「サノスケ・サガラ、お前に切り裂きジャックの容疑が掛かっている。着いてきて貰おう」
まるで、自分の正義感に酔いしれた威圧的な言葉を左之助さんに投げつけるスコットランドヤードの警察達に目眩を起こしそうになる。
渡英して、まだ半年です。
「切り裂きジャック」の事件は1888年に開始し、1888年11月に終わりを迎える。私達の渡英は1890年です。明らかに時期が違いますし。
運航会社に問い合わせて貰えれば直ぐに分かることであり、あまり好き勝手に容疑者と決め付けてしまえばスコットランドヤードの威信に翳りをもたらす事を、こんこんと問い詰めるように伝える。
嘆かわしく思うし、悲しくもあります。
アバーライン警部はアレほど勇猛果敢に人々のために戦っていたというのに、この人達は強くて大きいというだけで左之助さんを捕まえようとしていた。
「なあ、お前の方が怪しくねえか?」
「左之助さん、自分の妻ですよね?」
「いや、此方に来てから仕立て屋手伝ってるだけなのに、なんでそんなに倫敦の事を詳しく知っているのか。全く分からねえんだが?」
「? 新聞を読めば分かるじゃないですか」
「……あんなちょっとしか載ってねえ話でよく彼処まで大見得切って話せたな」
まあ、事実を話しているだけですからね。
それに悪いことはダメな事です。彼らの今後の人生に至るまで心配してしまいますし、冤罪を掛けるのはとても恐ろしいことです。
そもそもあり得ない事の押し付けはダメです。
「景、アイツらまた来るんじゃねえか?」
「その時は、どうしましょうか」
「喧嘩したら終わらねえかねぇ…」
面倒臭そうに呟きながら左之助さんはシャツのボタンを外し、動きやすい着流しの姿になろうとするので着替えのお手伝いをする。
「んっ……あの、帯を結ぶだけですよ?」
「抱きついてきたのは景だろ?ならこのままでもいいじゃねえか」
182cmもある左之助さんに、どうやって対抗できようものですか。ギリギリ150cmしかない私なんて押し潰そうと思えば簡単に出来てしまう。
「……左之助さんは意地悪で破廉恥です」
「もう十年以上の夫婦じゃねえか。恥ずかしがるなって、なあ?」
「恥ずかしいものは恥ずかしいんですっ」
「お前の全部知ってる男だぞ?」
その言葉に顔が熱くなる。なんで、そういうことばかり言うんですか。最近の左之助さんは何だか破廉恥すぎます。似非紳士です。
エッチなのはいけません!
「ん!しとりも母様知ってる!」
「ひーもしってる!」
「ハッ。残念だったな、母ちゃんの全部を知ってるのは父ちゃんだけだぜ!」
「「むうぅ!」」
「あ、あはは、聞かれてたんですねぇ」
は、はずかしぃ……。