~~外海~~
皆さんどうも! 船内で治療を受けるハムザ君です!
ベッドの上で寝転がりながら医療班に体や傷の具合を見てもらったりしているけれど,大きな問題はないようで一安心だ。
……俺みたいな素人が腕を付けなおしたりしたわけだから変な癖とかがついていないか心配したが,奇跡的に大丈夫だったんだろうね。
そんなことを考えている内に治療も終わったようで,医療班たちも次々と部屋から出ていった。
――ガチャ
「失礼します王子,お体の具合はいかがでしょうか?」
誰かが入ってきたようなので声がした方を見ると,そこにはDさんがいた。様子を見に来てくれたのだろうか。
「問題ない。少し休めば元通りだ」
そう言って寝転がりなおす。
現在は俺が海神のつかいとの戦いで奴を空気中の魔力に還元してやった瞬間から数時間ほど経っている。
ちなみにあの時に格好よくキメたはいいものの,疲れすぎて一人で船上に戻る体力がなかったのでプッカプッカと海に浮かびながら騎士たちの救助を待つ羽目になったという裏話もある…。
ちくせう! せっかくの良いシーンが台無しじゃないか!!
それに,密かに狙っていたあいつの剣も壊れて(壊して)しまったし!残骸は一応回収させたが,使い道は特に決めていない。
全くもって人生ってものはうまくいかないね!!
まぁそんなことはいいのだが,俺は兎にも角にもこれからのことについて考えていかねばならない。
俺たちはとりあえず,このままナギムナー村に戻るつもりだ。この船の進路も南西へと向かっている。
まずはトリトンたちムウレア勢がこれからどうするかを話す必要があるだろう。見たところナギムナー村まではこのまま同行するつもりのようだが……。
彼らの当初の目的である海神のつかいの討伐は達成されたのでそのまま帰るのだとは思うが,せっかく出来た縁なのだからその先に繋げたいという気持ちもある。
俺からの手紙あたりを女王に届けてもらって両国の交流のきっかけにできないだろうか?
これに関してはあちらのスタンスがよくわからないから,後でトウジンたちとも話すとしようか。
更に帰ったらキナイを'白の入り江'まで人魚のロミアに会わせに行くことになっているんだったよな…。
うーん,今になってよく考えると位置関係的にかなり面倒くさいな…まぁ約束したから当然行きますけどね!!
後は……あ! 完全に忘れていたが,交流の一環としてナギムナー村の漁に同行して様子を見学する予定があったな!
危ない危ない。というか! 魔物騒動で頭がいっぱいになって忘れていたが,俺は最初休暇のつもりでこっちまで来たんだよ!!
今回はこんなに頑張ったんだ! 流石にしばらく休んでも怒られないだろう……怒られないよね?
そんなことを思いつつも,少し考えてしまうことがある。それは今回の戦いのことだ。
おそらくあの敵は,強化やゾーンなしの素の状態の自分では勝つことが難しかったであろう強さを持っていた。
それに加えて,俺の油断によって最後は仲間たちの力がなければ取り返しのつかないことになっていたかもしれないのだ。
俺は彼らの存在に助けられていることを改めて実感した。
それらすべてをひっくるめて強さだと言えれば美談だが,俺はそんな自分に不甲斐なさを感じているのもまた事実だった。まぁ格好つけずに言うならば――
……悔しいいいいい!!!
