~~サマディー城~~
皆さんどうも! ちょっと最近疲れ気味のハムザ君です!
俺はワイバーンドッグの討伐と大臣の事件があってから,国の運営についても父上から相談されることが出てきた。
なぜ俺に!とも思うが,王になるための経験と言われると否定できないため,せっかくだからと真剣に学びつつも意見を出したりしている。
事件のせいで国の運営のための組織に大きな穴が開いたため,父上はその穴を埋める際に自分に忠実な者を配置するとともに,王家の権限を強化して有力な貴族たちの力を大きく削ごうとしているようだ。
もちろん一筋縄ではいかないだろうが父上は本気のようで,様々な手段を用いてそういった改革を強行している。
こういう転んでもただでは起きない強かさは見習っていかなければならないだろう。
「王子,そういえばそろそろウマレースが始まりますな。実は私も何度も以前何回か出場経験がございまして,王子は出場を考えておられますか?」
先輩が声をかけてくる。実はあの時一緒に討伐に向かったメンバーはその後も付き合いが続いており,よく集まっていることから〈王子隊〉なんて言われるようになってしまった。
そんな中で先輩は俺の側近のような立場に落ち着いており,周りもそんな感じに接している。
なんか雑用押し付けてるみたいで申し訳ない。でも最近忙しくなってるから正直助かってる! できたらこのまま頼む!
俺が王になったらそれなりのポストにつけてあげて報いよう……はっ! まさかそこまで考えてのムーブだというのか!? ……でもあげちゃう! 実際有能だしね!
それにしてもウマレースか……。
実はこう見えて俺は馬の扱いが大の得意なのだ!
原作でファーリス王子が馬の扱いが得意そうじゃなかったから不安だったけれど,少し練習すれば自分でも驚くほどのスピードで上達していった。
技でごまかしてる剣術と違ってこっちにはホントに自信がある。
最近の疲れによるストレス発散のためにも出場してみるのもありかもしれない。
よし! 思いついたら善は急げだ!
「そうだな。実は私も一度出場してみたいと思っていたのだ。しかし参加してもいいのだろうか?」
「!! もちろんです! 王子であれば勝利することは容易いでしょう!」
先輩めっちゃテンション高いじゃん。どうしたの?
……ははーん? さては先輩ウマレースマニアだな?
ウマレースマニアというのは,ここサマディーにおいてはポピュラーな存在で,レースに出場するウマたちや乗り手の情報,さらにはレースのコースや時期などからわかる傾向などを知り尽くした熱き者たちのことである。
しかも先輩は自分でも出場して結果を残した生粋のマニアということか……王子としてここらで先輩に勝る部分があるのだと証明する必要があると思っておったのだ!
よろしい! ウマレースで格付けをさせてもらおう!
……ということで色々教えてくれ先輩!
~~サマディー城下町・ウマレース場控室~~
あの後先輩がノリノリになって方々を駆けずり回った結果,思ったより早く出場の機会を得てしまった。
ここでこの世界のウマレースについて軽く説明しておこうと思う。
このレースにはレベル毎に違った名前のレースが存在し,低い順からブロンズ杯,シルバー杯,ゴールド杯,プラチナ杯,そしてブラック杯がある。
原作ではまず初めにブロンズ杯のみに挑戦できるようになっており,ストーリーを進めるごとにそれ以上の難易度のレースに挑戦することが可能になるという仕組みだった。
しかし,勇者の進み具合に合わせてウマレース運営がレース日程をいじるとは考えづらいので,恐らくは原作では主人公たちが自分達の成長と合わせて考えてレースに参加していただけなのだろう。
上位のレースに参加する条件としては,プラチナ杯とブラック杯以外は原作と同じようにその一つ下のレースで勝利することだ。
ただしプラチナ杯とブラック杯は一つ下のレベルのレースで目標タイムというタイムを上回ったうえで勝利する必要があり,難易度が桁違いになる。
それと注意点として,ゴールド杯までは同じレースでも二種類存在し,それぞれ難易度が違うのだ。
ただ,難しい方のレースをクリアしなくても上位のレベルには挑戦できるので,難しい方に参加するのは次のレベルのレースに勝てない時の練習的な意味合いで参加する人が多い。
ここでブラック杯が既にあることを疑問に思う人もいるかもしれない。
原作では主人公たちが先代勇者パーティの一員である戦士ネルセンの残した試練を突破することで,ネルセンがサマディー王の夢枕に現れるという過程を経て初めて開催されるレースだった。
この世界では不定期開催のレースで,そもそも先ほど説明した規定を満たす選手があまり集まらないことからサマディーの歴史上でも数えるほどしか開催されていないレースとなっている。
レースではもちろん国の運営のもとで賭けがおこなわれており,これはレースのレベルが上がるごとに掛け金の下限と上限も上がっていく仕組みになっているため,レースの質という意味でも掛け金という意味でも上位のレースの方が盛り上がる。
そして参加する人が増えるほど国も儲かるので,これには王子のおれもにっこり。
勝利の景品は原作と同じ商品のものもあれば,違うものもある。
まあ毎回国宝クラスを景品にするわけにはいかんよね。
ちなみに俺の今回の目標としては,ゴールド杯を目標タイムを切って制覇することとしている。
それはなぜかと言うと,ゴールド杯を勝利することが一流の騎手とみられるための一つのラインとされているから…というのは建前で,実際は先輩の最高成績がゴールド杯勝利だと聞いたからです……。
先輩は目標タイムを切れなかったようなので,それを成せば先輩超えが達成されるのだ! 何としてでもやってやる!
