~~サマディー城・訓練場~~
皆さんどうも! 絶賛戦闘訓練中のハムザ君です!
父上とこれからのことの話をしたあの日から1か月ほどが経過した。
あれから父上はサマディーの国からダーハラ湿原の入口あたりにある場所に,まずは外海での漁を行うこととダーハラ湿原の開発の拠点の役割を担うことを兼ねた港の建設を決定したようだ。
決定したと言ってもそこからすぐに取り掛かれるわけではなく,様々な物資の調達や現地の調査が行われているため,実際に建設に取り掛かるにはもう少しかかるらしい。
そのせいで周りは色々と慌ただしいが,こんなガキにできることはあまり多くはないので,少しでも成長するために勉学武芸の修行の毎日である。
そんなことを考えながらも目の前の騎士との剣戟には一切の手は抜かない。
俺はあれから予定通り騎士たちの訓練に混ざって修行をしている。
御前試合での一戦は皆が見ていたので,俺のことを侮るような者はいなかった。
ただ,その分容赦なく訓練に参加させられるので,俺の疲れは抜けることを知らない。
もうちょい,もうちょいだけこのガキンチョを休ましてくり!
その時,相手が疲れからか動きにキレがなくなってきたことを感じ取った俺は相手の剣を弾き飛ばし,相手の首に剣を突き付けた。
「ハァ,ハァ,ま,参りました」
相手は息も絶え絶えになりながら降参を宣言したので,俺は近づいて手を貸して立たせてあげる。
「相手をしてくれてありがとう。やはり,戦闘訓練は相手がいると修行の密度が違うな」
そう相手に感謝するが,ホントにそうなのだ。結局は剣を振るう場面っていうのは基本的に魔物だろうが人間だろうが生物なので,相手も考えて動いてくる。
そんな中で相手の動きを予測したり傾向を見抜いて戦うには,やはり戦う相手をできれば複数用意して,そういった経験を積むのが理想的だ。
今までは剣術の先生(元騎士のおじいさん)に修行を見てもらっていたが,彼が俺をここに送り出そうとした気持ちもわからなくもない。
そこへ模擬戦を見ていた別の騎士が話しかけてくる。
「王子の成長の速さには驚かされます。もしや最後の剣は……」
「気づいたか。実は剣の握り方を……」
こんな風に騎士たちと意見を交換し合ったりすることも俺にとって有意義な時間だ。
俺が彼らに模擬戦で勝利することがあったとしても,ここにいる彼らは俺なんかに比べてはるかに多くの経験を積んできている。
その意見というのは俺にとって非常に貴重なものだ。
「今の王子ならば城の周辺に生息する通常の魔物であれば問題なく倒すことができるでしょう」
「そうか?お世辞でもお前たちにそう言ってもらえると自信がつくな」
ちなみに今話しているこの騎士は以前の御前試合で対戦した騎士だ。
彼とも最近は訓練でこうやって話をする関係であり,仲良くやっている。
だが彼の言葉,流石に人間と戦うのと魔物と戦うのでは勝手が違うだろう。
そろそろ魔物を相手にした戦闘も経験しておきたいものだが,忘れてはいけないことは俺はこのサマディーでただ一人の王子だということ。
流石にそこまでの危険を冒してまでこの年でさせることではないと考えられているらしい。
「いえ本当に……」
「王子! そろそろ昼食のお時間です」
話をしていた騎士が何か言おうとしていたようだが,そこへ別の騎士がやってきて昼食の時間だと告げてくる。
「わかった。ありがとう。皆明日もよろしく頼む!」
そう言ってその場を後にし,私服に着替えてから城の食堂に向かう。ちなみに騎士たちの使う食堂はこことは別の場所にある。
「いらっしゃいハムザ。訓練でお腹も空いてるでしょうし早く席に着きなさい」
「はい,母上」
食堂では母上が先に待っており,席に座るよう促してくる。
俺たちは基本的に昼食は一緒に食べる。父上は忙しいとそうも言ってられない時も多いけどね。
母上について話すことはあまりなかったが,俺は父上と同じくらい母上も尊敬している。
実は御前試合に出場することを決めた際にも母上は最初反対していた。しかし俺が望んだことだと説得するとなんとか納得してくれた。
ちなみに父上は母上が怖くてそれを隠れてみていた。いつも頼りになる父上だが,母上には敵わないらしい。
彼女は俺のことをよく見ていて,俺の強くなりたいという意思も尊重してくれるし,悩みなんかも真剣に相談に乗ってくれて,正直メンタル面では一番お世話になっていると感じている。
…欠点と言えそうなのは料理が壊滅的にできないことぐらいだ。
「この後はお勉強でしょう? 今日は何をするの?」
「たしかこの国でも西方への関心が高まってきていることから,今日は砂漠の魔物たちと海の魔物たちについて教えてもらえると聞いております」