俺が一瞬でそこまでの思考を終えたところで,Dさんから話しかけられる。
「難しい顔をしておられますな。何かありましたか?」
「なに,今回少し無様をさらしてしまったことの反省をな……それとお前たちにもとても感謝している。よくあそこで動いてくれた。あとは少し休み次第自分を鍛えなおさなければならないと思っていたのだ」
「王子のお役に立てて我々も本望です。それと我々もご一緒しても?王子をお助けするためにはまだまだ足りないものが多いと感じていましたから」
「ふふっ,流石だな。もちろん許可する。それに必要な時には是非とも頼らせてもらうとしよう。そうだな……ではそのことで少し話そうぞ。俺が思うにだな――」
俺たちがそんな話をしている間にも,船は海の上を進んでいく……。
~~ナギムナー村~~
俺たちの船がナギムナー村に着くと,まだ朝早いというのに港に集まっていた村人たちから初めての時以上の歓声でもって迎えられた。
「王子様~! ありがとうさ~!」
「やっぱりすげえやハムザ様!!」
「皆さんお疲れ様です!!」
「こっち向いて~! ハムザ王子~!」
さあさあ帰ってきましたナギムナー村! というかこっち向いて欲しい姉貴!?っと思ったら別人だったでござる…『こっち向いて』はいつの間にかサマディーという枠すら飛び越えていたらしい。
そんなどうでもいい事実に驚愕しながらも俺は港に降り立つ。ここを発ったのは数日前だというのにひどく懐かしい気分だ。
すると村人の中から村長が前に進み出てきた。
「王子! 今回の件,誠にありがとうございます! このナギムナー村はこれからもサマディーと共にあることを誓います!」
そういって頭を下げてくる。
「頭を上げてくれ村長。それにこの村から共に来てくれた者たちも大いに活躍してくれた。こちらこそこれからもよろしく頼むぞ」
そう言って握手してからから皆の方に向き直る。ナギムナー村の民,ムウレアの戦士たち,そしてサマディーの騎士たち。今回の勝利は皆の力あってこそのものだ。
「皆の者! 此度の悪しき魔物の脅威は去った! これは我々の勝利だ!我々皆の勝利だ!!」
「「「うおおおおお!!!」」」
ふぅ,これでやっと肩の荷が少し降りた気がするな。
・
・
・
それから俺たちはしばらくの間ナギムナー村に滞在した。
その間に予定していた漁の見学に参加したり,騎士たちと訓練を行ったり,村長とこの村の整備計画などについての話をしたり,釣りをしたり,騎士たちと訓練を行ったりすることが出来た。
そこで少しだけハプニングが起こったりもしたが,まぁそれも一興だろう。
サマディーにも引き連れてきた船を返して連絡の使いを送ったことで,情報を得た商船なども戻ってきて村にも更に活気が出てきた。
とにかく本来の目的も,俺の休暇という秘めたる目的もどちらもある程度は達成できたのではないだろうか。
そんなこんなでナギムナー村でするべきことを一通り終えた俺たちも,遂にこの村を離れる時がやってきた。
俺は港の方に目を向ける。
「荷物は揃っているか!」
「それはこっちだ!」
「急げ急げ!!」
この日の村の港は俺たちの出航の準備の為に大騒ぎだった。これは王子である俺の帰還のためというのもあるが,シンプルに俺たちの船が大きいという理由もある。
この村の港が拡張中とはいえハムザリアよりも小さいことや他からの船が来たことで一層際立つのだが'偉大なるサマディー号'はめちゃめちゃ大きい。そしてそのための準備も大変だ。
まぁそのおかげで船上であれだけの戦闘ができたのだから好都合ではあったのだが…。
うん,準備に取り組む彼らには頑張ってもらうとしよう。
すると側にいた男が声を掛けてくる。
「いよいよですな王子!」
「そうだな,トウジン」
そこにいたのは海底王国の戦士であるトウジンだ。てっきり村に帰ってきた後すぐに国へ帰還すると思っていたのだが,彼はムウレアとも交流を深めていきたいという俺の願いを受けて動いてくれたのだ。
彼は今回の顛末を記した手紙と俺の親書を持たせた戦士団のメンバーを先行させて女王に届けると,俺を海底王国に招待するという旨の返事をゲットしてきたのだ。
……そこで思い出したのだが,彼って女王が幼いころから親衛隊長を務めるバリバリ側近だったわ。
……やっぱり大事なのは人脈でござるよ兄貴!
