「やれやれ。分身を粉々にするとは非道な事をする。が、
カンと私達の行く手を阻むようにステッキを鉄橋に叩きつけながら現れた死体卿の言葉に私は驚き、ドクトル・バタフライは静かに目の前に立つ死体卿を見据えつつ、いつでも動けるように構えています。
しかし、死体卿の身体を爆発させる際に溶かされてしまった核鉄の欠片はまだ復元しておらず、武装錬金を起動する事は出来ません。
私の核鉄を渡しても構わないのですが、私の身を守る懐剣はひとえに譲っていますし。私自身は戦える能力皆無の普通の人妻です。
「心臓の止まりそうな姉ちゃんは下がってな。蝶のオッサンもだ。あの野郎をブッ壊すのは俺の仕事だ。左手の借りもあるからなァ…!」
「ムッ。それはリリィに受けた傷の筈だが、まあ別に構わない。私も新しく手に入れた道具の使い方を知りたいと思っていたところだ」
そう言うと死体卿は懐に手を差し込み、私とドクトル・バタフライが見覚えのある六角形の鉄製プレートを取り出したシリアルナンバー「
「確か、武装錬金だったか?」
ニタリと笑みを深めて宣言したものの、核鉄は起動しなかった。しかし、この現象に関しては当然と言えば当然の結果です。
核鉄は人間の闘争本能によって起動します。
今の彼は死体────。
すでに人間の心を失った心臓の動いていない存在に核鉄を操る事は不可能です。そもそも死体卿の正体は人造細菌の集合体────再生機能特化型
「起動しなぶがっ!?」
「チンタラしてんじゃねえよ。敵の前だぞ!!」
顔を力任せに殴り飛ばされた死体卿の手から核鉄が跳ね飛び、ドクトル・バタフライが汚れを拭き取り、消毒液の中に収めるとシュワシュワと何かが溶け始めた。
「私は用意周到なのだよ」
「バタフライ、流石に準備しすぎじゃないか?」
「アバーライン君、備えあれば憂いなしという言葉が日本にはあるのだよ。さて、糸色君、私達は外に向かうとしよう」
「は、はい!」
カツカツと靴底を鳴らして歩くドクトル・バタフライの後ろを歩きつつ、アバーライン警部に左之助さんの服を差し出しておきました。
流石に、下着一枚でいるのはあれですから。
しとりとひとえの教育にも悪いですし、なにより左之助さんが見たら絶対に邪推して殴り倒そうとするはずですから仕方ないです。