我が国だけのけものにはさせませんからな!   作:ヤチホコ

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モーゼフ王子の視点から始まる36話です! どうぞ!


36話 賊を狩ろう

~モーゼフ視点~

 

ある日,ワシが自室で臣下たちからもたらされた報告書に目を通していると1枚の紙が目に留まった。

 

「これは……内海を航海中の我が国の商船が賊に襲われただと……?」

 

そこに書かれていたのは海賊の被害についてだった。

 

少し前から国を挙げて港の整備や商人への船の貸与による海への進出を進める我らにとっては決して軽視できない問題である。

 

どうやら襲撃者は最近名を上げ始めた"カンダタ親分"という者が率いる"カンダタ海賊団"なるものどもらしく,"デルカダール地方・南の島"をねぐらにしているようだ。

 

あの島は場所が内海西部の中心ということもあり,他国との関係もあって我が国も迂闊に手が出せん場所だった記憶がある。

 

そうなると国として討伐隊を組むにしても慎重にせねばならんか……。

 

特に他国から何か言われたりせぬように根回しなどは必要であろう。

 

実際のところ,近頃の海を見据えた我らの動きを警戒している者たちは少なくないはずである。

 

特に東のバンデルフォンにとっては今までほぼ独占状態だった内海での権益を脅かす我らは目障りな存在であろうから何らかの妨害があっても不思議ではない。

 

それらを懸念して今までの我が国は積極的に海に出ることを控えてきたが,ワシの考えではこれから先は必ず海での力の重要性は増していくはずなのだ。

 

世界は大きく動き始めている。各国における世代交代に留まらず,近年密かに問題視され始めている魔物の凶暴化,更にはそれらが引き起こす混乱に対応するための対応も必須だ……。

 

現状に胡坐をかいているようでは時代の変化に取り残されてしまう。

 

父上の容態は心配だが,ワシはこの与えられた機会で国王代理として大きく動くべきであると思っておる。

 

「どうやら討伐隊の案も既にここに添えられているようだが……」

 

……見る限りでは問題もなさそうだ。このまま任せることに……

 

いや,待てよ……そういえば確か別の書類に興味深いことが書かれてあったな。

 

そう思い出したワシは積み上がった書類の山から目当ての1枚を抜き取って読んだ。

 

内海を挟んで我が国の反対側にある場所でサマディー王国が港町の建設を始めており,その指揮をサマディーの王子が直々に執っているといったことが書かれている。

 

サマディーのハムザ王子か……近頃はこのデルカダールでも彼の活躍は本などを通じて広まっており,王侯貴族問わずに注目度が高い人物だ。

 

実際にワシも少し前に読んでみたが,砂漠の殺し屋や邪悪なる海の魔物との死闘の話など……かの冒険譚には胸躍るものがあった。

 

更に彼は魔物退治の活躍が有名だが,それに留まらず国内の産業振興にも力を注いでいると聞いている。

 

その成果によるものか,最近になってサマディーから入って来る産物…特に黒コショウなどの香辛料や砂糖や果物などの甘味を始めとしたものは他では手に入れることが難しく,その需要は我が国においても非常に高まってきている。

 

此度はそれらを積んだ船が襲われたようだが,少し無理やりではあるがこれでサマディーに助力を求めるきっかけにならんだろうか……?

 

理由はなんでも良いのだ。かの国も内海に目を向けているようであるし,もしここで関係を深めてこれからの協力の足掛かりにすることが出来れば,バンデルフォンに対抗するという意味でも互いに損はないはずだ。

 

加えてデルカダール地方・南の島に軍を動かすにもかの国が関わっていた方がバンデルフォンなどから干渉されるリスクは低くなるだろう。

 

それに評判通りの騎士道を重んじる男であればであればこの頼みを断らないだろうという打算もあった。

 

こちらから話を持ち掛ける以上は多少の譲歩は必要かもしれんが,それを加味しても悪い考えではないだろう。

 

……だがそのためにも今のサマディーが本当に我らの協力者足る相手であるかを知らなければならない。それを見極めるためにもこの機会にハムザ王子に会っておきたいところだ。

 

そうと決まれば善は急げだな。彼に宛てた手紙や海を渡る船の手配をするとしよう。

 

ワシは部下に素早く指示を出すと,残りの仕事を終えるべく書類に向き直った。

 