そんな経緯もあって,俺たちはこのまま船でムウレアに向かおうと思っている。
そしてその途中で白の入り江に寄ってキナイとの約束も果たそうという作戦だ。
少し遅くなってしまった気もするが,彼の心の準備も考えると丁度良かったと思って納得することにしよう。
それに,驚くべきことになんとキナイは騎士になって村を守りたいと言い出したのだ。
話を聞くと,どうやら俺に影響されてしまったらしい。キナイの目がキラキラしていたのが印象的だ。彼はイケメンだが,俺は男にそんな目で見られても嬉しくはないのだが……。
ただ,絶賛成長中のサマディーでは騎士,それも彼のような共に過ごした青騎士団の面々からも評価の高い即戦力になれそうな人材ならば大歓迎だと,俺も一応団長として本国に対して一筆書かせてもらった。
一時的ならまだしも正式な騎士になるにはちょっと面倒くさい手続きが必要なわけよ。
今の彼ならサマディーで少し騎士としての教育を受ければすぐにでも腕の良い騎士として活躍できるだろう。
ここからの予定を詳しくまとめると,俺たち一行は2隻の船で村から出た後はまずソルッチャ運河の出口付近にある白の入り江に向かう。
そこでキナイに人魚のロミアと話をしてもらって,その後に彼は片方の船に乗って俺たちと別れ,そのまま騎士になるために一旦サマディーまで行ってもらう。
その一方で俺たちはソルッチャ運河から内海に入り,トウジンの案内で海底王国まで向かう……といった感じだ。
「プッチ!!」
俺がそれらのことを考えていると,足元から鳴き声が聞こえた。
「ほっほっ,"オセノン"も気合十分ですな!」
俺がそこに目を向けると,そこには"プチアーノン"という魔物が足を顔の前で動かしている。
……『がんばるぞい!』のポーズだね!
『キャー魔物よー!』などと思う者がいるかもしれないが落ち着いて欲しい。
こいつはプチアーノンの"オセノン"! 悪いイカじゃないよ!
……という冗談(悪いイカじゃないのは本当)は置いておくが,その説明を少しだけしておこう。
実は少し前にこの村で釣りをしたのだが,訳あってその時に懐かれてしまい,それ以来付いてくるようになったのだ。
この辺りに生息する魔物じゃないので,おそらくははぐれの魔物だろう。
ちなみに名前の由来は,こいつが無事に成体であるオセアーノンになれるよう願ってのものだ。ドラクエ11はプチアーノンはいるのにオセアーノンがいないからね。
なんでだろう? 成長するまでに淘汰されるんだろうか?カニ系の魔物が天敵みたいだし奴らにやられているのかもしれない。
悪い魔物の気配はしないし,そこはトウジンのお墨付きも得ているので,ならばいいかとそのままにしている。
戦いにも興味があるらしく,時間があるときに少しだけ指導してやっていたりもする。
ここにいる他の皆にも説明してあるが,帰ったらそっちでも説明しないといけないだろうな~。
これで将来こいつが人間を襲い始めたら俺は切腹ものの大罪人だな! ガハハ! ……そう考えると怖くなってきたが,まぁ大丈夫でしょう!自分(とトウジン)の感覚を信じよう!!
「王子! 出航の用意が整いました!」
そんなことを考えている内に準備も終わったようで,Dさんのお知らせタイムだ。
「よし,では行こうか」
俺は騎士たちやトウジンとオセノンを引き連れて船に乗り込む。
もう一隻にはキナイとその娘も乗っている。今回は村を離れるのが数日どころではないから連れていくのは納得だが,ロミアには会わせるのだろうか。
……まぁそこは俺の気にするところではないか。
俺は村からの見送りの中,船に乗る騎士たちに向かって号令をかける。
「いくぞ皆! さあ! 出航だあああ!!」
「「「はっ!!!」」」
~~白の入り江近海~~
あれから数日の航海を経て白の入り江の近海まで到着したのだが,予想通りというべきか辺りは霧に覆われていて視界が悪い。
その中でもなんとかキナイの案内を頼りに霧を抜けた先には,原作で見た美しい場所に出た。
俺たちは船を停めると,騎士たちには船内で待っているように伝え,キナイと俺だけで入り江に降り立った。
「ああ,ここは……あぁ……」
キナイは何か感じるところがあったのか泣いているようだが,俺は周りの景色に圧倒されていた。
少し歩きながら辺りを見渡してみる。
まず海では波一つ立っておらず,とても澄んでいて美しい。
その海の上では穏やかな空で雲が静かに流れている。
更には難破船なども見られ,静けさも相まって時の流れに取り残されたような錯覚すら覚える。
この世界の海を初めて見た時にもその美しさに感動したものだが,ここはそれとはまた違った神秘的な美しさがあった。
俺は水辺に近づくと,恐る恐る水面に手を触れた。すると――
――ザバァン!
「キナイ……キナイなの?」
……急に現れたのは上半身が人間,下半身が魚の特徴を持った美しい女性であった。彼女こそがロミア。原作で勇者たちに重要なアイテムを渡す役割を果たしたものの,報われない結末を迎える悲劇の人魚である。
……ただその衣装は健全な青少年である自分には毒です!! 別に惚れはしないが目が離せん!