「まぁ,今日は随分と物騒な内容なのね」
確かにそうだ。今日は珍しく魔物のお勉強デーなのである。
「ええ,ですがこの先のサマディーにとって重要となる知識であると考えています。私も興味深い部分ですよ」
「もう。男の子はそういう話が大好きなのかしら。ふふふ」
そりゃそうよ母上。危険冒険はいつになってもワクワクの対象よ。
そんなたわいもない話をしていると,時間が過ぎていく。
「そろそろこのあたりにしておきましょう。この後も頑張りなさい。でも体調には気を付けるのよ」
「もちろんです母上。ではこれで」
母上と別れた後,そのまま城の書庫に向かう。
勉強の時間は基本的に俺の自室かこの書庫で行う。今日はおそらくここにある書物を使うのだろう。
あ,一応ここで俺の一日のおおまかなスケジュールを紹介しておく。
まず,朝起きて洗顔や歯磨きをした後に家族で朝食を食べ,そこから俺は訓練に移る。その後昼食を食べてから勉強の時間になり,それが終わるとあとは基本的に自由だ。そして夜は風呂につかり,夕食を食べたらあとはもう寝るだけ。
もちろん細かい部分は省いているし日によって変わる部分もあるが,おおむねこんな感じだ。
え? 意外と普通? だってこちとら子供ぞ? ぶっちゃけ今のでもきついスケジュールだと思っているよ? 特に訓練の部分とか訓練のところとか訓練のあたりとかね!
まあそんなことはどうでもよくて,今は勉強の先生を探さなきゃならんわけよ。
おーい先生ー! まだ生きていらっしゃるー?
「フォッフォッ。ここじゃよ王子」
声のした方を見ると先生が俺の隣に立っていた。先生いつの間にっ!?
「驚かせないでください。それよりも早速今日の授業を始めましょうよ」
「まあそう急かされるな。どれ,ワシについてきてくだされ」
そう言って歩き出す先生について書庫の中を歩く。
ここはれっきとした大国の一つであるサマディーの書庫なので,相応の広さがある。
先生は父上が子供の時の教育係も務めた方で,この書庫の管理を担当しており今でも父上の相談に乗ることは珍しくないらしい。
「さて,着きましたぞ」
「…ここは?」
そう言ってあたりを見渡す。近くの棚の本をいくつか手に取ってみると,どれも魔物に関することが書かれた本だということが分かった。
どうやらここはそういった本を集めた区画のようだ。
「さて,今日はここで授業を始めるとしようかの」
そう言って先生は何冊かの本を棚から取り出してから端にある椅子に座る。
俺もそれに倣って先生と机を挟んだ対面に座る。
「さて,それでは前回にも話したように砂漠の魔物と海の魔物についてお教えしていこうかの」
「よろしくお願いします」
「それではまず,このあたりの砂漠に生息する魔物について話そう。例えばこの『バクラバ砂丘の凶悪な魔物たち』という本は雑誌のようなものじゃが、市民の視点でも特に脅威と考えられておる魔物について知ることが出来る一冊じゃ」
おお,たしかその本は原作でもこの国の民家に収蔵されていた記憶がある。あんまり詳しく覚えてないけど,たしかボスとして登場したデスコピオンのことも書かれてるんだっけ?
「ここで紹介されておるのは”ワイバーンドッグ”,”デスコピオン”,”サバクくじら”の三体じゃな。王子はこれらの魔物の名前は知っておるかな?」
「ええ,名前くらいであれば」
姿とかも知ってるけど,なんでって聞かれると困るし先生より詳しいとは到底思えないからこう言っておいた。
「フォッフォッ。王子は勤勉じゃのう。さて,まずはワイバーンドッグじゃが,こやつは大型の獣系の魔物で飛行能力を持っておる点が厄介じゃな。他にも口から吐く炎や魔力がこめられた“おたけび”にも注意が必要じゃ。また夜行性ゆえ昼間は寝ておることが多いが起きることもあるでな,安全というわけではない。
しかしこやつを倒すと手に入る毛皮や角は上質な素材としての価値もあることから,定期的に騎士団によって討伐隊が組まれることもある。ワシら人間を襲う凶暴な魔物で数もそれなりにいるからの,砂漠の民にとっても代表的な脅威の一つだと言えるじゃろう」
なるほど,原作プレイ中も思っていたがやはりそこそこの数がいるようだ。
更に上質な素材がとれるのか……絶滅させても増やしすぎても困る難しい魔物っぽいな。
「次にデスコピオンじゃ。こやつはワイバーンドッグのように数の多い魔物ではない。むしろ一度討伐すれば短くても数十年は現れんほどじゃが,こやつの最も警戒すべき点はその狡猾さにある」
「狡猾さ?」