噂通りの傑物か……はたまたそれ以外か……。

 

サマディーの天馬よ,ワシにおぬしの姿を見せてくれ……。

 

 

 

 

それからしばらくして――

 

討伐隊の準備を整えたワシ含めたデルカダールの一行は,手紙の返事を受け取る前に例のサマディー側の港付近まで来ていた。

 

「殿下,あちら側からも警戒されているようです。この後はどうなされるおつもりですか……?」

 

部下が緊張したような顔でこちらに問うてくる。

 

無理もないだろう。デルカダールの旗を掲げているとはいえ,連絡も入れずにここまで来たのだ。

 

だが流石に対応が早いな……大砲こそ向けていないものの,万が一の為に戦闘に備えた動きをしているように見える。

 

それではワシはこれからの動きを示そう。

 

「わかっておる。だがワシは素のハムザ王子を見るためにはあまり格式ばった場では意味がないと思ったのでな……故にこの先はワシと少数の供周りで小舟に乗って向かうことにする」

 

「なっ!? 流石にそれは危険では……!?」

 

部下はそう言うが,そこまでこちらがやれば今回の多少強引なやり方でも上陸させてもらえるだろう。

 

「そなたらがいて危険などあろうものか。急いで準備せよ!」

 

「は,はい!!」

 

そこから速やかに用意を終え,サマディーの港へと到着した。

 

ワシの読み通りにワシらの上陸は認められ,建設途中の港町の様子を拝むことが出来た。

 

「……ほう,作り始めて間もないと聞くが中々に立派な港であるな」

 

辺りを見渡しながらワシはそう呟いた。

 

まだ完成はしていないようだったが,既に人を入れればある程度は機能するだろうと思われるくらいには形になっており,完成した際の規模はワシの当初の予想を超えるものになるだろうことは想像に難くなかった。

 

それにしてもこの町の作り……一見するとただの美しい街並みに見えるが,目を凝らすと道の様子や建物の配置から,市民の避難や軍による活動も想定されていることが伺える。

 

これはサマディーも近頃の魔物の凶暴化に対する対策を進めておるということか……。

 

ふむ……少し見ただけでもサマディーのこの場所に対する本気具合が伺えるな。どうやらワシはまだこの国を侮っておったようだ。

 

やはり以前までの意識がどこかに残っていたのだろう…これからは気を付けねばならんな。

 

ワシがそう反省していると,奥の方から近づいてくる集団があった。

 

「ん? おお! 貴殿がもしや!!」

 

そしてワシの目はその中で一際存在感を放っている1人の男に吸い寄せられた。

 

その堂々たる歩み,そして体から溢れ出す強者の風格…ワシも剣を嗜む者であるからわかるが只者ではない。

 

こちらが警戒させないように作った笑みを浮かべながら近づいていくと,向こうも前に出て近づいてくる。

 

大きいな…彼の体格もそうだが,その体は多くの者を背負う者特有のものを纏っており,ワシにはより一層大きく見えた。

 

「ご明察の通りで……」

 

ワシの思惑とは裏腹に,そう言った相手の自信にあふれたその表情からは一切の感情の揺れが読み取れない。

 

ワシは更に探ろうと思い相手の目を覗き込む――

 

!!

 

ワシが覗こうとしたその目はいつの間にか鋭いものに変わってこちらを見返しており,ここでワシはようやく自身も同じく試されている側であると自覚した。

 

そこで自身の心を落ち着かせるために一度目を瞑ってから精神を整える。

 

すぐにそれに気が付かれぬように笑ってごまかそうとしたが,効果があったかどうかは定かではない。

 

だがワシはここで,国を背負う国王代理ではなく1人の男として目の前の人物に興味を持ち始めているのを感じていた。そして同時に確信を持ち始めていたのだ。

 

この男の国であれば我が国と共に歩むに相応しいと……。

 

そこからワシの中には先ほどまでになかった感情が芽生え始めていた。

 

それはこの状況を楽しいと思う感情だった。

 

もっとおぬしのことを知りたいのだ! さぁ互いにもっと胸襟を開いて内を見せ合おうではないか!!