「王子! そろそろ入場です! 私達は観客席で応援しておりますのでどうかご武運を!」
ちょうど先輩が声をかけてきたので控室の外に出て,俺も愛馬に乗って移動する。
ここで俺の愛馬を紹介しておこう。
名前はハムーララという……俺の名前であるハムザから字をもらって名付けた。別にこれといって深い意味はない……ないったらない!!!!
別に前世で好きだった馬の名前を無理やりもじったわけではない! いいね!
名前は突っ込みどころがあるかもしれないが,俺は生まれてこの方ずっとこの馬と共に練習してきたため,その絆は家族といっても間違いない程だと俺は考えている。
更にこの馬はこの世界では長命で知られる特別な種であるため,人間と同程度生きることが出来るのもポイントだ。
だが,実はこの馬は乗せる人間を選ぶらしく,俺と出会っていなければ他国に売られていた可能性もあったらしい。
うーん,実に運命を感じるね!
そんなこんなでレースのスタート地点に着く。
観客席を見ると,ブロンズ杯にしては明らかに人が多いと感じる。
先輩から聞いた話によると,先日の討伐隊の時に民の間で俺の活躍が広がったことで,俺のレースに対する関心が高まっていたらしい。
めちゃめちゃプレッシャーなんですけどーーー!
もちろん負けるつもりはないけどさ! もしここで負けたら「え? 王子として出場しておいてブロンズ杯すら勝てないの? プークスクス」って言われないよねえ!? 怖いんだけど!?
くっそー! もっと軽い気持ちで参加したはずだったのに!
……いや,待てよ。ここに参加している騎士たちは皆真剣な気持ちで毎回のレースに挑んでいるのに俺だけそんな浮いた考えじゃ失礼じゃないか?
どうやら俺は勘違いしていたようだ。よし! 全てのレースで全力のぶっちぎり勝利を飾ってやろうじゃないか!
「ヒヒーーーン!!」
ハムーララも元気に嘶いている。さあいくぞ!
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初のレースで慣れないことも多かったが,俺とハムーララはそのレースで圧勝し,その後も順調に勝利を重ね,そのままゴールド杯の目標タイムを切っての勝利を果たすことが出来た。
よっしゃああ! 先輩越え達成!
控室まで戻るために移動していると,先輩たちが近づいてくる。
どうだ先輩! 恐れ入ったか!
「王子! おめでとうございます! これでプラチナ杯にも参加できますよ!」
「プラチナ杯は実質的に最高峰のレース! そこで勝てば王子は世界でも指折りの実力だという証明になりますな!」
「我々も当然応援に行かせてもらいますぞ!」
……レースには勝ったはずなのにすごい惨めな気分なんですがなぜだろう。
ええいこうなったらいけるとこまで行ってやるから見とけやあ!
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……えーと……なんか勝っちゃいました。しかも目標タイム切りで……。
こ,怖い。自分の才能が怖いでござる……。
しかも一番怖いのが,この結果を知った父上が「そなたがどこまでやれるのかこの際見てみたい! なんとかしてブラック杯を開催して見せよう!」とか言い始めたことだ。
なんか俺を含めたらギリギリ開催できるかもしれないらしくて,外国からも規定を満たしている選手を呼び寄せているらしい。
……ここであえて言わせてほしい。
もっと軽い気持ちで参加したのにーーー!
ストレス発散のために参加したのにどんどん話が大きくなってきてむしろストレスなんですううう!
