ドクトル・バタフライの先導によって通路を歩いていると見覚えのあるお髭と、赤髪の青年を見つけ、ほうっと安堵の吐息をこぼす。
アバーライン警部とジョン・ドゥの二人と合流できた事は幸いです。私を守りながら戦うのはドクトル・バタフライも辛いでしょうから。
「偽者か?」
「私を真似できる存在は居ないと思うがね。しかし、ジョン君は随分と手傷を負っているようだが?」
「あ?ああ、確かに手傷だな」
ヒラヒラと左手の穴を見せつけるジョン・ドゥの行動に引き、ドクトル・バタフライの後ろに隠れる。この人はやっぱり苦手です。
「なんだ。まだ俺が怖いのかよ」
「ジョンの顔は恐いから仕方ない」
「オッサンも髭面じゃねえかよ」
お髭は良いんです、ダンディズムです。
そう心の中で思いながら左之助さんはまだポーラールートに入ってきていないことに寂しさと不安を抱きつつ、三人と一緒に歩いていたとき、鉄橋を通りかかる。
こういう鉄橋に爆弾を仕掛けたりするのは定番だけど。流石に自分のアジトに仕掛けることはしませんよね。そう安心した瞬間、呻き声や唸り声が聴こえ、ビクリと身体を跳ね上げる。
「ど、どこから?」
「下だ。すげえ数の人間だぜ」
「まだこれだけの人が……」
「ふむ、死体卿が私と糸色家のところに来ていた分、ロスタイムを作ることに成功したようだね。今なら彼らを逃がすことは出来るだろう」
静かに鉄橋の下を見ながら呟くドクトル・バタフライの言いたいことを理解し、私は手に持っていたトランクケースを地面に置き、施錠を外して、ひみつ道具の「壁掛けハウス」の出入り口を拡げる。
「では、失礼するよ」
「へぐっ…!」
部屋の中に入るときに重みを感じたものの、手すりに「壁掛けハウス」を引っ掛け、ドクトル・バタフライが片手を部屋の中から差し出し、直ぐに出てきます。
「私の発明品のひとつ、ブラックホールペン」
にこやかに笑って、ドクトル・バタフライは下に飛び降りると大きく円を描き、人々を吸い込んでいきます。出口は、この「壁掛けハウス」の中です。
次々と人が吸い込まれる光景に困惑するアバーライン警部とジョン・ドゥの二人の顔は凄くビックリしていることが分かります。
みんなを吸い込み終えた私は部屋の鍵を閉め、戻ってきたドクトル・バタフライの四次元ポケットに「壁掛けハウス」を入れて、死体卿が現れる前に逃げます。
ポーラールートの長は今はもういないです。
居るのは、死にたくないと思う人間です。