くっ……まさかここまで強力な状態異常を付与してくるとは! 海神のつかい以上の強敵だ!!
「……私はキナイではない。彼はあそこだ」
なんとか言葉を絞り出してキナイのいる方に顔を向けた。
それを見たロミアは喜色満面の笑みを浮かべてキナイの側に移動する。
よし……俺の心の危機は去った。今回は俺の勝ちのようだな( ー`дー´)キリッ
「やっと迎えに来てくれたのねキナイ!! もう! 流石に待たせ過ぎよ! 私ったらキナイに何かあったのかもしれないと思って――」
「ロミア……俺は……」
「キナイ……どうしたの?」
「聞いてくれロミア……俺は――」
そこからキナイは,あの日別れてから何があったのか,自分は今どうしているのかなどを時々言葉を詰まらせながらも語った。
「そんなことがあったのね……」
「ああ……俺は最低な男だ……だから「それでも私はキナイが好きよ」……えっ?」
そう言ってロミアはキナイの手を取った。
「あなたは優しい人。それに悪いのは私も同じよ。あなたをこんなに苦しめていたなんて……」
「違う! 悪いのは俺だ! 俺のせいで君を……」
「そんなに自分を責めないで。そんなあなたを見るのは辛いわ……前を向きましょうよ!」
「君もそう言ってくれるのか……でも俺は村を守ると決めたんだ。君と一緒にはいけないんだよ」
「なら私が会いに行くわ! それに人魚が陸に上がれる方法も一緒に探して見せる!」
「どうして……どうして俺にそこまで……」
すると,ロミアはゆっくりとキナイを抱きしめた。
「あなたは初めて会ったあの時からちっとも変っていないわ。そんなあなたが今も大好きよ。ほらキナイ! もう泣くのはやめて! あの時みたいに笑ってよ!」
「ロ,ロミア……ありがとう……。」
「もう! それじゃあほとんど泣いているのと同じじゃない! ウフフ!」
……………
……俺は一体何を見せられているのだろうか。
いや,待ってほしい! 俺も感動的な一幕だとは感じるんだ! ただ現状置物状態の自分はどうすれば良いのかわからないだけでそもそも――
・
・
・
……ふぅ,君は何も聞かなかった……いいね?
さて,二人だけの世界に入っているところ非常に申し訳ないが,流石に話が長い。
というか見ていない間に今はもう完全に話が変わっている。というかなんだ魚の面白い虫歯の話って……ちょっと気になる自分が憎い。心苦しいが割って入らせてもらうとしよう。
「キナイ……」
「あっ! すみません!!」
「あっ! さっきは挨拶もしないでごめんなさい! その……キナイの上司の方ですか?」
いや別にさっきのことはいいのよロミアさん。全然気にしてないから。
「ふふっ,上司か……そうだな,まぁそんなところだ。ところで,話し合いはどうなったのだ?」
聞いてみると,やはりこのまま永遠にさよならバイバイではないようだ。良かったね!!
ただ,彼女はナギムナー村の場所がわからないらしく,どうしようかと考えていたらしい。
「ならキナイを乗せる船に付いていくと良い。キナイをサマディーに降ろした後は人員を交換してナギムナー村まで行くはずだ。騎士たちにも話はしておこう。それで道を覚えればどうだ?」
多分自分の船じゃないからキナイも遠慮していたのだろう。そしてこの俺の提案を彼女は受け入れ,これにて一件落着となった。
……それにしてもやっぱりこの場所は落ち着くな~。疲れたらまた来ようかな。
その後に,船に乗るキナイの義娘に彼女が挨拶をしたり,トウジンが彼女を知っていたらしくお互いに驚いていたり,俺が王子だと知ってロミアが驚いたりしていたが気にしないで欲しい。
ここから先は彼らの問題だから,まぁうまくやってくれたまえ!
さて,そんなこんなでもう1隻の船とも別れ,内海に繋がるソルッチャ運河へと向かう。
「次の目的地はムウレアだな」
「プッチー!!」
オセノンも楽しそうだ。よし! 待ってろよー! 海底王国ムウレアーー!!
急に降って湧いたんですよ……役に立つからプチアーノンを連れて行けと……。
次回はそのあたりの様子を含めた幕間になります!
それではまた!('ω')ノシ