某剣客浪漫世界で私は物書きをする。   作:SUN'S

100 / 1065
真偽不明の蟠り 急

「オイ、何の真似だ」

 

雪代縁の言葉に私は身体が強張りながらも神谷さんと一緒に歩みを止めることなくテラス席に座っている彼の目の前に食事を並べていく。

 

焼き魚に根菜の和え物、ワカメや豆腐等を入れたお味噌汁、炊き立ての白米、どれも普通の料理だけれど。今の衰弱して正常な思考を出来ずにいる雪代縁の精神安定を願った神谷さんと私なりに考えた献立である。

 

「剣心は必ず此処に来るわ。それまでに万全にしておきなさい。───そうじゃないと次は本当に負けることになるわよ」

 

「か、神谷さん、いいの?」

 

「えぇ、これぐらい言ってやらないと!」

 

私の記憶に在る台詞とは違う事を告げる神谷さんに驚きつつ、この世界は現実なのだから言葉に相違が生まれるのは当然の事だと再認識した私は雪代縁の前に、ゆっくりと彼の対面の椅子に腰掛ける。

 

神谷さんに目配りして事前に決めていた通り。彼女は私と雪代縁を二人だけにしてくれる。静かに深呼吸を繰り返して、目の前に腰掛ける雪代縁を見つめる。

 

「何を企んでいるんだ。糸色景」

 

「何も企んではいません。ただ、貴方の見つけた培養槽、それに関連する話を少しだけ聞いて欲しいんです」

 

「……姉さんの浸かっていたアレか。下手に触ったら壊れると言っていたが、どうやったら姉さんを彼処から助け出せるんだ?」

 

「……ハッキリと言います。あの培養槽に入っているのは貴方の姉じゃありません。おそらく外印の作り上げた精巧な人形です」

 

その言葉を告げた瞬間、ご飯を食べていた雪代縁の動きが止まる。彼の眼差しは淀み、荒み、穢れを纏ったどす黒い殺意に満ちていく。

 

「余り調子に乗るなッ、殺すぞ!」

 

「…ッッ…殺して良いです。でも、貴方の大切なお姉さんの人生を冒涜し、二度の死を与えるなんていう酷いことは絶対に止めて下さい」

 

雪代縁の手が首を締め付ける強さが増す最中、割って入ろうとする神谷さんに「来ないで」と必死に訴えて、なんとか踏み止まってもらう。

 

しかし、彼の指の力は弱まり、口許を押さえて椅子に座り込みながら嗚咽し、吐きそうになっているけど。未だに私を睨み付けている。

 

それでも今回は怖がっているだけじゃダメだ。外印の考えを阻止するためには、絶対に雪代巴を培養槽から出すわけにはいかない。

 

「答えろ。お前は姉さんの何を知っているんだ!」

 

「彼女の事は知りません。───ですが、あの地下施設で読んだ本の内容は貴方のお姉さんを呼び起こす方法ではなく、究極の機能美と至高の造形美の二つを注ぎ込んだ作品です」

 

「……それが…ッ……まさか…」

 

「あの本に記されている技術は遺骨や遺髪を使えば簡単に人間の分身を作り出せ、その分身を他人に寄生させることが出来るというもの」

 

そこで言葉を区切り、ゆっくりと息を吸う。

 

「そして、外印の目的は貴方の姉を使って作り上げた試作品を貴方と緋村さんの二人に試すことです。貴方達の因縁の結びであり、貴方達の愛した女性です」

 

私の言葉を雪代縁は黙して聞く。

 

「あの男が利用しない筈がないんですよ」

 

「…………じゃあ、あれは姉さんじゃないのか?」

 

「彼女の記憶は残滓として残っている可能性はあります。でも、貴方の知っているお姉さんとは人間性さえも違う事は信じて下さい」

 

そう言って私は頭を下げる。

 

私に出来ることなんてない。もしも、あれが完全に遺髪や遺骨を採取して作り上げた幼体だったなら、まだ解毒剤の資料を読めば対処は出来たけど。

 

もう完全に一体化したものを剥がせない。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。