 

「ワシがデルカダール国が王子! モーゼフ・デルカダールである!!」

 

ワシのその思いを込めた言葉が通じたのだろう。相手も今度は顔つきを変えて感情を込めた言葉を返してくる。

 

「私はサマディー国が王子! ハムザ・サマディーである!!」

 

そう言った瞬間に彼から放たれた威圧感は凄まじく,ワシの周りを固めるデルカダールでも上澄みの戦士達ですら圧倒されておるようだ。

 

ああ……やはりワシの目に狂いはなかった。

 

ワシはここに来てから初めて心の底から笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

その後はすぐに賊の討伐に関する話に移った。

 

向こう側にも準備が必要だろうと思ったが,なんとハムザ王子自身が彼の部隊で副長を務めているという男と2人のみで向かうつもりなので今すぐ行けると言い,あちら側の騎士たちも特に異存はなさそうだったので,そのまま即座に出航することになった。

 

フハハ! ここに来る前はあわよくば騎士たちを動かさせることで建設を遅延させることもできるかと思っておったがここまで破天荒であったとは想定外だ!

 

だが今では不思議なことにその様が心地よく感じる。

 

一応本人に危険ではないかと尋ねてみたが,その答えは要約すると『効率重視だ』というシンプルなものだった。

 

なるほど実に痛快な答えだ! やはりワシらは馬が合いそうだな!!

 

その質問をしたワシに部下たちはなんともいえない視線を向けていたが,細かいことはよいだろう。

 

その後に賊が島に集結するタイミングを見計らい,日が沈んでから夜襲を仕掛けて上陸することで島での戦闘を開始したのだが,ハムザ王子の戦闘能力は凄まじいものだった。

 

彼は得物の大剣を軽々と振り回しながら重装備のカンダタ海賊団の下っ端を薙ぎ払いながら敵を分断していった。

 

更には副官のセルジオ殿もかなりの腕前だ…彼も王子に比べると地味に見えるが,敵の守備が薄い地点を的確に見抜いて突破していた。

 

我が方の兵士たちもこれを見せつけられて奮起したのか普段以上に苛烈な攻めを展開していく。

 

自身の動き1つで周囲にこれほどの影響を与える"武"の力……なるほど,正に英雄と言えるな。

 

ワシも剣を振るって参戦するが,あれほどの攻めを躊躇なく行うのは流石のワシでも憚られた……やはり彼の本領である戦闘面の経験では敵わぬようだ。

 

そんなことを考えている間に早くもハムザ王子が敵の大将である"カンダタ親分"を剣の間合いに捉えて一騎打ちを展開するが,数分も経たぬうちに敵は戦意を喪失して投降した。

 

その後は今回の件に関する後始末などを考える場となった。

 

結局今回の作戦はデルカダールが主体となって行ったものだったが,その実態はハムザ王子による敵の蹂躙であった。

 

ワシも王子としてデルカダールはもちろん外国の者も含めて多くみてきたが,あの力に対抗できる程の者がどれほどいるだろうか……。

 

幸運なのは,彼が思いのほか我らに好意的だったことだろう。

 

それに彼の力は味方となればこの上なく心強いのは確かだ。

 

今回の助力に関して借りとは別に何か礼をしたいと言ったのだが,彼は海賊たちが拉致していた者たちをサマディーで受け入れることを提案してきた。

 

その者たちは行く当てもないようだったので自分が保護したいと言ったのだ。

 

そしてその者たちの中には賊の家族で罪に手を染めていない者も交じっていた。

 

正直なところ,こちらとしてもそういった人間の管理には手間がかかるのでありがたいのでそれではむしろ礼ではなく借りを増やしてしまうと言ったのだが,あちらも頑なだったので渋々それで納得した。

 

やれやれ,礼すらも他人のために使うとはどこまでも騎士らしい男よ…もしワシに子が生まれることがあればこのような人物に育って欲しいものだ。

 

……む? 少し年寄り臭いことを考えてしまったな。ワッハッハ!!

