造ってあるから大丈夫かもしれないが,少し心配だな。
外海は広いから色んな魔物が出る。考えたくはないが,想定外の強力な魔物が出ないとは断言できない。
それでも俺がある程度高を括っていられたのは,そういった変化がある場合は必ず兆候があるはずだからだ。
実は以前にハムザリア近海で”スノーホムンクルス”というシーゴーレム系統の魔物の群れを討伐したことがあったのだが,この魔物は雪深いクレイモラン地方の海で稀に出現する強力な魔物なのだ。
恐らく地図でいうと端にあたる部分を越えてやってきたのだろうが,当時は漁師たちが海の様子が明らかにおかしいと報告したことで調査が行われて,発見に至った。
今回もそのパターンと考えたら異変が報告されていない以上大丈夫だと思うのだが,敵の行動にちょっと謎が多いんだよな。
……その想定外を警戒する必要があるかもしれない。
うーん不穏だ。いきなり不安だ~。
軽い気持ちで引き受けた任務だったが,考えを改める必要があるかもしれない。
……え? 引き受けたことを後悔してないのかって? あのね,ああいうタイプの話にはそもそも拒否権はないんだよ。
「次に親善のための交流についてですが,初日に村長らとの会談を行い,翌日からの魔物討伐を終えた後には彼らの漁に同行してその様子を見学する予定となっております。」
これは俺に課せられたメイン任務といえるものだが,もちろん魔物討伐を優先する。村民たちも目の前の問題が解決しないまま色々やろうとしても困るだろうしね。
それにせっかくなら問題を片付けた状態でナギムナー村を楽しみたいしね!
「基本的には以上の二つが今回の主な任務となりますが,現地の様子次第では王子の判断でその他の問題解決や作戦実行も許可すると王より言付かっておりますので,臨機応変な対応が求められますな。」
その他の問題ねぇ……。それフラグじゃありませんよね父上?
まあそのあたりは現地に着いてみないとわからないことが多そうだから,今の内から色々考えても意味はないのかもしれないけどね。
今回は少し長めの滞在になるかもしれないな……。
俺がそんなことを考えていると,なんだか船室の外が俄かに騒がしくなってきた。
ん? もしやトラブルでも起こったかな? ようやく俺の出番ですかな!?
「何やら騒がしいですな……。私が確認してきますので王子はしばしここでお待ちを。」
そう言ってDさんは机の上を片付けてから船室を後にする。
あ……はい。なんだか出鼻をくじかれてしまった気分だが,言われたとおりにおとなしく待っておこう。
それにしても何があったのだろうか?
考えられることとしては,強力な魔物が現れたとか?そのために船内の騎士を集めていたというのはありえなくもない。
あとは遭難者を見つけたとか?救助の為に色々用意するためにドタバタしていたのかもしれない。
うーん。どちらもあり得る。
そんな風にあれこれと予想していたわけだが,しばらくするとDさんが慌てた様子で戻ってきた。
「お,王子! う,上で!」
おお……。少し餅ついて,もとい落ち着いてもらっていい?
「落ち着け。何があったのだ。魔物がいるのか?それとも救助者か?」
「ま,魔物……ではないような,救助者といえばそうかもしれないような……。」
ちょっとどうしたの一体!? らしくないよ?
「と,とにかく私についてきてください!! 私達だけでは判断が出来ません!」
そう言ってついてくるように促してくるDさんに続いて俺も甲板に向かう。
何が起こっているのか全然わからないって! ちょっと緊張してきたな。
そのまま甲板に出ると,騎士たちが集まっている空間があった。皆は俺が来たことを知ると道を開けてくれたので先へ進むと,俺はそこで驚くべきものを見た。
……なるほどなるほど。こりゃ確かに彼らには説明に困る事態かもしれない。
そこには仰向けになって騎士の治療を受ける魚人たちの姿があったのだ。
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俺は騎士たちにどういう経緯でこうなったのかを聞いてみた。
どうやら,見張りをしていた騎士が初めに気が付いたそうだ。
魚人たちが船に近づいてきたのを見て最初は魔物の襲撃かと思ったらしいのだが,彼らが助けを求めてきたことと酷い怪我をしていたことから船に上げたらしい。
俺の許可を得る前にそうしたことをめちゃめちゃ謝られたが,一刻を争う事態であっただろうことはわかったので特に何か言うつもりはない。
それにしても魚人たちが態々人間の船に助けを求めるとは尋常なことではない。
うーん実に嫌な予感がする。
丁度彼らの治療もひと段落したようなので,少し話を聞いてみるとしよう。
「まだ体調が優れぬやもしれぬが失礼する。私はこの船団を率いるサマディー国の王子でハムザという者だ」
すると魚人たちは少し顔を見合わせた後,その中から代表と思われる男が前に出てくる。
「我らは海底王国ムウレアに住まう民でございます。そしてまずは何よりもお礼を申し上げたい。ハムザ様,此度は素性も知れぬ我らの命をお救い下さり誠に感謝申し上げます」
そういって後ろの魚人たちとともに頭を下げてくる。…おお。これはなかなか貴重な光景かもしれないな。
そんな割とどうでもいいことを考えつつも,俺も返答する。
「困っている者を助けるのは当然のことだ。私たちも貴殿らが無事に回復したことを嬉しく思う。それにしても海底王国か……確か海の底に存在する国であったな。そこに住む貴殿らがどういった理由でこのような状態に?」
俺がそう聞くと,彼は俺の反応に少し驚いたようだが,その後考えるような素振りを見せた後,こちらに向き直って話し始める。
「あなた方にはお話しすべきでしょう。まずは現在,この海で起こっているとある問題についてお話しいたします……」
うわ~,なんか聞きたくないな~。
そう思いつつも,俺は彼らの話に耳を傾けるのだった。
少しづつではありますが原作に関わる部分も書いていこうと思っているので,拙いながらも考えることが色々とございまして。
以前より更新頻度が落ちていますがエタる気は更々ないのでご理解いただければと……。
それではまた!('ω')ノシ