だけど参加しないなんて選択肢はない。地元の選手として練習環境は整っているのだから今から猛練習だあああ!!
~先輩視点~
現在我々はハムザ王子が参加するブラック杯の観戦のためにサマディーのウマレース場にある観客席にいる。
王子はいつも我々の想像を超えるものを見せてくれる……。
私は以前王子がウマの扱いに長けていると聞き,二人で話していた時にウマレースの話題を出してみた。
その際に王子にウマレースへの参加の意思を訪ねると,王子は二つ返事で参加を決められたのだ。
その時の自信に満ちた目に私は只ならぬものを感じ,王子を一刻も早く出場させるべく,王にも話を通して場を整えた。
そして迎えた王子のレースは,圧巻というしかないものだった。
初出場にも関わらずスタートから他の追随を許さずに独走し,他の選手を周回遅れにしての勝利……これには観客も大興奮で,王子がどこまでいけるのかという期待に満ち溢れている。
しかし私たちの衝撃はこれからだった。
その後に走ったシルバー杯,ゴールド杯,果てはプラチナ杯までを圧勝し,私たちはもはや開いた口がふさがらなかった。
それは王も同じだったようで,なんといつぶりかの開催になるブラック杯を実施することになり,その結果として今の状況がある。
このブラック杯に参加する選手は世界中から集められたウマレースの名手たちで,実質的な世界一を決める場と言っていいだろう。
他国からも多くの人々,中には貴族や大商人までもがわざわざ観戦に来ており,観客席は満席だ。
この人の数も,建設中の港で一応は船が寄港できるようになったことによる影響だろう。
その時会場中から歓声が上がる。
レース場に目を向けると,王子が入場してきた。
私たちも王子に向かって最大限声を張り上げると,王子はこちらに気づいたのか手を掲げて応えてくれる。これは王子がよくやるもので,それを見た我々は心を落ち着かせる。
王子はきっと勝利するだろう。そして我々に新たな景色を見せてくれるはずだ。
~主人公視点~
緊張で吐きそうになりながら入場すると,観客席で叫んでいる王子部隊の皆を見つける。
おお……みんなー。なんとか頑張るねー。
そう思いつつ手を掲げて反応する。
ちなみにこのしぐさは緊張している時や疲れている時にやるんだけど,俺はいつもやっている。……つまりはそういうことだ。
そんなことを考えている内に全員がスタート地点に揃う。
ふぅー。大丈夫だ。今までだって勝ててきたんだ。ハムーララと一緒ならどこまででも行けるさ! それに俺は騎士の国の王子ぞ!
スタートの合図とともに俺たちは一気に飛び出す。
俺たちの一貫した作戦として,逃げ切りを採用している。スタートで先頭に躍り出て,最短ルートで突っ走るのだ!
ブラック杯のコースは左回りで,ゴールド杯やプラチナ杯とコースは同じだが,障害物がべらぼうに多い。
俺は年齢の割には大きいが,他の出場者と比べると小柄で,相棒もまだ成長しきっていないのでぶつかり合いになると不利は免れない。
だから常に先頭で独走するのが一番安全なのだ。
その位置をキープしたまま最後の一周に入る。
しかし二組ほどがスパートをかけて迫ってくる。
このまま逃がしてもらえると思ったが甘かったか!
俺たちはこれ以上のスピードを出すのは難しいため,どんどん距離を詰められ,遂に並ばれてしまう。
くそっ。ここまでなのか……「ブルウウウウ!」……!! しかしハムーララが突如スピードを上げて先頭に返り咲く。
そうだな,俺一人の戦いじゃないんだ。諦めてたまるか!
俺たちは小柄さを活かしてカーブで一気にスピードを上げると,そのまま最終直線を走り抜けた。
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その後,俺は表彰式の場でブラック杯優勝の景品として父上から”おうごんのたづな”を授与された。
おお! ウマレースにおけるチートアイテムじゃないか!
ん? でも原作ではこれって商人から買えたよな?でも今は王家が持っていると。
……てことは原作の俺はこれも売りやがったのかあああ!?
なんだか締まらないままブラック杯は幕を閉じた。
そしてこの出来事は瞬く間に世界中に広まり,俺は〈サマディーの天馬〉という大層な二つ名で呼ばれるようになるのだった。
……幕間ってなんだ?(ゲシュタルト崩壊)
次話はたぶん少し時間がとびます。
ああ,早く原作キャラを出したい!けどもう少しお待ちを!
それではまた!('ω')ノシ