~~ナギムナー村~~
皆さんどうも! 自分の内で決意と不安がスムージーみたいになっているているハムザ君です!
今日はいよいよ魔物討伐に向けて出発する日だ。
俺は既に自分の用意は済ませ,港に停泊している船に乗り込んでいる。
全体の準備みたいな部分は部下たちに任せておいた方がうまくやってくれることはわかっているので,俺の役目は報告を受けることと号令をかけることくらいだ。実にラクチンだね。
「王子! 出航の用意が整いました!」
「ご苦労。さて,なにか言葉をかけるとするか」
Dさんからの報告を受けて俺は甲板の上に移動すると,そこでは送り出す村人たちと今回赴く者たちの会話の声に溢れていた。
俺と同じ船に乗るキナイも娘だと思われる少女と話している様子が見える。
しかし皆は俺が登場するとすぐに話を終えて持ち場に戻り,全員が俺の方に顔を向けて静かにしてしまった。
……え? 続けてくれてても良かったのに。あわよくばこのままシレーっと出航させようとすら思っていたのに!
そう思ったが皆が待っているので手短に話すことにする。
「これより我らは海の平和を乱す魔物の討伐に向かう! だが案ずることはない! 俺がいる限り敗北などありえない!」
「「「うおおおおおおおおお!!!!!」」」
俺が言い終わると同時に歓声があがる。
皆のノリが良くてホントによかった!
それにしても”敗北はありえない”ねぇ……ありえないわけないんだよなぁ! だけど,こうでも言えば皆が安心できるんじゃない!?付き合いの長い騎士たちは知らないが……。
「行くぞ! 出航だーー!」
「「「「はっ!/うおおお!」」」」
そして俺たちはナギムナー村を出発し,目的の海域に向けて進み始めたのだった。
~~外海~~
さて,現在俺たちは合計三隻の船で向かっているわけだが,それぞれの船に乗る人員の内訳を紹介していこうではないか。
まず,俺の乗る旗艦は敵の首魁と戦闘することを想定してほぼ全員がサマディーの青騎士で固められており,ここで全体の決定を下すことになる。
ほぼ,と言ったのはキナイがいるからで,更に彼は戦闘の方も意外といけるらしい。流石は自分達だけで海の魔物と渡り合ってきたナギムナー村で,かつて村一番の漁師と呼ばれた男だ。
残りの二隻には魚人たちや王子隊も乗せ,それぞれトウジン率いるムウレアの戦士とDさん率いる王子隊が,トウジンたちの話にあった残りの2匹の魔物を主に相手取る予定となっている。
それら2匹の魔物たちも強力なやつららしいが,彼らであれば勝利を収められるという判断でこのような形になった。
想定通りにいくかは未知数だが,皆の実力を信頼しての配置だ。
……だがそれも俺が勝利することができなければ全て無意味になるだろう。
というのも,敵の首魁はそいつらとは格が違うらしく,トウジンが言うには俺の強さでも勝利は確信できないらしい。
……いやなんだよ俺の強さって! 俺も少しは感じ取ったりできるが,ホントに大体しかわからない。そんな言われ方すると脳内脅威度がバグをおこすからやめてほしい。
俺は謎の疲労に襲われながらも,迫る脅威に備えて剣を振るために船の甲板へ移動することにした。
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~キナイ・ユキ視点~
あの岩があるということはこのあたりは――
「この時間帯のここ周辺は珍しく魔物も少なく北向きの追い風も吹くので今のうちに少し休憩をはさんでも良いかと」
俺がそう進言するとハムザ王子は頷いて,側にいた立派な騎士に命令を出した。
「ではその通りにするとしよう。副団長,そのように頼む」
「はっ!! お前たち! このまましばらく……」
俺は現在,故郷であるナギムナー村の守護者となったサマディーの国,その国の王子率いる魔物討伐隊に同行して船に乗っている。
そのきっかけとしては,村長が王子から「海に詳しいものを紹介してほしい」と注文された際に俺の名前を出したことから始まる。
現在のナギムナー村の村長は立場ゆえか性格ゆえか俺のような者もなにかと気にかけてくれており,ナギムナー村で微妙な立場にある俺と娘がなんとか生きていけるように取り計らってくれていた。
名前を出したのも,王子のお役に立って顔を覚えられれば俺の為になるだろうと思ってのことだろう。
俺としては長い間海に出ることがなかったので不安もあったが,村長がそれでもなお俺が一番詳しいだろうと言ったこともあり,断る理由もなくなったのでそれを了承した。
それから翌日に王子と初めて対面したが,部屋に入った瞬間に俺は不覚にも圧倒されてしまった。
ただそこに座っているだけなのに感じとれる風格とでも言うのだろうか,とにかく俺は緊張感に支配されたまま会話を始めた。
会話を続けるうちに王子は俺に様々な質問をしてきたが,なんとか答えられていたと思う。
しかし王子が人魚のことについて話を始めた時は焦ったものだ。
俺は自分のような愚かなことをするものが出なくなるようにと思い,人魚を恐ろしい存在として扱う物語を作った。それには自身の体験も織り交ぜて信憑性が出るようにもしていた。
しかしながらこの話を広めようとしたことは,人魚やその仲間たちを貶めてしまうような行いであることも事実。
結局は後の人の為と言いながら自分の為だった。偶然も重なったとはいえ多くの人の人生を壊してしまった自分の罪悪感を少しでも和らげるための自己満足なんだ。