 

それからは,非公式ながらこれ以降も関係を深めていこうという話をしてから,最初に出会った港で我々は分かれることになった。

 

今回の件を経て,ワシらも負けてはおられぬと感じた。

 

特に軍事に関しては思うところがある。そこでワシは,近くにいた今回の討伐隊でデルカダール兵の隊長も務めた側近の男に尋ねる。

 

「そなたは本国の"重装兵団"であればハムザ王子を止められると思うか?」

 

我が国は陸軍国家……特にデルカダールの重装歩騎兵団といえば列国にも名が轟くデルカダールの武の象徴であり,ワシも以前に所属していたことがある。

 

今回は海賊との戦いが想定されていたこともあって連れてきてはいないが,我々にとっては軍の基準としてイメージを共有しやすい存在であった。

 

尋ねられた側の彼は手を顎に当てて考える素振りをしながら答える。

 

「……ハムザ王子1人ならそれも能うかもしれません……しかし非常に申し上げ難きことですが,あの方が自ら率いた騎士団がどれほど凄まじきものか……この非才の身には想像もつきません。それに……」

 

彼はその先を言わなかったが,恐らく『今回我々に見せた力が全力とは限らない』といったことが続いているのだろう……。

 

これには王子としては少しばかり不甲斐なさを感じるな……。

 

だが悪いことばかりでもない。

 

「うむ,しかしながら我ら人類にとっては頼もしき味方であることも確かだ」

 

「ええ,それに随分と気持ちの良い方でしたな」

 

「ああ。だがもちろん只のお人よしというわけではなかろう……我らもその勢いに負けぬように励んでいかねばな」

 

「はっ!」

 

部下の力強い返事にワシは満足する。

 

それにしても此度の出会いは実に有意義なものであったわ! また会える時が楽しみであるな!

 

そうしてワシの考えから始まった今回の作戦は,デルカダールにとって予想以上に多くの収穫をもたらして幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

「……あっ! 実は私,ハムザ王子にサインも頂きまして……「なにっ!? それをワシによこせ!!」……おわっ!? いくら殿下の命令とはいえそれはお断りしますよ!?」

 

……閉じたのであった!

 

 

 

~~主人公視点~~

 

「ハムザ様……ここもだいぶ賑わってきましたな」

 

「ああ,ここの建設は正解だったということだろうな」

 

俺は先輩の呟きにそう答える。

 

まぁ原作知識を抜きにしても立地的に考えるとこの場所が栄えるのは当たり前なのかもしれないが,世の中に絶対はないので実際にこの目で見るまではビクビク状態だったよ。

 

デルカダールとの海賊討伐からもしばらく経ち,今ではこの場所も町として動き出した。

 

それにしてもモーゼフ王子も見た目に合わず面白い人物だった。

 

行動を共にする途中でいきなり笑い出したりする変わったところもあったが,料理や菓子についても話が出来る人物で,俺的な最終評価は愉快な人だったという印象である。

 

それに,純粋に面識が出来ただけでも俺にとっては儲けものだと思う。

 

……それにしてもデルカダール側で俺のサインを欲しがる人が多かったのは驚いたな…最初は何か悪用しようとしているのかと警戒していたが,目を見ればわかった! 違いますねあれは!

 

結局なぜあんなに人気だったのかは謎だったけどね…。

 

話を戻すが,眼下に広がるダーハルーネの町は例の如く原作で見たものよりも大規模だ。

 

やはり実際につくられていく現場を見ていただけあって,感慨も一入だね!

 

「ンフフフ。我が君……出立の用意が整いましたぞ」

 

当然のようにひょっこり隣に現れたゾルデがこの町を発つ準備が出来たと報告してくる。

 

「ご苦労……では我々も移動するとしよう」

 

そう言って,先輩とゾルデの2人を連れて町の外に向けて歩き出す。

 

それにしても今回の任務も予想外のオプションがいろいろと付いてきたせいで疲れたな~!!

 

霊水の洞窟での人探しに……突然のモーゼフ王子の訪問からの海賊退治…ついでにその後の思わぬ人物との遭遇……。

 

まぁ何とかなったんだから良しとしましょう!!

 

そんなことを考えている内に門の外に到着した。

 

そこでは既に他の皆が待っており,俺も素早く相棒の背に跨った。

 

そして周りにいる部下たちを見て用意が出来ているか確認すると,皆バッチリみたいだった。

 

そんじゃ帰りますか! 我らがサマディー城に!!

 

……もちろん帰りは行きとは違う道でね!

 

俺は相棒の手綱を握りしめて号令をかける。

 

「よし! ……では帰るぞ! 私に続け!!」

 

「「「はっ!!」」」

 

――ヒヒーン!

 

そうして,俺たちはいつもより長めに滞在していた今回の任地を後にしたのだった……。




これで一応は3章の本編は終わりになりますが,幕間をあと1話投稿予定です!

それではまた!('ω')ノシ

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