2023版を見て、再熱しちゃった。
私は物書きお姉さん、彼はごろつき長屋の左之助さん
今年、明治10年────。
私と云う
とは言え、私と云う存在の弊害は出ている。
例えば春画や浮世絵は未来(といっても平成の作画)の物に私の趣味的に始めた物書きの所為で少しだけ近付いてしまっていた。その点はしっかりと反省するし。なんなら謝罪代わりに寄付金なんかをやってみたりした。
あまり清く正しいお金とは言えないけれど。まあまあ?そこそこ?とにかく、それなりにダメな感じで得てしまったと云うか、なんとなく絵師の指南ついでに貰ってしまったと云うか。
なんとも微妙なお金なのだ。
「どう思います?左之助さん」
そう私は目の前で無料でご飯にありつこうとする相楽左之助に問う。すると、彼は「あ?よく分かんねえけど。とりあえず今日も奢ってくれ」と言って私の頼んだ出前の海老の天麩羅丼を頬張る。……それは私のお昼ご飯なんだけどなあ……。
「ンッ、ところでよ。糸色」
「何でしょう?」
「オメェまた俺で稼いだろ?」
「…………身に覚えがありませんね」
ふいっと視線を逸らす。
この相楽左之助と云う男は東京の裏と表で中々に有名だったりする。彼の人相書きはそれなりに女学生の間では人気の作品だ。いつも私の長屋に侵入して勝手にご飯を食べているし。ほんの少しくらい頑張って貰わないとわりに合わない。
ジロリと私を睨む左之助さんの視線を往なし、今回のお詫びの品代わりに漬け込んでいた沢庵と胡瓜、それから大盛りの白米を彼に差し出すと「ちっ、今回だけだからな!」と言って許してくれた。
ふっ、ちょろいですね。
「……美味えな、これ」
えぇ、そりゃあそうでしょう。
なんといっても転生者の特権とも言える
左之助さんのボリボリと心地好く咀嚼する音を聞きつつ、私は今日中に書き上げる予定の瓦版に投稿する書き物を和紙に綴っていく。
ほんとならタイプライターなんかを使いたいけど。あれはあれで中々に高価な品物なのでおいそれと買えるものじゃない。
「……なんだこりゃあ?」
「ああ、茄子の浅漬けですよ」
「おお、コイツも飯が進むぜ!」
この人は何がしたいんだろうか?
静かに悩みながらまだ原作は始まっていないことを考える。原作に介入するつもりはないけれど。左之助さん、彼の見聞きする物を書き記すと云うのも良いかもしれない。だが、この食い逃げ男を主役にするのはムカつく。
糸色と出会ったのは二年前だ。
いきなりアイツはゴロツキ長屋にやって来るなり。俺の顔を見て、心底驚いてやがった。そこまで面は悪くねえと思っているが、ケンカの時に受けた傷で腫れ上がっていた事を考えると女にとっちゃ怖いもんは怖いんだろう。
どうやって仲良くなったのかは覚えてねえが。ふと気付けばアイツの作った飯を食うようになっていた。飯はうめえし、腹は膨れるし、俺からすれば悪いことはない。だが、俺の事を浮世絵や春画にするのは流石に呆れた。
「くふぉわぁ……」
「左之助さん、またお昼寝ですか?」
「昨日は強えぇってヤツとヤり合えると期待してたんだがな。ありゃあ見栄張ってテメーの噂を流してるだけだったんだよ」
「おや、それは珍しい。左之助さんが相手の力量を見誤るなんて早々にないのに」
そう言って糸色は俺の頭を膝に移し変える。もう、こいつの無防備さには慣れてるつもりだが。ふつう、夫婦でも恋仲でもない男の頭を膝に乗せたりしねえだろ。
……まあ、べつにいいか。
「ところでよ、糸色」
「はい、なんですか?」
「また俺で稼いだろ?」
「…………さあ?」
糸色は、ふいっと視線を逸らす。
そういうところは年相応に子供っぽい。
むしろ普段の立ち振舞いが歪なんだろう。やれどこぞの名家の一人娘だ。やれ誰それの成金の妾だった。こいつの周りには色んな噂がウザったいほど飛び交っている。本人は気にしてる様子はねえが。あまり良い噂は聞こえてこない。
「なあ、糸色」
「今度はなんです?」
「なんでいつも怯えてんだ?」
「…………」
ピタリと俺の頭を撫でる手が止まる。
墨や和紙、染料の臭いが染み付いた小さな手が僅かに震えているのが伝わってきた。聞かれたくねえことなのは分かるが。ここにいる間は大丈夫だと教えてやりたい。
そう俺は思ってる。
〈相楽左之助〉
喧嘩屋
ごろつき長屋に暮らす「惡一文字」を背負った男。右隣の長屋に引っ越してきた物書き姉さんの家に入り浸ったり、勝手にご飯を食べに行く。なんとなく彼女の恐れを見抜いている。
〈糸色〉
【挿絵表示】
物書きお姉さん
平凡な転生者。悪いやつと戦ったりすることは出来ないし。得意な事も料理や物書き、浮世絵など。怖いものは苦手。わりと絶望しやすい性格のため世界に対して怯えている。
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イラストはピクルーです!
着物女子メーカーというものです。