娘を言い訳にしようとする自分にも嫌気が差しそうになる。
口下手な俺は多くを語ることができなかったが,王子は俺の心の内まで見透かすように俺を見ながら話を真剣に聞いてくれた。
ああ……こんなに人と話したのはいつぶりだろうか。
ここ何年も人に本音を話したことなどなかった,弱みを見せないように自分を騙しながら生きてきた。
だがここしばらくの俺の心の中には常に後悔や罪悪感などの暗い感情が燻っていた。自分には誰かに頼る資格さえないのだと思う時すらあった。
だが王子が現れてから瞬く間に変わっていく村,そして目の前の王子からの言葉に俺は前に進まなければならないと思った。いや,進んでもいいと思えた。そして誰かを頼ることを許してくれたような気がした。
だが俺にはまだ勇気が足りない。長い間押し込めてきた自分を動かすにはまだ少し足りなかったのだ。
だが王子はそれすらも見透かしたように俺に救いの手を差し伸べて下さった。
自らの時間を割いてまで俺のために……
いつの間にか,もう部屋に入った時のような雰囲気は微塵も感じなかった。
なぜ1人の村人でしかない自分にここまでしてくれるのかは分からないが,俺はこの時いつぶりかに人の暖かさを感じたのだ。
俺はこれからもっと村の人々や娘ともっと真剣に向き合わなければならないだろう。
そして俺は自分がすべきことを成すための第一歩を踏み出したのだった。
「さて,そろそろ食事にするか。キナイも行くぞ」
「はい!」
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その後も俺は王子たちの案内を続けながら日をまたぐ航海を続け,ようやく目的の魔物が出るとされる海域に到着した。
俺は海の様子を確認するために甲板にいたのだが,特におかしい様子が見られなかったので少し気を緩めそうになっていると,王子が険しい顔をしながら現れた。
何やら只ならぬ雰囲気をまとっており,甲板に出てくる騎士も少しづつ数が増えてきた。
「お,王子!? 如何されましたか?」
「……」
俺は恐る恐る王子に尋ねてみたが,答えは返ってこなかった。
それによっていよいよ不安に駆られていると,突然王子が言葉を発した。
「皆下がれ!」
俺や騎士たちははほぼ反射的に王子から距離を取ると,王子の目線の先に目を向けた。
――ッドンッッ!!!
空気を割くような大きな音が響いたかと思うと,この船目掛けて巨大な諸刃の剣が飛んできていた。
「なっ!」
突然の攻撃に対して俺は動くことが出来なかった。
「ふんっ!」
しかし,王子は跳び上がりながら背負っていた剣を抜くと,迫るそれに向かって振りいて海へと弾き飛ばした。
「"ブレードガード" "バイキルト" "スカラ" "エレメントフォース"」
その剣は弾かれるままに海へと落ちていったが,王子はなぜかすぐさま自身を強化する特技や呪文を唱えていた。
俺がまだ状況の変化についていけないでいると,王子が言う。
「奴は俺に任せろ! 皆は他船への連絡と周りの奴を任せる!」
王子が言い終えた瞬間,突然に海の様子がおかしくなったことを肌で感じた…。
――ザバンッ!!
すると船のすぐそばで大きな水柱が立ったかと思えば,次の瞬間には船の上空に現れた魔物が王子目掛けて剣を振り下ろしていたのだ!
「っ!? 王子!」
王子の方を見ると,こちらもすでに剣を構えてから振り上げるようにして迎え撃っていた。
「「フンッ!!!/はあっ!!!」」
お互いの剣がぶつかりあって生じたその衝撃だけで,俺は船の端まで吹き飛ばされてしまった。
くそっ! 俺にできることはないのか?
そう思って周りを見ると,なんとそこでは騎士たちと船に上がろうとする魔物たちとの戦闘が始まっていた!
そうか! 先ほど王子が任せると言ったのはこのことか!
先ほどまで呆けていた自分に怒りが湧いてくるが,今はそんなことは後回しにしなければならない!
俺はすぐさま身に着けていたモリを手に取って彼らの戦いに参加した。
王子の戦いや他の船の様子など気になることはたくさんあったが,今は彼らを信じて目の前の戦いに集中することにした。
~主人公視点~
それを初めに感じたのは俺が船室で丁度昼食を食べ終えたあたりだった。
俺は先ほど遂に目的の海域に到着したという報告を受け,はしたなく思われないようなギリギリのハイスピードで食事をしていたのだ。
見よこの妙技!サマディー1の早食い王と呼ばれる日も近いな!などとしょうもないことを考えていた時だった。
戦闘が近いかもしれないと考えて気を張っていたからか,修行によって俺の感覚が研ぎ澄まされていたからかはわからないが,俺は悪しき気配が近づいてくるのを感じた。
そこで俺は側にいた騎士に尋ねてみた。
「……上にいる者たちから何か報告が入っていないか?」
「いえ,何かを発見したという報告は受けておりませんが……何かご懸念が?」
ふーむ,流石にこの感覚が気のせいだとは思えないが,一応確認したいな。何も報告が入ってこないということは敵はこちらに気づかれないように接近しようとしているのかもしれない。
「戦闘がいつ始まるかわからんからな。上に顔を出してくるとしよう」
「騎士もお連れになりますか?」
ん~,いらないかな。それより敵が壊そうとしてくるかもしれないから船のことに注意してて!
