「あ、貴女の裸婦画を描かせて下さい!」
「らふ?」
「裸体をモデルに描く絵画の事です」
いきなり訪れた青年の言葉にこめかみを押さえつつ、今にも殴り掛かりそうな左之助さんに落ち着いて貰いながら、他にもモデルになる綺麗な女性は多いことを伝えても青年は首を横に振った。
「その静謐さを宿す深青の目、艶やかな黒髪、東洋の陶器の様に白くしなやかな身体、何処か妖しさを感じる面立ち、全てを描きたい!!」
「(熱意は分かりますけど。初対面の女性に向かって『お前の裸を描いてやる』と言うのは些か英国紳士にあるまじき態度だと思います)……お断りします。私は人妻ですし、子供もいますから」
「えっ、その若さで!?」
あ、その言葉は嬉しいです。
昔は年上だと思われることばかりでしたが、ここ数年は顔付きと年齢が近づいて、ようやく普通に思えるようになりましたからね。
「そもそも人の女房に裸を見せろと言える胆力は認めてやるが、とりあえず一発は一発だ」
「ぎゃんっ!?」
徐に右拳を振り上げた左之助さんは無造作に青年の頭を殴り落とし、地面に叩きつけてしまった。しかし、こんな貧相な身体を描いて楽しいのでしょうか。
「うし、終わりだな」
「左之助さん、せめて寝かせて」
その先の言葉を続けようと見たら「お前、監禁できる場所増えたの分かってるのか?」と言われ、もしもの事態を想像して顔が熱くなってしまいます。
……ルノワールだったら、どうしよう。いえ、1890年代だとあの人は49歳だった筈ですし。そういうことはあり得ないですね。
となると、彼は無名の画家さんですね。
「景、また考え事か?」
「いえ、画家さんならもっと綺麗な女性を雇えば良いのにと思っていたんです。異国の女性に頼む辺り、彼は少しだけ視野が広いみたいですし」
「景は綺麗だろ?」
「フフ、ありがとうございます」
「二番の檻とかどうだ?」
「えっ」
差し出された白黒の写真に写っているのは狭く逃げ場の無い檻で、連れ込まれたら絶対に逃げることが出来ない場所でした。
「破廉恥なのはいけませんっ」
「クク、どこが破廉恥なんだぁ?」
「うぅ、今日の左之助さんは意地悪です」
むにむにっと私の頬っぺたを両手で挟みながら「無視するなよ、おい?おーい」と話しかけてくる左之助さんから、ぷいっとまた視線を逸らす。
ちゃんと謝ってほしいです。
あと、あまり変な事を言わないでほしいです。しとりとひとえが聞いていたら、とても大変な事になるのは分かりきっているんですから。