「そうじゃ。この魔物は昔からバクラバ砂丘の最奥にある魔蟲のすみか周辺をねぐらにしておる種の魔物なのじゃが,毎年特定の時期になるとこの砂漠を通る騎士や商人を襲う困った魔物でな。
もちろん出没する時期が分かっておるゆえ時の王によって何度も大規模な討伐隊が組まれたことがあるが,こやつは大勢の人間の集まるところは危険と判断するのか姿を現さんのじゃ。ゆえにこやつを倒すには少数精鋭で当たる必要があるが,こやつ自身の強さも並大抵ではない。
強力な爪による攻撃を持ちながら強固な装甲に身を包んでおるこやつを少人数で討伐するのは至難の業。その討伐は歴代でも数人しかなしえていないほどの難行じゃ。ましてや単独討伐などは現在まで記録にないのう。
まあここ数十年は目撃報告を聞きませんからそろそろ現れてもおかしくはありませんな」
話を聞く限り,原作でのイメージ以上に厄介な魔物のようだ。
砂漠を渡る商人や騎士を襲うだと?さっきのワイバーンドッグといい,サマディーを中心とした交易路の構築においての大きな障害となるのは間違いないだろう。
ワイバーンドッグと違って数もほとんどいない危険な魔物なら半養殖のような目的で討伐を制限する必要性もないだろう。
警備を強化するのは必須だが,できれば討伐したいものだ。
「なるほど。そいつはなんとしても討伐したい魔物ですね」
「フォッフォッ。王子がこのまま修練を積めば次に現れたデスコピオンの討伐も不可能ではないやもしれませぬな」
「ははは。そうなれるよう頑張りますよ」
いやいやいくらこの体がハイスペックといえど,勇者たちですらパーティにシルビアを加えてやっと倒すことができた魔物ぞ?さすがにさすがに。
「さて,最後に砂漠クジラじゃな。この魔物はこの本にあるようにその情報は少ない。しかしこの魔物は間違いなくこの砂漠で最も危険な魔物じゃ」
この魔物は原作では命の大樹が墜落してから初めて出現した魔物で,その強さはその時点の勇者たちでも歯ごたえのある戦いができるレベルである。
「この本には姿を見たものはいないと記されていますが,先生は見たことが?」
俺がそう尋ねると,先生は真剣な顔で頷く。
「うむ。今より数十年も昔に一度だけじゃがな。当時のワシはこの砂漠の植生を調査するために数人の騎士と共にバクラバ砂丘に繰り出しておった。そこでワシは見たことのないサボテンを発見したのじゃ。ワシらは新発見の喜びではなく,そのサボテンの放つ香りにつられて自然と足を進めた。
しかしじゃ,ワシらがそのサボテンの近くに到着する前に,なんと砂の中から出てきたデスコピオンがあろうことかその香りに誘われたのかサボテンに近づいていったんじゃ。
ワシらは砂漠で最も恐ろしいともいわれる砂漠の殺し屋を前に我に返り息を潜めて隠れておったが,デスコピオンがサボテンを食おうとした瞬間,砂漠の中に隠れ潜んで負ったサバクくじらに捕食されたのじゃ。
その後サバクくじらはなにごともなかったかのように,また頭のサボテンだけを地表に出して砂に潜りよった。ワシらは目を疑った。ワシらの恐怖の象徴だったあのサソリがなすすべなくやられたのじゃからな。
ワシはそれを当時の王,つまりハムザ王子のお祖父様にご報告した。その後調査をしたところ,その場所にはそのサボテンはどこにも見あたらなかった。王はそれを信じて下さったよ。現にそれから砂漠の殺し屋は現れておらぬしな。王は念のために緘口令まで敷かれたほどじゃ」
先生はその話をしながら汗をかいていた。当時を思い出しているのだろうか。
「そうしたにも関わらずサバクくじらの情報が知られているのは……」
「おそらくワシに同行した騎士の誰かが漏らしたのじゃろうな」
うーん。世界樹墜落時に出現したのは魔物の活性化の影響を受けただけで,現時点でもいるにはいるんだろうな。
目撃情報がないのは完全に砂の中に潜んで生きているからか?
「まあそういう魔物もおるということですじゃ。知っているのといないのでは大違いですからな。未知は恐れに繋がりますからの」
「ええ,確かにそうですね」
「フォッフォッ。納得いただけたようで安心ですわい。それでは次は海の魔物に関するこの本が――」
先生との勉強の時間もいつの間にか過ぎていき,その日は自由時間で特技や呪文の反復練習をした後,入浴や夕食を済ませ,眠りについた。
そして次の日,訓練の最中に父上からの呼び出しを受けて玉座の間に赴くと,開口一番に父上が驚くべきことを言ってきた。
「ハムザよ! ダーハラ湿原までの街道に出没するワイバーンドッグを討伐してくるのだ!」
うええええええ!?
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それではまた!('ω')ノシ