「今回は俺には必要ない。それよりも船を守ることを優先するように」
「ッ! 承知致しました。急いで通達しておきます!」
うん! お願いね!
そして俺は甲板に移動したのだが……これは……悪しき気配多くね?
それに気づいてから俺は自分の感覚センサーだけに集中しながら歩いていたのだが,魔物の気配が3匹どころじゃない。
一応想定自体はしていたが,あまり嬉しくない事実だ。
そして一際大きな存在感があるのが海神のつかいを名乗る例の魔物だろう。
俺でもわかる強大な力に,やはり自分が相手をしなければならないと感じる。
騎士たちもどんどん集まってきている。先ほどの騎士に話した時には敵の攻撃の余波などに対処してもらうつもりだったが,彼らにも周囲の魔物相手に戦ってもらわなければならないだろう。
うん……船を守ることには変わらないから俺の命令は間違っていなかった!いいね!
そうやって自分に言い訳をしていると,敵の気配が急速に近づいてくるのを感じた。
はっや! というか皆に警告しないと!
「皆下がれ!」
周りはそれに反応してすぐに動き出す。
……これも訓練の賜物だな。
冗談はさておき,俺はその強敵が投擲してきた(渾身のシャレ)であろう剣を弾き飛ばした。
やはり重い一撃だ。回避していればこの船ですら穴が開いていただろう。
俺は次の攻撃に備えて自分に強化の特技や呪文を唱えると,騎士たちに命令を言い渡す。
「奴は俺に任せろ! 皆は他船への連絡と周りの奴を任せる!」
すると騎士たちは速やかに動き始める。
その中で唖然としている彼はキナイか……ごめんね! いきなり言われても困るよね!?
だが残念ながらあまり周りを気にしている余裕はなさそうだ。
なぜなら先ほど弾いた剣を回収した敵の魔物が今まさに俺目掛けてその剣を振り下ろそうとしているのだ。
その魔物はトウジンたちの話に出てきた通りの姿をしていた。奴がその配下と語るデスエーギルに酷似した容姿だ。原作知識と照らし合わせるならば,邪神復活後に外海に出現するようになるエビルネプチューンだと考えられる。
とはいえ,奴の行っていることから考えても恐らくは只の魔物ではないだろう。
俺は奴を迎え撃つべく剣を振り上げて敵の一撃に叩きつけた。
「はあっ!!!」
それによって辺りに衝撃が伝わるが,船には大したダメージが見受けられなかったのは幸いだ。
そのままつばぜりあいを続けていると,敵が話しかけてくる。
「ほう? 所詮は人間と考えていたが少しは骨のある雑魚もいるようだな。今まで魚人や人魚どもを捜す我らに船で近づいてくるのが鬱陶しいゆえ片手間に沈めていたが,無様に慌てて逃げ回る奴らばかりだったぞ」
こいつ,もしやおしゃべりさんか? それにしてもなるほどな。こいつらが船を破壊してたのはシンプルにただデカくて邪魔だったんだろう。そして人間はout of 眼中と。
「お前が海神のつかいを名乗る魔物だな」
「その通り! 私こそが暗黒の海神デスエーギル様の忠実なる配下だ! あの方の望む海の全支配のためにこの海の邪魔者を排除している!」
正直ただのヤバイ奴という感想しか浮かばないが,本当にただのヤバイ奴なのがタチが悪い。
「それにしても海底王国の者どもは人間風情と組んだか……私から逃げ続ける臆病者らしい選択だ」
……こいつ俺を笑わせようとしてる?こいつの発言に対して人並みには苛ついているつもりだが,ブーメランが刺さっているのを教えてあげるべきか?
「フフフッ! 思えば我らが嬲り殺した魚人たちも笑える奴らであったわ。死ぬ直前まで血を吹きながら「隊長!隊長!」などと叫んでいたな」
うん……教えてやろう。
「やめてくれ自称海神のつかい。お前の言う者たちの国からおめおめと逃げ出した小物を見ながら聞いていると笑いをこらえられそうにないのでな」
そう言うと敵が苛ついて力のかけ方が雑になったのが分かったので,こちらから更に力を加えて弾き飛ばす。
「貴様……人間の分際で調子に乗りおって! 私の傷もとうに癒えておる! 貴様にはあの馬鹿ども以上の苦痛を味わわせてくれるわ!」
「黙れ三下。やれるものならやってみろ」
そうして俺たちの戦いが始まった。
湿っぽい話は休んでなさい! さあ! 戦じゃあああ!
それではまた!('ω')ノシ